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エピローグ
第47話 教皇の裏切り(老害め)
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前に教皇たちと会談したあの部屋で、大神官はどうにも疲れ切った顔をして椅子に背をあずけ、へたりこんでいた。
「きましたけど」
室内には王都からついて来てくれた神殿騎士たちの長が数名。
巫女たち、侍女たちの長が数名。
ラクールの分神殿からも数名。
その中には、聖騎士ルーファスの顔もあった。
「おお、きたか。待ちくたびれた」
そこに座れ、と上座を用意され、あの時と同じようにベールで顔を隠した聖女は、静かに着席する。
しかし、大神官もルーファスもそうだが、その場に居合わせた面々は、男性なら髭を整えることもめんどくさい様子だったし、女性陣はどうにか外観は整えているものの、内側からにじみ出る疲労感は隠せていない。
自分が慰労に回っている数日間、ほぼ不眠不休で彼らは働いてきたのだろう。そう思えた。
「下手ね。皆様」
「何?」
「自分に回復魔法くらいかけてくださいな。精神的な安寧も癒されるのですから」
そう言い、カトリーナは部屋全体に神聖魔法をかけた。
ついでにこれまでさんざん邪魔をしてくれた、神出鬼没の獣人グループに踏み込まれないように、結界を施してやる。
この結界にはちょっとした実験の意図もあって、それがうまく作用してくれるように、カトリーナは期待しつつ、会議は始まった。
「みんなそんなことをできないほどの大仕事をやってくれていたんだ」
大神官が言い訳するようにぼやく。それは何? とカトリーナが問いかけると、彼は前に書いた地図の更に大きなものを、今度は正式に王国内外で販売されている地図を持ちだした。
「王国だ」
「ええ。そうね」
ラクールを大神官は指さす。
「今がここ」
「ええ。それで、王都は東側」
「そうじゃない、パルテスとの調整がようやくできた。ここだ」
と、大神官は王国の極西部にある、大河の支流が流れ込んでできた湖を示した。
「ラードュ湖。いろんな国の国境線が入りまじっていますね」
「それはどうでもいい。分神殿の転送装置を通過しなくても、移動できるようにした」
「どうやって?」
驚きだ。そんな手段があるならさっさとやって欲しかった。
「ラクールの今は使われていない、昔の第二壁を背にして、信徒たちを集める。半円を更に半分にぶった切った感じで、壁ごと彼らを転送する。いや、こうなるともう転移魔法だな。行き先とこちらをそれぞれ装置で固定しなければいけない、そんな古いものはもう時代遅れだ」
「意味が、理解できませんけど‥‥‥。つまり、壁と地下の土ごと、大気ごと場所を物理的にあちらに移送する? 空間を伝って‥‥‥それも行き先は自由に変更できる、とでも言いたそうですけれど?」
カトリーナは鳶色の瞳に地図を映し込む。
そこにはなぜか、王都の上に飛行船が一台、記されていた。
「なんでしょうか、これは」
「教皇の飛行船に決まっているだろうが。あの爺さんが勝算もなしにここにくるはずがない」
「でも‥‥‥大金貨」
訝しむ聖女に一同はその通り、と深くうなずいた。まるで、そのありかがあることを知っているかのような、そんな顔つきだった。
「五千枚も、どこに。飛行船に用意されていた? まさか、あれほどの剣幕で押しかけてきて、芝居だったってこと?」
「伊達に年齢を食ってないってことだ。あいにくと、こちらも無策でここまできたわけじゃない。まあ……それはいい。やることは信徒たちの大移動だ。いいな?」
嫌に真剣でそれでいて、不敵で、どうにも何か隠しているような父親のそれに、カトリーナは静かに頷いた。
拒絶をする理由はなかったし、結界の管理を彼がするとしても‥‥‥。
大神官は旅立ちの最初の方で自分には新しいタイプの結界が張れると豪語していたから、これもその一つなのだろう。ただ、維持するには膨大な魔力がいる。
