15 / 49
第一章 ドラゴン・スレイヤー
第15話 撃癒師と真夜中の太陽
しおりを挟む
「ケリー! 頑張って! 負けたらなく泣くんだから!」
自分が仇を売ってやると言わないところが、イライザの魔獣に対する恐れの大きさを表していた。
手を繋いでいるサティナは毅然としてそこにいるものの、今にもカールを抱きかかえて逃げ出しそうだ。
水夫たちは結界を構成している杖を離して船を捨てたそうに見えた。
恐怖に抗いながら、職務に忠実な彼らは素晴らしい人材だ。
ここで命を散らすようなことにしたくない。
ケリーの両肩には、彼らの希望がのしかかっていた。
「はいはい、分かりましたから。宮廷魔導師様、お願いいたします」
「じゃあ――」
そんな心にかかる重圧を微塵にも感じさせず、ケリーは幼い雇い主を一度抱きしめると、カールの方にイライザを押しやった。
最初に指定された空間に向かい、カールは複数の紋様を空間に描き出す。
光は弧を描き、数羽の輝く鳥に変化して、ケリーの周囲を頭上から足元を舞った。
船を包むような虹色の被膜に似た泡のようなものに包まれたケリーは、神に祝福された黒狼の戦士のようにも見えた。
パンっとカールが両手を一叩きすると、ケリーの姿は彼女が望んだ空間へと転送される。
その両手には全身を包む虹色の輝きを打ち消すほどの、昏い黒曜石が放つような黒光りする何かが出現していた。
「何でしょう、あれは」
錆色の光に変化してしまい、その全容が眩しくてうかがい知ることが及ばない。
眩しさに目を細めながらサティナが質問する。
「槍だわ!」
ケリーの勇ましさを目の当たりにして、嬉しそうにイライザが叫んだ。
彼女はぬめぬめとした肌に阻まれて、なかなかその穂先が魔獣に届かずに苦労している。
そこくらいまでは、カールも魔力を目に寄せることでどうにか見ることができた。
「槍?」
「そう! あそこに刺さってるような棒の先が、剣みたいになってる!」
なるほど、それは確かに槍だ。
人間の目で補足不可能なものも、視えてしまうらしい。
こんなにも幼いのに。
黒狼に秘められた可能性は素晴らしいものがあるな、とカールは思った。
「視えるのですか。凄いですね」
「そうでも!」
イライザは安直だ。褒めらてエッヘンと胸を張っている。
彼女はいまケリーはどうやっている、こうやっていると簡単な解説を加えて喋った。
「あの槍はケリーの得意技なの! 黒狼は身の中に闇の精霊を宿しているのよ! だから、あんなに黒い光を吸い込むような槍を作り出せるの!」
その戦闘力や破壊力について説明して欲しい。
会話の間にも、ケリーの努力は続いている。
精霊を宿すからといって、その能力を解放できる時間は個人差があるものの、最大限に発揮すれば十分保てればいいほうだろう。
先程の会話からも、彼女がそれを行っているのは間違いない。
ドラゴンと対峙した時にカールが力を使い果たして倒れたように、ケリーもそうなる可能性がある。
そうなっても、ケリーの場合はまだ恵まれていると思った。自分のときは、サティナがいてくれたからたまたま、助かっただけで。
後ろで誰かが控えているというのは、持ち得る力を出し切るにしても安心感があるのだろう。
彼女が発する闇の精霊を使うと、音と光も吸収されてその力に変換されるもののようだった。
見えない、伝わらない戦いのその奥を、あらゆるものを構成する魔素の動きを読み解くことで、カールは把握しようとした。
槍の穂先は変わらず届かない。空に浮かんで移動できるのは闇の精霊を解放したことによる副作用のような物だろう。
ケリーは負けた場合など心配していないかのように、自身の持ち得る力を放出しようとしていた。
「あっ!」
それを視えているイライザが驚きの声を上げる。
少し遅れて、カールも把握した。
槍の穂先が変化していく。ケリーの頭部ほどの楕円形のふくらみがそこには生まれ、切り離されて、また生まれる。
