アンジュバール~異世界スカッドはアイドル始めました~

和泉鷹央

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第一章

第10話 不思議なコメント

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 PCの画面から放たれる光以外に、光源を持たない部屋のなかは薄暗く、一部の区画だけがぼんやりと明るい。
 画面をのぞきこむのは、まだ幼い十二~三歳の少女だ。

 彼女は車椅子に座って、パソコンを操作していた。
 いくつかの画面をクリックし、たどりついた先にあるのは動画配信サービス、T―TYUBEの一ページだ。

『アンジュバール通信』と題された番組タイトルの下には、最新のものから数ヶ月前のものまで数十の動画タイトルが並んでいる。
 一番新しい動画は『眠り姫・玲。目覚める!』といかにも話題を煽りそうなタイトルだった。

「は? 眠り姫?」

 少女はお菓子のポッキーを頬張りながら、小首をかしげた。

「どういうこと? 玲ちゃんが復帰した――?」

 呟き、真相を確認するために、動画をクリック。
 パジャマ姿の沙也加と玲が映り込む。
 二人とも、お揃いのパジャマだが胸元やお尻の裾がみじかく、視聴者層を狙った衣装であることは明白だった。

「色物アイドル……!」

 憎々し気にまたぼそりと呟いた少女は、動画をマウスで進めていく。
 数分して、過去の楽曲に合わせて玲と沙也加が即興でライブをする、という内容に変化していった。

「おかしいでしょ。そんなに下手なのに、アイドルできるの? 笑い種だわ」
 玲のダンスがなんだかおかしい。そう気づいたのか、アンジュバール二人の踊りに賞賛を贈るコメントが多いなか、異質のコメントを残した。

「なによ、この下手なダンス! あたしならもっと可愛しい、歌だってうまい、踊りだって踊れるのに! どうして戻ってきたのよ……愛川玲! 最悪」

 少女は玲に個人的なうらみのようなものがあるらしい。
 怨念を絞り出すかのように怒声を上げると、手にしていたエナジードリンクの缶を握りつぶしてしまった。



 深夜遅くまで起きていたせいか、頭がぼんやりとする。
 全身のオートリテ数値を天眼で観測すると、通常時の半分ほどは回復しているという事だった。

 玲はそれを見て安堵の息をつく。
 もし、次もまたエヴォルと対戦するときには、前のような不覚を取らないで済むからだ。

 駆けつけてきたのが、敵側ではなく沙也加で良かった、と玲は今更ながらに胸をなでおろした。
 あれから久しぶりに玲と会話できるということではしゃいだ二人は、与えられている寝室でこれまでと、これからを語り合った。

 明け方まで起きていた二人だが、沙也加が「あ、いっけない。バイトあるんだ、ごめん、玲」と言って駆けだして行ったので、玲はひとりぼっちだ。
「アルバイト?」
「そう! いずれ玲にもしてもらうからね! なんたってアンジュバールは絶賛、お仕事募集中なんだから!」

 と、沙也加が元気よくいい玲はそれなら芸能活動で稼いだほうが早いのではいか、と答えると「そんなに売れてないから!」と、悲しそうに叫んでいた。
 どこの世界でも下積みというのは大事らしい。
 スカッドの制式メンバーになるまで、数年の研修があった。

 アイドル活動を本格化させるまでには生活費を稼ぐために、アルバイトをしなくてはないらい、だからボクは稼ぎに行くんだ! と沙也加は大まじめに言って出て行った。

 部屋に残された玲は布団から出ると寒いし、暖房代もかかるということで、布団から顔だけだして沙也加が置いていったスマホを取り出す。
 このスマホは目覚める前の前の愛川玲が契約していたそうで、指先の生体認証でロックが解除できると沙也加が教えてくれた。

 Wifieの概念を学んだ玲がまず最初にやろうとしたことは「なら勉強しますか」ということで、アンジュバール通信やT-TUBEで流れているアンジュバール関連のニュース動画やSNSサイトを訪問してまわることだった。

「便利ねー。スマホ一台あればなんでもわかりそう」

 経済ニュースなどを配信しているテレビのサイトを確認していると、アメリカ大統領選挙がどうだの、日本の円安が進行しそうだ、などの文言が飛び交っている。
 芸能ニュースを見ると良いよ、と沙也加が教えてくれたので、検索欄に自分やアンジュバールの名前を打ち込み、検索してみる。
 結果はそこそこ。熱心なファンがずっと更新してくれているブログサイトもいくつか見つけた。

『アンジュバール、メンバー負傷』
『アンジュバールの愛川玲が負傷! 当面は活動休止か?』
『一時的な活動休止? アンジュバール解散の危機?』
『都内ダンススタジオに流星が飛来。負傷者は一名、意識不明の重体か? 愛川玲さん』

