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第十夜 あなたを困らせたい。門倉医師の治療 二回目
しおりを挟む出社しても仕事が手に着かなかった。
施術に行く妻のことが気がかりで仕方なかった。午前中が終わっても映画どころかなるべく早く帰宅したい。そう思っていたのに、そういう時に限って役所に提出する書類のチェックを命じられた。しかも不備を発見し、それを急いで修正して会社を出た時にはもう三時を回っていた。マスクだらけの人の波を縫うようにして足早に駅に走り、電車に乗った。
ちょうど紗和が出かけるところに間に合った。
「あ、お帰りなさい。わたしもちょうどいま出掛けるところなの」
なんという恰好、ファッションだろうか。
アップした髪にピチピチの青いタンクトップ。それにピンクの膝上十五センチほどもあると言うのかしかないと言うのかの短いミニスカート。それに革の編み上げのサンダル。爪先にはきれいにペディキュアがされていた。完全に真夏の装い。手には薄いジャケットを携えていた。さすがにブラジャーはしてくれていた。しかしストッキングも履いていない生足で外出しようとする彼女を見るのは初めてかもしれない。まだ二十代前半と言っても十分に通用する、張りのある肌。
「ちょっと二十六には派手すぎるかな・・・」
そう言ってはにかむ仕草がコケティッシュな風味を醸し出していた。そんな紗和も、初めて見た。たった一度だけ、先生の施術を受けただけなのに、それまでの妻に無かったエロティックな魅力が存分に現れてきていた。
「こんな服、・・・持ってたんだ」
「買ったの。事務所に行った帰りに。どう? 似合う?」
ウフ。
紗和はあの蠱惑的な目を残して出掛けて行った。
診療は五時から。一時間で終わるとして七時前には帰ってくるだろう。「もう施療は始まった? 夕食はどうする? 何か作ろうか」
LINEを送ったがいつまで経っても既読はつかなかった。
本を読んでも、ネットを観ても、落ち着かない。洗濯物はもう畳んであったから部屋の掃除をして気を紛らせた。だが、紛らそうと考えるほどに、紗和のあのファッションを思い浮かべてしまう。あんな短いスカートであのリクライニングに座ればショーツが見えてしまうんじゃないか。そんな心配さえした。
キョーコの夫婦も同じだった。そう先生は言った。
キョーコの場合もそんな風に薄着にさせられ、淫靡な施術をされて、いつの間にか先生の性技の虜にされていったのだろうか・・・。
もし、紗和もそんな風にされてしまったら・・・。
もう何度も検討した懸念を再び俎上に上げてこねくり回しているうちに窓の外がやや暗くなった。夏至が近い。陽はまだあるが、時計はもう七時になろうとしていた。
「ただいま」
その声をどれほど待ったことか。
妻は予定通より少し早めに帰宅した。
帰宅したことはしたが、服は変わっていた。ピチピチのプリントTシャツにショートパンツ。そして、薄いジャケットを脱ぐと、ブラジャーを着けていないのが一目瞭然だった。ピチピチのおかげでこんもり盛り上がった乳房の上にはくっきりと二つの突起が見えていたのだ。
しかも、頬や首筋が異常に上気していた。
玄関まで出迎えた譲治に、
「遅くなってごめんね。シャワー浴びたらご飯にするから・・・」
そう言って彼のそばを通り過ぎようとした時、強いコロンに隠れた汗と女の匂いが漂った。
「二皿ぐらい用意しておいたよ」
そう言おうとしたが、声にならなかった。動悸が激しく、脚が震えた。覚悟はしていて、どんなことになるのかの予想もしていたが、いざそれに直面するとこれほど動揺してしまうとは思っていなかった。
自然に脚がバスルームに向かった。洗濯籠の一番上は彼女のTシャツで、それをとり除けるのに一瞬躊躇した。だが、とり除けた。その下にショートパンツと、出る時に着ていたタンクトップとミニがあった。洗濯ネットに入ったブラジャーもある。ショーツは浴室に持って入ったのだろう。紗和はいつもシャワーや風呂のついでに下着を下洗いするからだ。
スカートを手に取った。それは少し湿り気を帯びていた。匂いを嗅ぐまでもなかった。そのスカートやタンクトップからはさっき漂っていた女の匂いが強く発散していたからだ。あまりにショックな展開と結果に頭がくらくらした。
紗和の今までにない食欲に圧倒された。
譲治のレパートリーはあまり豊富ではなく、その晩もいつも彼が作る手抜き料理のグリーンサラダとチーズの盛り合わせに出来合いのデミグラスハンバーグのレトルトパックを茹でたものぐらい。それにバゲットを適当に切っておいた。紗和がそれに白魚を焼いたのを加えたのだが、いつもは肉魚を少ししか摂らず、専らサラダを主に食べていた彼女が自分の分のそれを全て平らげただけでなく、食欲を失っていた譲治が食べ残したものも食べつくし、なんとバゲットを三分の二ほどぺろりと胃の中に収めてしまった。
「なんか、とってもお腹が空いちゃって・・・」
譲治の視線を感じたのか、紗和はそんな風にはにかんだ。
しかもワインのボトルも一人で半分以上開けていた。
譲治は無言でそれらを頬張り、喉に流し込む紗和をただ見ているだけだった。
食事もそこそこに早々にシャワーを浴びて寝室に向かった譲治だったが、気持ちとは裏腹に下半身だけはギンギンに勃起していた。ベッドに寝転がって妻が来るのをただひたすらに待った。もちろん、タオルケットの下は全裸で。
そして、紗和が来た。
妻も、全裸だった。
もちろん、そんな、妻が全裸で家の中を歩き回るなどということは今まで一度もなかった。この家には夫である譲治と妻の紗和。二人きりだ。何の支障もない。だが、あまりの非現実感に戸惑いと恐れすら覚える。見慣れたものとはいえ、紗和の全裸はいつもは明かりを消したごく薄暗い中でしか見たことがないものだった。それが、煌々と灯る寝室の灯りの下で、このようにあからさまに曝け出された様を魅せつけられようとは、予想もしていなかった。
均整の取れた肢体。あのキョーコほどではないが、美しく盛り上がった乳房。ツンと上を向いた乳首。縊れた腰。張りのある腰とキュッと上を向いて締まった尻までの美しいライン。スラリと伸びた脚の先のこれもキュッと締まった足首。そして、赤いペディキュアを施した愛らしい爪先。
嫌が応にも昂奮が高まる。
「お待たせしました」
と、まるでホステスが客に対するように、紗和は言った。
言うなり、譲治の被っていたケットを剥いだ。すでに天を突いているそれが、無防備に曝け出された。
ふふ・・・。
あの、紗和の妖艶な瞳の奥の光が煌めいた。
「こんなに・・・。大きくしちゃって・・・」
ベッドの端に掛け、彼の男根に優しく手を添える紗和。
と、いつの間にか彼女の手には透明なプラスチックのボトルがあった。そのプッシュポンプを押し中の透明な液体を手に受け、伸ばし、男根に擦り付ける。
「ベビーオイル。帰りに買ってきちゃった」
この「夜伽」のために。セックスのためにわざわざそんな用品を準備するというその行為が、ますます譲治を昂らせる。思わず暗い照明に浮かび上がる彼女の白いふくよかな胸に手を伸ばす。優しく揉み上げ、親指で可愛らしい乳首をこね回す。するとそれはたちまち硬さを帯び、立ち上がってくる。
「あ、ん・・・」
その艶めかしい吐息が、ますます譲治の男根に血液を送り込む。たまらずに彼女の手を引き、ベッドに誘う。
「・・・今日のあなた、ゴーイン。なんか、嬉しい・・・」
そう言って紗和はわざわざ結い上げた髪を解き、譲治の隣に這入って来て唇を重ねた。
「好き。あなたが好き・・・」
彼女の柔らかな身体を抱きしめ、背中を、尻を、肩を撫でまわす。さらに昂ぶりを感じた。その間、紗和はずっと男根を撫で、亀頭をこね回し、尿道口を親指でほじるような動きをしてくる。
「聴かせてくれ。今日の施術のこと。早く、早く聴かせてくれ」
うふふ・・・。
明らかに、紗和は愉しんでいた。淫靡な施術を受け、それに嫉妬し男根をいきらせている夫の反応を、愉しんでいた。
「あなたに言い忘れていたことがあるの」
紗和は裸をぴったりと夫の肌に付け、耳元で囁いた。その手は枕の下と譲治の首の舌を通って反対側の耳や髪を愛撫し、もう一方の手はベビーオイルを塗りたくった乳首や男根を代わるがわるに愛でていた。
「・・・何を」
譲治は尋ねた。
「一回目、最後に先生はマッサージしてくれたの。わたしが緊張してたから、って。話している間も、ずっと・・・」
「え?」
驚く夫をそのままに、紗和は続けた。
「肩から、腕、腰から脚。もちろん、服とストッキングの上からだけどね」
紗和は軽く歯を立てて耳たぶを噛んだ。
悪寒のような、ゾクゾクした感覚が譲治を襲った。
「二回目は、続きみたいな感じで、マッサージから始まったの」
紗和は一人、待合室で待った。ほどなく名前を呼ばれ、診察室に向かった。初めて来たときと同様に、先生はドアの前で待っていた。
「こんにちは。どうぞ、お入りください」
落ち着いた物腰で、先生は言った。
重厚なダークブラウンの壁材をふんだんに使った診察室。そこにいるだけで自分が格調高い人間になれるかのように錯覚できる部屋。しかし、どこか落ち着く、その厳かな部屋に通され、リクライニングにかけた。先日と同じホットショコラの意外にあっさりとした甘い口当たりを愉しみ、一息ついてからリクライニングが倒された。
「さあ、始めましょう」
と、先生は言った。
「指示を守ってくれましたね」
先生は指示した通りの軽装、タンクトップにミニスカート姿でリクライニングに横たわり緊張している紗和の髪をゆっくり撫で、ニッコリと囁いた。
「さあ、あなたはどんどんリラックスしてゆきます。だんだん、深く深く。ずーっと心の奥深く、そこは気持ちのいい流れのある、海の中です。美しい魚やイルカたちがあなたに寄って来て、あなたの肌に触れ、あなたと戯れ始めます・・・」
低く囁くような落ち着いた声。あまりな気持ちよさに紗和は目を閉じ、その穏やかな快感に身を委ねた。
先生の手は髪から徐々に耳に触れ、首筋、露出した肩、二の腕、上腕手の甲と移り、脚に伸びた。短いスカートから伸びている太腿に達すると次第に力を籠め始めた。内股に親指を置き掴むように両脚を揉み込んでゆく。
「・・・あ」
たまらずに、紗和はその愛らしい唇から吐息を漏らした。
「いかがですか」
「・・・きもち、いいです・・・」
緊張していた筋肉は次第にほぐれ弛緩していった。手は徐々に下に下がってゆき、ふくらはぎを揉み込み、足首に、アキレス腱を揉み込まれると、マッサージの気持ちよさに似た別の感覚、性的な快楽の萌芽、セクシーな気持ちが芽生えてきているのを知った。
「サンダル、脱がせますよ」
「・・・はい」
編み上げのサンダルが優しく脱ぎ去られ、素足が先生のがっしりした両手に包まれた。親指で足指の付け根や土踏まずを指圧される快感に背筋がゾクゾクした。
「気持ちいいですか。ひとの精神(こころ)とからだのツボの関係に着目したのは古代の中国人ですが、東洋医学も治療に役立つと思い指圧も学んだのです。いかがです? 精神(こころ)が解放されてさらに奥深いリラックスを得られるでしょう」
紗和は答えなかった。答えられなかった。
不思議なことに、わずかに感じた性的な快楽が次第に膨らみ、もうハッキリと快感の姿をしていた。足を掲げられ足指を丹念に指圧されていると、短いスカートの奥が見えてしまう。それすら気にならないほどに、快楽の中に没頭してしまっていた。
「あ・・・、あん・・・」
先生は紗和の反応を知ってか知らずか、もう片方の足も同じように指圧していった。今解されたばかりの足の指が快感に耐えようと開いたり握られたり親指をグッと反らせたりを繰り返していた。全身にはうっすらと汗が浮かび、そこの変化がわかってしまった。
わたし、濡れてる・・・。
それが意識された。急に恥ずかしさを催し、スカートの裾を手で抑えたが、おそらくショーツに滲みているに違いない。その滲みを見られたかもしれないと思うと恥ずかしさに動悸が激しくなり身悶えした。
「あ、あ・・・、あっ・・・」
ようやく足の指圧を終えた先生は両の足首を持ってそれをグッと開いた。
「えっ!?」
身を捩ろうとする紗和に構わず、先生の指は脚の付け根、股間に向かって這いあがって行った。
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