エステティシャン早苗

MIKAN🍊

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16.ムショ帰り

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東京拘置所に迎えに来たのは母でも父でもなく、今や腐れ縁になりつつある紀伊国屋宗介だった。
宗介はミラーのサングラスをかけて年代物のセドリックの中にいた。
「いよお!こっちだこっちだ!」
白地に黒のドット模様のワンピースをひるがえして早苗は陽気に手を振った。
「サンキュー!」

「元気だな。家族はどうした。迎えに来ないのか」宗介はタバコに火を点けた。
「来なくて良いって言ったのよ。それとも私が逃げるとか思ってるわけ?ってね」
「ふーん。そんなもんか」
「弁護士を寄越すとか運転手を行かせるとかしつこかったわ」
「まあ、親だからな」
「あんなの親じゃないわ」
宗介はフゥーッと空に向けて煙を吐いた。自分には関係ない事だと言わんばかりに。

「700万戻ってきたら貰おうっと。タバコ頂戴?」
「子どもがいるんだろ」宗介は早苗の腹を見た。
「あ、そっかあ。そうね我慢するわ」
「お、やけに素直だな」
「まあね」
「メシでも食いに行くか」
「お風呂に入りたい。その前にドラッグストアに寄ってくれる?シャンプーとリンスを買うわ」
「何様なんだよ」
「若木早苗お嬢様よ」
「そういう時だけ親子かよ」

二人は環七とパイパスが交差するあたりのラブホテルに入った。部屋数と室内の広さだけが取り柄の古めかしいラブホだ。
エレベーターを降り暗いホールを歩く。
「冴えないホテルね」
「文句言うな。お前が早く風呂に入りたいと言ったんだろう」
「そうね。ゆっくりお風呂に浸かって、とりあえずビール!」
「まるでムショ帰りだな」
宗介は笑った。

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