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3:ローパー~ノーム〜王子〜???
第42話 ウォータースライダーだッッ!!!!
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――次はおまえだ
捻りのない脅し文句に、しかし体が縮こまってしまう。
「う、う……ッ!?」
秘密を暴かれるのか、それとも――
「《キャラクターメイク》、体型スライダー」
「っっっ!?」
例の魔法だ。
自身にどんな恐ろしい変化が起こるのかと思わず目をつぶってしまった。
「…………、……?」
だが思ったような変化を感じない。手足を見る。やはり異変はない。
ヤツが魔法を失敗したのだろうか? なんだか少しだけ身軽になったような気はするが――
「あッッ!? か、髪が、僕の髪がぁッ!?!?」
両手で頭を押さえる。無い。自慢の金髪がどこにもない。
「そんなにショックか、戻してやるよ」
「っっっっ!?」
「やっぱナシ」
鉄仮面の指先ひとつで髪が生えたり無くなったり。
完全に弄ばれていた。
「頼むそれだけは、それだけは勘弁してくれ……っ!」
「元に戻したら二度とここには関わらないと誓うか?」
「ち、誓う!」
「俺は何でも見抜けるんだぞ? 少しでも翻意したらどうなるか――」
「分かっている! 分かっていますっっ! 貴方には逆らいませんっ!」
鉄仮面はしばらく黙り込む。
目元は隠れているが、ユーバーの隣の何も無い空間を見ていて、まるで何かを『読んでいる』ような仕草に思えた。
苦しいほどの沈黙が続いた。
魔法でも勝てないし、剣は没収されてしまった。裏切り者の部下は役立たずで――ユーバーの金髪は彼に握られている。
すべてを見透かすこの男の前で嘘は通じない。
それに言われなくても、もうこんなところに関わるのはこりごりだ。もうアルトのことなどどうでもいい――元々、妻のエリザに良いところを見せたくて始めたことだった。あんな弟より自分のほうが優れているだろうと。
だがその妻は、事もあろうに部下と関係を持っていた。ここに来なければ、アルト討伐など考えなければ知らずに済んだのに。
「……ヨシ」
鉄仮面が小さくうなずいた。
「あ、あのっ……、どう……でしょうかッ?」
卑屈な声が喉から出るものの、取り繕っている余裕など今はない。
「ヨシって言っただろ。確認したよ。もう帰っていい」
「…………っ! で、ですがぁ……どうやって帰ればいいか……」
これも本音だった。
この落とし穴から脱出する方法が思いつかない。
「ああ。それじゃあ特別サービスだ」
男は口元を歪め、
「――《クリエイト》」
先ほどとは違う呪文を唱えた。
ややあって、
「えっ、えぇええええええっっっ!?」
地面と壁と天井が一斉に動き出した。
ただ崩壊しているのではない。すべてがバラバラに、立方体に切り分けられ、それらが鉄仮面の指揮で組み変わっていくのだ。
天地がひっくり返り、壁が床に、床が壁にと目まぐるしく入れ替わる。
「「「ぎゃあああっっ!?」」」
他の穴に落ちていた騎士たちが宙に投げ出され、ユーバーたちと衝突しひとつの塊になる。
「《クリエイト》《クリエイト》《クリエイト》っっ!」
シェイクされる迷宮の中で視界の端に映った鉄仮面は楽しそうに笑っていた。
しかしユーバーたちをいたぶって喜んでいるというより、その能力を思い切り解放することへの喜びで溢れているようだった。
(意味が分からないッ――!)
