1 / 10
プロローグ 命日、それは運命の日
0-1 「安らかに眠れ」
しおりを挟む
満天の星空が夜の世界を綺麗に彩っていた。欠けることのない綺麗な満月が地上を控えめに照らす。静かな夜だった。
草木も眠る丑三つ時、夜の帳の向こうで静寂を破る一つの影が動いた。
聳え立つ巨大な建物の壁面を這うように移動する。その動きは重力を感じさせないほど軽やかで芸術的なものだった。影は目的の場所までたどり着いたのかその動きを止める。そしてじっと息を顰め夜の闇に紛れて部屋の中を覗き込む。
薄っすらと月明かりに照らされた部屋の中、ベッドの上にはスヤスヤと可愛らしい寝息を立てている少女の姿があった。金色の美しい髪に整った顔立ち、見るもの全ての視線をくぎ付けにするような絶世の美女。そんな彼女は無防備にも寝顔を晒して眠っている。
影はゆっくりと音を立てないように慎重に、細心の注意を払って作業を進める。
カチャリ。
昼の喧騒に紛れているときには誰も気にも留めないような微かな音。しかし影にとっては爆音に等しい。影の身体が一瞬ビクッと硬直する。
何事もないことを確認して窓から部屋の中へとスルリと滑り込む。
部屋の中は女性らしさを感じさせない質素なつくりである。申し訳なさそうに部屋の隅に置かれている化粧台によりかろうじて女性の部屋と判別できる。部屋占めているのは授業で使用する本や魔法に関係する資料だ。本棚に収まりきらなくなったものが床に高く積まれている。
影はそれらに触れないようにゆっくりと少女の寝ているベッドに近づく。
「むにゃあ」
少女の口から何とも間の抜けた声が漏れる。
スッ。影は一瞬で闇に紛れるようにして姿を隠す。
ただの寝言であり杞憂だったことを悟ると再び少女の前に立った。その気配の薄さは幽霊のようだった。
「R.I.P」
影は独り言のようにボソリと呟くと両手を寝ている少女のほうへとかざす。
「蒼き生命の輝き、根源の叡智よ、我求めるは汝の力、模糊たる水よ、免れぬ牢獄へ、収束し羈束せよ。水絶の牢獄」
何かを噛み締めるように丁寧に一言一言を発音していく。その表情は夜の闇に染まり窺うことはできない。
影の腰に着いている精霊晶が淡い水色に光る。次の瞬間、突如として虚空に顕現した大量の水は瞬く間に少女の身体を包み込んだ。
ボゴココ。
空気を失った少女の口と鼻から息が漏れる。漏れた息は泡となって水の中に溶けていく。
「んー? あー? フォゴフォゴ」
状況の掴めないままもだえ苦しむ少女。何が起きているのか何も理解できないまま口や鼻から水が入り込んでいく。いくら中からあがいたところでこの水の牢獄からは脱獄することはできない。水は彼女の動きに合わせて流動的に形を変えて閉じ込め続ける。抵抗したところでただただ苦しみが増していくだけだった。その整った顔を苦痛に歪ませる。
そこにいるのは誰なの?