 などなど、過去のニュース記事を探ってみたり、『愛川玲』の名前で検索するだけで、この二週間の間に何かあったのかが手に取るようにわかる。

「ニュースって便利ね。このスマホが便利なのかしら」

 オルスにもインターネットのようなものがあった。あちらはオートリテを利用したもので、インターネットのような情報だけでなく、物体転移まで行えていたことを考えると、地球よりも発達しているのだろう。

 かといって便利かといえばそうではなく、エヴォルを利用して犯罪を企んだり国家間の争いに利用する国が多かったため、情報統制という形が敷かれていた。
 そのため、玲は日本のSNSなどで政府に対する批判などを平然とおこなえるのが、とても驚きだった。
 オルスだったら下手をしたら犯罪者にされてしまう。

「ま、そんな暗い内容はさておき……。沙也加、昼までには戻るっていってたけど、昼って何時?」

 スマホに口を当て、音声入力で質問してみる。
 すると、正午。午後12時前後、という返事がもどってきた。

「丁寧なのね、ありがとうございます」と礼を言うと、「いいえ、お気になさらずに」とスマホのAIがより丁寧に接してくれる。これはプログラムだから、と割り切りたいが、異文化交流はこれでは終わらなかった。

「待っている間、暇だし」

 外も明るくなってきて、窓から朝陽が降り注ぐ。
 こうなると本来、活動的な玲は寝ているよりは動いているほうが得意だ。
 何をしよう? そうだ、踊りだ。

 昨夜の配信ではぶざまな踊りしか見せれなかった。
 あれではファンだって失望したに違いないわ、もっと頑張って踊りも唄も上達して、メンバーを再び、再結集しなくてはならない。

 沙也加は言っていた。メンバーは誰もがこの配信を見ている、と。それはつまり、玲が復活したことを、仲間たちが把握している可能性が高い、ということだ。

「よっし! やりますか! で、どこからだっけ?」

 楽曲はまだあまりないアンジュバール。数えても十曲に満たない。『純愛小町』『アイスたべたい』『絶叫ムリゲー』「サバンナガール」『閃光(シャイン)』などなど、ポップなものからハードテイストなもの、メロディアスな歌詞で聞かせる楽曲などジャンルは幅広く取り揃えている。

 なかには玲がギターを引き、沙也加がマイク片手にラップしているPVなんかもあって、「え、楽器やるの? 聞いてないよー!」と叫んだ一幕も。

「とりあえず、昨夜のが一番いいかな……?」

 スマホを操作して昨夜披露した『恋と神秘のリブレット!』のPVを選び出す。
 こちらに映っている自分は、黄色のワンピースドレスのスカート裾をやはり短くしたもので、沙也加と二人で激しくアクロバティックなダンスを披露していた。

「……ああ、やめて、そんな……やだ、だめだよ、玲、だめ……ああっ!」

 とスカートの下はスカパンになっているが、この文化に馴染みにない玲からしてみれば羞恥以外の何物でもない。

「へ? だって仕事じゃない。気にしたら負けだって」

 と沙也加はアドバイスをくれたが、玲はそんな簡単に割り切れない。

「ああ……もう悶え死にそう」

 ううう、と過去の自分でない自分のある意味、度胸に恐れ入って玲は頑張りますか、ととぼとぼと立ち上がる。
 スマホをリビングのテーブルに立てかけつつ、五人組で踊っているバージョン、ソロバージョンと運よく自分の担当するダンスを見つけることができた玲は、一時間ほどぶっ通しで踊ってみた。

 息が切れてしまう。
 室内はだんだんと暖かくなっていくが、まだ暖房が入っているほどではない。玲の吐く息は白く、室内に色を添えていく。
 そんな中、ひとやすみも兼ねて玲は昨夜の配信へと手を伸ばした。
 コメント欄にあるさまざまな書き込みが、顔は見えないけれどファンと確かに通じ合っていると感じることができて、暖かいものを感じてしまう。

「あれ……? なに、これ」

 コメントを上から下に指先でくっていると、その書き込みがあった。

『玲ちゃん、なんか話し方が前と違う。別人みたい。そんなに歌と踊り上手くないのに、調子乗ってる?』

 明らかに他の応援コメントとは一線を画した内容。
 なんだ、これ。玲の眉根がぐぐっと寄せられる。
 沙也加に聞いた、アンチというやつだろうか? でもそれにしてはいやに自分の過去を知っているようなコメントに、親近感もわかないではない。
 いや、それよりもこれは寒気を覚える内容だ。

「なんか話し方が前と違う……? もしかして、中身が変わったことが――バレた?」

 ヤバい、と感じて即座にスマホの画面を閉じた。なんだかあちらから監視されているような気がしたからだ。
 玲は沙也加が戻ってきても、このコメントについて言えないでいた。


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