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18 皇帝派 対 反皇帝派

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 む、難しすぎるっ・・・。

 ヤン閣下の話は、かなりの程度に帝国語を話せるようになったぼくにすらも難解過ぎた。

 でも、要はぼくの里と帝国が手を結び、帝国の世話になる代わりに他の部族の帝国への進撃を食い止める。危なくなれば帝国がぼくの里を守ってくれる。そのために、帝国兵がぼくの里のそばに陣地を築いてそこにとどまる。帝国は未だかつてそんなことをしたことはないけれども、これからは考えを変えるべきだ、と閣下は言っている。

 そんな意味だろうと理解した。

「ヤン議員。発言を終わりますか? 」

 議長のアイゼナワー先輩が尋ねた。

「まだ終わりではありませんが、証人の発言の前に質問があれば受けます。反対意見があればこの場で発言を譲ります」

 ヤン閣下が降壇すると議長は議場に向かって言った。

「ただいまの政府側原案について質問、または反対意見を受け付けます」

 すごいな・・・。

 アイゼナワー先輩は6年生だから学年では二つ上になる。でもぼくは本当は5年生に入る歳だから歳ではひとつ上。兄のボリスと同じ歳だ。それなのに、こんな帝国最高の舞台で、大勢の帝国最高の紳士たちを仕切ってる。訓練すればできるのかな。ぼくには到底無理だ・・・。

 そんなことを思っていると、前から三列目の左側らへんで手が上がった。

「帝都ヴィミナリス区選出の傑出せる議員カトー殿。まだ政府案の説明中ですが、質問ですか? それとも反対意見ですか?」

 すると、ヤン閣下と同じような東洋風の顔をした中年の議員が席を立った。黒い髪。背丈はヤン閣下よりも低いっぽい。だけど、顔つきが、なんか、暗い感じの人だ。

「見たところ証人の数が多いように思う。後からまとめて質問をしたりすると混乱する可能性もある。証人ひとりにつき一度の質問、及び政府案の説明が終わった後の意見陳述をしたいのだが」

 アイゼナワー先輩は傍らの役人を見下ろして小声でなにか言葉を交わしていた。たぶんきっとこういう場合はどうしたらいいかを話しあっているのだろう。

 やがて協議? を終えた議長は言った。

「他にこの段階で質問と意見を述べたい議員はおられますか? なければただいまのカトー議員の要請を容れ、証言の度に質問を受けることとしますが、ご意義ありませんか?」

 すると、カトーとかいう人の周りで少なくない数の議員がウンウン、頷いていた。彼の取り巻きというカンジの人たちだろう。その数は少なく見ても数十人はいるように見えた。

「あの野郎、またも混ぜっ返しにでてきおったな・・・」

 となりでビッテンフェルト男爵がつぶやいた。

「あのカトーという野郎は、いつも陛下やヤン閣下に楯突いてくるイヤミなヤツなのだ。昨年チナのスパイとして処刑された海軍のカトーと同族かと思ったらまるっきり無縁なヤツだというが・・・。またぞろいらんことを言い出しおって! どうせなら一緒に銃殺されてしまえばよかったのだっ! どうもヤーパン系というのは気に喰わん! これだから、それがしは議会がキライなのであるっ!」

「証人席! 私語は慎むように。不規則発言は退場を命じますよ!」

 アイゼナワー先輩に注意された男爵は憤懣? を押し殺して居住まいを正し、胸を張った。

 それにしても・・・。

 男爵という爵位を持ち、しかも陸軍准将という高官にある人を、まだ小学生の子供が一言で黙らせる。元老院というのは、まったく、スゴイところだ。

「では、政府側原案の証人、登壇してください」

 ぼくの証人席に座っていた茶色のマントの少将が壇に昇った。

「確認致します。統合参謀本部作戦課のユーリー・リヒテル少将、ですね?」

「はい」

「本議会で嘘や偽りを述べると偽証罪に問われ収監されることもあります。ご存じですね?」

「はい」

「では、後ろを向いて右手をあげて下さい」

 リヒテル少将とかいう人がマントを翻して議長席の方に向かい、その上に掲げられている金色の鷲の紋章に向かって右手を上げた。

「貴方は嘘偽りなき証言をすることを帝国の守護神、カピトリーノの神々に誓いますか?」

「誓います」

「結構です。証言を始めて下さい」

 そして再リヒテル少将とかいう人はふたたび議場に向かい、話しはじめた。

 うわ、あんなコトしなきゃいけないのか・・・。

「男爵、ギショーザイって何ですか? シューカンって?」

 ぼくはできるだけ小声で隣の男爵に訊いた。

「心配せずともよい、ミハイル。練習した通りに話せば、問題はない」

 でも、気になる・・・。

 急にヒタヒタと不安が押し寄せてきた。

 そうこうしているうちに、ヤン閣下の言葉をわかりやすくしてくれるのではなく、さらにムズかしくしてしまったリヒテル少将の証言が終わった。

「カトー議員。ここまでで質問がありますか?」

「結構である」

「では、ヤン議員。発言を続けて下さい」

 もう一度ヤン閣下が壇上に上がった。

「引き続き証人の発言を求めます。

 次は、件(くだん)のヤーノフ殿が越境してきた経緯と、滞在中の行動について。第十三軍団第38連隊副連隊長マーク・ポンテ中佐、同じく第十三軍団所属軍属兼内閣府通訳担当嘱託のアレックス殿、皇帝陛下直属特務部隊マーガレット・サッチャー准尉、以上3名を証人として申請します」

 そしてヤン閣下が降壇すると、今日初めて会った、優しそうな小太りの中佐、ポンテ中佐という人が壇上に上がった。同じように宣誓した後、彼は話しはじめた。彼の話しかたは、茶色のマントの少将よりもだいぶわかりやすかった。

「昨年のチナ戦役中のことです。たしか、宣戦布告から十日余り経った早朝でした。

 小官は第38連隊の副連隊長でありますが、当時は後方の連隊ではなく、麾下の独立偵察大隊の前線司令部に出張っておりました。前線にいる間は毎朝監視哨に昇って北方の敵情を監視するのを日課にしておりました。

 その日の朝も監視哨に昇りしばらく双眼鏡で北方を眺めた後、当番兵に交代して朝食を摂ろうと食堂に行きかけたとき、当番兵から大声で呼び止められました。再び監視硝に昇り北方の国境の川に双眼鏡を向けると、毛皮を着た青い顔の大男が一人、白い布を振りながら川を渡って来るのを発見しました。すぐに最前線の部隊に命じました。絶対に殺さずに捕えよと。なぜならば、彼は剣も帯びておらず、丸っきりの丸腰だったのがよく見えたからです。これは、なにかあるぞ、と。そう思いました」

 と、ポンテ中佐は言った。

「拘束した男を大隊司令部に連れて来させ、そこにいる軍属のアレックスと共に尋問しました。名前はヤーノフといい、すぐ川向うに村のあるシビル族の族長であること、帝国には同盟を結べるかどうか話をしに来た、と話していました。

 すぐに話の内容を後方の上級司令部に伝えました。後に帝都まで護送せよとの指示を受けたので通訳のアレックスを帯同させ、指示通りに送り出しました」

 ポンテ中佐の証言が終わるやいなや、例の左側三列目のトーガの手が上がった。

「カトー議員、発言をどうぞ」

「演壇に上がらずともいいかね? 証人にいちいち降りていただくのもご苦労であるし、いちいち上がるのも面倒だ」

「結構です。よろしければ、そのままご発言ください。証人もそのままで質問に答えて下さい」

 白い石の壁、そして大きなドームの下の巨大なすり鉢の中は声がよく反響した。中でも、高い所、すり鉢の縁らへんの席や傍聴席よりも、底に近ければ近いほど議場全体に声が回る。

 しかも、カトーという人は並外れて声が大きかった。声が大きくて聞き取りやすいということは、元老院の議場では大きな発言力を持つらしい。

 カトー議員は言った。

「ポンテ中佐。

 まず貴官に伺いたいのは、北の国境を無断で越えて来た敵を何故その場で射殺しなかったのかという一事である。私も十年の兵役を経て議員になった。軍紀はよく知っている。その軍紀に照らして、貴官の行いが適切であったかどうか。

 そして、もう一つ。ヤーノフなる野蛮人の処遇について後方の上級司令部に指示をを仰いだということだが、それは第38連隊本部に対してか。連隊は誰の許可を受けて貴官に首都護送の指示を出したのか。適切な入管手続きもなく異国人を帝国領内に入れるは重大な法規違反である。貴官はそれを知っていたのか」

 カトー議員はぼくの父を「野蛮人」と言った。それが帝国のひとたちの普通の考え方なのだと改めて知った。

「お答えします」

 カトー議員の言い方には、子どものぼくにもわかるようなトゲがあったけれど、ポンテ中佐は落ち着いた様子で丁寧に話しはじめた。

「まず最初のご質問についてだが、小官も士官学校を出て軍務に就き二十年は勤務している。ご指摘を受けるまでもなく、軍紀については部下を指導する立場でもあるので特に戦闘に関することと非常時平常時における対敵マニュアルもよく把握している。

 しかも、小官の属する第十三軍団は北方の異民族に対する防衛のために配置されている兵力であり、中でも小官の属する第38連隊の独立偵察大隊は毎年のようにやってくる北からの襲撃に対応する部隊として、帝国陸軍中最も実戦経験豊富な部隊であることもまた、陸軍部内のみならず、政府内においても知らぬものはないほど有名な事実である。

 確かに、軍紀には越境してくる敵の自由行動を許してはならないとあるのは承知しているが、同時に、武器を携帯せず、交渉のための軍使であること明らかである場合には適切に対応し管理下に置いたうえで上級司令部の判断を仰ぐ、との項目もある。

 小官の対応はその軍紀に照らしても適切であったと認識しているし、その後の状況に照らしても正しかったと考えている。

 二番目のご質問に関してだが、小官の上長は第38連隊長たるビューロー大佐であり、帝都護送は大佐の連隊命令によって行ったものであることをここに証言するものである」

「議長、ただいまのポンテ証人の証言に一言付け加えさせていただきたい!」

 ヤン議員は自席から発言を求めた。

「発言を許可します、ヤン議員」

「只今のポンテ証人の証言にある、ヤーノフ氏の首都への護送についての命令は、その最終的な責任が内閣府総裁たる小職にあること。第十三軍団から統合参謀本部を経て内閣府に一報が入り、小職の独断で統合参謀本部に対し要望した結果である。

 以上です」

 そう言ってヤン閣下は壇上のポンテ中佐に向かいコクと頷き証言の労に謝意を示した。

「カトー議員。ポンテ証人への質問は他にありますか」

「・・・ありません」

 演壇を降りたポンテ中佐は自分の席に戻る前にビッテンフェルト男爵に一礼してぼくの前に立ち、優しそうな笑顔でぼくの肩をポンポン、と叩いた。

 オレはキミの味方だ。

 そんな風に、あたたかい眼差しをくれた。

 ポンテ中佐に代わり、アレックスが証言に立った。

「確認ですが、貴方は昨年のレオン事件までは独立偵察大隊のニシダ小隊の奴隷でした。事件後に解放され帝国市民となり、第十三軍団所属の通訳担当軍属として勤務を始められた。間違いないですね?」

 宣誓の後。アイゼナワー先輩からのそんな質問に、アレックスは、

「はい、間違いありません」

 と答えた。

「では、証言を始めて下さい」

「偵察大隊司令部からシュヴァルトバルトシュタットを経て帝都の北駅までずっと彼と、ヤーノフと一緒でした。

 北駅で政府の方に彼を、ヤーノフを引き渡して終わりかと思ったのですが、結局彼が再び国境を越えて彼の里に帰るまで、一か月余りの間、ずっと彼と一緒でした」

 アレックスはそんな風に話しはじめた。

「北駅でそこにおられるサッチャー准尉の出迎えを受け、政府の馬車でホテルまで送ってもらいました。小職も解放されて帝国市民になってからも第十三軍団の駐屯地を離れることなどありませんでしたので、帝都の、しかも豪華なホテルなどは初めてでしたが、ヤーノフは、列車の中でも、ホテルでも、窓を流れる景色や、エレベーターや、シルクのシーツや、石鹼など、ありとあらゆるものに興味を示し、素直に驚き、終始『ウォー!』とか『うわー!』とか、それはもう、うるさいぐらいでした。後からホテルの支配人にたくさんの苦情が来たと聞きました。他の宿泊客の皆さんには大変申し訳なかったと思っております」

 ここで議員たちから大きな笑いが起きた。

 誰だって自分の家族や親を公の場で笑いものにはされたくない。緊張していたぼくだったのだけれど、ここで子供心に急に恥ずかしくなり、下を向いてしまった。アレックス、あんま余計なこと言わないでくれよ。そういう気持ちでいっぱいだった。

 今にして思えば、彼は父をバカにしようと思ってそんなエピソードを披露したのではないと思う。元老院議員の中にシンパシー? そういうのを得ようと、彼なりに気を遣ってくれたのだと思う。その時のぼくにはまだ、彼のそんな真意が、わからなかった。

 でも、彼の次の言葉を聞いて、ぼくは顔を上げた。

「彼が滞在中帝都のいろんなところへ案内しましたが、一番印象に残っているのはバカロレアの図書館に行ったことです。一度だけでなく、彼が滞在中何度か一緒に足を運びました。

 彼は自分の言葉の文字も知りませんでしたし、書けませんでした。同じ民族だった自分もそうでしたが、我々の里には、文字がなかったのです。ましてや彼はまだ帝国語も読めませんでしたが、『兵法が書かれた本を読みたい』というので、何冊か選んで翻訳しながら読み上げてやりました。

 彼が里に帰るとき、軍用の背嚢に何かを一杯に詰め込んでいました。里への土産だと。彼は背嚢を開けて見せてくれました。

 それは、一年や二年では到底使いきれないほどの石鹸でした。土産にするなら酒とかお菓子とか。もっと値の張るいいものがいっぱいあったろうに、と思いました。一体何に使うんだ。もちろん、そう尋ねました。そうしたら、彼は、

『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』だ、と。そう答えたのです。

 その時はその意味がわからなかったのですが、彼が里に帰ってから調べたら、はるか昔の古いシナの兵法書の一節にその言葉があったのです。『兵法36計』という書物でした。

   要は、帝国との同盟を村人に説得するには、まず村人の奥方たちを懐柔し、説得させればよい、と。石鹸は奥方たちへの贈り物だというのです。

   翻訳してやった小職はとうに忘れていたのに、彼はちゃんと覚えていたのです。驚異的な記憶力だと思いました」

 アレックスは証言を終えた。そしてやっぱり、あの冷たい眼のヤーパン人はカラんできた。

 カトー議員は、こう言った。

「アレックス殿。貴殿のお名前は『アレックス』だけ、ですな?」

「そうです」

「Alex 、アーエルエーイックス・・・」

「そうです」

 アレックスの、ちょっと困惑気な顔が気にかかった。

「元の名前は何というのです? その、帝国市民になる前、奴隷になる前の、北の異民族、野蛮人だったころの名前は」

 子供心に、なんと意地の悪い質問だろうか、と思った。そんなこと、いま何の関係があるんだ? と。

 ふと横を見ると男爵もまた、ギリギリと奥歯を噛んでいた。怒りを抑え込んでいるのだ、と思った。

「元は、『アレクサンデル・イリイチ・ペトロフ』という名でした」

 アレックスもまた、淡々と答えた。そんな質問にはもう慣れっこだとでもいうように。

「15の歳に帝国に侵攻する地元のウクライノ族の軍に入り、帝国との戦闘で負傷して囚われ、捕虜となり、奴隷になりました。その後、尊敬する帝国軍人の個人的な奴隷になりました。彼女からは何度も『解放して市民にしてやる』と言われましたが、断りました。

 彼女が反乱を起こして囚われ、仕える先を失くしてしまい、解放していただきました。今は自由民として、一市民として、第十三軍団の軍属の職を得ています」

「『彼女』とは、今廃兵院で無期限労働刑に服しているレオン・ニシダのことですな」

「・・・そうです」

「議長! 親愛なる同僚議員カトー殿の質問の途中ですが、意義があります!」

 横にいる男爵と同じく、ヤン閣下も怒っていた。

「カトー議員。質問の途中ですが、発言を譲りますか?」

 アイゼナワー先輩の問いに、カトーは、

「・・・どうぞ」

 と、応えた。

「ヤン議員の発言を許可します」

「では、申し上げます! ただいまのカトー議員の証人に対する質問は本件とまったく関係がありません! それだけでなく、ことさらに証人の品位を損ない、他の議員の方々に証人に対する悪感情を植え付けようとしています。断じて容認できません。質問をやめるか、質問の内容を変えていただきたい!」

 そうだ、その通りであるっ!

 ヤン閣下の言葉に、男爵も我が意を得たりというように大いに頷いていた。

 皇帝陛下の周りには、比較的貴族出身の議員が多かった。その中に、あのタオの演奏会で会ったブランケンハイム侯爵の顔もあった。今ぼくの隣にいるビッテンフェルト男爵もいつもはそこにいるのだろうし、ヤン閣下のお考えに賛同し、ぼくら北の留学生の下宿先を引き受けてくれている貴族もみんなそっち側にいるのだろうということはカンタンに想像できる。彼らもまた、一様にヤン閣下の言葉に大いに頷いていた。

 証人席のぼくから見ると、ど真ん中の通路を挟んで右が親皇帝派ともいえる議員が集まり、左がカトー議員を中心にした反皇帝派みたいな議員が集まっているように見えた。

 そして、両方の「陣営」が通路を挟んで睨み合ってる・・・。

 貴族対平民、じゃなくて、皇帝派対反皇帝派、みたいな。そういう、構図?

 ぼくの里ならすぐに殴り合いになったり、小競り合いやいくさになっちゃったりするところだ。

 でも帝国では、それを元老院という小さな舞台で、言葉だけで、やっている。そして、その言葉の戦いには、ちゃんとルールがある。レフェリーもいる。そのレフェリー役は、ぼくとあんまり変わらない歳の、子どもなのだ!

 スゴイな・・・。

 帝国のスゴイところは、こういうところにも表れている。

「では、質問を変えます」

 カトー議員はひとつ吐息をつくと、こう続けた。

「アレックス殿。貴殿は、その北の異民族の土地からやってきたヤーノフ殿と約ひと月もの間、文字通り、寝食を共にされていた。そうですな?」

「はい、その通りです」

「では、彼とは多くを語り合われたことでしょうな。今その演壇で語られなかった様々な会話も、そのヤーノフ殿とタップリと交わされたことでしょうな」

「まあ、そうです」

「お互いの故郷のこととか」

「・・・はい。確かに、故郷のことも、話しました」

「アレックス殿ご自身がどのような経緯でこの帝国に捕らわれ、一時は奴隷となったものの、今では市民権を得て職も持たれている。そのような会話も、あったでしょうな?」

「まあ、そうかも知れません。あまり詳しくは覚えていませんが」

「昔話に、花が咲いた。そういうことも、あったでしょうなあ・・・」

「はい、・・・まあ」

「そこで、お主は何度帝国に攻め入ったか、帝国の防備のどこが手厚くて、どこが手薄か、帝国兵の数、アサルトライフルの射程、大砲の数、グラナトヴェルファーの、数・・・。

 昔話の中に、昔のいくさの話が出れば、自然に我が帝国の武備の情報も、出ましょうなあ・・・」

「あ、いや、それは・・・」

 アレックスは碧い顔をさらに青くして、困っていた。

 と。

 ぼくの真ん前の皇帝陛下のサンダルが、

 かかかかかかかかかかかかかかかかかか・・・。

 と、鳴り始めた。

 貧乏ゆすりだ。

 プリンチペス。皇帝陛下は、怒っているように、見えた。
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