少女は必死に目を開けて目の前にいる人間を凝視するが部屋は暗闇、その上水の中では視界がぼやけて姿をとらえることすら叶わない。そんな余裕があったのも一瞬だけですぐに息苦しさで頭がいっぱいになる。思考が纏まらない。徐々に意識が薄れていく。
最初は激しく暴れていた少女も徐々にその抵抗は弱まり、ついにはその動きを停止してしまった。
少女は水面に揺蕩うクラゲのように力なく水の中に浮かんでいた。その光景は水族館のようで幻想的ですらあった。
心臓の鼓動が完全に停止したのを確認して魔法を解く。彼女を飲み込んで離さなかった水はいとも簡単に胡散していった。
影は少女をベッドの上に横たわらせる。このようにしていると本当に眠っているようにしか見えない。王子様の熱いキスで目覚めても誰も驚かないだろう。だが確かに彼女の鼓動は止まり、命の灯は吹き消された。
ベッドの上で眠る少女の姿はとても美しいものだった。
その姿を見て喜怒哀楽の混ざった鈍い灰色の笑みを浮かべた。
草木も眠る丑三つ時、夜の帳の向こうで静寂を破る一つの影が動いた。
聳え立つ巨大な建物の壁面を這うように移動する。その動きは重力を感じさせないほど軽やかで芸術的なものだった。影は目的の場所までたどり着いたのかその動きを止める。そしてじっと息を顰め夜の闇に紛れて部屋の中を覗き込む。
薄っすらと月明かりに照らされた部屋の中、ベッドの上にはスヤスヤと可愛らしい寝息を立てている少女の姿があった。金色の美しい髪に整った顔立ち、見るもの全ての視線をくぎ付けにするような絶世の美女。そんな彼女は無防備にも寝顔を晒して眠っている。
影はゆっくりと音を立てないように慎重に、細心の注意を払って作業を進める。
カチャリ。
昼の喧騒に紛れているときには誰も気にも留めないような微かな音。しかし影にとっては爆音に等しい。影の身体が一瞬ビクッと硬直する。
何事もないことを確認して窓から部屋の中へとスルリと滑り込む。
部屋の中は女性らしさを感じさせない質素なつくりである。申し訳なさそうに部屋の隅に置かれている化粧台によりかろうじて女性の部屋と判別できる。部屋占めているのは授業で使用する本や魔法に関係する資料だ。本棚に収まりきらなくなったものが床に高く積まれている。
影はそれらに触れないようにゆっくりと少女の寝ているベッドに近づく。
「むにゃあ」
少女の口から何とも間の抜けた声が漏れる。
スッ。影は一瞬で闇に紛れるようにして姿を隠す。
ただの寝言であり杞憂だったことを悟ると再び少女の前に立った。その気配の薄さは幽霊のようだった。
「R.I.P」
影は独り言のようにボソリと呟くと両手を寝ている少女のほうへとかざす。
「蒼き生命の輝き、根源の叡智よ、我求めるは汝の力、模糊たる水よ、免れぬ牢獄へ、収束し羈束せよ。水絶の牢獄」
何かを噛み締めるように丁寧に一言一言を発音していく。その表情は夜の闇に染まり窺うことはできない。
影の腰に着いている精霊晶が淡い水色に光る。次の瞬間、突如として虚空に顕現した大量の水は瞬く間に少女の身体を包み込んだ。
ボゴココ。
空気を失った少女の口と鼻から息が漏れる。漏れた息は泡となって水の中に溶けていく。
「んー? あー? フォゴフォゴ」
状況の掴めないままもだえ苦しむ少女。何が起きているのか何も理解できないまま口や鼻から水が入り込んでいく。いくら中からあがいたところでこの水の牢獄からは脱獄することはできない。水は彼女の動きに合わせて流動的に形を変えて閉じ込め続ける。抵抗したところでただただ苦しみが増していくだけだった。その整った顔を苦痛に歪ませる。
そこにいるのは誰なの?
少女は必死に目を開けて目の前にいる人間を凝視するが部屋は暗闇、その上水の中では視界がぼやけて姿をとらえることすら叶わない。そんな余裕があったのも一瞬だけですぐに息苦しさで頭がいっぱいになる。思考が纏まらない。徐々に意識が薄れていく。
最初は激しく暴れていた少女も徐々にその抵抗は弱まり、ついにはその動きを停止してしまった。
少女は水面に揺蕩うクラゲのように力なく水の中に浮かんでいた。その光景は水族館のようで幻想的ですらあった。
心臓の鼓動が完全に停止したのを確認して魔法を解く。彼女を飲み込んで離さなかった水はいとも簡単に胡散していった。
影は少女をベッドの上に横たわらせる。このようにしていると本当に眠っているようにしか見えない。王子様の熱いキスで目覚めても誰も驚かないだろう。だが確かに彼女の鼓動は止まり、命の灯は吹き消された。
ベッドの上で眠る少女の姿はとても美しいものだった。
その姿を見て喜怒哀楽の混ざった鈍い灰色の笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる