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第五章 撃癒師と一撃殺と暗黒街の花嫁
第47話 撃癒師と腐蝕の神
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妻たちの問題が片付いたら、次はマフィアとの会合の時間だった。
昼前に王都市街の西にある商業区へと、途中で拾った辻馬車で移動する。
島国であるラフトクラン王国は南北に長く、東西に狭い。
その中間の主要都市を縫うようにして作られたロゼン街道の終着点であり、南下してきたトライゼム河が大河へと繋がる河口に沿って港湾部がある。
海運が盛んなラフトクラン王国では、港湾地区そのものが商業街区としての発展を伴ってきた。
つまり、ブラックファイアは港に関連するすべての事業を裏で操っていることになる。
その主体となっている黒狼族はまた、優秀な船乗りとしても知られていた。
「黒い炎を操る獣人が、どうして船乗りなんかに……」
とカールはケリーに指定を受けた場所へと移動する間に考えてみる。
少しでも彼らの背景を知らないことには、魔石売買もそうだし、あのドラエナが言った赤い月の女神リシェスとの関連性も確認が必要になる。
手元の魔導端末をタップして、本のサイズ程度の魔石板を指先でなぞりながら、カールは表示された情報を上から下へとスクロールしていく。
それは、中央図書館が魔導ネットワークを介して検索・閲覧できるようにしている、資料の内容だった。
「腐蝕の魔神バルッサムと浄化の女神リシェス」
というキーワードが最初に出てきた。
バルッサムはあらゆるものを腐らせ溶かしてしまう闇の神だ。魔族の神の一柱ともいわれている。
リシェスは黄金の炎を司り、バルッサムとは真逆にすべてのものを清浄してしまう、そんな役割をもつ神様だ。
そして二人は仲が悪く、赤い月の所有権を巡り、互いに選んだ聖女と勇者を地上で代理戦争させたりする、とんでもない神様たちでもある。
真反対の属性を抱きながら、彼らは夫婦神であり、赤い月の真の所有者から、そこの管理を任されているだけである。
「ん? そうなると誰があの月の管理者……」
いくつかのキーワードを検索してみると、出てきた。
そこには、聖者サユキ、とある。
えー……、とカールはその名前を見て、途端に嫌そうな顔をした。
「なんで神々の王がでてくるのさ」
聖者サユキは年若い少女の恰好をしており、太陽神アギト、暗黒神ゲフェトを従え、はるかなる異世界からこの地に降り立ったとされている、世界中の神の王であり、神の裁定者でもある。
あくまで神話だけれども、一万年ほど昔には創造神カイネ・チェネブと争ったという、伝承も残っている。
創造神といえばありとあらゆるものを作り出した存在なのに、どうして神々の王がそれと争うのか。
矛盾しているとカールは思うのだが、まあ歴史というものはそういう風になっている。
二千年ほど昔には、魔族の女帝、真紅の魔女ミレイアと戦ったりと忙しい聖者様だな、と思ったりした。
それと同時に、死神とも仲が良い、と記述があり、カールは頬をひくつかせた。
カールの使う治癒スキル、撃癒はちょっと特殊な能力で、この世界を構成している要素とはほんの少し異なった存在の力を借りることになっているのだ。
それはつまり、ありとあらゆる存在が死滅した後に消滅する、とされている全ての宇宙にまたがる存在。
死神という名の、最高神でもある。
いや、最高神とか、神々の王とか、創造神とかちょっと色々と一番上にいる人が多すぎるんじゃない? そんな気もしてくるが、神話というものはそんなものなのである。
話がちょっと逸れた。
黒狼の話に戻ろう。
赤い月の所有者、聖者サユキ。
その部下の一柱、暗黒神ゲフェト。
この姿は、実は巨大な黒い狼だとされている。
つまり、黒狼。
ケリーたち、黒狼族は暗黒神ゲフェトの眷属、と表現するのが正しいのかもしれない。
実際、獣人族でも精霊をその身に宿さない獣人たちは、普通の亜人なのだ。
精霊をその身に宿して生まれてくる数少ない獣人たちは、呼び名が同じでも神の眷属だとされていて、身分制度が敷かれている王国の中でもある程度の特権を有している。
だからこそ、ブラックファイアは黒狼族を巻き込んで、マフィアなんてものをやっていても、国から咎められることはない。
