ドラフト最下位の元天才ピッチャーに栄光を

モロ煮付け

文字の大きさ
1 / 3
1年目 元天才は立ち上がる

どん底から始まる

しおりを挟む


千葉シーグルズ7巡目大柳高校 坂井智久さかいともひさ

 智久はテレビから流れる自分の名前を聞き、ドラフトで指名されたのにも関わらず俯く。

(くそ、こんなはずじゃなかったのに)


 坂井智久は紛れもない天才だった。

 テレビや新聞はこぞって智久を持ち上げていた。100年の天才。稀代のサウスポー。
 そんな言葉を何回も聞いた。あの試合までは。

 初戦だった。油断していたわけではない。事実、エースである智久も出ていたのでほぼベストメンバーと言っても間違いではない。

 地方の公立高校。本来なら5回のコールドを目指してウォーミングアップになるはずの相手。誰もが勝利を疑わなかった。

 それをあの傑物が全て破壊した。

 中浜陽太なかはまようた、智久が手にするはずだった栄光を、名声を掻っ攫っていった男の名前。

 前哨戦のように智久の高校を破り、勢いのまま県大会、甲子園優勝と駆け上がっていく。世論の注目を全て奪って一躍時の人となった。

 公立高校での成り上がり、甲子園優勝、11球団競合のドラフト。全ての泊をつけてプロ野球に乗りもうとしている。

 対して智久は中浜に負けて以降、誰が見ても過剰な程に練習を積み重ねていた。それが原因で選手生命を脅かすレベルではなかったがドクターストップがかかる。1ヶ月もまともに野球ができなくなっていたのだ。

(消えた天才、ふざけるなよ。俺は、俺だって……)

 ふいにズボンのポケットから振動が伝わる。
 シーグルズのスカウトからの電話だった。

『坂井くんを指名させて頂きました、千葉シーグルズの監督のをやってる椎葉しいばと申します』

 智久はおざなりに返事をする。ドラフト7位、全81名の新人の中で81番目。最下位からのスタートに智久はとっくに腐っていた。

『ははっ、そうふてくされないでくれよ。契約とかお金の話は実際に会ってから話すから今日は挨拶だけだよ』

 椎葉は愉快そうに笑う。
 そんな態度が智久の顔を歪める。

『少し真面目な話をしようか。君はなぜ自分が指名されたか分かるかい?』

 先程までのどこかおちゃらけた喋り方は消えて声のトーンが一つ下がっている。突然の質問に虚を突かれた智久は答えに詰まってしまう。

『え、えっと……強いて言うなら直前に怪我をしたので復帰待ちでこの順位とか?』

『ああ、間違ってない。それだけでは君を取るつもりはなかった。何が君をプロにしてくれたと思う?』

 なんだろうか、智久は必死に頭を回す。実力以外に思いつくことはなかった。

『話題性だよ。真の天才に負けた奴が惨めなざまを晒している。それだけでファンは大喜びさ。君を本当に欲しいなら大学で4年間待ってから取ってるね』

 想像以上の罵倒に唇を噛む。
 あの一回だけだ。それも他のやつらだって全員漏れなくあいつの餌食になっているのに。

『とにかく君は入ってくれれば良いわけだ。高卒だから少なくとも3年は保証されてる訳だしね』

(馬鹿にしやがって……)

『次はユニフォームを着て会おう。どんなざまか楽しみに待ってるよ』

 智久が何も言えないまま椎葉は電話を切る。
 何も言い返せなかった自分に智久は悔しさを滲ませる。

(くそっ、やってやるよ。やればいいんだろ。入れる理由がなんだって最高の環境を3年くれるんだ。)

「絶対に見返してやるからなァ」

 元天才の燻っていた火種は再び燃え上がろうとしていたのだった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...