婚約破棄は気まぐれに

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気まぐれ

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 王子と結婚するために何をする?

 人の道を踏み外してもいい?

 良いんじゃない?

 どうせ、人の上に立つっていうのは、そういうことだから。

 これは、他国の王子を寝取った後に処刑された母の遺言である。

 母の血を受け継いだのかどうかは知らないが、国中どこを探しても、私より美しい女性を見かけない。おかげで貴族の求婚ラッシュである。女として嬉しい。

 しかしながら、どういうわけか、王子から求婚の誘いが来ない。

 どうしてだろう?美しさに興味が無いのだろうか?ひょっとして、そもそも結婚する気がないとか?

 王子、それはまずいですよ?

 お世継ぎを産まないと、国が滅びますから。


 とかなんとか、色々心配していたのだが、結局のところ、王子と婚約することができた。母の言う通り、色々な手を尽くした。婚約候補をことごとく滅ぼした。


 王子は……知っている。

 本当は私なんかと結婚したくないんだ。

 私と目を合わせない。どうして?怖いから?

 そうかもね。王子はただの子供みたいだから。

 ちょうどいい。最初は王子と婚約するだけでよかったけれど。

 おかげで好き勝手できそうだわ……。



 しかしながら、王子が急に婚約を破棄した。

 私は怒り狂って、王子に詰問した。

 曰く、遠い世界からやって来た少女に恋をしているのだとか?

 何それ?

 王子って……頭おかしいんじゃないの?

 今まで王子と婚約するために払った犠牲が、急に馬鹿らしくなった。

 結局、婚約破棄を認めた。

 でも……事の発端になった少女の顔を拝んでみたいと思ったので、王子に訊いてみた。王子は了承してくれた。

「ここに鏡があるだろう?よーく見てごらん?」

 王子の言っていることが全く分からなかった。鏡に映った自分……大部汚らしく感じた。結局のところ、美しさを保っているのは顔だけなのだ。

「それでは僕の婚約者を紹介しよう……。エリー、出ておいで」

「はい、ただいま……」

 エリーと名付けられた少女の顔を見るなり、私は卒倒しそうになった。というのも、私と瓜二つなのである。

「初めてお目にかかります。エリーと申します……」

 妹とかいう次元じゃない。間違いなく私だ……。

「君にそっくりだろう?顔だけは?内面は全然違うんだ。君の……殺気に溢れた瞳でよーく見てごらん?」

 どこから見ても……美しい。それしか分からない。

「それは君が汚いからだろうね。ほら、これを見たまえ……」

 王子の手には訴状が握られていた。つまり、私が葬った令嬢たちの反撃だった。

「さて……エリー?どうしようか?」

「そうですね……みんな王子の側室にすればいいのでは?」

「そうか!君は賢いなぁっ……」

 当然、私は含まれていないよね……。

「こちらの方も加えますか?」

「どうしようか?」

「私は……これから一人で生きていきます……」

「そうなの?」

「はいっ…………」



 少女の得体は結局分からなかった。

 家に帰って、いつも自分を映してくれた鏡を一つ壊した。

「これで終わりね……」

 


 









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