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第一章 潜伏
07 闇市と爆弾
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ルメイは這う這うの体で自宅を出た。
辻馬車を何度も替え、そのスブッラの一画に辿り着いた。少し離れたところで辻馬車を捨て、目的地までは辺りを気遣いつつ、特に尾行者がいないかどうかを気にしつつ、歩いた。もちろん、軍服ではなく平服のテュニカにトーガを纏った、そこそこの地位と年齢に相応しい姿で。
ミカサが帰港する度に自宅に帰宅はしていた。今回の帰宅も期待していた息子には会えず、小煩い妻は必ず在宅していた。
「戦争でもないのに何故帰宅が月に一度なの?」
「大佐の俸給ってこの程度なの? これじゃ近所の奥様方とのお付き合いも出来やしないわ」
「貴族の男と結婚すればよかったわ。そしたらこんな惨めな毎日を送らずに済んだのに。次の上陸はいつなの?」
「近所の奥様方持ち回りのパーティーがあるの。順番でホストの役が回ってくるの。夫婦一緒でなければ格好がつかないわ。その間だけ、勤務を代わってもらうことはできないの? 次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?・・・」
妻の詰問の最後はいつも同じだった。
帰宅するなりそうした下らない小言で出迎えられ、いつもそこから逃れるようにして、
「海軍省へ御用があるから」
「転任していった副長の自宅を訪ねたいから」
「病気療養している下士官の家に慰問に行きたいから」
そんな数々の言い訳をしながら席を温める間もなく、自宅のベッドに身を横たえることもなく、家を出て来た。
いつも同じ。全て、ウソだった。ウソを吐かねば、自宅から解放されなかった。
だが、そんないつものルーティンも、今日で終わりだ。
あの、小煩いだけの妻とも。一粒種の息子と別れるのは辛いが、来年にはバカロレアか兵学校を受験する歳になる。いつかはこの父の気持ちをわかってくれるようになるだろうか。
帝国と西の隣国チナとは、帝国が王政から共和制へ、そして帝政へと政体を変革してゆく間、文字通り盾と矛の時代から何度となく干戈を交えてきた。そしてそれはことごとく帝国側の勝利に終わっていた。その度に帝国の領土は西へ拡張してゆき、そこに住んでいたチナ人をも包含し、帝国人にしてきた。
およそ2百年という長い時間。帝国が新たに飲み込んだ土地と民は巨大で広大なものだったが、この「勝って敵を飲み込む」という性向は、古代ローマのそれと同じだと、バカロレアの史学教授が指摘していた。
排除でもなく絶滅でもない。
帝国は征服した西の土地の人々を、北の野蛮人に対すると同じ奴隷にもしなかった。
帝国は「文化と道理」を持つ敵国人は皆、「帝国への忠誠と帝国の言葉と法に従う」条件でならば受け入れて来たのだった。帝国が急激にその版図を広げて来られた理由はまさにそこにある。最低限の忠誠と服属。それさえ甘受すれば圧倒的な自由が、帝国にはあった。
その「かつて帝国に統合されたチナ人」の子孫たちが集まり、様々な品物を鬻ぐ一画がスブッラにあった。ルメイが向かったのはその「チナ人街」だった。
複雑に入り組んだ狭い路地。
カンジ・キャラクターの看板や幟旗横断幕といった、異国情緒を感じさせる類が多すぎて通行が困難なレベルになっている。あまりにも狭すぎて馬車が入れず、それでも商品を山と積んだ人が引く荷車の類が強引に人を押し退けて通ろうとするのでサンダルの爪先を貨車の車輪で轢かれかけ、あちこちで怒号が飛び交ったりしている。スブッラの他の地区に比べて人通りが多いものだから、優雅にトーガなどを着て往来を歩くのが苦痛にさえなってくる。商売に関してはチナ人の右に出るものはないと言われる。誰が言ったか知らないが、この「チナ人街」に来るとそれも大いに頷けるというものだ。
ルメイはトーガを外して小脇に抱え人の波を掻き分け、歩いた。官庁街よりもさらに低地の落ち窪んだような土地だからか、そこに集う大勢の人々の熱気まで籠ってしまっているような錯覚を覚える。すでに大汗をかいていた。このようなごみごみして蒸し暑い雑多な場所は、彼の気質には合わなかった。
しかしこの年の末には、彼は艦隊からも艦船設計の舞台からも遠ざけられて海軍省の閑職に回され、そこで定年退官まで石潰しになる。退官すればあの小煩い貴族の妻との生活に四六時中、死ぬまで幽閉されてしまう。
それは、心の死だ。
今を置いてもうチャンスはない。忌々しい運命と人ごみとを押し退けて、ルメイは前に進まねばならなかった。
