執着令嬢

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執着

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 婚約者である令嬢が憎い。

 これほどまで人を憎むのは初めてだ。

 彼女は私のことを愛していない。ただ地位と財産が欲しいだけなんだ。

 ああっ、知っている。

 恋なんてものは幻想なんだ。最初から分かっている。

 しかしながら……。

 今回の件に関しては堪忍袋の緒が切れそうなんだ。

 何か上手い理由を付けて婚約破棄することはできないものだろうか?


 事の発端は学園での会話だった。

「あのとは上手くいっているの?」

「上手くもなにも……ただ利用するだけの価値しかないんだから」 

 婚約した令嬢と、その友人の会話だった。

 いやいや、流石にこれくらいじゃ平気です。慣れていますから。

「あの方も私のこと、良く思っていないみたいだから……」

 そうそう。そんなところです。

「あの……なんだっけ、エリーナって子だっけ?あの方の幼馴染とかいう人?あの人はどうするの?」

 エリーナ……。懐かしい響きだ。

 僕が神様にお願いを一つだけしていいのだとしたら、こういうことだ。

 つまり、エリーナが僕と婚約するのに値するだけの地位にあること、あるいは、僕がエリーナと同じくらいの階層であること、である。


「エリーナ……僕と結婚してくれ」

「それは出来ません。あなたは……この国を支えるお方なのですから。これはあなたの善意なのです……。私はあなたが注いでくださった善意のお陰で生きていくことが出来ます」

「エリーナ……僕は本気なんだよ?僕は……君のことが好きなんだ……」

「もう止めましょう……」

 人の生きる意味が恋にあるのだとしたら、僕の人生はとっくに終わっている。

 つまらない制約のお陰で、僕の人生は不幸と名付けられる。

 いっそ死んでしまったほうがいい。

 挙句の果てに婚約相手が……。

「そうね……私の婚約の邪魔になるようだったら……始末するしかなさそうね……」

 エリーナを始末する?

 彼女が婚約の邪魔になる?

 ああっ、全て僕がいけないんだ。

 そうだ。

 いつもエリーナを見ていた。

 令嬢と一緒にいる時も、胸の内にはエリーナがいた。

 太陽のような眩しさを……僕は欲していた……。

 エリーナ……。

 君の名前を呼ぶだけで僕は救われるんだ……。

 人生の終わりを迎える前に……。

 そうだ、僕はエリーナと婚約すればいいじゃないか?

 令嬢さんよ、ありがとう。

 財産でも、地位でも、何でもくれてやる。

 一文無しの僕を、エリーナはきっと受け入れてくれる。

 そうすれば……。

 全て上手くいくじゃないか!

「エリーナは……娼婦小屋にでも叩き込めばいいのでは?」

「それはいい考えね……。お父様に掛け合ってみるわ!」


 娼婦小屋……だと?

 お父様に掛け合う……娼婦小屋の経営者なんですか?

 下らない!

 一国の主の婚約者は娼婦小屋の娘か?

 エリーナは……僕の婚約者だ……。



「さあ、貴族様たち?どうぞ、私を可愛がってくださいまし……」

 エリーナがこんなふうになったら……。

 その時は国と一緒に心中する時だ!

「でも、財産だけは残してくださいね?」

 婚約令嬢……当然君も巻き添えにしてやるさ。

 僕の伴侶になるというのなら、地獄を味わえ!


 令嬢との婚約は解消することは、どうも不可能だ。

 とにかく、エリーナを救わなければならない。

 地獄に行くのは僕一人で十分なのだから。

 
 僕は、行方の知らない記憶の中の少女を探すことにした。令嬢がエリーナに手を差しのべる前に……僕が救わなければならない。


「いくら探したって無駄よ?エリーナは私の範疇にあるのだから……」

 令嬢が静かに囁いたって……僕は微かな希望を灯し続けた。

 







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