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第一章
第3話 バトル!
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床上にある背の小さなテーブル、壁際の本棚、いたるところに絵がたくさんかかれた本が置かれてある。これはマンガだ。娯楽の本。とてもはやっている。にんきがあると学んでいた。
食べかけのお菓子、同居している誰か(たぶん、アニーが転移した少女・沙也加)が飲みさしのまま蓋をされたペットボル、異世界オルスにいたころに学んだ「日本」という名の国の文化がこの小さな部屋にはたくさんころがっている。
ひとつひとつを手に取って異文化に触れてみたい衝動に駆られて、スナック菓子を口にしてみる。
天眼でみると毒などの効果はでなかった。
一枚、また一枚とひらたいスナック菓子が口に運ばれていく。しょっぱいけどそこまで深くはない、薄しお味。
寝ていた期間に足りていなかった成分が、どんどんと肉体に吸収されていく。それでもまだまだ足りなかった。
台所を物色した際、冷蔵庫にいくつかの食材を見かけたから、調理すれば食べれるな、とぼんやりとした頭で考えていたら、いつの間にか窓の外は薄暗くなっていた。
冬。寒い時期なんだ。
着ているのは裏起毛のふわふわとした長袖と短パン形式の寝間着だけ。
暖房器具を使うというところまで頭が回らないまま、暖をもとめて玲は布団にもぐりこみ、毛布にくるまる。
温かい。
「会いたいよ、アニー……アニー。どうしてひとりにしたの、なにがあったの」
さみしさのあまり、友の名を口にする。それだけではない、任務を遂行するというスカッドの理念すらも達成できない可能性だって思い浮かぶ。
スカッドの面々は誇り高い戦士だ。戦士であるアニーがもしも……任務達成できずに無念の最後をむかえたなんて想像するだけで、おそろしくなってしまう。
そのときだった。
「そうだ――天眼!」
玲は思いついたのだ。
天眼のセンサーが感知できる範囲は、地球の単位に換算したら、半径五百メートルほど。
そこまで最大観測範囲を広げたら、もしかしたら――アニーを見つけられるかもしれない。もしくはその足跡でもいい。そうだ、やるべきだ。
早くアニーと合流して、任務に復帰して――。
と、ここまで考えたらあとさきを気にするひまはなかった。
玲は意識下で操作して、天眼の観測範囲を最大限まで解放する。
このとき、思ってもみなかったのだ。
じぶんたちが狩る対象である敵。
特殊スカッドの天敵であるエヴォル(「精神憑依型大量殺戮兵器(Spirit-possessed weapon of mass destruction):スピリットウェポン、エヴォル(進化者の意味)」の略称)の反応を感知してしまうなんて。
視界のなかに広がった地球世界。日本の東京という街並みの地図の一角。
そこには赤い光点が点滅しながら移動していたのだった。
「エヴォルが……いる。いかなきゃ」
誰かがかなしむことになる。悲惨な結末がまっている。
過去にオルスで引き起こされた対エヴォル戦闘の記憶が玲の脳裏を埋めていく。
「アストレヴァ・エクラ!(星よ、目覚めよ、輝きを放て!)」
玲は力強く、合言葉を叫んだ。
それはAstreballe!(アストレバル)と呼称される装甲を身にまとうためだ。
アストレバルは普段、目に見えない形で玲のまわりに浮かんでいる。
粒子化したアストレバルを物体化して、変身する必要があった。
合言葉を発すると星のまたたきのように眩しい輝きに包まれて、玲たちスカッドは特殊な装甲を装着できる――はずだった。
「あ、あれ……?」
輝きどころか、瞬きすらも起きない。光の渦に包まれるはずが、部屋のなかには闇がしずかにちかづいてくるだけだ。
「嘘ッ……! アストレヴァ・エクラ、アストレヴァ・エクラ!」