特別な存在だからだ。
「これはめんどくさい関係だなあ。ドライナが、僕に依頼してきた関係も、なんとなく後ろでは」
いろいろと神様たちが手を結んで、悪いことをしようとしているような気がする。
いやいやそれよりも、貴爵の存在だ。
王国がまだ小さな帝国であったころ、いまの宗主国クロノアイズ帝国の植民地になる前、この国にはラフトクラン帝国という小さな国があった。
島国であるラフトクランは、魔族の大陸ととても距離が近く、当時のラフトクラン帝国はとある魔王の国から庇護を受けていた。
その後起きた大戦争により、いまのようなクロノアイズ帝国の庇護下に入り、現在に至る。
黒狼族はその帝国時代に大陸から移住してきたという話だから、古い民、ということになる。ブルーローズもそうだ。
かつての特権階級に属した権力者たちは、現在では裏世界でその幅を利かせている。
だいたいの経緯が分かるとカールは魔導端末を鞄へとしまいこんだ。
要するにこれは、旧支配層と現支配層の、代理戦争に近い。まるで、神話によく出てくる、腐蝕の魔神バルッサムと浄化の女神リシェスの代理戦争のようだ。
さしずめカールは城下の女神リシェスの代表、ダレネ侯爵は腐食の魔神バルッサムの代表といったところか。
「けどまだ相手が誰かわかってないし……」
なんとなく敵の神様の名前は、最後の最後までわからないような気がした。
なぜかといえば、腐食の魔神バルッサムと浄化の女神リシェスは神話の上では、千年ほど前に一度仲直りをしているからだ。
妻たちとの新生活に胸をときめかせることは悪いことだろうか?
十四歳の天才治癒師は、目的地に到着し、馬車を降りるとき、あらためて手で顔を覆い、天を覆った。
「あー! あんた遅いわよ!」
「小オオカミ……なんでいるんだよ」
そこは三階建てのカフェだった。店の2階部分に突き出したテラスから、ケリーとイライザ、そしてもう一人、落ち着いた雰囲気の黒狼の女性が、カールに向かって微笑みを返してくる。
多分、彼女はロニーが言っていたイライザの姉マルチナ、だろう。
黒狼の嫁入り問題にまずは巻き込もうって肚か、ドラエナ?
早く上がってこいとイライザに急かされて、カールは店の入り口をそっと押した。
昼前に王都市街の西にある商業区へと、途中で拾った辻馬車で移動する。
島国であるラフトクラン王国は南北に長く、東西に狭い。
その中間の主要都市を縫うようにして作られたロゼン街道の終着点であり、南下してきたトライゼム河が大河へと繋がる河口に沿って港湾部がある。
海運が盛んなラフトクラン王国では、港湾地区そのものが商業街区としての発展を伴ってきた。
つまり、ブラックファイアは港に関連するすべての事業を裏で操っていることになる。
その主体となっている黒狼族はまた、優秀な船乗りとしても知られていた。
「黒い炎を操る獣人が、どうして船乗りなんかに……」
とカールはケリーに指定を受けた場所へと移動する間に考えてみる。
少しでも彼らの背景を知らないことには、魔石売買もそうだし、あのドラエナが言った赤い月の女神リシェスとの関連性も確認が必要になる。
手元の魔導端末をタップして、本のサイズ程度の魔石板を指先でなぞりながら、カールは表示された情報を上から下へとスクロールしていく。
それは、中央図書館が魔導ネットワークを介して検索・閲覧できるようにしている、資料の内容だった。
「腐蝕の魔神バルッサムと浄化の女神リシェス」
というキーワードが最初に出てきた。
バルッサムはあらゆるものを腐らせ溶かしてしまう闇の神だ。魔族の神の一柱ともいわれている。
リシェスは黄金の炎を司り、バルッサムとは真逆にすべてのものを清浄してしまう、そんな役割をもつ神様だ。
そして二人は仲が悪く、赤い月の所有権を巡り、互いに選んだ聖女と勇者を地上で代理戦争させたりする、とんでもない神様たちでもある。
真反対の属性を抱きながら、彼らは夫婦神であり、赤い月の真の所有者から、そこの管理を任されているだけである。
「ん? そうなると誰があの月の管理者……」
いくつかのキーワードを検索してみると、出てきた。
そこには、聖者サユキ、とある。
えー……、とカールはその名前を見て、途端に嫌そうな顔をした。
「なんで神々の王がでてくるのさ」
