7 / 52
プロローグ
第6話 追放
しおりを挟む
ラモスは嘘を言っても無駄だ、とキースを胡散臭そうに見つめた。
その目は容赦のない拷問官のように輝いている。
「これまで案内してきた、探索し攻略してきたルートの中で、何千何百と報告していないそんな宝物があるはずだ。信じた俺が馬鹿だったよ」
「それはまだ警告書だろ? それに見捨てるなら……俺は今から独立するんだ、もうあんたの部下じゃない。あんたの命令も聞かないしあんたの保身の為に生きるのももうまっぴらごめんだ。明日からは別の仕事を探すさ。見つかるまでは日雇いでもして、迷宮探索をする」
「日雇いだと?」
思ってもみなかった返事を聞いてラモスは叫んだ。
日雇い冒険者は王国にとって、特別な存在だった。
現在、このロンギヌス王国は魔王の国と戦争をしている。
だが、最近になって一時的に休戦を結んだのだ。
王国はこの機会を利用して、地下迷宮を攻略するべく各神殿から人を派遣して、いくつもの高名な聖騎士や冒険者のパーティが地下に降り、まだ戻ってこない。
今度は勇者たちのパーティが挑戦するという話もでているくらいだ。
しかし、あまりよくないことも起きてしまった。
これまで数世紀続いていた戦争のおかげで様々な地域が発展してきた。
ところが戦争がなくなれば当たり前のように経済は衰退する。
消費者である、軍隊が働かなくなるからだ。
この国でもそれは例外ではなくて、特に王国は沢山の兵士達を戦場に向かわせていたから男手が足りなかった。
近くには激戦地があり、復興すらままならない。
そんな王国を救うための施策の一つが、日雇い冒険者を公務員として雇うことだった。
最低限の保障と最低限の賃金と最低限の住む場所を与えられる。
この政策に戦争が終わり職を失った冒険者たちは、喜んで飛びついた。
結果、王国の経済は奇跡的に復興を果たし始めている。
「日雇い冒険者は特別だからな。総合ギルドといえども、手出しはできないだろ?」
「……迷宮の中間層までの探索は終わった。これからは組織的な案内をする時代だ――個人で独立してでできるって言うならやってみるがいい。どうせ、直ぐに弱音を吐くだろうがな」
「あんたがそう言うなんて、世も末かもな」
陰険に、陰悪に、先ほど殴られたことも含めて嫌味を込めて挨拶を交わす。
それだけ言ってやると、悔しそうに顔を赤らめるラモスを尻目に、キースはさっさと入り口の扉を開けて姿をけした。
「畜生ッ―! 疫病神が、ダンジョンのどっかで暗殺されてしまえッ。だがな、キース。‥‥‥あいつらはあまくないぞ」
くぐもった声で、そうラモスは忠告する。
「全部吐くか、捕まって拷問されて死ぬか。どっちも嫌なら‥‥‥国外に逃げるしかない」
「だが、あんたは守る気はなさそうだな?」
「あー当然だろ。面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。てめえを、ギルドの法規に背いた罪でクビにしてやる。どっかに消えちまえ‥‥‥このゴミクズが」
そんな言葉と共にラモスの片手が光った。
「うおわっ?」
一本か二本か。
それは見当違いの方向に投げられ、壁に突き刺さった短剣を避けると、キースはラモスの部屋から逃げるように走り出した。
逃げろ、このゴミクズが!
まるでラモスがそう言って逃がしてくれたような気がした。
世界中にありとあらゆる仕事がわんさか存在する。
そんな数千数万の職業の中からたったひとつだけなりたくないものを選べ。
もしそう言われたとしたら、経験者は間違いなく「ダンジョンの案内人」を選ぶはずだ。
あれはそれぐらい危険度が高い上に、依頼人の生還率が低く、攻略率ばかり重視される数字とデータが何よりも重視される。
もてはやされるのは結果ばかりの世界で、それを達成するために死んでいった物言わぬ骸たちには、誰も見向きもしない。
迷宮案内人はそれくらい忌み嫌われた職業だった。
◇
――数週間後。
「だからな、一番損な職業は、案内人だってことだ」
ほんのりと過去を思い出しながら、キースは誰かに向けてそう言った。
「へえ、そうなんですね」
半分程まで減ったエールのグラスを、そろそろ開けたい気分だ。
勢いよくそれを飲み干すとカウンターに空のグラスを叩きつけ、おかわりを要求する。
‥‥‥ところで、こいつ誰だ?
