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第四章
第38話 現地の協力員誕生
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「聞いてくれ、玲ちゃん! 俺は見たんだ。いや、ほとんど見ていた。おい、沙也加! お前が変身? する瞬間だってきちんと目にしたぞ!」
「ふぇ? 気づいてたの? 神大さん、抜け目ないなー」
「さっき呼び捨てにしただろ、お前! 後で話があるからな! って違う――。空を飛んでいたわけわからない奴も、玲ちゃんが光のなかに消えて倒れたのも、沙也加が見たことない姿になって玲ちゃんを落ちてくる流星から守っていたことも――」
「そこまで見ていたの? 助けるんじゃなかったな。ボク、玲と仁菜だけにしとけばよかった」
沙也加は泥で汚れている仁菜を広間のベンチに横たえると、さっと手を払った。すると、仁菜の全身が綺麗な状態に洗浄されたように変化する。
「おっ、おお!? なんだ、魔法みたいだな?」
「オートリテを使ったんだ」
「おー……なんだ?」
「オートリテ。異世界の能力」
「い、異世界っ! 本当にあるのか……?」
「沙也加、なに言い出すの!?」
いきなり真実の一端を暴露した沙也加を責めるように、玲は叫んだ。
だが、黙っていてと指先で唇を押されて黙ってしまう。
「玲、大丈夫。ここはボクに任せて」
「沙也加……」
俊太郎の手から玲を取り返した沙也加は、指先を彼に向けて宣言した。
「いまからこの能力を使って神大さん、あなたの記憶を操作します。逃げたら殺す」
「なっ――! 記憶を操作ってそんな非合法なことが許されるはずが――」
「ボクたちは異世界人だから、この世界の法律は関係ない」
「んなバカなこと――玲ちゃん!」
助けを求めた玲はさっと視線を逸らした。ごめんなさい、と今度は聞こえる声で謝罪を告げる。もう逃げ場がないと悟った俊太郎は、そばに落ちていたスマホを広い上げ操作した。
「無駄だよ。警察でも軍隊でも呼べばいい。ボクたちの戦いを見ていたなら効果がないってわかったはず――っ!?」
「一億出す!」
「はあ!?」
沙也加の目が点になった。画面を凝視して一、十、百……と数字を読み上げていく。その数が億に達した時、沙也加の両眼が大きく見開かれるのを玲は見てしまった。
俊太郎は自分が口座を保有している銀行アプリを開き、預貯金額を沙也加に見せたのだった。
予想できなかった俊太郎の行動に、沙也加は圧倒されてしまい口をパクパクと開けて唖然としていた。
「億だ。二億でもいい。アンジュバールは活動資金に困ってるんだろ?」
「どっ……どこで聞いたのよ、そんなこと!」
「ディナー前に会っていたろ、祭田圭司に仁菜ちゃん、茜ちゃん。珍しい面子だ。アイドルオタクなら、何かあると思わないほうがおかしい」
「ただの食事会かもしれないじゃないか!」
「活動再開したばかりのアンジュバールとEclipse Rhythm のメンバーにプロデューサーが同席しているのに? 俺のところにまで聞こえてきたぞ、移籍しないかって話……俺は玲ちゃんと沙也加が新しく独立してやるのかって気になったんだ」
「それは――それはない、から……」
「沙也加、打ち明け過ぎだよ!」
「でも、玲! 二億、二億だよ!? このアプリ見てみなよ、この人、数十億も貯金あるんだよ!? ボクたち、解散しなくても……いいんだよ。ボク、玲とはなればなれになるなんて嫌だよ、ボク……」
沙也加はここぞというところで踏ん張りが利かない泣き虫だった。
さっき流したのと同じくらい大粒の涙をぼろぼろと零してしまい、えぐっ、えぐっと声がうわずっている。
「沙也加、私も嫌だよ、でも――スカッドの秘密を晒したままで放置なんてできないでしょ!?」
