アンジュバール~異世界スカッドはアイドル始めました~

和泉鷹央

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第三章

第23話 次元の狭間と呪われた友達

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 店を出た二人は、駅へときた道を戻る。
 沙也加はあそこも美味しい、こっちは量が多くていい、と自分がいろいろな場所を食べ歩きしていたこと話して、玲を呆れさせた。
 駅は地下鉄とJR線、その他の線が集まる大型駅で、駅舎の前にはバスやタクシーが停車するロータリーが用意されている。

「あの駅舎のなかにカレーの美味しい店があるの」
「二週間でどれだけ出費したの? もう信じられない人」
「ごめんよお、玲が目覚めないと思うだけでストレスで……食べないわけには」
「そのせいで、お腹周りがだらしなくなったのね?」
「ど、どこ見てるのさ! 玲のエッチ!」

 先行く沙也加の背を追いながら玲はまだ食べようとする彼女の胃袋を心配する。
 そのときだった。
 ドンっという破壊音が周囲に響いたのは。
 駅舎の一階が内側から爆発し、ロータリーに停めてあったタクシーが宙を舞って近隣のビルに突っ込んだ。

 爆風が数十メートル離れた二人の元まで押し寄せてきた。
 とっさに伏せて周囲を窺うが、周りにいたひとびとは風圧におされて散り散りになってしまっていた。
 倒れこむ人、泣き出す子供とそれを抱きしめる主婦、勇敢にも立ちあがろうとするサラリーマン風の男性、制服をきた少女たちはみんな地に伏せたままだ。

「なんだ」
「なに、どうしたの」
「いってえ……どうなったの」
「耳が痛いよお、おかあさーん。えーん」
「なかないで、早く立って、ほら、逃げるのよ」

 爆発と炎上、発生した爆風と音による被害がもたらした結果は最悪だ。
 ロータリー周囲のビルのガラス窓というガラス窓は飛散し、道路に降り注いでいる。
 午後もすこし過ぎていたこともあり、人通りが少ないことが幸いだった。
 カラカラと転がってきて倒れた看板を見て、玲は惨状のひどさに言葉を失った。

「玲!」
「大丈夫……沙也加、これって」
「そうね……エヴォルが覚醒したんだわ」

 駅舎方向を見つめる二人の天眼には、これまでにないくらい赤く染まった光点が激しく点滅していた。

『アストレヴァ・エクラ!(星よ、目覚めよ、輝きを放て!)』

 人々の注意が駅舎に注がれているなか、二人は詠唱を完了する。
 すると『次元の狭間(ワールドポケット)』が出現し、玲と沙也加を内包して半径五百メートルまで空間を展開した。周囲に合った光景がモノクロ状態に転換され、まるで鏡面世界のように現実そっくりの光景がコピーされていく。

 ふたりは身体の周囲に粒子として存在する特殊装甲Astreballe!(アストレバル)を顕現させ純白の装甲姿になる。
 上下にまとうのは軍服をイメージさせる長袖のジャケットに、裾の短いショーパン。太もも部分は露になって銀色のレザーブーツを履いたようなイメージだ。膝にはガードがついていて、足首やかかと部分も同じ素材のガードで守られていた。
 ジャケット、その他の各所に彩色が施されていて、玲は黄色、沙也加は緑色だ。

 頭部には額から頬までをほっそりとした銀色の髪飾り――王冠のようなもので覆われていて、玲のはちみつ色の髪色と、沙也加の真っ黒な髪色にとてもよくあっていた。

「いくよ、玲」
「うん、沙也加!」

 空中に舞い上がった二人は、防御結界を作動させながら爆発した駅舎の一階部分に突入する。
 粉塵がもうもうと舞い上がるなかから現れたのは、体長三メートルにもなろうかという巨大な人型のなにかだった。
 これまでの幼生期のエヴォルと異なり、額に生えた三本の角は真っ青に染まっている。

 赤から青、青から緑、緑から黄色、黄色から白へと段階を追うにつれてエヴォルの能力は増してゆき、白銀へと変わってしまったら最終形態へと成長するのだ。
 特殊スカッド隊員がひとりで対処しきれるのは、万全なバックアップと装備を揃えた上で黄色まで。
 それ以上に成長してしまったエヴォルは、二人から三人がかりで対処しなくてはならなかった。
 しかし、玲と沙也加は特殊スカッドのなかでも特別に選ばれた精鋭メンバーだ。

 全力が出せるなら白銀のエヴォルと対峙しても、封印してアマノダイトを回収することだって可能だ。
 だが、いまは転移してきてまだ間がなく、沙也加も玲も万全な状態ではない。

