悪堕ち王子の快楽ダンジョン、女冒険者を帰さない ~エロゲの悪役に転生した俺、ひっそりスローライフを送りたいだけなのに美少女たちが集まってくる

タイフーンの目

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3:ローパー~ノーム〜王子〜???

第41話 おまえらまるで獣だな

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 ■ ■ ■

「さあ、せいぜい良い悲鳴をあげてくれよ――!」
「ム、ムー……っっ!」

 鬱憤を晴らすべくノームに向けてユーバーが剣を振りあげたときだった。

「王子っ――!」

 エグモントの声で初めてその気配に気づく。暗闇の向こうからコツコツと足音をさせながら近づいてくるものがあった。

「なんだ貴様」

 ゾッとするような白髪だが、全身からは生気と魔力をみなぎらせている。目元は鉄の仮面で覆われており、紅いマントに黒い装束を着た――男性のようだ。

 悠然と歩いているだけなのに、縛って転がしているノームなどとは比べものにならないプレッシャーを感じる。

「…………っっ!」

【白銀級】の実力を持つユーバーでも、いやそれだからこそ、剣を持つ手にじっとりと汗をかいている。それはエグモントも同じようだった。

「っっ、止まれ! それ以上近づけば斬る!」

 聞いたことのないほどの切迫した声で白髪鬼へと剣を構える。

「貴様がここのダンジョンマスターか!?」
「ノームを離せ」

 やはり若い男だ。
 一瞬、アルトの声に似ていると感じたが、この腹の奥まで響いてくるような威厳のある声音は彼ではあり得ないだろう。

 それに今は声の正体を吟味している余裕などない。『彼』が現れてから明らかに場の空気が変わっている。ここはすでに死地だ。一瞬たりとも油断できない。

 だが、下手したてに出るなどプライドが許さなかった。この自分が怯えているなど認めるわけには――

「へ、へぇ……! この下等モンスターが大事なのかい? エグモント!」

 忠実な部下はすぐさま意図を汲み、縛ったノームを片手で引き立て首に刃を沿わせた。

「は、ははは! 動いたらこいつが――」

 ユーバーが言い終わるより早く事態は終わっていた。

 まばたきの間にエグモントの剣が跡形もなく消失し、ノームを縛っていた縄もどこかに消え去っていたのだ。
 鉄仮面の男が指を振るところまでは見えた。いやもう1つ『キャラクターメイク』――と聞いたことのない呪文を唱えたところまでは耳に入ってきたが、それが何なのかは理解できなかった。

「なっ、何をしているエグモント!」
「わ、わかりませぬ……!」

 新手の魔法に違いない。しかしエグモントの装備には対魔法の術式が施されていて、並大抵の魔法は通用しないはずなのに。

「《キャラクターメイク》――」
「っっ!?」

 再び同じ呪文が聞こえユーバーは身構えたが、変化は別のところで起こった。

「ムフーーーーーっ!!」

 腰の高さほどもなかったノームが筋骨隆々の大男に一瞬で変身し、そばにいたエグモントを殴り飛ばした。

「――ぬぅッ!?」

 所詮は【銀級】の攻撃だ。
 エグモントに大したダメージは見受けられないが、不意を突かれた驚きでその仏頂面には狼狽の色が浮かんでいた。

 ノームはその隙に鉄仮面のほうへと逃げようとしている。

「させるかッ――!」

 すかさずその背へ向けて魔法剣を叩き込む。
 しかし、

 ――バシュンッ!

 あいだに割り込んできた鉄仮面が左手で薙ぎ払って打ち消してしまった。

「っっ!?!? ぼ、僕の攻撃が!?」

 今度は先ほどの奇妙な魔法ではなかった。
 ただ単にで打ち負けた。魔力を込めただけの左手に、いともたやすく防がれてしまったのだ。

「危ないだろ。そんなもの振り回して」
「い、今のはただの遊びさ……! 貴様なんかに――!」

 剣の柄を両手で握りしめ全力で魔力を込める。刃がまばゆく輝き、竜の鱗すら簡単に引き裂く必殺剣が発動する。

「食らえぇええええええッッ!」

 男は一歩たりとも動かない。
 そしてさっきと同じ動作で、少し面倒くさそうに払いのけてみせた。

「まぶしいぞ。こっちの身にもなってくれ」
「あ、ァ……あっ!?」

 これが現実だと信じられない。

「そ、そうか分かったぞ!? これは幻術のたぐいだな? 僕たちに幻覚を見せて戦意を削ごうとする……ふ、アハハハハ! その手には乗らな――おごッッッ!?」

 何かが腹を強く叩いて体が折れ曲がる。膝を突き、鉄仮面が指で弾いただけの石ころの仕業だと理解したとき、全身から脂汗がブワッと吹き出た。

「エグモント助け――、あ?」

 距離を取っていたエグモントは、ユーバーをかばうでもなく鉄仮面に立ち向かうでもなく背を向け逃走を図ろうとしていた。忠実な臣下だと思っていた男だが、危機と見るやあっさりと見捨てる気だ。

