ケダモノ狂想曲ーキマイラの旋律ー

東雲一

文字の大きさ
19 / 51
新たな日常編

08_心の糸

しおりを挟む
 地下への階段を一段一段下りていく。前は、アルバートと二人だった。でも、今は、一人だ。自分一人で、半獣の人たちと向かい合わなければならない。地下から漂う淀んだ重圧感に、心臓が押し潰されそうだ。

 いつだって、隣に誰かがいてくれる訳ではない。立ち向かわなくては。自分の道は自分で切り開いていく。

 地下室にたどり着くと、舞台の上で、蛇女ムグリ、狼男アウルフ、ライオン男ライアンの三人が、話をしていた。

 僕が近づくと、三人は気配を感じ取り、一斉にこちらを見た。

「なんだ!また、来たのか。何のようだ、ここはガキの遊び場じゃねーぞ!」

 狼男アウルフが、今にも噛み殺すぞと言わんばかりの鋭い目つきで睨み付ける。睨まれた瞬間、心臓が締め付けられる思いだったけれど、恐る恐る答えた。

「蛇女ムグリに話したいことがあって来ました。これを見てください。僕の家に、あなたの白蛇がいた」

 僕は、持っていた蛇の入った瓶を半獣たちに見せると、蛇女ムグリに向かって言った。すると、蛇女ムグリは、瓶に入った白蛇を見て、大きく目を見開いた。

「あら!探していたのよ、私の白蛇がどこかに行ってしまったから。あなたのところに、この子は、行っていたのね。わざわざ、私のところに届けてきてくれたの?」

「それもありますが......僕は、今日の朝から、身体に異変があって、こうしているうちに、あなたたちのような半獣に近づいている。右腕には、蛇に噛まれたような噛み傷がある。この白蛇のせいで僕の身体に異変が起きているんじゃないかと疑っています」

 蛇女ムグリは、足元から僕の全身を見て、半獣に近づきつつあることを確認した。見た目は、半獣ではなく、人間の姿をしているが、どういうわけだか蛇女ムガルは僕の身体に起こっている異変が分かるようだった。もしかしたら、半獣独特の雰囲気を僕から感じ取っているのかもしれない。

「ほんとね。あなた、半獣になっているわね。だけど、あなたが言うように、この子が、あなたを半獣にしたということは絶対にないわ」

 ムグリは、落ち着いた声でそう言うと、僕の方にゆっくりと近づいてきた。

「どうして絶対だと言えるんですか!僕は、正直、怒っているんです!苛立ちを覚えて仕方がないんです!だって、僕は半獣になんか興味もなかったし、なりたくもなかった。僕は......僕は、ごく普通の人間として生きたかったのに......」

 なかなか怒りの感情を爆発させることがない僕だが、今回ばかりは、つい感情的になって叫んでしまった。もう誰かにこの気持ちを向けなければ、燃え盛る憤怒の炎に自分自身が焼き殺されてしまう。

 僕が感情むき出しの言葉を発するも、ムグリは、優しい表情を浮かべていた。

「あなたの気持ちは、分からなくはないわ。だって、私も、もともと人間だったんだもの」

 僕は、思わず顔を上げ、ムグリの方を見た。知らなかった。蛇女がもともと人間だったなんてーー。

 もとから半獣として生きてきたのだとばかり思っていた。人間の気持ちなど分からない冷たい存在なんだと、どこか心を許せないところがあった。

 ようやく、少し、張り詰めた心の緊張の糸が緩まったように感じた。僕は、この人たちに対して、何か大きな思い違いをしているのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...