この男も常識外のダンジョンも完全に理解の外だ。もう絶対に関わり合いになどなるものか――心に強く誓った。
そして鉄仮面は最高の笑顔で叫ぶ。
「いくぞ、ウォータースライダーだッッ!!!!」
構造を組み替えられたダンジョンは1本の巨大な滑り台となる。
そこへ例のヌルヌルが大量に注がれ、ユーバーたちはそのただ中へと落とされた。出入口に向かって一直線……ではなく、グルグル、グルグルと無駄に迂回させられたのち、
「「「「う、ぎゃああああっっ!?」」」」
どばばばっ、と外へと放り出されたのだった。
■ ■ ■
「やっぱ我が家が一番だなぁ」
ユーバーたちを追い払いノームを連れて元のダンジョンに戻った俺は、大泣きするマインに抱きつかれたり、嫉妬するメディにも抱きつかれたり、便乗する朧とニューにも抱きつかれて……
動く歩道でどうにか自宅まで帰って来たのだった。
「ムー、ムーーっ……!」
勝手に作業に出ていたノームは誰よりも恐縮していて、マインと一緒に何度も頭を下げて来たが、もとより罰するつもりなんてない。これからも建設を楽しむことを約束して解放してやった。
ちなみに元の体に戻してやろうかと提案したが、彼はマッチョになったのを気に入ったらしく、その姿のままで街づくりの現場にウキウキと向かっていった。
ユーバーたちの件はもう心配ないだろう。
裏設定を開いて見たところ、あの金髪王子の心は完全に折れていた。それに俺のハッタリも効いていたようだ。
何でも見抜く――
確かに目の前にいる相手には有効だが、遠く離れた相手の裏設定までは閲覧できない。少なくとも今は。だから王都に戻ってからユーバーに心変わりされるのは危険だ。
しかし、ああ言えば信じ込んでくれると思った。実際、いつも俺に監視されていると思ってユーバーは震えていることだろう。
……実のところ、あの場で厄介なのはエグモントのほうだった。
ユーバーと違って戦場経験もあり簡単に心折れそうにないエグモント。
殺さずに再起不能にするには手段が限られていた。そしてヤツの秘密をユーバーが知った以上、もう今の地位も維持できまい。寝取りは悪い文化だからな、根絶しなきゃならない。
しかもあれ以外にも、口にするのも憚られる悪事を働いているのを読んでしまったし……なかなか邪悪なヤツだったぜ。
ともかく、2人は撃退できたし、大がかりな《クリエイト》も使えて満足だ。
唯一、気がかりなのはユーバーの裏設定で見た妹・ジェリダのこと。相変わらず俺のことを気に掛けてくれていたようだし、あの自己主張の弱い王女さまが無事でいられるかは心配だ。
人間とはいえ妹だしな。もっとも、ああいう性格だから権力争いとは無縁でむしろ安全なのかもしれないが。
まあ、気にしたところで今は何もできない。
今日はもうゆっくりと――
「あるじ殿ー! 風呂が入りましたぞ~」
「準備おっけーだよー」
浴室のほうから朧とニューの声が聞こえてくる。
「さんきゅー」
とは返してみたものの。
女子が全員向こうにいてキャアキャア言ってるんだよな……。
すごく嫌な予感(いやらしい予感)……。
―――――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます!
次回で第1部完結!果たしてアルトの貞操は……!?
捻りのない脅し文句に、しかし体が縮こまってしまう。
「う、う……ッ!?」
秘密を暴かれるのか、それとも――
「《キャラクターメイク》、体型スライダー」
「っっっ!?」
例の魔法だ。
自身にどんな恐ろしい変化が起こるのかと思わず目をつぶってしまった。
「…………、……?」
だが思ったような変化を感じない。手足を見る。やはり異変はない。
ヤツが魔法を失敗したのだろうか? なんだか少しだけ身軽になったような気はするが――
「あッッ!? か、髪が、僕の髪がぁッ!?!?」
両手で頭を押さえる。無い。自慢の金髪がどこにもない。
「そんなにショックか、戻してやるよ」
「っっっっ!?」
「やっぱナシ」
鉄仮面の指先ひとつで髪が生えたり無くなったり。
完全に弄ばれていた。
「頼むそれだけは、それだけは勘弁してくれ……っ!」
「元に戻したら二度とここには関わらないと誓うか?」
「ち、誓う!」
「俺は何でも見抜けるんだぞ? 少しでも翻意したらどうなるか――」
「分かっている! 分かっていますっっ! 貴方には逆らいませんっ!」
鉄仮面はしばらく黙り込む。
目元は隠れているが、ユーバーの隣の何も無い空間を見ていて、まるで何かを『読んでいる』ような仕草に思えた。
苦しいほどの沈黙が続いた。
魔法でも勝てないし、剣は没収されてしまった。裏切り者の部下は役立たずで――ユーバーの金髪は彼に握られている。
すべてを見透かすこの男の前で嘘は通じない。
それに言われなくても、もうこんなところに関わるのはこりごりだ。もうアルトのことなどどうでもいい――元々、妻のエリザに良いところを見せたくて始めたことだった。あんな弟より自分のほうが優れているだろうと。
だがその妻は、事もあろうに部下と関係を持っていた。ここに来なければ、アルト討伐など考えなければ知らずに済んだのに。
「……ヨシ」
鉄仮面が小さくうなずいた。
「あ、あのっ……、どう……でしょうかッ?」
卑屈な声が喉から出るものの、取り繕っている余裕など今はない。
「ヨシって言っただろ。確認したよ。もう帰っていい」
「…………っ! で、ですがぁ……どうやって帰ればいいか……」
これも本音だった。
この落とし穴から脱出する方法が思いつかない。
「ああ。それじゃあ特別サービスだ」
男は口元を歪め、
「――《クリエイト》」
先ほどとは違う呪文を唱えた。
ややあって、
「えっ、えぇええええええっっっ!?」
地面と壁と天井が一斉に動き出した。
ただ崩壊しているのではない。すべてがバラバラに、立方体に切り分けられ、それらが鉄仮面の指揮で組み変わっていくのだ。
天地がひっくり返り、壁が床に、床が壁にと目まぐるしく入れ替わる。
「「「ぎゃあああっっ!?」」」
他の穴に落ちていた騎士たちが宙に投げ出され、ユーバーたちと衝突しひとつの塊になる。
「《クリエイト》《クリエイト》《クリエイト》っっ!」
シェイクされる迷宮の中で視界の端に映った鉄仮面は楽しそうに笑っていた。
しかしユーバーたちをいたぶって喜んでいるというより、その能力を思い切り解放することへの喜びで溢れているようだった。
(意味が分からないッ――!)