「き、貴様――っ」
「《キャラクターメイク》、体型スライダー」

 まただ、あの奇妙な魔法がエグモントに降りかかる。
 鉄仮面が指を左右にスイッと振ると、鎧騎士の。肩幅を中心に上半身は細く、下半身は異常なほど太く。

 肉体が太ったり痩せたりしたのではない。鎧ごとサイズがまるっきり変わってしまった。そのアンバランスな体躯は、比喩ではなく円錐形をしていた。

「ぬ、ぉおっ……!?」

 そんな体型では走るのもままならず、エグモントはたたらを踏む。

「あ、間違えた。逆だったな……体型スライダー」

 今度は上下反対に。
 肩幅はもとの2倍ほどに広がり、鳥の足のように足先はキュッとすぼまった。たくましい上半身に対して下半身がみすぼらし過ぎる――その細い足では鎧ごと肥大化した体を支えることはできず、エグモントは顔から転倒してしまう。

「おぐぅッ!? な、何なのだコレは、コレはぁあああっ!?!?」
「簡単に撤退されちゃ困るんだよ。二度とここには関わらないと誓ってもらわないと――いや、おまえらに約束は期待できないな。やっぱり痛い目に遭ってもらうのが一番か」
「戻せっ、もとに戻せぇっ!!」

 エグモントの怒声にも鉄仮面は動じず、

「《裏設定》……って、おいおい。おまえそっちの男の部下なんだよな? いいネタでも見つかればと思ったんだが、なかなかエグいことしてるな」
「な、なんのことだっ――」
「初めは『王子ユーバーが治水工事の視察で王都を離れたとき』か」
「――――っ!?!?」
「しかも場所は『夫婦の寝室』? 寝取りの定番っちゃ定番か」
「貴様なぜそれを!?」
「待ておまえたち、何の話をしているんだ?」

 ユーバーには話が見えないが、エグモントはこれまでにないほど狼狽うろたえていた。

「お、王子! こんな怪しい者の言うことなど――」
「おまえの妻エリザの話さ」
「!?」
「肉体関係にあるんだよ、おまえの部下と」

 にわかには信じがたい話だが、皮肉なことにエグモントの表情がすべてを物語っていた。

「デタラメです、信じてはいけない!」
「直近は『ヒューベリック伯爵主催の舞踏会』か。うっわ、しかも庭園の茂みの中で? おまえらまるで獣だな」
「――――っっ!?!?」

 つい2週間前のことだ。
 招かれて伯爵夫妻の邸宅を訪れた。ユーバーとエリザの夫妻、そして護衛という名目でエグモントも付いて来ていた。たしかに彼の同行には疑問を感じていたが――

「『王子ユーバーが伯爵夫妻の歓待を受けている隙に、2人で抜け出してドレスのままのエリザを――』」
「う、嘘だ嘘だ嘘だっっっ!」

 そういえばあの夜、2人が姿を消したのを思い出す。戻って来たのも2人そろってだった。記憶をたどると、エリザの髪はやや乱れていて白い肌は上気していたような――

「う、うわぁああああッ! エグモントッッ!! 僕のおかげで騎士団長をやれてるだけの貴様が、僕を裏切ったっていうのか!?」
「…………っ、よく言う……」

 ヒゲの騎士の表情が歪んだ。

「面倒を見てやってるのはこちらのほうだ! ワガママで高慢で、戦闘くらいしか能の無い小僧が! 私がどれだけ尻ぬぐいをしてやったと思っているッ! これくらいの役得はあっていいだろう!」
「――――っ! たたき切ってやる!」
「はいはい。2人とも落ち着いて」

 引っかき回した元凶のくせに鉄仮面はいけしゃあしゃあと、

「ここをおまえらの血で汚さないでくれ」
「黙れッ!」
「はい剣も没収」

 しかと握っていたはずの剣が、ヤツの魔法で消失した。

「もういいだろ。そっちの騎士は……下半身、もうできないサイズになってるし」
「っっっ!?!?」

 エグモントはハッと目を見開き自身の股間に手をやり、絶望顔になる。

「こ、こんなことが……っ!?」
「つーことで」
「え」

 鉄仮面の指がユーバーに向けられた。

「次はおまえだ」
  

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