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幸の都
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ランダンに降り立ちますと、雪が降っておりました。雪の都という別名があるのですが、その通りでした。
「一面真っ白だなあっ……」
「父上は、ランダンの雪化粧を見たことがあるのですか?」
私は昔を懐かしんでいる父に尋ねてみました。
「ああっ、昔はしょっちゅうだったな……」
ランダンを離れてはや40年の月日が流れていました。父もまた、高等学院生として過ごした3年間を誇りに思い、その度に懐かしんでいました。
私は思い切って白く澄んだ空気をいっぱいに吸い込んでみました。すると、途端に咳を催しました。気管に入った氷が末梢まで行きわたり、肺胞までも凍らせようとしているようでした。
「ゲホッ、ゲホッゲホッ…………」
私があまりにも咳き込むので、みかねた父が回復魔法を処方しました。おかげですっかりよくなりました。
さて、私たちはまず、皇帝に謁見するため、宮殿に向かいました。謁見が叶うのは、本来伯爵以上の貴族なのですが、私の場合は保護者同伴で認められます。あっ、これもプチ自慢です。
ランダン皇帝は、既に広間で私たちの到着を待っておられました。父が皇帝の姿を認め、すぐさま頭を下げましたので、私も父と同じように頭を下げました。
「いやいや、そんなに畏まらなくて結構ですよ……」
皇帝にお会いするのは、去年のパーティー以来ですので、ちょうど1年ぶりということになります。相変わらずお優しい声でした。決して奢ることなく、時には自ら遜る姿勢は、貴族のみならず、市民からも高く評価されていました。皇帝の理想は、強さではなく優しさだったのです。
「どうぞ、お顔をお上げください」
「はあっ!失礼いたします!」
しかしながら、これほど畏まった父を見るのも久しぶりです。最高位公爵と言えど、普段は地元の農民と共に汗水たらす地主様であって、恥ずかしながら、貴族だと思って接する農民は恐らくいないと思います。
ただし、今は違います。皇帝の血を引き継ぐ正統貴族として、皇帝を支える臣下として、その胸元に光る紫の公爵勲章に恥じない、立派なたたずまいです。あっ、因みに私の胸元にも小さな青色の勲章を付けています。あんまり、インパクトはありませんが……。
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。叔父様、そして、アンソニー君。よく来てくれました!」
皇帝は決まって父のことを叔父様と呼び、私のことを君付けで呼びます。
「勿体ないお言葉でございます!」
父は相変わらず畏まっています。さて、そろそろ私も何か喋った方がいいのか、と思いました。
「私も光栄でございます。皇帝陛下……」
「アンソニー君。そんなに畏まらなくていいんだよ?もっとリラックスしてくれ」
「はいっ、ありがとうございます」
中々リラックスすることはできませんでしたが、それでも皇帝のおっしゃる通り、色々な話をしました。その後、父と皇帝の2人だけで会談することになったので、私は一度広間を去りました。
皇帝直属の侍従の方に案内されて、私は中庭に行きました。雪はすっかり降りやんでいました。時を告げる鐘がゴーンゴーンと重く響きました。青と白がちょうど半分くらいの空に太陽が溶け切っていました。世界をあまねく照らす光に導かれて、ここに一人の天使が降誕しました……なんていうのは、物語だけだと思っていました。
「こんにちは。迷い人さん……」
ふと後ろを振り向くと、私よりもはるかに背の小さい女の子が、1人分のスペースを大きく残してベンチに腰掛けていました。雪のようにどこまでも透き通っていました。触れただけで壊れてしまいそうで……なんとも愛おしい女の子でした。
「こんにちは。お嬢さん」
私は貴族らしい挨拶を心掛けました。しかしながら、女の子が途中からプスッと笑いだすものですから、止めました。
「そんなに畏まらいでください……」
この優雅なオーラが自然と湧いてくるのですから、皇帝の娘さんあたりなのか、と思いました。ならば、私は皇女様の側にお仕えすることを許されるのでしょうか?
