ケダモノ狂想曲ーキマイラの旋律ー

東雲一

文字の大きさ
24 / 51
軋轢と乖離

02_隠し事

しおりを挟む
 僕たちは、学校が終わると早速、死体が見つかった河川敷へと向かった。河川敷は、学校から数分で歩いていける距離にある。まだ、上空には、鮮やかな青が広がり、燦然と輝く太陽が僕らを優しく照らしていた。

 アルバートが、一歩前を歩き、彼の後ろを僕がついていく。お馴染みの光景だ。いつも、彼は僕より先を歩いていた。辛く苦しい時も、心の支えになってくれる頼りになる存在だ。日本からイギリスに来て、僕が孤独に負けずにやってこれたのも、彼のおかげといっていい。

 (俺を半獣にしてくれないか......)

 あの日、アルバートが放った言葉が頭に流れ込む。彼を分かっていると思っていたけれど、僕の知らないところで親友は苦しんでいた。

 だとして、僕は何ができるのだろうか......。

 きっと、アルバートは、僕よりずっとずっと強い。一人でも困難を乗り越えていけるだろう。

 僕は、アルバートの背中を見た。ずっと、彼の背中を見て、歩いてきた。彼は、僕の憧れだった。

 ーーだけど、これからは。

 アルバートの隣を歩いた。

 彼と対等に、一人の親友として歩いていく。もう守られる自分は嫌だ。これから、向かう先に何が待ち受けているのか分からないけど、半獣と出くわすかもしれない。

 もしもの時は、半獣になった僕をさらしてでも、彼を守らなくては。それで、僕たちの友情に亀裂が入ったとしても......。

「ここが、変死体が見つかった河川敷か。確か、変死体は橋の近くで見つかったってニュースでは言ってたな。鬼山、橋がどこにかかってるか知ってるか?」

 河川敷は、二人ともそもそもあまり来たことがなかった。変死体が見つかったという話を聞いて橋の存在を知った。

「いや、僕も知らない。どっちにいけば、橋があるんだろう」

 僕たちは立ち止まり、河川で鳥が優雅に水浴びをして、水面の水を弾き飛ばして飛び去っていく様子を見ながら、話をしていた。

「そうか。鬼山も知らないのか。とりあえず、河川に沿って歩いてみてもいいな」

「そうだね。右か左かどっちから行く?」

「どうしようか。鬼山、お前ならどっちに行く」

「えっと、じゃあ、右で。特に理由はないけれど、直感で」

 とりあえず、僕たちは、右側のルートを川に沿って、歩きながら、橋がないか探した。

 清らかに流れる川のせせらぎが、聞こえてきて、歩くだけでもなんだか癒された。透き通った河川を小魚が泳ぎ、水面を鳥が浮かんで、戯れている。自然豊かで、生命の営みを感じられるこの場所で死体が発見されたなど信じられなかった。

「なかなか見つからないな、もう少し奥の方にあるのかもな」

「うん、そうだね」

 僕たちは、さらに川に沿って、奥の方に進んでいった。その間、僕は、アルバートに、気になっていたことがあったので、聞いてみた。

「アルバート、何か悩んでることない?」

「いきなり、どうしたんだ。鬼山。別に悩んでいることなんてないぜ」

 アルバートは、悩みがないと言ったけれど、僕は知っている。彼は、母親を失い、父親の暴力を受けていることを。そして、力を求めて、半獣になりたがっていることも。あの日、タイムベルで何度も彼の胸の内を知ってしまった。

「アルバートは何でも一人で抱え込んでしまうところがあるから、一人で悩んでいることがあれば、相談してくれていいんだよ」

「鬼山......お前、いい奴だな。お前が親友でよかったよ。でも、悩みなんて本当にないんだ。気にかけてくれて、ありがとな」

「うん、ならいいんだけれど......」

 嘘だ。アルバートは、相変わらず、一人で抱えこもうとしている。

 結局、アルバートは、家庭の話はしてくれなかった。気な様子を見せているが、内面は、かなり苦しんでいる。その苦しみを、親友として何かできたらいいのだけれど。

  半獣たちには、話していたのに、どうして僕には、正直に話してくれないのだろうか。僕は彼の言葉を聞いて、寂しさが心に染みた。

「そういう鬼山は、何か悩んでいることないのかよ。最近、様子がおかしい気がするんだよな」

 アルバートは、僕の方を見て言った。

「僕は......」

 半獣になりつつあることを伝えるべきか迷った。伝えれば、どうなってしまうのだろう。全く想像が、できない。友に自分の悩みを相談できないでいるのは、彼だけでなかった。僕もまた、同じだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...