殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~

和泉鷹央

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忌み子と奇跡の魔法

辺境の領地

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「ありがとうございます、お姉さま!」
「いいのよ……。いずれはあなたの物になるのだから……ね」
「はい、お姉さまッ!」

 透明な湖の底に真っ青な空のブルーを流し込んだような瞳を輝かせて、サンドラが大きな声で返事をする。
 その響きにはこれ以上ないくらい嬉しいという感情が溶け込んでいて――オリビアは何も言えなくなった。
 いつからだろう。
 妹がこんなにはつらつとして、感情を出すようになったのは。
 
「あなたには沢山の物を残してあげられると思うの。でもねサンドラ、誰もがわたしのようにあなたに優しいと思ってはだめよ……」
「誰もが?」

 姉の心配をよそに、まだ世間を知らない妹はきょとんとして首を傾げる。
 この子とおなじ年頃の少年を夫に迎えなければならないなんて――と、婚約者であるジョシュアに、オリビアは不安を抱く。

「ええ。誰もがみんなあなたに優しいと思ってはだめよ」
「……大丈夫ですよ、お姉さま。お義兄さま――ジョシュア殿下もきっと優しいと思います」
「そういうことではなくて……」

 まだ幼い妹には分からないのかもしれない。
 自分がいなくなった後に両親が妹をさらに甘やかさなければいいのだけれど――。
 姉のそんな心配は、妹にも両親にも伝わらなかった。
 三度目にサンドラが欲しがったものは、祖母から受け継いだ辺境の領地だ。
 忌み子のオリビアにとって、そこは行ったことはないが――亡き祖母の思い出を感じることのできる、大事な土地だった。

「お姉さま、お願いがありますの」
「何かしら。今日は改まって言うのね、珍しい」
「珍しいって……いつも私は礼儀正しいですわよ?」
「そうかもしれないわね。それで、要件はなに?」
「はい! お姉さまが持つ、辺境の領地の件ですのッ」
「ッ――!? ……どういうことかしら」

 オリビアの声のトーンが一段低くなる。
 ここ最近では珍しく妹はわがままな鳴りを潜めてやってきた。
 おねだりをすることが恥ずかしいことだと、気づいてくれたのかもしれない。
 と、淡い期待を寄せたのだが――。それは徒労に終わった。

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