「だけど、このままじゃ……現実問題、ボクらは薄い氷でできた橋の上を渡っているようなものだよ。いつか必ず壊れてしまう。落ちた先に待っているのは真っ暗な闇だよ。それでもいいの、玲?」
「いいわけないじゃない! これじゃ規律を守れなくなる――それはだめだよ、沙也加」
言い争う二人はいまにも乱闘になりそうだった。
スカッドの規律を重んじる玲と、この異世界・地球で生き抜くために堅実な方法を取るべきだと提案する沙也加。
緊張感漂う二人の合間に割って入ったのは、俊太郎だった。
「俺が現地の協力員になるよ」
「協力員?」
玲がなにを言ってんだろう、この人と不審がる。
沙也加がおうむ返しに問い返した。
俊太郎はふっ、と自慢げに不敵な笑みを作っていた。
「そうだ。協力員。さっきの鉱石――アマノダイトだっけ? あれを巡って戦っているのを見ちゃったからな。俺の命だって危うい……」
「まあ、確かに。敵対組織から狙われる可能性だってあるね。守れるのはボクたちだけかもしれない」
「つまり、私たちの任務に裏でも表でも関わって支援してくれるってこと? そんな提案、マリン・トッド長官が受け入れるはずがないわ」
「だけど、玲。考えてみて? オルスだって秘密を知った人間は消すか、仲間に引き入れるかのどちらだったよ……この場合、どっちが合理的?」
だって! と玲は気合を入れて指先を俊太郎に突きつけた。
「この人が組織の構成員だって可能性はどうやって否定するの? 沙也加!」
「ボクたちがアンジュバールの玲と沙也加になるって計画は、軍の上層部だけが知っていた秘密だよ? それを先取りして地球に潜伏していたとしたら、よほどの凄腕エージェントってことになる。そんな凄腕が、ボクたちとこんな会話をすると……玲は思ってる?」
玲はうーん、と首を傾げて考えこんでしまった。
俊太郎が敵対組織の一員である可能性と、まったくの偶然で異世界を研究し、異世界の電磁波を検知するアプリを製作し、さらにスカッドの隊員が憑依したアンジュバールと数年前から関係性があった――これはどう考えても偶然が重なり過ぎている。
「わかったわ。判別しましょう。『次元の狭間(ワールド・ポケット)!』」
玲はオルスに関係しているものを異次元に転移させる能力を発動する。
もし、俊太郎およびその中にオルスの敵対組織のエージェントが憑依していたら、現実世界から『次元の狭間(ワールド・ポケット)』へと隔離されるからだ。
しかし――転移したのは玲と沙也加。そして、まだエヴォルに憑依された痕跡を残す仁菜の三人だけだった。
「玲、これで白黒はっきりしたね」
「ただの人間では、私たちを仕留めることは困難だもんね。まあ……使用期間、設けてみる?」
「それ、いい考えだと思う! だめなら記憶操作したらいいんだし」
「つまり、必要な資金を出してもらってからってこと? 沙也加って本当に悪人なんだから……」
「ボクの特技、といって欲しいな。褒めらえてもいい案だと思うよ」
「とりあえず戻ろう。これから先のことを決めないとだめだわ」
「そうだね。仁菜をマンションに連れていく必要もあるし」
玲が結界を解くと、いきなり消えた三人がまた出現したことで、驚きに俊太郎は目を白黒させていた。
「どんな科学力を使えば、こんな事象が可能になるんだ……」
「事象じゃなくて、オートリテ。地球人には使えない能力だよ」
「沙也加、是非、研究させてくれ!」
「やだよ、ボクより玲推しなんでしょ? 玲にお願いしたらいいじゃない」
「じゃあ、玲ちゃん――」
「……また、今度、で。それより、今夜はもう解散しませんか? また襲われたら困るし、時間も遅いし――次、詳細を報告しますから」
おずおずと提案した玲の言葉に、俊太郎は研究者から社会人へと戻ったようだ。
壊れてしまった生垣を振り返り、「弁償で済むかなあ、これ事案になりそうだ」とぼやく。沙也加が「ああ、治しておきますよ」と気軽に言いぱんぱんっと手をたたくと、謎の少女が落とした光の柱で半壊した広場が、瞬く間に元の姿に戻った。
