早とちりは損

雨宮 魅懸

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早とちりは損

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『好きです!付き合ってください!』
『すまないが、聞かなかったことにしても良いだろうか?』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから…

私が生徒会長に告白して振られてから一ヶ月経った。

「あー…やる気出なーい。構ってよ真斗まなとー。」
「俺は今忙しいの!お前に構ってるヒマはないの!」

私は、いつものように生徒会室にたむろっている真斗に、構ってアピールをしていたけど
トランプでタワーを作っている真斗は、まったく相手にしてくれない。

私が一華かずはちゃんだったら、真斗からグイグイ来るくせに。

その一華ちゃんは今はまだ職員室で先生とお話だし、圭人けいとくんは校舎を回ってる生徒会長の所へ。

まさにヒマである。


「大体、春樹はるきに構ってもらえばいいだろ」
「何でよ。会長の方が忙しいに決まってるでしょ。」


それに、あの後逃げちゃってから気まずい。
今はまだ、まともに顔を合わせられる気がしない。


「それくらい大丈夫だろ。てか、付き合ってんだろ?
俺に言うのが筋違いなんだよ。」
「……付き合ってない。」
「は?」
「だから、付き合ってないの。告白したとは言ったけど、
付き合うことになったとは一言も言ってないよ。」
「え?何で?だってあいつ…。え?何で?」


何で何でって…。
そんなの私が知りたいわ、アホ。

面倒な女だと思われたくなくて我慢してたけど
改めて私は振られたんだと実感したら
胸の奥がギュッと締め付けられたように痛み、涙が出てきた。


「ーーーー…っ。」
「えぇ!?ちょ、泣くなよ!俺が泣かせたみたいになってんだろうがぁ!!」
「…あんたの所為だろうがぁー…。」
「お前も泣くことってあるんだな…」


こいつ、私を何だと思ってるんだろうか。
最早ツッコむ気にもなれない。


「そんなに泣くなよ!ほ、ほら、こっち来い!」


真斗が私の腕を引いたところで、一華ちゃんの声が聞こえてきた。


「今戻りましたよー。……え。」


泣いている私。
どうにか落ち着かせようと、私の左手首を掴み、軽く抱き寄せている真斗。
一華ちゃんの目には、どんな風に映っているのかが安易に予想できた。

そこに、見回りが終わった生徒会長と、会長と戻ってきた圭人くん。



「「…え」」


誤解する人が増えていく中、私はそれどころではなかった。
こんな所を一番見られたくない会長に見られた。
恥ずかしさでパニック一歩手前だ。

早くこの状況をどうにかしないと…。


「イヤ…。放してよぅ…。」


真斗を見るみんなの目は、まるで汚物を見るソレだった。
どんどん立場が悪くなる真斗。


「ちょ、違うから!お前も紛らわしい言い方すんな!」
「何をしてるんですか真斗くん!!!」
たちばな泣かすとか信じらんねぇー!!てか、何しようとしてたんだよ変態!!!」
「だーから!違うんですぅ!お願いだから話を聞いてください、一華さん!圭人さん!」


我に返った一華ちゃんと圭人くんは怒りをあらわにし、
弁明をしようと必死な真斗に罵声を浴びせた。

そんなやり取りを見ていたら、いつの間にか涙も引っ込んでいた。


「一体何があって、こんな状態に?」


流石に真斗が可哀想になったのか、会長が苦笑いで聞いてきた。

それに対し、私自身がぽつりぽつりと、一から説明していった。
みんなも黙って聞いてくれて
説明し終わると、「あぁー…」と納得したようだった。


「それでもやっぱり、真斗くんが無神経だったのが悪いと思いますけどね!」
「そーだそーだ!紛らわしいことしてるし!」


相変わらず一華ちゃんと圭人くんは、私の味方になってくれる。


「あの、一つ良いだろうか。」


軽く挙手をし、物言いたげにする会長に、真斗が「どうぞ。」と答える。


「僕、橘さんのこと、振っていないよ。」

「「「「……え?」」」」


一華ちゃんや圭人くん、真斗、当人である私でさえ
頭にはてなを浮かべポカンとしていた。
そりゃそうだ。
状況説明をする際、振られたと言った矢先に、振ってないと言われたのだから。

え?でも、どういうこと?
確かにあの時『すまない』って言ってたハズなんだけど…。
いくら考えてもやっぱり分からない。


「あの時は……



『好きです!付き合ってください!』
『すまないが、聞かなかったことにしても良いだろうか?
これは僕が…って、あれ?橘さん!?
……まだ途中だったのに行ってしまった…。』


って感じで、ちゃんと最後まで言えてなかったんだ。」


そ、そんな…。
自業自得じゃん…。
私アホすぎる…。

まだ続きがあったと知り、愕然とした。

そっか、続きがあったんだ。
なら聞かなきゃ…。


「じ、じゃあ、あの時、何て言おうとしていたんですか?」


会長を真っ直ぐ見つめ、勇気を出して聞いてみる。

会長は優しく微笑み、すぐにきりっとした表情になった。


「これは僕が最初に君に伝えたかったことなんだ。
改めて言わせて欲しい。
橘さん、僕は君が好きだ。
こんな僕で良ければ付き合って欲しい。」


真剣な目でまっすぐ私を見つめ告げられた想い。
答えは決まってる…。


「もちろんです!!私、会長が大好きなんです。
断る理由がありませんよ…。」
「ありがとう。その答えが聞けて良かった。
でも、本当にすまなかった。あの時きちんと伝えられていたら、
君が泣くこともなかったし、真斗君にあんな風に触られもしなかったのに。」


若干横目で真斗を睨んだ会長。


「何だよ!結局俺が悪いのか!?」


納得いかないと言わんばかりに抗議する真斗に会長は苦笑い。


「いや、これはただの自己嫌悪と嫉妬だ。
真斗君にも迷惑をかけた。すまなかった。」
「いーよ別に。良かったな。」
「ああ。」


男同士の話は聞こえなかったけど
喧嘩してるわけじゃなさそうだからほっておいた。


それからは、一華ちゃんと圭人くんが祝福してくれて、
ちょっとしたプチパーティーを開いてくれた。

大げさな感じがして恥ずかしかったけど
みんなが自分のことのように喜んでくれるのが
凄く嬉しくて、ちょっとだけ涙が出た。

私は幸せ者だなぁ…。


そんな私を見て会長は

「これからもよろしく。」

と、優しく微笑んだ。


「こちらこそ!」






----------------------


「春樹のやつ、俺にあおいことでよく恋愛相談してきてたし、普通に好きだって認めてたから、振られたって聞いたとき本当に信じられなかったよ。」

「え、会長、そうなんですか?」

「んな…!真斗君!そういうことは言わなくて良いんだ!」








                           fin...
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