「せめて、あとひとり……」

 と沙也加が悔やむようにいうのを聞いて、玲は相棒よりも無力な自分を呪った。

『いやああああああっ――!』

 接近戦で距離を詰め、左右同時にエヴォルの厚い胸板めがけて飛び蹴りをくらわす。
 オートリテを充満した凄まじい威力の蹴りをうけ、後に吹き飛んだエヴォルは、回転しながら駅舎の壁をぶちぬき、間にあった柱を数本折ってから動きを止めた。
 人間と同じく左胸にアマノダイトの核があるので、そこを二人の同時攻撃で狙ったのだが――。

「だめか」

 沙也加がつぶやく。
 両手で二人の攻撃を防御したエヴォルは、耳まで裂けた口元でにやりと不気味な笑みをこぼす。

「沙也加、フォーメーション!」
「分かった!」

 玲が叫んで空中を駆けた。
 両手でオートリテを変形させた巨大なエネルギーの槍を掲げ、突撃する。

「万能の盾 bouclier universel(ブークリエ ユニヴェルセル)!」

 沙也加が彼女にだけ与えられている特殊武器、『万能の盾(ブークリエ ユニヴェルセル)』を発動させた。
 盾は玲の前部に具現化し、全身を包み込む。
 同時にエヴォルにもその影響が及び、鞭のようにしなった万能の盾はエヴォルをがんじがらめにして拘束した。

「貫けええっ!」

 玲とともに数十の光が疾り、拘束されたエヴォルの左胸を正確に突き刺してアマノダイトを貫いた。
 カキンっ、と氷にひび割れたがはいったときのような乾いた音がして、核を失ったエヴォルは途端、全身が鉱物のようになってしまう。
 突撃した玲が、その手にアマノダイトを握ったとき――。

 パキンっ、と破裂音がした。
 パキパキパキと軽い音が続いてエヴォルの全身にひびが入り、最後はギャアァァ、と断末魔の悲鳴をあげて崩れ落ちる。
 あとに残ったのは真紅の破片のみだった。

「玲!」
「沙也加、おかしいわ。ここに人がいるはずなのに、姿が見えない……」

 後方支援していた沙也加が駆けつけてくる。玲と二人で破片の残骸を調べたが、エヴォルの宿主となった被害者の姿はなかった。

「どういうこと?」
「……オルスでたまにいた、岩石や鉱物、人工物に憑依して覚醒するタイプのやつだったのかもしれない。でも、ここじゃなにもわからないや。オルスと連絡とれないし」
「そうね、いまはこれを回収――ちょっと待って!」

 玲はアマノダイトを異空間に隔離して回収しながら、叫び声を上げた。

「え、なに?」
「連絡が取れないって――どういうこと!?」
「え、ボク話してなかったっけ?」
「一時的に回線が不調なだけだけですぐ復活するって言ってたじゃない?」
「うーん、ボクもそう思っていたんだけど」

 天眼で『次元の狭間(ワールドポケット)』内に他にエヴォルがいないかを精査してから、沙也加は困り顔になる。

「まだ――回線は復活してないのね」
「そうなんだ。ボク、玲に黙ってる気はなかったんだけど……目覚めたばかりで心配させたくなかったから」
「そう……ごめんなさい。私も試してみるべきだった」
「もうここにはなにもないみたいだし……戻ろうか、玲」

 そうね、と言いかけて玲はなにかにつまづき、よろめいた。
 足元を見ると、駅舎の建材の下から人の足のようなものが覗いており、それにつまずいた。

「沙也加、人がいる!」
「えええ? ここ、『次元の狭間(ワールドポケット)』のなかだよ? ボクらとエヴォル以外に入れるはずが――」

 建材を掘り起こし、出てきた人は制服に身を包んだ女子高校生だった。
 玲がオートリテを使い回復させると、少女は「ううんっ」と声を漏らす。
 沙也加が『次元の狭間(ワールドポケット)』の機能の一つ、復元と浄化を行い、傷だらけ、灰だらけだった少女の外見はここに入り込む前の状態に戻っていた。

「あ、あれ!? 仁菜じゃん!」
「え、誰? 知り合い?」
「うん、ボクの友達だよ、、祭田仁菜。沙也加の、っていったほうが正しいかな」
「だったら、意識を取り戻す前にここ出ないと――!」

 玲は仁菜をお姫様抱っこして駅舎の外へと走り出す。
 崩れた駅舎とは反対側の人通りがすくない出口付近にたどり着いた二人は、『次元の狭間(ワールドポケット)』を解除して普段着に戻った。
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