繰り返す度に、ケリーの方ほどの位置に、黒い炎の塊がいくつも浮上して並んでいく。
それは神話に読んだ黒い太陽を従え、月を飲み干したとされる黒狼の神を思わせる畏怖を与えるもので――しかし、サティナには視えていない。
他に甲板にいる水夫たちにも同様だろう。
「凄い、凄いわ! ケリーのあれは初めて見るの! まるで真夜中の太陽みたい……」
と、イライザが感嘆のため息を漏らした。
この場で彼女の活躍を正しく見届けることができるのは、僕とイライザだけなんだ。
そう思ったら正しく評価されないことの虚しさを心に覚えた。
ケリーの片手が高く上がる。
黒炎の塊は十数個を越え、その手元に吸い込まれていく。
やがて大きな真昼の太陽を裏返したような、日蝕で月に姿を蝕ばまれた太陽のように、暗黒の銀色の光輪に覆われて完成する。
忌々しい羽虫を払うように両手でケリーをおいかけていた魔獣ヘイステス・アリゲーターが、ぱっとその顎を開いたのは、それが魔獣に向かってケリーの手から離れたのと前後してだった。
瞬間、一度だけ制止してから猛烈な勢いでヘイステス・アリゲーターが、川面に墜落し、それを追いかけて真夜中の太陽が後を追う。
ケリーのしている戦闘は見えないし、聞こえなかったが、攻撃対象が離れてしまえば話は別だ。
灼熱の黒炎が水面を通過する。
水を焼き立ち上る水蒸気を大魚が小魚の群れを呑み込むようにして、その炎の中に取り込んでしまう。
重さから解放された船はスポンと大きく宙に浮いた。
その反動で簡単にた人々はあっけなく放り出されてしまう。
川の中に落ちてしまうのかと身構える者もいた。
だが彼らは船体を覆う虹色の皮膜によって保護された。
触れると同時に、甲板の元いた位置へと引き戻され、放り出された幾人かは安堵の声を上げた。
「……凄い!」
黒狼の少女は、仲間の働きから目を離すまいと、甲板の縁から身を乗り出してつぶさに観察する。
落ちないようにと、サティナがその背中を抑えていなければならなかった。
「落とさないように気を付けてあげて」
「はい、イライザさん、危ないです。もっと落ち着いて!」
「だってケリーがカッコいいの! 凄いの!」
外から攻撃できないものは中から出ることができない。
それをあっさりとあちら側に転送したカールの魔法をさることながら、真夜中の太陽を魔獣にぶつけたケリーの強さもそれに劣ることはない。
大量の流れる水は黒い炎を消し去ろうとして強烈な力をぶつけていたし、黒い炎もまた押し寄せる凄まじい勢いの水を溶かす勢いで燃え盛っていた。
目的に向かい放たれたそれは、水など気にせずただひすらに魔獣を追撃する。
補足し確実にその体内へと食い込んで、肉を焼き、骨を溶かして、その存在すらも塵へ帰そうとする。
壮絶な断末魔。
耳を塞いでも鼓膜の奥を犯すようなその叫び声は魂をも震わせる。
真っ青な空の果てに吸い込まれて行く前に、聞いた存在の寿命すらも奪っていきそうな悪意の塊は、やがてゆっくりとどこかに消えていった。
「勝った! ねえ、見て! ケリーが勝ったのよ! あんな大きい魔獣にたった一人で立ち向かってそれを倒したの! ねえ見たでしょ!」
「え? いや、なんというか……」
イライザは自分のことのようにはしゃぎながら、ケリーの働きを喜んでいた。大げさすぎる賛辞は、心の底からイライザがケリーの尊敬ことをしているから出たに違いなかった。
その賛辞に同意しろと当たり前のように告げられて、近くにいた水夫は困った顔をする。
「何! あの活躍を見てなかったって言うの?」
「見ていなかったと言うか、黒いものに包まれて何も見えなかったよ……」
水夫は申し訳なさそうに告げた。
無理もない。あれは見えるものにしか見えないものだ。
神話や伝説にはその働きぶりが刻まれているのに今の世に至るまで、黒狼族が歴史にその名を刻んだことはほとんどない。
戦争や働きぶりに対して栄光を勝ち取ったとする報告も、近世では耳にしたことがない。
