上 下
19 / 63

19、塩っぱくて切ない1st Kiss

しおりを挟む
ニューエイジは色んな難題を吹っかけてくる。
だけどそれをクリアしないと次の展開に進めない。まったくうまく出来てる。
天馬さんは言う。
「結果はほぼ同じなんだ。プロセスが大事なんだ。あらゆる方向性を試せ。そして楽しめ。そのデータが次の展開をよりリアルにする」って。
試せって言われても。試されてるのは僕自身て気がしてならないんだけど。

グリーンの歩行帯に沿って志風音と僕はHエリアへ向かっていた。
ピーピーピー!ピーピー!
ヘルメットの後ろからポニーテールを垂らした女の子達が、リーチフォークでクルクル回転しながら縦横無尽に荷物を運んでいる。
安全の為に床に照射された幾つものブルーのLEDライトを志風音は愉快そうに目で追っかける。
「なんか楽しいナ!」
そう言って、自分の指を僕の手に絡ませてくる志風音。
僕はその手を軽く握り返して離したくないナと思う。
「飛び出したら危ないから。猫みたいにさ」
志風音は振り向き、お日様のような笑みを浮かべた。
「大好き」
「えっ!」
「言ってみたかっただけ」
志風音は僕の肩に頭をくっつける。
ポニーテールの女の子がクスクス笑いながら遠ざかる。

「斗夢さんはよく行くんですか、Hエリア」
「に、2、3回かな」
「誰と行くんですか?」
「誰とって、一人の時もあるよ。志風音クンは初めて?」
「正確に言うとー、初めてじゃないです」
「誰かと来た事あるんでしょ?別に隠さなくて良いよ」
「隠してないですよ。モトムさんとトーヤさん。あとキョウヘイさん、タマキさん」
皆んなモテ男ばっかりだ。
「それに、オーランさん」
「桜蘭も?」僕は立ち止まった。
「はい。あのー、オーランさんと斗夢さんてどういうご関係なんですか?」
「桜蘭には聞かなかったの?そうやって」
「聞きました」
「なんて?」
「付き合ってるって。だからお前とはしないよって」
「おいおいおいおいおいっ!」
「どうしたんですか急に?」
「君さ、言ってる事わかってる?もう戻ろうか。行っても仕方ないよ」
「斗夢さん」
「何?どーしたの?」
「ボクは恋愛は自由だと思ってるんです。人が人を好きになるのは自然な事だし、思いは誰にも止められない」
「何が言いたいの?」
「斗夢さん。ボクが嫌いになりました?色んな人とHエリアに行ってるから。でも皆んなとても親切にしてくれましたよ。オーランさんは特に」
「嫌いにはならないけど、僕はもういいかなって。桜蘭とはそんな関係じゃないし」
「嘘つかなくて良いですよ」
「嘘とかじゃなくて、僕は君が誰と何をしようがまったく興味とかないから」

志風音は僕の両手を掴んで力一杯引き寄せた。
「ちょ!」
「ごめんなさい!意地の悪い事ばかり言って。ボクってサイテー!」
今度は僕のTシャツを引っ掴んで胸に顔を押しつけてくる。
「ごめんなさい…」って、泣いてるの?!
ホントにこの子ったら。人タラシ!だけど憎めない。
小さく震えるブルネットのショートウェイブヘアをつい撫でてしまう僕。あーなんて弱虫。
「斗夢さん… 嫌いにならないで…」
僕の胸で泣きじゃくる可愛いコ。
「もういいから。大丈夫だから。ね?」
「ホントに?」
潤んだ瞳。涙に濡れた頬。痩せっぽちな肩。
そんな顔で見つめられたら。。
僕は志風音の唇にKissをした。
カチッと歯が鳴った。
それからゆっくり唇を吸った。
志風音との1st Kissは、涙で塩っぱくて、切ない味がした。

二人は手を繋いでまた歩き出す。Hエリアに向かって。
僕も志風音も黙って歩き続けた。心は一つ。そんな気がした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

官能男子

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:32

ヴィトンの黄色いエピ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

久遠の鼓動

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

出張ホスト 邂逅神代です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

元カノ泊めたことを今は後悔している

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:79

宴の翌朝

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:24

失恋旅館

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:20

ご自由にお使いください。

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:11

触れられない、指先

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

楓花

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:20

処理中です...