リアルTRPG

天草 詩音

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第二章

天草探偵事務所

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 探偵事務所というと少し堅苦しいのを創造するが中にはふざけた探偵事務所というのもあると思う。
 ふざけたといっても、依頼を中途半端にするとか、嘘をつくだとか、金額設定がおかしいとかそういうわけではない。働いている人間の人間性だとか思考回路が少しおかしい、人間の中身の問題である。
 今回はそんな彼らの不思議な依頼のお話である。
 
 2027年8月12日 東京某所 AM11:55
 朝のニュースで今日は今夏イチの猛暑で熱中症注意予報が流れていた。 
 それと一緒に東京のスクランブル交差点で額をハンカチで拭っている通勤途中の人々が映し出される。
 だが、家でこの時間まで優雅にコーヒーとトーストにありついてるやつにはこの世のサラリーマンの苦悩は何も感じられない。
 黒皮のソファーに座っているこの短髪白髪で肌白い少年は天草翔。年齢は28歳だが、あまりにも童顔で目が大きく顔が整ってることから、20歳前後に見られることが多い。
 彼には弟がいるが並ぶとむしろ弟の方が兄に見えてしまうぐらいだ。それは翔の背が160㎝しかなく、彼がチビだからというのもあるのだが。忍は背が170㎝ほどあり、顔つきは面長でキリっとしていて、健全な黒髪七三分けである。
 時間はもう12時になるというのにまだ白い無地のパジャマを着ている。こんなだらしない兄を、弟の忍はごみを見るような冷たい目でキッチンから眺めていた。 
 「兄さん…いい加減に早く着替えてくれないかな?」
 見ていられなくなった忍が声をかけると、翔は首だけ振り向き何故か首をかしげる。
 その能天気な仕草に更に何かがプチっと切れたような音が鼓膜に響いた。そして、忍のいつもは細い目が大きく開かれる。なぜ自分ではなくあの人が兄になってしまってのかとおもってしまう時が多々ある。
 「あのね兄さん!もう12時過ぎてるんだよ!ただでさえ依頼が少ないってんのになんでこんな時間まで呑気にゆっくりしていられるのかな?!そもそも事務所はとっくに開けなきゃいけない時間なんだけど?!だいたい兄さんはいつも僕に何でも任せればいいと―」
 そんな弟の小言に聞き飽きている彼は、話の途中で無言で立ち上がり、すたすたと弟がそっぽを向いてる間にリビングを後にした。 
 部屋を出てすぐ横の階段を上り始めたころ、リビングから弟の更に大きな怒号が響き渡った。
 (なんであんなに気付くのが遅いんだろう。) 
 二階に戻りタンスから服を出す。白シャツに黒のベストとネクタイ、下は黒の七分丈のパンツ、白のアンクルソックスを履き、スマートフォンをベストのポッケに突っ込み、またリビングに向かった。
 リビングに入ると翔が置きっぱなしにした皿などはなく、テーブルはきれいに片付けられていて、ソファーにはサラリーマンのようなスーツを着た忍が不機嫌顔で座って待っていた。 
 だが、忍の怒りが消えていない顔を見ても翔は軽く口元を緩ませ、「行こうか。」というだけだった。
 いつもそうだこの男は。怒っても笑って誤魔化しては何もなかったのように接してくる。こちらとしてもそんな態度を取られたら更に怒りが増すどころか、怒る気すらも失せてしまう。
 忍は深くため息をつき、翔と共にリビングを出て左へ向かう。
 