つまり彼らの活躍はそこにあるものの見えなかったから伝えられなかった。
「イライザ。ケリーはすごかったよ。僕には見えていた」
「本当? 私に気を使わなくてもいいのに」
何人かの水夫に確認してもその返事は変わらず、黒狼の少女はがっくりと肩を落とし、目に涙を溜めていた。
カールがそう言うと嘘を言わなくてもいい、と拒絶される。
「黒い太陽のようなものが魔獣を追いかけて川の中に消えていった。これでも嘘を言ってるかい?」
「……あなた、凄い人なのね」
感心するようにそう言われる。
「私とそう変わらない年齢に見えるのに」
余計な一言もついてきた。
「旦那様はもう十四歳ですよ」
自慢の夫を褒めながら貶されたと感じたのか、サティナが諌めるように言う。
イライザは悪びれることなく言った。
「私よりも年下じゃないの……」
甲板でそんな会話をカールたちがしている中、ケリーは放った黒炎の後始末に追われていた。
この技は威力が強すぎて、狙った相手以外にも甚大な被害をもたらすことが多い。
火を点けたら、必ず消火させないと、火事は燃え広がってしまう。
自分の起こしたそれがもう河のどこにもないことを確認するまでに、しばし、時間を費やした。
河の中に潜り込み、魔獣の遺骸に燃えカスが残っていないかを確認して回る。
闇の精霊を解放し、まとっている間、肉体が濡れることも息が切れることもない。
水中の景色も、地上のそれと変わらずに見えた。
太陽が注ぐことのない最深部まで、ケリーは確認に向かう。
おおよそ知覚できる範囲で黒炎が残っていないことを確認し終えたのは、船がはるか先に向かった後だった。
そろそろ浮上し、彼に船上へと転送して貰わなければならない。
魔力も底を尽き始めている。
戻ろう、と決めた時、ケリーは見つけてしまった。
あの魔獣の心臓に当たる魔石。ケリーと同じくらいの大きさのある巨大なそれの中には、驚きのものが秘められていた。
自分が仇を売ってやると言わないところが、イライザの魔獣に対する恐れの大きさを表していた。
手を繋いでいるサティナは毅然としてそこにいるものの、今にもカールを抱きかかえて逃げ出しそうだ。
水夫たちは結界を構成している杖を離して船を捨てたそうに見えた。
恐怖に抗いながら、職務に忠実な彼らは素晴らしい人材だ。
ここで命を散らすようなことにしたくない。
ケリーの両肩には、彼らの希望がのしかかっていた。
「はいはい、分かりましたから。宮廷魔導師様、お願いいたします」
「じゃあ――」
そんな心にかかる重圧を微塵にも感じさせず、ケリーは幼い雇い主を一度抱きしめると、カールの方にイライザを押しやった。
最初に指定された空間に向かい、カールは複数の紋様を空間に描き出す。
光は弧を描き、数羽の輝く鳥に変化して、ケリーの周囲を頭上から足元を舞った。
船を包むような虹色の被膜に似た泡のようなものに包まれたケリーは、神に祝福された黒狼の戦士のようにも見えた。
パンっとカールが両手を一叩きすると、ケリーの姿は彼女が望んだ空間へと転送される。
その両手には全身を包む虹色の輝きを打ち消すほどの、昏い黒曜石が放つような黒光りする何かが出現していた。
「何でしょう、あれは」
錆色の光に変化してしまい、その全容が眩しくてうかがい知ることが及ばない。
眩しさに目を細めながらサティナが質問する。
「槍だわ!」
ケリーの勇ましさを目の当たりにして、嬉しそうにイライザが叫んだ。
彼女はぬめぬめとした肌に阻まれて、なかなかその穂先が魔獣に届かずに苦労している。
そこくらいまでは、カールも魔力を目に寄せることでどうにか見ることができた。
「槍?」
「そう! あそこに刺さってるような棒の先が、剣みたいになってる!」
なるほど、それは確かに槍だ。
人間の目で補足不可能なものも、視えてしまうらしい。
こんなにも幼いのに。
黒狼に秘められた可能性は素晴らしいものがあるな、とカールは思った。
「視えるのですか。凄いですね」
「そうでも!」
イライザは安直だ。褒めらてエッヘンと胸を張っている。
彼女はいまケリーはどうやっている、こうやっていると簡単な解説を加えて喋った。
「あの槍はケリーの得意技なの! 黒狼は身の中に闇の精霊を宿しているのよ! だから、あんなに黒い光を吸い込むような槍を作り出せるの!」
その戦闘力や破壊力について説明して欲しい。
会話の間にも、ケリーの努力は続いている。
精霊を宿すからといって、その能力を解放できる時間は個人差があるものの、最大限に発揮すれば十分保てればいいほうだろう。
先程の会話からも、彼女がそれを行っているのは間違いない。
ドラゴンと対峙した時にカールが力を使い果たして倒れたように、ケリーもそうなる可能性がある。
そうなっても、ケリーの場合はまだ恵まれていると思った。自分のときは、サティナがいてくれたからたまたま、助かっただけで。
後ろで誰かが控えているというのは、持ち得る力を出し切るにしても安心感があるのだろう。
彼女が発する闇の精霊を使うと、音と光も吸収されてその力に変換されるもののようだった。
見えない、伝わらない戦いのその奥を、あらゆるものを構成する魔素の動きを読み解くことで、カールは把握しようとした。
槍の穂先は変わらず届かない。空に浮かんで移動できるのは闇の精霊を解放したことによる副作用のような物だろう。
ケリーは負けた場合など心配していないかのように、自身の持ち得る力を放出しようとしていた。
「あっ!」
それを視えているイライザが驚きの声を上げる。
少し遅れて、カールも把握した。
槍の穂先が変化していく。ケリーの頭部ほどの楕円形のふくらみがそこには生まれ、切り離されて、また生まれる。
繰り返す度に、ケリーの方ほどの位置に、黒い炎の塊がいくつも浮上して並んでいく。
それは神話に読んだ黒い太陽を従え、月を飲み干したとされる黒狼の神を思わせる畏怖を与えるもので――しかし、サティナには視えていない。
他に甲板にいる水夫たちにも同様だろう。
「凄い、凄いわ! ケリーのあれは初めて見るの! まるで真夜中の太陽みたい……」
と、イライザが感嘆のため息を漏らした。
この場で彼女の活躍を正しく見届けることができるのは、僕とイライザだけなんだ。
そう思ったら正しく評価されないことの虚しさを心に覚えた。
ケリーの片手が高く上がる。
黒炎の塊は十数個を越え、その手元に吸い込まれていく。
やがて大きな真昼の太陽を裏返したような、日蝕で月に姿を蝕ばまれた太陽のように、暗黒の銀色の光輪に覆われて完成する。
忌々しい羽虫を払うように両手でケリーをおいかけていた魔獣ヘイステス・アリゲーターが、ぱっとその顎を開いたのは、それが魔獣に向かってケリーの手から離れたのと前後してだった。
瞬間、一度だけ制止してから猛烈な勢いでヘイステス・アリゲーターが、川面に墜落し、それを追いかけて真夜中の太陽が後を追う。
ケリーのしている戦闘は見えないし、聞こえなかったが、攻撃対象が離れてしまえば話は別だ。
灼熱の黒炎が水面を通過する。
水を焼き立ち上る水蒸気を大魚が小魚の群れを呑み込むようにして、その炎の中に取り込んでしまう。
重さから解放された船はスポンと大きく宙に浮いた。
その反動で簡単にた人々はあっけなく放り出されてしまう。
川の中に落ちてしまうのかと身構える者もいた。
だが彼らは船体を覆う虹色の皮膜によって保護された。
触れると同時に、甲板の元いた位置へと引き戻され、放り出された幾人かは安堵の声を上げた。
「……凄い!」
黒狼の少女は、仲間の働きから目を離すまいと、甲板の縁から身を乗り出してつぶさに観察する。
落ちないようにと、サティナがその背中を抑えていなければならなかった。
「落とさないように気を付けてあげて」
「はい、イライザさん、危ないです。もっと落ち着いて!」