この男も常識外のダンジョンも完全に理解の外だ。もう絶対に関わり合いになどなるものか――心に強く誓った。
そして鉄仮面は最高の笑顔で叫ぶ。
「いくぞ、ウォータースライダーだッッ!!!!」
構造を組み替えられたダンジョンは1本の巨大な滑り台となる。
そこへ例のヌルヌルが大量に注がれ、ユーバーたちはそのただ中へと落とされた。出入口に向かって一直線……ではなく、グルグル、グルグルと無駄に迂回させられたのち、
「「「「う、ぎゃああああっっ!?」」」」
どばばばっ、と外へと放り出されたのだった。
■ ■ ■
「やっぱ我が家が一番だなぁ」
ユーバーたちを追い払いノームを連れて元のダンジョンに戻った俺は、大泣きするマインに抱きつかれたり、嫉妬するメディにも抱きつかれたり、便乗する朧とニューにも抱きつかれて……
動く歩道でどうにか自宅まで帰って来たのだった。
「ムー、ムーーっ……!」
勝手に作業に出ていたノームは誰よりも恐縮していて、マインと一緒に何度も頭を下げて来たが、もとより罰するつもりなんてない。これからも建設を楽しむことを約束して解放してやった。
ちなみに元の体に戻してやろうかと提案したが、彼はマッチョになったのを気に入ったらしく、その姿のままで街づくりの現場にウキウキと向かっていった。
ユーバーたちの件はもう心配ないだろう。
裏設定を開いて見たところ、あの金髪王子の心は完全に折れていた。それに俺のハッタリも効いていたようだ。
何でも見抜く――
確かに目の前にいる相手には有効だが、遠く離れた相手の裏設定までは閲覧できない。少なくとも今は。だから王都に戻ってからユーバーに心変わりされるのは危険だ。
しかし、ああ言えば信じ込んでくれると思った。実際、いつも俺に監視されていると思ってユーバーは震えていることだろう。
……実のところ、あの場で厄介なのはエグモントのほうだった。
ユーバーと違って戦場経験もあり簡単に心折れそうにないエグモント。
殺さずに再起不能にするには手段が限られていた。そしてヤツの秘密をユーバーが知った以上、もう今の地位も維持できまい。寝取りは悪い文化だからな、根絶しなきゃならない。
しかもあれ以外にも、口にするのも憚られる悪事を働いているのを読んでしまったし……なかなか邪悪なヤツだったぜ。
ともかく、2人は撃退できたし、大がかりな《クリエイト》も使えて満足だ。
唯一、気がかりなのはユーバーの裏設定で見た妹・ジェリダのこと。相変わらず俺のことを気に掛けてくれていたようだし、あの自己主張の弱い王女さまが無事でいられるかは心配だ。
人間とはいえ妹だしな。もっとも、ああいう性格だから権力争いとは無縁でむしろ安全なのかもしれないが。
まあ、気にしたところで今は何もできない。
今日はもうゆっくりと――
「あるじ殿ー! 風呂が入りましたぞ~」
「準備おっけーだよー」
浴室のほうから朧とニューの声が聞こえてくる。
「さんきゅー」
とは返してみたものの。
女子が全員向こうにいてキャアキャア言ってるんだよな……。
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―――――――――――――――――
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