マッチ売りと坊や

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クリスマスイブ

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 待ちに待ったクリスマスを明日にひかえ、ひとときの安らぎに包まれた町は、子供から大人まで多くの人でにぎわっていました。

「お母さん、今日はケーキが食べたいな」
 男の子か、それとも女の子か見分けのつかない坊やが、厚着に身を包んだお母さんのすそを引っぱりました。お母さんは坊やと同じくらいの笑顔でうなずき、近くのケーキ屋を探し始めました。複雑に入り組んだ路地を行ったり来たりすること十数分、お母さんはやっとの思いで、小さなお菓子屋を見つけることが出来ました。

 店内にはたくさんのケーキが並べられていました。坊やは目を輝かせて、一つ一つじっくりと見ていました。

「坊やの好きなものを選んでいいのよ」

「本当に?どれでもいいの?」

 坊やはお母さんに聞き返しました。お母さんに気が付かれないよう、自分が一番いいと思ったケーキにはさよならをしました。

「それがいいのね?」

 でも、お母さんにはお見通しでした。一番上の段に置かれているチョコレートケーキを指さして、

「一ついただけますか?」

 と、店員に言いました。

「お母さん、本当にいいの?」

 坊やはやっぱり心配になりました。すると、お母さんは坊やの頭を優しくなでました。

「今日は坊やにとって一番大切な日なの。神様のいらっしゃる天国から、私たちの世界に始めて降り立った日。だからね、今日は坊やの願いをなんでもかなえてあげるの」

 お母さんはにっこりと笑いました。坊やは朝のようにんだひとみをお母さんに見せて、

「ありがとう!」

 と言いました。

「どういたしまして」

 お母さんはもう一度坊やの頭をなでました。



 今年はいつもより寒い冬になりました。そのせいで、お母さんと坊やが住んでいるイズ―ル地区の子供たちはほとんど外で遊ばなくなりました。中にはひどいかぜをこじらせて、何日も学校に行けなくなる子供もいました。坊やも元々はすごく寒がりでした。でも、それが平気になったのは、お母さんのおかげでした。

 冬風の音色のみが響きわたる通りを少しだけ明るくする声が、もうすぐ生まれようとしていました。

「坊やはここで待っていてね」

「うん、わかった!」

 お母さんは坊やのリンゴみたいなほっぺに口づけをしました。そして、町を行きかう人々の前に立ちました。

「マッチはいりませんか、マッチはいりませんか?」

 どんよりと灰色がかった雲から一粒の雪が舞い降りてきました。お母さんはポケットからマッチを一つ取り出して、静かに火を灯しました。

「さあ、みなさん!温かいマッチはいかがですか?」

 町を行きかう人々は白い息を静かにもらしながら、クリスマスの訪れをむかえようとしていました。

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