悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

文字の大きさ
4 / 20

4

しおりを挟む
 愛しい婚約者との逢瀬を終え、自室で紅茶を飲みながら、今日も可愛くて堪らなかった婚約者の姿を思い出す。
「可愛い俺のアルグ。天使より可愛い」
 何をどうしたらあれほど可愛い存在が生まれると言うのだ。嗚呼、アルグが俺を大好きな所以にあの可愛さが生まれているのかもしれない。尚、可愛さが増すではないか。
「殿下、余韻に浸る時間は終了です。勉強を始めてください」
「何を言う。今はアルグの可愛さを噛み締めることが何よりも重要だろう」
 何せ、今日は初の「あーん」記念日だからな。恥じらい、頬を染め、瞳を潤わせながら俺を見つめるアルグの可愛さは天上のものにも勝る。
 そして、俺に食事を差し出され、開かれる口の艶かしさは筆舌に尽くしがたい。食事より何よりアルグのその味を味わいたいのを、どれだけ耐えたことか。
「アールグレイ様とのご関係が順調なことは私も喜ばしく思います。あーんを言ってもらわない限り食べようとしない辺りが、我が主ながら気持ち悪かったですが、アールグレイ様の寛大なお心に感謝しかありません」
「今また無礼な言葉が聞こえた気がするが、アルグの可愛さに免じて許してやる」
「それより殿下、お勉強の時間ですよ」
 アルグの件で相談してからと言うものの、執事の無礼が止まらないんだが。シュガールには主人かつ王子である俺を敬う心はないのか?
「何故、今更勉強などしなければならないんだ?」
「ラプサンス様の頭が悪いからです」
「は?」
「これまで殿下はアールグレイ様とお話する機会がありませんでしたので、その愚かさを知られることすらありませんでしたが、今や親交を深めるために日々時間を共に過ごされております。これでは殿下のば、頭の悪さがアールグレイ様の知るところになるのも時間の問題です」
「もしや今、馬鹿と言いかけたか?」
「折角想いが通じたと言いますのに、ここで愛想をつかされる等、殿下の従者として私も心苦しく思います」
 シュガールは淡々と俺への無礼な言葉を並べていく。この執事、絶対俺のことを敬ってないだろ。
「もちろん、多少知識をつけたところで、殿下の生来の愚かさがなくなるわけではないことは重々承知しております」
「今度は愚かって言ったな!」
 絶対俺のことを馬鹿にしてるだろ!俺のは王族なんだぞ!頭が悪いわけがないだろ!
「ですので、ここは寧ろ先にこちらから明かしておく方が懸命であると判断しました」
「は?明かすって何をだ?」
「手筈はこちらで整えておりますので、ご安心ください」
「おい、どういう意味」
 シュガールを問い詰めようとしたところで、ドアをノックする音が響いた。
 一先ず迎え入れれば、音の主はなんとアルグだった。
「アルグ!俺に会いに来てくれたのか?」
「えっと、はい。シュガールさんに呼ばれはしましたが、純粋に僕がラプス様に会いたくて参りました」
「俺も会いたかったよ。俺の可愛いアルグ」
 俺に会いたかっただなんて、なんて可愛いんだ!出来ればこのまま抱き締めたいが、我慢だラプサンス。可愛いアルグを堪能するためにここは我慢だ。
 シュガールがアルグを誘導し、アルグは俺の隣へと腰かける。
 嗚呼、俺の隣にアルグがいる!なんて幸せなんだ!
「ん?シュガールが呼んだ?」
「はい、その、ラプス様がお勉強が苦手とお聞きしまして、それも僕のせいでもあるとのことだったので、僕も何かお手伝いをしたいと思いまして」
「俺のことでアルグが責任を感じなければならぬこと等あるはずがないだろ?」
 シュガールの奴、何故俺が勉強が苦手等とでたらめをアルグに吹き込んでるんだ!?
「いいんです、ラプス様。実は、僕のせいだと聞いた時、嬉しいなんて思ってしまったのでちょっと反省してるんです」
 アルグのせいと聞いてアルグが喜ぶとはどういうことだ?執事は何とアルグに言ったんだ?
「それと、ラプス様とご一緒にお勉強することにずっと憧れていましたので。学生カップルらしくて素敵だな、と」
「今すぐしよう。シュガール、教材を早く持ってくるんだ」
「かしこまりました」
 学生カップル。見つめ合うだけで恥じらい頬を染めるアルグの可愛いさを増幅させる初々しい響きだ。
 恋人の細やかな望みさえ叶えられない等王族としてあるまじきこと。今こそ俺が甲斐性ある男であると、アルグにしかと魅せるとしよう。