「だってケリーがカッコいいの! 凄いの!」
外から攻撃できないものは中から出ることができない。
それをあっさりとあちら側に転送したカールの魔法をさることながら、真夜中の太陽を魔獣にぶつけたケリーの強さもそれに劣ることはない。
大量の流れる水は黒い炎を消し去ろうとして強烈な力をぶつけていたし、黒い炎もまた押し寄せる凄まじい勢いの水を溶かす勢いで燃え盛っていた。
目的に向かい放たれたそれは、水など気にせずただひすらに魔獣を追撃する。
補足し確実にその体内へと食い込んで、肉を焼き、骨を溶かして、その存在すらも塵へ帰そうとする。
壮絶な断末魔。
耳を塞いでも鼓膜の奥を犯すようなその叫び声は魂をも震わせる。
真っ青な空の果てに吸い込まれて行く前に、聞いた存在の寿命すらも奪っていきそうな悪意の塊は、やがてゆっくりとどこかに消えていった。
「勝った! ねえ、見て! ケリーが勝ったのよ! あんな大きい魔獣にたった一人で立ち向かってそれを倒したの! ねえ見たでしょ!」
「え? いや、なんというか……」
イライザは自分のことのようにはしゃぎながら、ケリーの働きを喜んでいた。大げさすぎる賛辞は、心の底からイライザがケリーの尊敬ことをしているから出たに違いなかった。
その賛辞に同意しろと当たり前のように告げられて、近くにいた水夫は困った顔をする。
「何! あの活躍を見てなかったって言うの?」
「見ていなかったと言うか、黒いものに包まれて何も見えなかったよ……」
水夫は申し訳なさそうに告げた。
無理もない。あれは見えるものにしか見えないものだ。
神話や伝説にはその働きぶりが刻まれているのに今の世に至るまで、黒狼族が歴史にその名を刻んだことはほとんどない。
戦争や働きぶりに対して栄光を勝ち取ったとする報告も、近世では耳にしたことがない。
つまり彼らの活躍はそこにあるものの見えなかったから伝えられなかった。
「イライザ。ケリーはすごかったよ。僕には見えていた」
「本当? 私に気を使わなくてもいいのに」
何人かの水夫に確認してもその返事は変わらず、黒狼の少女はがっくりと肩を落とし、目に涙を溜めていた。
カールがそう言うと嘘を言わなくてもいい、と拒絶される。
「黒い太陽のようなものが魔獣を追いかけて川の中に消えていった。これでも嘘を言ってるかい?」
「……あなた、凄い人なのね」
感心するようにそう言われる。
「私とそう変わらない年齢に見えるのに」
余計な一言もついてきた。
「旦那様はもう十四歳ですよ」
自慢の夫を褒めながら貶されたと感じたのか、サティナが諌めるように言う。
イライザは悪びれることなく言った。
「私よりも年下じゃないの……」
甲板でそんな会話をカールたちがしている中、ケリーは放った黒炎の後始末に追われていた。
この技は威力が強すぎて、狙った相手以外にも甚大な被害をもたらすことが多い。
火を点けたら、必ず消火させないと、火事は燃え広がってしまう。
自分の起こしたそれがもう河のどこにもないことを確認するまでに、しばし、時間を費やした。
河の中に潜り込み、魔獣の遺骸に燃えカスが残っていないかを確認して回る。
闇の精霊を解放し、まとっている間、肉体が濡れることも息が切れることもない。
水中の景色も、地上のそれと変わらずに見えた。
太陽が注ぐことのない最深部まで、ケリーは確認に向かう。
おおよそ知覚できる範囲で黒炎が残っていないことを確認し終えたのは、船がはるか先に向かった後だった。
そろそろ浮上し、彼に船上へと転送して貰わなければならない。
魔力も底を尽き始めている。
戻ろう、と決めた時、ケリーは見つけてしまった。
あの魔獣の心臓に当たる魔石。ケリーと同じくらいの大きさのある巨大なそれの中には、驚きのものが秘められていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる