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その35

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それはそうと、やはり暇だと思いました。ですから、私はひとまず伯爵の部屋に向かいました。この日は休日でしたので、伯爵は部屋に閉じこもって、読書でもしていました。

部屋のドアをコンコンとノックして、

「マリアです」

と言いますと、伯爵は、

「マリア様?何の御用ですか?」

と、少し驚いたように答えました。

「いいえ、少しだけお話がしたくて……」

私がこう言いますと、伯爵は、

「何かご不満なことでもございますか?」

と聞いてきました。

「いえ、そう言うことじゃなくて……単純にお話がしたいのです。いけませんか?」

そう言いますと、伯爵はドアを開けてくれました。

「どうぞ、お入りください……」

「ありがとうございます」

伯爵の部屋に入ったのは、これが初めてでした。最初の日に、外から中を見たことはありますが、足を踏み入れるのは許しませんでした。

部屋は、貴族の主の部屋を想像すると、大部殺風景でした。飾り気のない、質素な部屋でした。居間と書庫がセットになっていて、机には、読みかけの本が十冊ほど、乱雑に置かれていました。そして、部屋の大半を占めている本棚には、薄汚い本が所せましと置いてありました。

そこで、私はいいアイデアを思いつきました。

「そうだ、伯爵。せっかくでございますから、私がこの部屋を掃除いたしましょうか?こんなに埃臭くては……病気になってしまいますわよ?」

部屋に入った瞬間から、喉がむせそうになりました。幼いころは、よく喘息の発作を引き起こしたものですから、居心地は最悪でした。

「掃除ですって?平気ですよ」

伯爵は消極的でした。

「あなたが平気でも、私は平気じゃないんです。喘息持ちなものですから」

こう言いますと、伯爵は、

「それなら、自分で片づけます」

と言いました。

なるほど……他人に部屋をいじられるのは嫌なのだと分かりました。本人の了解もなく、勝手に掃除することはできないので、伯爵が掃除を終えるまで、私は外で待つことにいたしました。
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