カウンターの隣席から相槌が打たれるものの、そいつには全く見覚えがない。
俺は酒場のお姉ちゃんたちに話しているんだ‥‥‥と、カウンター向こうをふと見やると、そこには誰もいない。
話し相手になっているはずの店員は、いつのまにか別の酔客を相手していた。
店内には毎日おなじみのうだつがらない冒険者たちの酔っ払った声やそれは相手する商売女たちの嬌声が響いていた。
地下世界にも都市はある。
ここ総合ギルドの地下本部があるタルイーダーは、その中央的な立ち位置にあった。
ギルドの日雇い派遣課で本日の業務が終わった報告をしたキースが歩くこと数分。
下町と、商業街に隣接するように、この酒場が入る建物が存在する。
この辺りは飲み屋街と化していて、平日の夜だというのにまあ、賑やかなものだった。
その目は容赦のない拷問官のように輝いている。
「これまで案内してきた、探索し攻略してきたルートの中で、何千何百と報告していないそんな宝物があるはずだ。信じた俺が馬鹿だったよ」
「それはまだ警告書だろ? それに見捨てるなら……俺は今から独立するんだ、もうあんたの部下じゃない。あんたの命令も聞かないしあんたの保身の為に生きるのももうまっぴらごめんだ。明日からは別の仕事を探すさ。見つかるまでは日雇いでもして、迷宮探索をする」
「日雇いだと?」
思ってもみなかった返事を聞いてラモスは叫んだ。
日雇い冒険者は王国にとって、特別な存在だった。
現在、このロンギヌス王国は魔王の国と戦争をしている。
だが、最近になって一時的に休戦を結んだのだ。
王国はこの機会を利用して、地下迷宮を攻略するべく各神殿から人を派遣して、いくつもの高名な聖騎士や冒険者のパーティが地下に降り、まだ戻ってこない。
今度は勇者たちのパーティが挑戦するという話もでているくらいだ。
しかし、あまりよくないことも起きてしまった。
これまで数世紀続いていた戦争のおかげで様々な地域が発展してきた。
ところが戦争がなくなれば当たり前のように経済は衰退する。
消費者である、軍隊が働かなくなるからだ。
この国でもそれは例外ではなくて、特に王国は沢山の兵士達を戦場に向かわせていたから男手が足りなかった。
近くには激戦地があり、復興すらままならない。
そんな王国を救うための施策の一つが、日雇い冒険者を公務員として雇うことだった。
最低限の保障と最低限の賃金と最低限の住む場所を与えられる。
この政策に戦争が終わり職を失った冒険者たちは、喜んで飛びついた。
結果、王国の経済は奇跡的に復興を果たし始めている。
「日雇い冒険者は特別だからな。総合ギルドといえども、手出しはできないだろ?」
「……迷宮の中間層までの探索は終わった。これからは組織的な案内をする時代だ――個人で独立してでできるって言うならやってみるがいい。どうせ、直ぐに弱音を吐くだろうがな」
「あんたがそう言うなんて、世も末かもな」
陰険に、陰悪に、先ほど殴られたことも含めて嫌味を込めて挨拶を交わす。
それだけ言ってやると、悔しそうに顔を赤らめるラモスを尻目に、キースはさっさと入り口の扉を開けて姿をけした。
「畜生ッ―! 疫病神が、ダンジョンのどっかで暗殺されてしまえッ。だがな、キース。‥‥‥あいつらはあまくないぞ」
くぐもった声で、そうラモスは忠告する。
「全部吐くか、捕まって拷問されて死ぬか。どっちも嫌なら‥‥‥国外に逃げるしかない」
「だが、あんたは守る気はなさそうだな?」
「あー当然だろ。面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。てめえを、ギルドの法規に背いた罪でクビにしてやる。どっかに消えちまえ‥‥‥このゴミクズが」
そんな言葉と共にラモスの片手が光った。
「うおわっ?」
一本か二本か。
それは見当違いの方向に投げられ、壁に突き刺さった短剣を避けると、キースはラモスの部屋から逃げるように走り出した。
逃げろ、このゴミクズが!
まるでラモスがそう言って逃がしてくれたような気がした。
世界中にありとあらゆる仕事がわんさか存在する。
そんな数千数万の職業の中からたったひとつだけなりたくないものを選べ。
もしそう言われたとしたら、経験者は間違いなく「ダンジョンの案内人」を選ぶはずだ。
あれはそれぐらい危険度が高い上に、依頼人の生還率が低く、攻略率ばかり重視される数字とデータが何よりも重視される。
もてはやされるのは結果ばかりの世界で、それを達成するために死んでいった物言わぬ骸たちには、誰も見向きもしない。
迷宮案内人はそれくらい忌み嫌われた職業だった。
◇
――数週間後。
「だからな、一番損な職業は、案内人だってことだ」
ほんのりと過去を思い出しながら、キースは誰かに向けてそう言った。
「へえ、そうなんですね」
半分程まで減ったエールのグラスを、そろそろ開けたい気分だ。
勢いよくそれを飲み干すとカウンターに空のグラスを叩きつけ、おかわりを要求する。
‥‥‥ところで、こいつ誰だ?
カウンターの隣席から相槌が打たれるものの、そいつには全く見覚えがない。
俺は酒場のお姉ちゃんたちに話しているんだ‥‥‥と、カウンター向こうをふと見やると、そこには誰もいない。
話し相手になっているはずの店員は、いつのまにか別の酔客を相手していた。
店内には毎日おなじみのうだつがらない冒険者たちの酔っ払った声やそれは相手する商売女たちの嬌声が響いていた。
地下世界にも都市はある。
ここ総合ギルドの地下本部があるタルイーダーは、その中央的な立ち位置にあった。
ギルドの日雇い派遣課で本日の業務が終わった報告をしたキースが歩くこと数分。
下町と、商業街に隣接するように、この酒場が入る建物が存在する。
この辺りは飲み屋街と化していて、平日の夜だというのにまあ、賑やかなものだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる