アンジュバール~異世界スカッドはアイドル始めました~

和泉鷹央

文字の大きさ
28 / 44
第三章

第27話 流星の余波と新たな一歩

しおりを挟む
 二曲目の疲労がおわったところで、沙也加が「さて、それでは本日のお題!」と叫び画面を操作する。
 すると『これからどうする、アンジュバール!?』というテロップが画面に浮き出て、わーと喝采のBGMが鳴った。

「玲が本調子になった今回ですが!」
「ですが?」
「アンジュバールは実は五人組なんです! だよね、玲?」
「そ、そうね。でも今は二人……」

 私のせいでそうなったんだ、と玲は悔やむように下を俯いてしまう。
 沙也加が上見て、と小さく小声でいい、玲はカメラ目線にもどる。

「なぜ二人かというと、一部の報道などでニュースになったように、ちょっとした事故があったんだよね。玲、どんな事故だった?」
「え、その――流星に撃たれた……?」
「そう、撃墜されてしまったんだよ、特に玲が! 他のメンバーは違う場所にいて無事でした? ボク? ボクは一緒にダンススタジオでレッスンを受けていたの」
「どうも御心配おかけしました」

 玲と沙也加が同時に頭を下げる。
 コメント欄には『心配だったよ、玲ちゃん』『沙也加は無事だったのか。強運!』『それで一時的に活動休止に!?』などの書き込み入る。

 沙也加は主だったものを読み上げて、「一時休止はまた別―」となげやりな返事をする。玲はどうしゃべっていいかわからず、「あ、ありがとう」「うん、これからも頑張ります」「あ、怪我の後遺症と課はないです」「沙也加は本当に運だけはいいの、昔から」などと返事をした。

「運だけいいってどういうこと、玲! ボクは実力で生きていく女なんだよ! とまあ、それはさておいて。活動一時休止っていうのは、玲の事故もそうなんだけど、メンバーの個人的な問題もあって、ちょっとだけお休みなの。でも再開はする予定―」
「そこ、なんで棒読みなの?」
「だって事務所がまだはっきりコメント出さないから」
「あ、そうか」
「そうなの。大人のじじょーがいくつもあって、当面のところはボクと玲がこのチャンネルを運営していきます。ライブとかも再開するよ、でも見捨てないでね?」

 お願いします、と沙也加が両手をあわせる。
 玲は演技が上手だなーと感心しながら、「おねがいします」とフォローする。

「まあ、そんな感じで玲は流星に撃墜されたアイドルだから! カッコいいでしょ?」
「そうかな……? 撃墜したアイドルのほうが、いいような」
「でも撃墜されたほうだから、仕方ないね」
「確かに。だけどこんなに元気になったから、みんな、心配しないで!」
「じゃあ、最後に一曲!」

 ライブでも締めに謳われるバラードを歌い上げ、推したちからたくさんのギフトと応援のコメントをもらって、この夜の放送は幕を閉じた。
 放送終了後、玲は全身の力が抜けソファーに座り込んでしまう。

「うしし、やったぜ! 今夜だけで家賃一年分は稼いだ! 大金ゲットだぜ!」
「なにいってるのよ、税金の支払いがあるでしょ?」
「そうだった――。日本って税金高いから……でも、家賃半年分は確実にあるよ、玲」

 それはいいけど、と玲は唇を尖らせる。

「本当に気をつけてよ、沙也加! 着替えの盗撮なんてアイドルにとっては爆弾を抱えるようなものなんだから」
「ごめん、ごめん。つい推し魂がさく裂しちゃって。ボク、玲が最推しだから! 美しい玲の姿を見ると無性にカメラを向けたくなるんだ」
「へえ、……そう。なら、今度は沙也加の入浴シーンとか、寝ぼけているところ隠し撮りしてあげる」
「い、いや待って! ボクのはだめ、朝が弱いから許して、玲!」

 合掌して沙也加はお願いします、と懇願する。
 このお願いにいつも苦労してきたのよね、オルスでも。と玲は過去を思い出しながら、「どうしようかなー。そういえば二人で活動再開はいいんだけど、どこでライブとかやるの?」と、ふと湧いてきた疑問を口にした。

「ライブもいいけど、そのまえに事務所探しかな……」
「みんな、もどってこないってこと? 五人ではもう再結成できないの?」
「連絡がつかないからなんともいえないところなんだよね。SNSアカウントとかチャットグループはまだ生きてるから、見てはいるんだと思う」

 沙也加はそういって、グループチャットの画面を玲に差し出してきた。
『玲が戻ったよ。みんなも戻ってきて』という沙也加の書き込みに、既読が五件ついていた。残りのメンバーと自分、そしてマネージャーの沢田が読んだものだろうと、玲は思った。

「五人揃わないといまの事務所で契約を継続するのは難しいのよね」
「そうだね。だからどこかに移籍って形になるかな。でも、みんなの意見も聞かないと勝手にできないよ」
「困ったわね。でも、どうしてみんな、戻ってこないんだろう。やっぱり私のせい?」
「……。玲とエリカの記憶の共有がちぐはぐなことに、気づいているのかもしれない。それで警戒しているのかも?」

 玲はしゅんとうなだれてしまった。自分がアンジュバールの、エヴォル回収の足かせとなっていることが申し訳なく感じてしまったからだ。

「ごめんね、沙也加。私がきちんとしてないから――」
「玲が謝ることないよ。全部、あの襲撃のせいなんだとボクは思ってる。オルスと連絡がとれないのはみんな同じだから、余計に警戒しているのかも」
「先は長いわね……」

 暗くなってきた雰囲気を吹き飛ばすように、沙也加はアコギをじゃじゃーん、弾いた。
 アコギをスマホに持ち替えた沙也加は、画面を操作して玲にみせてくれる。
 それはヴィクトリアチャームの求人広告だった。

「そんなことよりさ、玲。うちのアルバイトの面接を受けてよ! 枠が空いているんだ。責任者の緑川さんが、明日の午前中なら面談できるっていってるの!」
「短いスカートの次はひらひらのお洋服かあ。はあ……まるで着せ替え人形みたい」
「似合うからいいの! じゃ、決定だね。連絡してくる!」

 リビングを抜け、部屋に入って通話する沙也加を尻目に、玲はこんなにお金があるんだから、働かなくても……、とギフトの金額を再度見て、ため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...