二度、三度と叫んだが装甲は起動しない。
「そんなぁ……ええいもうっ」
玲は寝間着のまま、ベランダの窓を開け、そとへと飛び出した。
アストレバルがない状態でも、どうにか重力を操作して浮遊することは可能のようだ。
天眼のしめすエヴォルの反応はどんどんと大きくなっていく。
光点が小さいほどエヴォルの強さは比例して弱くなり、大きいほど脅威へと進化する。迷っている時間はなかった。
都会で月の入りを見れることはほとんどない。
ビル群が覆い尽くした空には、星がまたたくことも数少ない。
人工の光が群れなす大都市の夜空を、玲はふわふわとシャボン玉が浮遊するように浮かんでいた。
「もうっ、なんでこんなときにまともに機能しないの?」
手近にあるビルの階段や、建物の壁をけり反動をつけて空へと駆け上がる。
住んでいる建物が五階建てだとわかったのはこのときだ。
勢いがついた玲は、まるでパルクール選手みたいにビルとビルの間を軽やかに移動した。
大気は冷え切っていて、速度をあげると冷気がむきだしの太ももに襲いかかり、熱を奪っていく。
地球で空を飛ぶのは鳥か飛行機などや、人工衛星だけだ。
人間はオルスの民のように空を行き交う術を持たない。
なんとも不器用なものね、と玲は思いながら人々の目に留まらないように、空を飛んでいく。
ビル街の谷間を吹き抜ける風にあおられて凍えそうになり、両手で肩を抱いた。
天眼が示すのは、あと一区画先だ。
光点は赤。
エヴォルの成長段階はまだ初期で、人に憑依して発芽するかどうかといったところだ。
もし、発芽して稼働してしまったら大変なことになる。
憑依した対象がねむらせている本来の能力をすべて引き出すこの精神憑依兵器は、一度発動すると対象を暴走させ、周囲に破壊をまきちらすからだ。
もし憑依された人間のなかでエヴォルが発動したら、周囲数百メートルにある家や道路、自然といったものは破壊されてあとかたも残らない。
遭遇したら死を覚悟する必要がある。
エヴォルは生命あるものにとって『災厄』なのだ。脅威的な精神兵器。
それを回収してオルスに送還するのが、玲や沙也加の役割だ。
食べかけのお菓子、同居している誰か(たぶん、アニーが転移した少女・沙也加)が飲みさしのまま蓋をされたペットボル、異世界オルスにいたころに学んだ「日本」という名の国の文化がこの小さな部屋にはたくさんころがっている。
ひとつひとつを手に取って異文化に触れてみたい衝動に駆られて、スナック菓子を口にしてみる。
天眼でみると毒などの効果はでなかった。
一枚、また一枚とひらたいスナック菓子が口に運ばれていく。しょっぱいけどそこまで深くはない、薄しお味。
寝ていた期間に足りていなかった成分が、どんどんと肉体に吸収されていく。それでもまだまだ足りなかった。
台所を物色した際、冷蔵庫にいくつかの食材を見かけたから、調理すれば食べれるな、とぼんやりとした頭で考えていたら、いつの間にか窓の外は薄暗くなっていた。
冬。寒い時期なんだ。
着ているのは裏起毛のふわふわとした長袖と短パン形式の寝間着だけ。
暖房器具を使うというところまで頭が回らないまま、暖をもとめて玲は布団にもぐりこみ、毛布にくるまる。
温かい。
「会いたいよ、アニー……アニー。どうしてひとりにしたの、なにがあったの」
さみしさのあまり、友の名を口にする。それだけではない、任務を遂行するというスカッドの理念すらも達成できない可能性だって思い浮かぶ。
スカッドの面々は誇り高い戦士だ。戦士であるアニーがもしも……任務達成できずに無念の最後をむかえたなんて想像するだけで、おそろしくなってしまう。
そのときだった。
「そうだ――天眼!」
玲は思いついたのだ。
天眼のセンサーが感知できる範囲は、地球の単位に換算したら、半径五百メートルほど。