その光景をみて、俊太郎は科学が敗北したようなぼやきを口にした。
「まるで魔法だな、どういった理論なんだ……これで借りひとつだな。次、必ず詳しいことを教えてくれよ? 俺はもう帰るわ。寝不足なんだ」
「はあい、ちゃんとしますよ。ボクも玲ももう帰るから――しっかり寝てくださいね。研究頑張って!」
沙也加が仁菜を背中におぶって俊太郎を励ますと、彼は意外そうな顔をした。
「なに言ってるんだ、沙也加。徹夜して沙也加や玲ちゃんの怪しい画像を全部消したんだぞ?」
「げふっ、げふっ! あれを見たの!? やだなあ、ボク恥ずかしいよ……」
「待って、全部消したってどういうこと、神大さん」
てっきりスカッドのメンバー家窓秋帆の仕業だと考えていた二人は、いきなりの告白に理解が追いつかなかった。
「俺が製作したAIたちが、玲ちゃんや沙也加の画像を認識して、だめなやつを元から削除したんだよ。画像がもし保存されたら追跡してデバイスを特定し、個人のスマホやPCファイルに至るまで画像を削除する。そういう大掃除をやっていたんだ」
「まさか……の」
「こんなところで発覚するなんて、偶然にしてはできすぎだわ。まさか、神大さんが画像を乱造していたとかじゃないでしょうね!」
「違うよ、玲ちゃん。俺はそんな真似はしない。この神大俊太郎、誓ってアンジュバール推しを違えることはない」
自信満々に言ってのける俊太郎だが、沙也加はにまにまと笑って嫌味を言った。
「でも、見て楽しんだよね。間違いなく」
「名誉棄損で訴えるぞ、誤解だ――っ!」
「あーあ、そうなんですね。信じたのに、幻滅だわ……」
「玲ちゃん! 信じてくれ、俺は無罪だ!」
「はいはい、そういうことにして。神大さん、ボクたちはもう帰るよ。明日のモーニング必ずきてよね? そうじゃないと、裏切ったって見做すから――暗殺は久しぶりだなー」
「待て、行くよ! 必ず行くから!」
沙也加の脅しに真っ蒼になった俊太郎は、モーニングに顔を出すと約束してくれた。
「沙也加、やり過ぎだよ。じゃあ、神大さん、また明日。おやすみなさい。これから……よろしくお願いします」
「お、おう。こっちこそよろしく、玲ちゃん……おやすみ」
元通りきれいになった広場でそれぞれ帰路に着く。
地下鉄の中でも仁菜は気づかず、マンションに運んでも目を覚まさなかった。
沙也加が『万能の盾 bouclier universel(ブークリエ・ユニヴェルセル)』でマンションに結界を張り、敵に襲われる可能性を考えて『次元の狭間(ワールド・ポケット)』を展開し、オートリテを使って仁菜の記憶を操作する。
二人が見た仁菜の欲望の源――それは、父親にもっと愛されたいと願う仁菜の、玲に対する憧れと嫉妬だった。
「見たくない感情だったね、玲」
「……私じゃない、愛川玲が圭司さんに特別扱いされていたから、どんなことをしてでも興味を引きたい、愛されたいって仁菜は願っていたのね……」
「でも、これで仁菜のエヴォルに関する記憶は消えちゃったよ。あとは圭司さんと玲の関係性が変われば、仁菜の欲求が発芽することないかも」
「そうだといいんだけど。ねえ、沙也加?」
「なんだい、玲」
「神大さんの提案、受けて良かったかもしれないって、いまちょっと思った」
仁菜を横たえた布団の側で、玲は沙也加に身を預けて目を閉じた。
圭司を頼らなくても済むという未来の選択肢を持つことで、仁菜を友達を救えるのなら――それもまた悪くないと玲は思った。
無言のまま玲を抱きしめ沙也加もその思いを受け止めたようだった。
「明日、仁菜を送って行こうね」
「うん。私たちも寝ようか……ああっ! 配信の企画考えてない!」
「そうだよ、玲! 明日の夜だよ、でもディナーまでまたアルバイト入ってるよ! どうしよう!?」
「……時間をずらして始めようか?」
「なら告知しないと。ボク、SNSのアカウントに書き込んでおくよ」
