アンジュバール~異世界スカッドはアイドル始めました~

和泉鷹央

文字の大きさ
4 / 44
第一章

第3話 バトル! 

しおりを挟む
 床上にある背の小さなテーブル、壁際の本棚、いたるところに絵がたくさんかかれた本が置かれてある。これはマンガだ。娯楽の本。とてもはやっている。にんきがあると学んでいた。

 食べかけのお菓子、同居している誰か(たぶん、アニーが転移した少女・沙也加)が飲みさしのまま蓋をされたペットボル、異世界オルスにいたころに学んだ「日本」という名の国の文化がこの小さな部屋にはたくさんころがっている。
 ひとつひとつを手に取って異文化に触れてみたい衝動に駆られて、スナック菓子を口にしてみる。

 天眼でみると毒などの効果はでなかった。
 一枚、また一枚とひらたいスナック菓子が口に運ばれていく。しょっぱいけどそこまで深くはない、薄しお味。

 寝ていた期間に足りていなかった成分が、どんどんと肉体に吸収されていく。それでもまだまだ足りなかった。
 台所を物色した際、冷蔵庫にいくつかの食材を見かけたから、調理すれば食べれるな、とぼんやりとした頭で考えていたら、いつの間にか窓の外は薄暗くなっていた。

 冬。寒い時期なんだ。
 着ているのは裏起毛のふわふわとした長袖と短パン形式の寝間着だけ。
 暖房器具を使うというところまで頭が回らないまま、暖をもとめて玲は布団にもぐりこみ、毛布にくるまる。
 温かい。

「会いたいよ、アニー……アニー。どうしてひとりにしたの、なにがあったの」

 さみしさのあまり、友の名を口にする。それだけではない、任務を遂行するというスカッドの理念すらも達成できない可能性だって思い浮かぶ。

 スカッドの面々は誇り高い戦士だ。戦士であるアニーがもしも……任務達成できずに無念の最後をむかえたなんて想像するだけで、おそろしくなってしまう。
 そのときだった。

「そうだ――天眼!」

 玲は思いついたのだ。
 天眼のセンサーが感知できる範囲は、地球の単位に換算したら、半径五百メートルほど。

 そこまで最大観測範囲を広げたら、もしかしたら――アニーを見つけられるかもしれない。もしくはその足跡でもいい。そうだ、やるべきだ。
 早くアニーと合流して、任務に復帰して――。
 と、ここまで考えたらあとさきを気にするひまはなかった。
 玲は意識下で操作して、天眼の観測範囲を最大限まで解放する。

 このとき、思ってもみなかったのだ。
 じぶんたちが狩る対象である敵。
 特殊スカッドの天敵であるエヴォル(「精神憑依型大量殺戮兵器(Spirit-possessed weapon of mass destruction):スピリットウェポン、エヴォル(進化者の意味)」の略称)の反応を感知してしまうなんて。

 視界のなかに広がった地球世界。日本の東京という街並みの地図の一角。
 そこには赤い光点が点滅しながら移動していたのだった。

「エヴォルが……いる。いかなきゃ」

 誰かがかなしむことになる。悲惨な結末がまっている。
 過去にオルスで引き起こされた対エヴォル戦闘の記憶が玲の脳裏を埋めていく。

「アストレヴァ・エクラ!(星よ、目覚めよ、輝きを放て!)」

 玲は力強く、合言葉を叫んだ。
 それはAstreballe!(アストレバル)と呼称される装甲を身にまとうためだ。
 アストレバルは普段、目に見えない形で玲のまわりに浮かんでいる。
 粒子化したアストレバルを物体化して、変身する必要があった。
 合言葉を発すると星のまたたきのように眩しい輝きに包まれて、玲たちスカッドは特殊な装甲を装着できる――はずだった。

「あ、あれ……?」

 輝きどころか、瞬きすらも起きない。光の渦に包まれるはずが、部屋のなかには闇がしずかにちかづいてくるだけだ。

「嘘ッ……! アストレヴァ・エクラ、アストレヴァ・エクラ!」

 二度、三度と叫んだが装甲は起動しない。

「そんなぁ……ええいもうっ」

 玲は寝間着のまま、ベランダの窓を開け、そとへと飛び出した。
 アストレバルがない状態でも、どうにか重力を操作して浮遊することは可能のようだ。
 天眼のしめすエヴォルの反応はどんどんと大きくなっていく。
 光点が小さいほどエヴォルの強さは比例して弱くなり、大きいほど脅威へと進化する。迷っている時間はなかった。

 都会で月の入りを見れることはほとんどない。
 ビル群が覆い尽くした空には、星がまたたくことも数少ない。
 人工の光が群れなす大都市の夜空を、玲はふわふわとシャボン玉が浮遊するように浮かんでいた。

「もうっ、なんでこんなときにまともに機能しないの?」

 手近にあるビルの階段や、建物の壁をけり反動をつけて空へと駆け上がる。
 住んでいる建物が五階建てだとわかったのはこのときだ。
 勢いがついた玲は、まるでパルクール選手みたいにビルとビルの間を軽やかに移動した。

 大気は冷え切っていて、速度をあげると冷気がむきだしの太ももに襲いかかり、熱を奪っていく。
 地球で空を飛ぶのは鳥か飛行機などや、人工衛星だけだ。
 人間はオルスの民のように空を行き交う術を持たない。
 なんとも不器用なものね、と玲は思いながら人々の目に留まらないように、空を飛んでいく。
 ビル街の谷間を吹き抜ける風にあおられて凍えそうになり、両手で肩を抱いた。
 天眼が示すのは、あと一区画先だ。
 光点は赤。
 エヴォルの成長段階はまだ初期で、人に憑依して発芽するかどうかといったところだ。

 もし、発芽して稼働してしまったら大変なことになる。
 憑依した対象がねむらせている本来の能力をすべて引き出すこの精神憑依兵器は、一度発動すると対象を暴走させ、周囲に破壊をまきちらすからだ。
 もし憑依された人間のなかでエヴォルが発動したら、周囲数百メートルにある家や道路、自然といったものは破壊されてあとかたも残らない。

 遭遇したら死を覚悟する必要がある。
 エヴォルは生命あるものにとって『災厄』なのだ。脅威的な精神兵器。
 それを回収してオルスに送還するのが、玲や沙也加の役割だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...