「お初にお目にかかります。アンソニー・シュードモナス様!」
彼女はどうやら私の名前を知っているようでした。どうして?と疑問符を浮かべている間に、白い妖精は城の中へ入っていきました。私は追いかけようとしましたが、侍従の方に声をかけられ、できませんでした。
「一面真っ白だなあっ……」
「父上は、ランダンの雪化粧を見たことがあるのですか?」
私は昔を懐かしんでいる父に尋ねてみました。
「ああっ、昔はしょっちゅうだったな……」
ランダンを離れてはや40年の月日が流れていました。父もまた、高等学院生として過ごした3年間を誇りに思い、その度に懐かしんでいました。
私は思い切って白く澄んだ空気をいっぱいに吸い込んでみました。すると、途端に咳を催しました。気管に入った氷が末梢まで行きわたり、肺胞までも凍らせようとしているようでした。
「ゲホッ、ゲホッゲホッ…………」
私があまりにも咳き込むので、みかねた父が回復魔法を処方しました。おかげですっかりよくなりました。
さて、私たちはまず、皇帝に謁見するため、宮殿に向かいました。謁見が叶うのは、本来伯爵以上の貴族なのですが、私の場合は保護者同伴で認められます。あっ、これもプチ自慢です。
ランダン皇帝は、既に広間で私たちの到着を待っておられました。父が皇帝の姿を認め、すぐさま頭を下げましたので、私も父と同じように頭を下げました。
「いやいや、そんなに畏まらなくて結構ですよ……」
皇帝にお会いするのは、去年のパーティー以来ですので、ちょうど1年ぶりということになります。相変わらずお優しい声でした。決して奢ることなく、時には自ら遜る姿勢は、貴族のみならず、市民からも高く評価されていました。皇帝の理想は、強さではなく優しさだったのです。
「どうぞ、お顔をお上げください」
「はあっ!失礼いたします!」
しかしながら、これほど畏まった父を見るのも久しぶりです。最高位公爵と言えど、普段は地元の農民と共に汗水たらす地主様であって、恥ずかしながら、貴族だと思って接する農民は恐らくいないと思います。
ただし、今は違います。皇帝の血を引き継ぐ正統貴族として、皇帝を支える臣下として、その胸元に光る紫の公爵勲章に恥じない、立派なたたずまいです。あっ、因みに私の胸元にも小さな青色の勲章を付けています。あんまり、インパクトはありませんが……。
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。叔父様、そして、アンソニー君。よく来てくれました!」
皇帝は決まって父のことを叔父様と呼び、私のことを君付けで呼びます。
「勿体ないお言葉でございます!」
父は相変わらず畏まっています。さて、そろそろ私も何か喋った方がいいのか、と思いました。
「私も光栄でございます。皇帝陛下……」
「アンソニー君。そんなに畏まらなくていいんだよ?もっとリラックスしてくれ」
「はいっ、ありがとうございます」
中々リラックスすることはできませんでしたが、それでも皇帝のおっしゃる通り、色々な話をしました。その後、父と皇帝の2人だけで会談することになったので、私は一度広間を去りました。
皇帝直属の侍従の方に案内されて、私は中庭に行きました。雪はすっかり降りやんでいました。時を告げる鐘がゴーンゴーンと重く響きました。青と白がちょうど半分くらいの空に太陽が溶け切っていました。世界をあまねく照らす光に導かれて、ここに一人の天使が降誕しました……なんていうのは、物語だけだと思っていました。
「こんにちは。迷い人さん……」
ふと後ろを振り向くと、私よりもはるかに背の小さい女の子が、1人分のスペースを大きく残してベンチに腰掛けていました。雪のようにどこまでも透き通っていました。触れただけで壊れてしまいそうで……なんとも愛おしい女の子でした。
「こんにちは。お嬢さん」
私は貴族らしい挨拶を心掛けました。しかしながら、女の子が途中からプスッと笑いだすものですから、止めました。
「そんなに畏まらいでください……」
この優雅なオーラが自然と湧いてくるのですから、皇帝の娘さんあたりなのか、と思いました。ならば、私は皇女様の側にお仕えすることを許されるのでしょうか?
「お初にお目にかかります。アンソニー・シュードモナス様!」
彼女はどうやら私の名前を知っているようでした。どうして?と疑問符を浮かべている間に、白い妖精は城の中へ入っていきました。私は追いかけようとしましたが、侍従の方に声をかけられ、できませんでした。
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