そこまで最大観測範囲を広げたら、もしかしたら――アニーを見つけられるかもしれない。もしくはその足跡でもいい。そうだ、やるべきだ。
早くアニーと合流して、任務に復帰して――。
と、ここまで考えたらあとさきを気にするひまはなかった。
玲は意識下で操作して、天眼の観測範囲を最大限まで解放する。
このとき、思ってもみなかったのだ。
じぶんたちが狩る対象である敵。
特殊スカッドの天敵であるエヴォル(「精神憑依型大量殺戮兵器(Spirit-possessed weapon of mass destruction):スピリットウェポン、エヴォル(進化者の意味)」の略称)の反応を感知してしまうなんて。
視界のなかに広がった地球世界。日本の東京という街並みの地図の一角。
そこには赤い光点が点滅しながら移動していたのだった。
「エヴォルが……いる。いかなきゃ」
誰かがかなしむことになる。悲惨な結末がまっている。
過去にオルスで引き起こされた対エヴォル戦闘の記憶が玲の脳裏を埋めていく。
「アストレヴァ・エクラ!(星よ、目覚めよ、輝きを放て!)」
玲は力強く、合言葉を叫んだ。
それはAstreballe!(アストレバル)と呼称される装甲を身にまとうためだ。
アストレバルは普段、目に見えない形で玲のまわりに浮かんでいる。
粒子化したアストレバルを物体化して、変身する必要があった。
合言葉を発すると星のまたたきのように眩しい輝きに包まれて、玲たちスカッドは特殊な装甲を装着できる――はずだった。
「あ、あれ……?」
輝きどころか、瞬きすらも起きない。光の渦に包まれるはずが、部屋のなかには闇がしずかにちかづいてくるだけだ。
「嘘ッ……! アストレヴァ・エクラ、アストレヴァ・エクラ!」
二度、三度と叫んだが装甲は起動しない。
「そんなぁ……ええいもうっ」
玲は寝間着のまま、ベランダの窓を開け、そとへと飛び出した。
アストレバルがない状態でも、どうにか重力を操作して浮遊することは可能のようだ。
天眼のしめすエヴォルの反応はどんどんと大きくなっていく。
光点が小さいほどエヴォルの強さは比例して弱くなり、大きいほど脅威へと進化する。迷っている時間はなかった。
都会で月の入りを見れることはほとんどない。
ビル群が覆い尽くした空には、星がまたたくことも数少ない。
人工の光が群れなす大都市の夜空を、玲はふわふわとシャボン玉が浮遊するように浮かんでいた。
「もうっ、なんでこんなときにまともに機能しないの?」
手近にあるビルの階段や、建物の壁をけり反動をつけて空へと駆け上がる。
住んでいる建物が五階建てだとわかったのはこのときだ。
勢いがついた玲は、まるでパルクール選手みたいにビルとビルの間を軽やかに移動した。
大気は冷え切っていて、速度をあげると冷気がむきだしの太ももに襲いかかり、熱を奪っていく。
地球で空を飛ぶのは鳥か飛行機などや、人工衛星だけだ。
人間はオルスの民のように空を行き交う術を持たない。
なんとも不器用なものね、と玲は思いながら人々の目に留まらないように、空を飛んでいく。
ビル街の谷間を吹き抜ける風にあおられて凍えそうになり、両手で肩を抱いた。
天眼が示すのは、あと一区画先だ。
光点は赤。
エヴォルの成長段階はまだ初期で、人に憑依して発芽するかどうかといったところだ。
もし、発芽して稼働してしまったら大変なことになる。
憑依した対象がねむらせている本来の能力をすべて引き出すこの精神憑依兵器は、一度発動すると対象を暴走させ、周囲に破壊をまきちらすからだ。
もし憑依された人間のなかでエヴォルが発動したら、周囲数百メートルにある家や道路、自然といったものは破壊されてあとかたも残らない。
遭遇したら死を覚悟する必要がある。
エヴォルは生命あるものにとって『災厄』なのだ。脅威的な精神兵器。
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