「じゃあ、私はお風呂の用意するね」
沙也加が配信の遅れる告知を行い、玲が沸かした湯船に仲良く入って体の疲れを癒した。
仁菜が寝ている布団は使えないから、今夜はもう一組の布団で寝ることになる。
沙也加の『万能の盾 bouclier universel(ブークリエ・ユニヴェルセル)』に包まれ、本当の姉妹のように安心した寝顔で、二人は久しぶりに朝まで熟睡したのだった。
「ふぇ? 気づいてたの? 神大さん、抜け目ないなー」
「さっき呼び捨てにしただろ、お前! 後で話があるからな! って違う――。空を飛んでいたわけわからない奴も、玲ちゃんが光のなかに消えて倒れたのも、沙也加が見たことない姿になって玲ちゃんを落ちてくる流星から守っていたことも――」
「そこまで見ていたの? 助けるんじゃなかったな。ボク、玲と仁菜だけにしとけばよかった」
沙也加は泥で汚れている仁菜を広間のベンチに横たえると、さっと手を払った。すると、仁菜の全身が綺麗な状態に洗浄されたように変化する。
「おっ、おお!? なんだ、魔法みたいだな?」
「オートリテを使ったんだ」
「おー……なんだ?」
「オートリテ。異世界の能力」
「い、異世界っ! 本当にあるのか……?」
「沙也加、なに言い出すの!?」
いきなり真実の一端を暴露した沙也加を責めるように、玲は叫んだ。
だが、黙っていてと指先で唇を押されて黙ってしまう。
「玲、大丈夫。ここはボクに任せて」
「沙也加……」
俊太郎の手から玲を取り返した沙也加は、指先を彼に向けて宣言した。
「いまからこの能力を使って神大さん、あなたの記憶を操作します。逃げたら殺す」
「なっ――! 記憶を操作ってそんな非合法なことが許されるはずが――」
「ボクたちは異世界人だから、この世界の法律は関係ない」
「んなバカなこと――玲ちゃん!」
助けを求めた玲はさっと視線を逸らした。ごめんなさい、と今度は聞こえる声で謝罪を告げる。もう逃げ場がないと悟った俊太郎は、そばに落ちていたスマホを広い上げ操作した。
「無駄だよ。警察でも軍隊でも呼べばいい。ボクたちの戦いを見ていたなら効果がないってわかったはず――っ!?」
「一億出す!」
「はあ!?」
沙也加の目が点になった。画面を凝視して一、十、百……と数字を読み上げていく。その数が億に達した時、沙也加の両眼が大きく見開かれるのを玲は見てしまった。
俊太郎は自分が口座を保有している銀行アプリを開き、預貯金額を沙也加に見せたのだった。
予想できなかった俊太郎の行動に、沙也加は圧倒されてしまい口をパクパクと開けて唖然としていた。
「億だ。二億でもいい。アンジュバールは活動資金に困ってるんだろ?」
「どっ……どこで聞いたのよ、そんなこと!」
「ディナー前に会っていたろ、祭田圭司に仁菜ちゃん、茜ちゃん。珍しい面子だ。アイドルオタクなら、何かあると思わないほうがおかしい」
「ただの食事会かもしれないじゃないか!」
「活動再開したばかりのアンジュバールとEclipse Rhythm のメンバーにプロデューサーが同席しているのに? 俺のところにまで聞こえてきたぞ、移籍しないかって話……俺は玲ちゃんと沙也加が新しく独立してやるのかって気になったんだ」
「それは――それはない、から……」
「沙也加、打ち明け過ぎだよ!」
「でも、玲! 二億、二億だよ!? このアプリ見てみなよ、この人、数十億も貯金あるんだよ!? ボクたち、解散しなくても……いいんだよ。ボク、玲とはなればなれになるなんて嫌だよ、ボク……」
沙也加はここぞというところで踏ん張りが利かない泣き虫だった。
さっき流したのと同じくらい大粒の涙をぼろぼろと零してしまい、えぐっ、えぐっと声がうわずっている。
「沙也加、私も嫌だよ、でも――スカッドの秘密を晒したままで放置なんてできないでしょ!?」
「だけど、このままじゃ……現実問題、ボクらは薄い氷でできた橋の上を渡っているようなものだよ。いつか必ず壊れてしまう。落ちた先に待っているのは真っ暗な闇だよ。それでもいいの、玲?」