 いざ勉強に取りかかって分かったのは、俺は今時間の使い方を間違えているということだ。
 可愛い俺のアルグが隣に居るっていうのに、何故俺はつまらない歴史書に目を向けているんだ?ここは愛し合うもの同士、見つめ合い、愛を語り合うべき時だろう?
 それはそれとして、こうやって物書きをするアルグも美しい。この可憐なアルグの姿が、学園という場で大勢の目に晒されてるのか。
 独り占めしたい。俺はアルグの婚約者なんだから許されるんじゃないのか?
 アルグの頬がうっすらと色づく。嗚呼、可愛いアルグ。俺達だけの時間が永遠に続いたらいいのに。
「あの、ラプス様?」
「どうした、アルグ?」
 伏し目がちに潤んだアルグの瞳が俺に向く。そんなに色香をまとわせて俺を見つめるなんて、これ以上俺を惑わせてどうするつもりなんだ!
「どこか、難しいところがありましたか?」
「ん?」
「本を読む手が止まっているようなので」
「ああ、何処がっていうか、どれも分からないし、国の成り立ちなんて何になるんだ?」
 俺の言葉にアルグが目を丸くする。ついでに後ろから大きな溜め息が聞こえた。
「えっと、そうですね。・・・例えば、60年前の戦争でこの国は勝利しました。もし敗戦していたなら、ラプス様と僕はこうして出会うことも、もしかしたら僕は生まれてすらいなかったかもしれません」
「なっ、アルグのいない世界なんて・・・」
「あの、ですので、つまり・・・」
「我が国の歴史を知るというのは、俺とアルグの愛の軌跡を知るということだな!」
「その、そう考えたら、頑張れますか?」
「もちろんだ!俺とアルグの愛の軌跡、これを知らないわけにはいかないからな!」
 歴史がこんなに重要なものだと気付かなかったとは、この俺としたことがなんて失態だ。
 アルグと愛を確かめる前なら、臆病にも歴史を学べなかっただろうが、今は違う!しっかり歴史をマスターしてやろうじゃないか。アルグと深い愛で繋がってる俺は無敵だからな!
 アルグが顔を真っ赤にしている。まさか、また俺にドキドキし過ぎてるなら大変だ!
「大丈夫か、アルグ?」
「あ、はい。その、自分で言い出しておいて、恥ずかしくなってるだけなので」
 恥ずかしい・・・我が国の歴史が俺とアルグの愛の軌跡だということがか?つまり、アルグは照れていると言うわけだな。
「アルグは今日も本当に可愛いな」
「っ!ラプス様も今日も素敵です」
「当然だ。なんたって俺はアルグに愛されているからな」
「はぃ・・・」
 アルグがより顔を赤くして俯いた。
 やはり一旦休憩した方がいいだろうか。俺のアルグへ止まらない愛は、まだまだアルグの胸には刺激が強すぎるらしい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む

木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。 その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。 燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。 眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。 それが妹の名だと知っても、離れられなかった。 「殿下が幸せなら、それでいい」 そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。 赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎月影 / 木風 雪乃

王子様から逃げられない!

一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

処理中です...