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その1 プロローグ
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私の名前はアナトリア。帝都に住むことのできる貴族の娘である。
突然だが、前世の記憶があると申し上げたら、どんな反応をするだろうか?
我一族は歴史の継承者として有名である。親から子へ、歴史が受け継がれるのである。だから、私はこの国が成立して今に至るまで、全ての事柄を記憶している。
私にはもう一つの特殊な記憶がある。それは様々な世界線の記憶である。人々の行動によって、世界の成り立ちが大きく変わることがある。私はこれについても逐一全て記憶している。
だから、私はこの国の未来も読めたりする。結論?後23年くらいすると、クーデターが起きて崩壊……これは予想ではなく、れっきとした事実である。信じるかどうかはあなた次第だが。
この世界の根源は科学と魔法である。魔法を否定する科学者と、科学を否定する魔法使いの戦いは、今までも世界線の変化に大きく影響してきた。因みに、今は科学者の方が優勢であり、宇宙の理についても、大方解明が終了したところであり、新たなる生命との出会いを求めて旅に出る、なんてことを考える人もいる。
魔法使いは、これを非常に愚かで危険な行為であると非難している。ちなみに、私は中道であるが、宇宙人なんてものを考えると、確かにちょっと怖いと思う。
話を戻そう。我一族の人間は、本当かどうか微妙なところだが、神事を司る関係で、神様から聖なる地位を授かることになっている。男なら聖男、女なら聖女、簡単である。
だから何なの?と言われると、答えるのが難しい。神事とは言っても、今となっては形骸化したお祭りであり、世界線を著しく変えるだけの力はないと考えられている。だからこそ、安全ともいえる。この世界の主人公が神でなく、貴族でもなく、無数の人民であることの証明にもなる。
さて、私は聖女である。これだけで結構評判が良くなる。別に自慢ではないが、私は優良な貴族として王子様との婚約が叶った。別にこれ以上地位や名誉を求めてもあまり意味はないのだが、断るのも悪いと思ったので、私は王子様との婚約に同意した。
王子の名はホルムヘルツ。根っからの科学者であり、現世の象徴だった。万物からエターナル・アトムを生み出すことに人類で初めて成功したことで有名である。エターナル・アトムとは、言うなれば、永遠の生命である。その運用は複雑なのだが、とにかく寿命を延ばすことのできる物質だと解釈すればいい。
科学者ということだけあって、外見には全くこだわりがない。別に自分のことを美人だというつもりはないのだが、それでも一応令嬢のたしなみくらいは心得ているつもりである。それに引き換え、ホルムヘルツ王子ときたら……いや、これ以上は言わないことにしよう。
ところで、この婚約について、私の家族が祝福したかどうかについて話す必要がある。王家の婚約事情というのは、これもまたかなり複雑で、結論から言うと、面倒である。王家の権力争いに巻き込まれて処刑された婚約者もいた。一般的に、令嬢のたしなみの最高位は、王家の男性に嫁ぐことである。しかしながら、全ての歴史を知る私たちに言わせると……少し危険をはらんだ行為と言えるのだ。
とは言ったものの、断ると王家に色々疑われて厄介なので、潔く受けることにした。あくまでも、苦渋の選択である。
私は婚約の前に、ホルムヘルツ王子と何度か話す機会があった。最初の頃は、
「私は今までまともに同世代の女性と話をしたことが無いので緊張しています!」
と言っていたが、話が弾んでくると、
「エターナル・アトム!これで私は世界最強の王になるんだ!」
と自分の研究について非常に雄弁に語った。
「ああっ……素晴らしいことですね……」
私も適宜相槌を打った。
私が良い話相手であり続けたので、ホルムヘルツ王子は私のことを気に入ったようだった。私も王子に触発されて、科学の勉強を始めた。どれほど勉強しても、永遠の生命に至る結論を得ることはできなかった。それゆえ、王子は稀有な鬼才だと思った。
突然だが、前世の記憶があると申し上げたら、どんな反応をするだろうか?
我一族は歴史の継承者として有名である。親から子へ、歴史が受け継がれるのである。だから、私はこの国が成立して今に至るまで、全ての事柄を記憶している。
私にはもう一つの特殊な記憶がある。それは様々な世界線の記憶である。人々の行動によって、世界の成り立ちが大きく変わることがある。私はこれについても逐一全て記憶している。
だから、私はこの国の未来も読めたりする。結論?後23年くらいすると、クーデターが起きて崩壊……これは予想ではなく、れっきとした事実である。信じるかどうかはあなた次第だが。
この世界の根源は科学と魔法である。魔法を否定する科学者と、科学を否定する魔法使いの戦いは、今までも世界線の変化に大きく影響してきた。因みに、今は科学者の方が優勢であり、宇宙の理についても、大方解明が終了したところであり、新たなる生命との出会いを求めて旅に出る、なんてことを考える人もいる。
魔法使いは、これを非常に愚かで危険な行為であると非難している。ちなみに、私は中道であるが、宇宙人なんてものを考えると、確かにちょっと怖いと思う。
話を戻そう。我一族の人間は、本当かどうか微妙なところだが、神事を司る関係で、神様から聖なる地位を授かることになっている。男なら聖男、女なら聖女、簡単である。
だから何なの?と言われると、答えるのが難しい。神事とは言っても、今となっては形骸化したお祭りであり、世界線を著しく変えるだけの力はないと考えられている。だからこそ、安全ともいえる。この世界の主人公が神でなく、貴族でもなく、無数の人民であることの証明にもなる。
さて、私は聖女である。これだけで結構評判が良くなる。別に自慢ではないが、私は優良な貴族として王子様との婚約が叶った。別にこれ以上地位や名誉を求めてもあまり意味はないのだが、断るのも悪いと思ったので、私は王子様との婚約に同意した。
王子の名はホルムヘルツ。根っからの科学者であり、現世の象徴だった。万物からエターナル・アトムを生み出すことに人類で初めて成功したことで有名である。エターナル・アトムとは、言うなれば、永遠の生命である。その運用は複雑なのだが、とにかく寿命を延ばすことのできる物質だと解釈すればいい。
科学者ということだけあって、外見には全くこだわりがない。別に自分のことを美人だというつもりはないのだが、それでも一応令嬢のたしなみくらいは心得ているつもりである。それに引き換え、ホルムヘルツ王子ときたら……いや、これ以上は言わないことにしよう。
ところで、この婚約について、私の家族が祝福したかどうかについて話す必要がある。王家の婚約事情というのは、これもまたかなり複雑で、結論から言うと、面倒である。王家の権力争いに巻き込まれて処刑された婚約者もいた。一般的に、令嬢のたしなみの最高位は、王家の男性に嫁ぐことである。しかしながら、全ての歴史を知る私たちに言わせると……少し危険をはらんだ行為と言えるのだ。
とは言ったものの、断ると王家に色々疑われて厄介なので、潔く受けることにした。あくまでも、苦渋の選択である。
私は婚約の前に、ホルムヘルツ王子と何度か話す機会があった。最初の頃は、
「私は今までまともに同世代の女性と話をしたことが無いので緊張しています!」
と言っていたが、話が弾んでくると、
「エターナル・アトム!これで私は世界最強の王になるんだ!」
と自分の研究について非常に雄弁に語った。
「ああっ……素晴らしいことですね……」
私も適宜相槌を打った。
私が良い話相手であり続けたので、ホルムヘルツ王子は私のことを気に入ったようだった。私も王子に触発されて、科学の勉強を始めた。どれほど勉強しても、永遠の生命に至る結論を得ることはできなかった。それゆえ、王子は稀有な鬼才だと思った。
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