国の人口の半分が死んでも蘇生させることのできるような、強大な魔力。
炎の女神ラーダに愛されたただ一人の存在。
そう、カトリーナだった。
「きましたけど」
室内には王都からついて来てくれた神殿騎士たちの長が数名。
巫女たち、侍女たちの長が数名。
ラクールの分神殿からも数名。
その中には、聖騎士ルーファスの顔もあった。
「おお、きたか。待ちくたびれた」
そこに座れ、と上座を用意され、あの時と同じようにベールで顔を隠した聖女は、静かに着席する。
しかし、大神官もルーファスもそうだが、その場に居合わせた面々は、男性なら髭を整えることもめんどくさい様子だったし、女性陣はどうにか外観は整えているものの、内側からにじみ出る疲労感は隠せていない。
自分が慰労に回っている数日間、ほぼ不眠不休で彼らは働いてきたのだろう。そう思えた。
「下手ね。皆様」
「何?」
「自分に回復魔法くらいかけてくださいな。精神的な安寧も癒されるのですから」
そう言い、カトリーナは部屋全体に神聖魔法をかけた。
ついでにこれまでさんざん邪魔をしてくれた、神出鬼没の獣人グループに踏み込まれないように、結界を施してやる。
この結界にはちょっとした実験の意図もあって、それがうまく作用してくれるように、カトリーナは期待しつつ、会議は始まった。
「みんなそんなことをできないほどの大仕事をやってくれていたんだ」
大神官が言い訳するようにぼやく。それは何? とカトリーナが問いかけると、彼は前に書いた地図の更に大きなものを、今度は正式に王国内外で販売されている地図を持ちだした。
「王国だ」
「ええ。そうね」
ラクールを大神官は指さす。
「今がここ」
「ええ。それで、王都は東側」
「そうじゃない、パルテスとの調整がようやくできた。ここだ」
と、大神官は王国の極西部にある、大河の支流が流れ込んでできた湖を示した。
「ラードュ湖。いろんな国の国境線が入りまじっていますね」
「それはどうでもいい。分神殿の転送装置を通過しなくても、移動できるようにした」
「どうやって?」
驚きだ。そんな手段があるならさっさとやって欲しかった。
「ラクールの今は使われていない、昔の第二壁を背にして、信徒たちを集める。半円を更に半分にぶった切った感じで、壁ごと彼らを転送する。いや、こうなるともう転移魔法だな。行き先とこちらをそれぞれ装置で固定しなければいけない、そんな古いものはもう時代遅れだ」
「意味が、理解できませんけど‥‥‥。つまり、壁と地下の土ごと、大気ごと場所を物理的にあちらに移送する? 空間を伝って‥‥‥それも行き先は自由に変更できる、とでも言いたそうですけれど?」
カトリーナは鳶色の瞳に地図を映し込む。
そこにはなぜか、王都の上に飛行船が一台、記されていた。
「なんでしょうか、これは」
「教皇の飛行船に決まっているだろうが。あの爺さんが勝算もなしにここにくるはずがない」
「でも‥‥‥大金貨」
訝しむ聖女に一同はその通り、と深くうなずいた。まるで、そのありかがあることを知っているかのような、そんな顔つきだった。
「五千枚も、どこに。飛行船に用意されていた? まさか、あれほどの剣幕で押しかけてきて、芝居だったってこと?」
「伊達に年齢を食ってないってことだ。あいにくと、こちらも無策でここまできたわけじゃない。まあ……それはいい。やることは信徒たちの大移動だ。いいな?」
嫌に真剣でそれでいて、不敵で、どうにも何か隠しているような父親のそれに、カトリーナは静かに頷いた。
拒絶をする理由はなかったし、結界の管理を彼がするとしても‥‥‥。
大神官は旅立ちの最初の方で自分には新しいタイプの結界が張れると豪語していたから、これもその一つなのだろう。ただ、維持するには膨大な魔力がいる。
国の人口の半分が死んでも蘇生させることのできるような、強大な魔力。
炎の女神ラーダに愛されたただ一人の存在。
そう、カトリーナだった。
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