「いいわけないじゃない! これじゃ規律を守れなくなる――それはだめだよ、沙也加」
言い争う二人はいまにも乱闘になりそうだった。
スカッドの規律を重んじる玲と、この異世界・地球で生き抜くために堅実な方法を取るべきだと提案する沙也加。
緊張感漂う二人の合間に割って入ったのは、俊太郎だった。
「俺が現地の協力員になるよ」
「協力員?」
玲がなにを言ってんだろう、この人と不審がる。
沙也加がおうむ返しに問い返した。
俊太郎はふっ、と自慢げに不敵な笑みを作っていた。
「そうだ。協力員。さっきの鉱石――アマノダイトだっけ? あれを巡って戦っているのを見ちゃったからな。俺の命だって危うい……」
「まあ、確かに。敵対組織から狙われる可能性だってあるね。守れるのはボクたちだけかもしれない」
「つまり、私たちの任務に裏でも表でも関わって支援してくれるってこと? そんな提案、マリン・トッド長官が受け入れるはずがないわ」
「だけど、玲。考えてみて? オルスだって秘密を知った人間は消すか、仲間に引き入れるかのどちらだったよ……この場合、どっちが合理的?」
だって! と玲は気合を入れて指先を俊太郎に突きつけた。
「この人が組織の構成員だって可能性はどうやって否定するの? 沙也加!」
「ボクたちがアンジュバールの玲と沙也加になるって計画は、軍の上層部だけが知っていた秘密だよ? それを先取りして地球に潜伏していたとしたら、よほどの凄腕エージェントってことになる。そんな凄腕が、ボクたちとこんな会話をすると……玲は思ってる?」
玲はうーん、と首を傾げて考えこんでしまった。
俊太郎が敵対組織の一員である可能性と、まったくの偶然で異世界を研究し、異世界の電磁波を検知するアプリを製作し、さらにスカッドの隊員が憑依したアンジュバールと数年前から関係性があった――これはどう考えても偶然が重なり過ぎている。
「わかったわ。判別しましょう。『次元の狭間(ワールド・ポケット)!』」
玲はオルスに関係しているものを異次元に転移させる能力を発動する。
もし、俊太郎およびその中にオルスの敵対組織のエージェントが憑依していたら、現実世界から『次元の狭間(ワールド・ポケット)』へと隔離されるからだ。
しかし――転移したのは玲と沙也加。そして、まだエヴォルに憑依された痕跡を残す仁菜の三人だけだった。
「玲、これで白黒はっきりしたね」
「ただの人間では、私たちを仕留めることは困難だもんね。まあ……使用期間、設けてみる?」
「それ、いい考えだと思う! だめなら記憶操作したらいいんだし」
「つまり、必要な資金を出してもらってからってこと? 沙也加って本当に悪人なんだから……」
「ボクの特技、といって欲しいな。褒めらえてもいい案だと思うよ」
「とりあえず戻ろう。これから先のことを決めないとだめだわ」
「そうだね。仁菜をマンションに連れていく必要もあるし」
玲が結界を解くと、いきなり消えた三人がまた出現したことで、驚きに俊太郎は目を白黒させていた。
「どんな科学力を使えば、こんな事象が可能になるんだ……」
「事象じゃなくて、オートリテ。地球人には使えない能力だよ」
「沙也加、是非、研究させてくれ!」
「やだよ、ボクより玲推しなんでしょ? 玲にお願いしたらいいじゃない」
「じゃあ、玲ちゃん――」
「……また、今度、で。それより、今夜はもう解散しませんか? また襲われたら困るし、時間も遅いし――次、詳細を報告しますから」
おずおずと提案した玲の言葉に、俊太郎は研究者から社会人へと戻ったようだ。
壊れてしまった生垣を振り返り、「弁償で済むかなあ、これ事案になりそうだ」とぼやく。沙也加が「ああ、治しておきますよ」と気軽に言いぱんぱんっと手をたたくと、謎の少女が落とした光の柱で半壊した広場が、瞬く間に元の姿に戻った。