 そこは一般的な玄関とは違い、ドアがなく、石タイルの床に1m×1mほどの絨毯がかかっていた。絨毯を取ると、天井窓みたいなものが付いていてそれを開けると車のある地下に行けるようになっている。
 この家は地上からの入り口はない。地下に空洞があり、そこから出入りする仕様になっていて簡単には部外者が入れないようになっている。なぜこのような仕組みになっているのかは後々わかる。
 玄関を出るとコンクリの階段があり、階段を下りていく。そこは例えるならば、デパートの地下駐車場のようになっており、白のベンツとレトロ感溢れるクリーム色のスバル360が二人を待っていた。二台の車の前にはシャッターが閉じており、リモコンで開閉させる仕組みになっている。
 「ねえねえ忍~今日は僕ベンツがいいな~」
 子供が親にお菓子を強請るようなそんな甘えた声を出したところで僕は騙されない。
 見たくなくてガン無視をしているのにもかかわらず、下から見上げるように見られてもただただ小にくたらしい。
 「却下」
 「えぇぇぇ~なんでよ~。いいじゃんかっこいい車がいいぃー!」
 足をバタバタさせてふくれっ面をしているが僕も折れる気はさらさらない。
 僕は振り向き、鋭い刃のような目つきのまま、さらに冷ややかな声で
 「運転するのは僕。運転免許を持っているのに運転をしないやつに選ぶ権利はないんだよ。言ってる意味わかるよね?それとも兄さんはここで一夜を過ごす?僕はいいよ?兄さん深夜まで部屋に入れないけど」と言い放った。
 ここまで言うと流石に、兄さんは折れたようだった。
 なにせ家の鍵は忍しか持っておらず、財布も持っていない兄は深夜までご飯を抜くことが耐えられなかったようだ。
 「あ…ゴメンナサイ…いいですスバルの方で…」
 
  
 車に乗りエンジンをかけリモコンでシャッターを開け、出てから、シャッターが閉まるのを確認して再び車を走らせた。
 そのまままっすぐコンクリの上り坂を上っていくと大きい道路に出る。
 事務所までは車で10分程で着く。
 車に中は音楽ではなくラジオ番組が流れている。ほぼほぼ二人だけの時は無言であることが多い。会話があるとすれば仕事関係のことだけだ。
 ルームミラーをちらっと見ると、翔は後ろでスマートフォンで画面を真顔で凝視していた。
 今日は事務所に客人が来る。兄さんに伝えておかなければいけない。
 「兄さん、朝に伊奈帆さんから連絡があってなにやら相談があるらしい。午後にまた事務所に来るって言ってたよ。また変な依頼じゃなきゃいいけど。」
 「……。」
 いつもは何かしら、空返事の一つや二つ返すのだが、今日はなにやらスマートフォンに夢中らしい。
 (ま、いっか。伊奈帆さんだったら多少わかってくれているだろうし。)
 
 事務所の駐車場に着くとすでに黒の乗用車が止まっており、その車のナンバーを見ると伊奈帆さんの車だった。
 伊奈帆さんとは警察庁に配属している刑事である。兄さんとは大学が同じで法学部だった。
 「着いたよ。」
 「うん。」
 車を降り、事務所へ向かう。天草探偵事務所は、年季の入った築50年のビルの二階にある。ビルの幅が余り広くないため、二階を全てうちの事務所が借りている。全てといっても二部屋しかなく、客室と僕らの作業室で区切られている。正面にビルの入り口のなるガラス張りの押し扉があり、そこを通ると、左手にエレベーターがある。
 エレベーターに乗り二階へ向かうと、乗った方の反対側の扉が開いた。
 一番奥が部屋の入り口になっている。入り口の前にはワイシャツにスーツを纏った茶髪の男性が立っていて、暑そうに手のひらをうちわ代わりにパタパタさせていた。あの人が伊奈帆 万里(いなほ ばんり)さんだ。
 僕らに気づくと、ふにゃっと笑って手を振っていた。
 僕は小走りで伊奈帆さんの元へ向かった。早く開けて中に入れて上げないと干からびてしまう。
 「すいません、伊奈帆さん。だいぶ待たせてしまって」
 「忍くん、大丈夫だよ。俺も今来たところだから。」
 伊奈帆さんはとても好青年って感じで、爽やかでしっかりものだ。
 「やあ、万里。お勤めご苦労さん。」
 うちの兄とは大違いで、こんな上から目線なことを言われても、太陽のような笑顔で
 「翔、久しぶり。元気そうで安心したよ。」
 なんて、他人の心配までできるほど、気遣いもできる。
 なぜ馬が合うのか不思議でしょうがない。
 
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