聖者サユキは年若い少女の恰好をしており、太陽神アギト、暗黒神ゲフェトを従え、はるかなる異世界からこの地に降り立ったとされている、世界中の神の王であり、神の裁定者でもある。
あくまで神話だけれども、一万年ほど昔には創造神カイネ・チェネブと争ったという、伝承も残っている。
創造神といえばありとあらゆるものを作り出した存在なのに、どうして神々の王がそれと争うのか。
矛盾しているとカールは思うのだが、まあ歴史というものはそういう風になっている。
二千年ほど昔には、魔族の女帝、真紅の魔女ミレイアと戦ったりと忙しい聖者様だな、と思ったりした。
それと同時に、死神とも仲が良い、と記述があり、カールは頬をひくつかせた。
カールの使う治癒スキル、撃癒はちょっと特殊な能力で、この世界を構成している要素とはほんの少し異なった存在の力を借りることになっているのだ。
それはつまり、ありとあらゆる存在が死滅した後に消滅する、とされている全ての宇宙にまたがる存在。
死神という名の、最高神でもある。
いや、最高神とか、神々の王とか、創造神とかちょっと色々と一番上にいる人が多すぎるんじゃない? そんな気もしてくるが、神話というものはそんなものなのである。
話がちょっと逸れた。
黒狼の話に戻ろう。
赤い月の所有者、聖者サユキ。
その部下の一柱、暗黒神ゲフェト。
この姿は、実は巨大な黒い狼だとされている。
つまり、黒狼。
ケリーたち、黒狼族は暗黒神ゲフェトの眷属、と表現するのが正しいのかもしれない。
実際、獣人族でも精霊をその身に宿さない獣人たちは、普通の亜人なのだ。
精霊をその身に宿して生まれてくる数少ない獣人たちは、呼び名が同じでも神の眷属だとされていて、身分制度が敷かれている王国の中でもある程度の特権を有している。
だからこそ、ブラックファイアは黒狼族を巻き込んで、マフィアなんてものをやっていても、国から咎められることはない。
特別な存在だからだ。
「これはめんどくさい関係だなあ。ドライナが、僕に依頼してきた関係も、なんとなく後ろでは」
いろいろと神様たちが手を結んで、悪いことをしようとしているような気がする。
いやいやそれよりも、貴爵の存在だ。
王国がまだ小さな帝国であったころ、いまの宗主国クロノアイズ帝国の植民地になる前、この国にはラフトクラン帝国という小さな国があった。
島国であるラフトクランは、魔族の大陸ととても距離が近く、当時のラフトクラン帝国はとある魔王の国から庇護を受けていた。
その後起きた大戦争により、いまのようなクロノアイズ帝国の庇護下に入り、現在に至る。
黒狼族はその帝国時代に大陸から移住してきたという話だから、古い民、ということになる。ブルーローズもそうだ。
かつての特権階級に属した権力者たちは、現在では裏世界でその幅を利かせている。
だいたいの経緯が分かるとカールは魔導端末を鞄へとしまいこんだ。
要するにこれは、旧支配層と現支配層の、代理戦争に近い。まるで、神話によく出てくる、腐蝕の魔神バルッサムと浄化の女神リシェスの代理戦争のようだ。
さしずめカールは城下の女神リシェスの代表、ダレネ侯爵は腐食の魔神バルッサムの代表といったところか。
「けどまだ相手が誰かわかってないし……」
なんとなく敵の神様の名前は、最後の最後までわからないような気がした。
なぜかといえば、腐食の魔神バルッサムと浄化の女神リシェスは神話の上では、千年ほど前に一度仲直りをしているからだ。
妻たちとの新生活に胸をときめかせることは悪いことだろうか?
十四歳の天才治癒師は、目的地に到着し、馬車を降りるとき、あらためて手で顔を覆い、天を覆った。
「あー! あんた遅いわよ!」
「小オオカミ……なんでいるんだよ」
そこは三階建てのカフェだった。店の2階部分に突き出したテラスから、ケリーとイライザ、そしてもう一人、落ち着いた雰囲気の黒狼の女性が、カールに向かって微笑みを返してくる。
多分、彼女はロニーが言っていたイライザの姉マルチナ、だろう。
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【作者より、感謝を込めて】
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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