その光景をみて、俊太郎は科学が敗北したようなぼやきを口にした。
「まるで魔法だな、どういった理論なんだ……これで借りひとつだな。次、必ず詳しいことを教えてくれよ? 俺はもう帰るわ。寝不足なんだ」
「はあい、ちゃんとしますよ。ボクも玲ももう帰るから――しっかり寝てくださいね。研究頑張って!」
沙也加が仁菜を背中におぶって俊太郎を励ますと、彼は意外そうな顔をした。
「なに言ってるんだ、沙也加。徹夜して沙也加や玲ちゃんの怪しい画像を全部消したんだぞ?」
「げふっ、げふっ! あれを見たの!? やだなあ、ボク恥ずかしいよ……」
「待って、全部消したってどういうこと、神大さん」
てっきりスカッドのメンバー家窓秋帆の仕業だと考えていた二人は、いきなりの告白に理解が追いつかなかった。
「俺が製作したAIたちが、玲ちゃんや沙也加の画像を認識して、だめなやつを元から削除したんだよ。画像がもし保存されたら追跡してデバイスを特定し、個人のスマホやPCファイルに至るまで画像を削除する。そういう大掃除をやっていたんだ」
「まさか……の」
「こんなところで発覚するなんて、偶然にしてはできすぎだわ。まさか、神大さんが画像を乱造していたとかじゃないでしょうね!」
「違うよ、玲ちゃん。俺はそんな真似はしない。この神大俊太郎、誓ってアンジュバール推しを違えることはない」
自信満々に言ってのける俊太郎だが、沙也加はにまにまと笑って嫌味を言った。
「でも、見て楽しんだよね。間違いなく」
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「あーあ、そうなんですね。信じたのに、幻滅だわ……」
「玲ちゃん! 信じてくれ、俺は無罪だ!」
「はいはい、そういうことにして。神大さん、ボクたちはもう帰るよ。明日のモーニング必ずきてよね? そうじゃないと、裏切ったって見做すから――暗殺は久しぶりだなー」
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「お、おう。こっちこそよろしく、玲ちゃん……おやすみ」
元通りきれいになった広場でそれぞれ帰路に着く。
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二人が見た仁菜の欲望の源――それは、父親にもっと愛されたいと願う仁菜の、玲に対する憧れと嫉妬だった。
「見たくない感情だったね、玲」
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「でも、これで仁菜のエヴォルに関する記憶は消えちゃったよ。あとは圭司さんと玲の関係性が変われば、仁菜の欲求が発芽することないかも」
「そうだといいんだけど。ねえ、沙也加?」
「なんだい、玲」
「神大さんの提案、受けて良かったかもしれないって、いまちょっと思った」
仁菜を横たえた布団の側で、玲は沙也加に身を預けて目を閉じた。
圭司を頼らなくても済むという未来の選択肢を持つことで、仁菜を友達を救えるのなら――それもまた悪くないと玲は思った。
無言のまま玲を抱きしめ沙也加もその思いを受け止めたようだった。
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「そうだよ、玲! 明日の夜だよ、でもディナーまでまたアルバイト入ってるよ! どうしよう!?」
「……時間をずらして始めようか?」
「なら告知しないと。ボク、SNSのアカウントに書き込んでおくよ」
「じゃあ、私はお風呂の用意するね」
沙也加が配信の遅れる告知を行い、玲が沸かした湯船に仲良く入って体の疲れを癒した。
仁菜が寝ている布団は使えないから、今夜はもう一組の布団で寝ることになる。
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