そのようにして目当ての骨董屋の店先まで辿り着くころには、もう気力の半分を失っていた。
その店の中は表の喧騒が嘘のようにひっそりとしていた。
薄暗い店内には「トウサンサイ」や「ケイトクチン」といった、ほぼ千年以上前の名器の数々、壺や茶器や花器の逸品。だが恐らくはそれを巧みに模写したのであろう、模造品が怪しげな値札をつけられて陳列されていた。海底サルベージの技術を持たないチナがこのような古代の品々を、しかも本物を、潜在的敵国である帝国に輸出することなどあるわけもなく、ただ、フェイク作品製作の技術の高さには驚嘆を覚える、といったところか。
だが、通りを歩く人々のステイタスからしてこの品々の値札の額とはまったくもって馴染まない。よくこれで商売が成り立つなとは思うが、ある分野の事業の隠れ蓑なのだと思えば、なるほど、ここほど便利のいい場所もない。
店の奥の座敷に、緑のチナ服のハゲ頭の店長と思しき男がいた。
彼と目を合わせるのがここまで来た唯一の目的だった。
ルメイは彼に一つ頷いた。ハゲの店長も。
これで、この店の用は済んだ。この雑多な場所の、理不尽に高額なガラクタを鬻ぐ店を訪問した目的は達した。
早々に店を出た。
後は退庁時刻を過ぎて個人に開放されている官庁街のフォルムにゆくだけだ。
来た時と同じようにチナ人街の雑踏を掻き分け足早に官庁街に向かってゆくと、これもまた雑多で怪しげな商品を並べる店が連なる一画に差し掛かった。
そこに、どこかで見かけたブルネットのボブに碧眼の、見慣れたネイビーブルーのテュニカにトラウザースを着た少女が店の店主と諍っているのに出くわした。
少女は頼りなげではあったが、恰幅のいいそのチナ街の老店主を相手に一歩も退かなかった。
「先月の倍も高いでしょう。負けなさいよ!」
「無理だね。仕入れ値が高いんだ。イヤなら諦めて帰りな」
先日の艦隊運動演習で旗艦のブリッジにいたバカロレアの娘だと思い出した。
少女はどうやらルメイには分らない機械に関係する部品を手に入れようとしているらしい。恐らくは、あの「通信機」に関わるものだろう。少女の足元を見た、いつもの価格に比べて、あまりにも高額な値を吹っかけている店主に抗議をしているのだと見て取れた。スブッラではよく見かける光景ではあった。
「海軍の御用なのよ。この、非国民!」
「海軍の御用ならお前程度の小娘に託すかよ。どうせウソだろう。・・・ったく、近頃の小娘はウソまで虚飾を纏う・・・」
「その女性の言葉はウソではない!」
大事を控えている身で、よせばいいのに、ルメイはその少女の商談に割って入った。
「私は帝国海軍第一艦隊旗艦ミカサの艦長を務めるルメイという者だ。彼女はバカロレアの学生で、今、帝国の国運を左右する重大な使命を帯びている。その使命に使用する物だ。どうか、そこを察して便宜を図ってやってくれないか」
「まあ、艦長じゃないですか!」
「やあ、しばらくだね、えーと・・・」
ルメイは単純に若者の熱意に同感し同情する質だった。しかも彼女は海軍士官の軍服を着ている。しかも彼女は若く、美しかった。不覚にも、彼女の名前を度忘れしてしまってはいたが。
少女は安堵と憧れと畏敬と密やかな敬慕の入り混じったような視線をルメイに向けた。それはまさしく、ルメイの期待したものだった。
雑貨店の、東洋人の老店主は不承不承といった体で、その脱いだトーガを抱えた紳士に譲った。
「ダンナがそう言うなら・・・。こちとらも忠実な帝国の臣民でさあね。・・・いいでしょう。先月と同じ値で・・・」
店主は、部品を入れた紙袋を丁重に小娘に手渡した。
フォルムへの道すがら、図らずも同道することになった娘がルメイに語り掛けた。
「艦長、ありがとうございました。おかげで通信機の修理も捗ります」
「いや、なに」
と、ルメイは応えた。
「私が丁度通りがかってよかった・・・。きみ、名前をなんと言ったかな」
「ヴァインライヒです」
「そうそう。思い出した」
実を言うと、顔以外はあまり関心がなかったので名前も知らなかった。だがもちろんそのことは黙っていた。
「それで、その軍服は?」
「今度の演習でもう一度旗艦に乗ることになり一時的に少尉を拝命しました。わたしと他の2人も、です」
ヴァインライヒと名乗った少女は言った。
「艦長は何をしにチナ街へ・・・」
当然の質問に、ルメイは年甲斐もなく狼狽えた。
「あ、いや・・・。海軍の士官の妻というのはね・・・。家を留守にするのが長いものだから、機嫌を取らねばならないことが多いんだよ。何か買って帰って喜ばせてやろうかと、ね・・・」
咄嗟に上手い嘘が思いつかなかった。
「ああ、なるほど。そういうものなんですね。でも、奥さん思いの男性って、素敵です」
ヴァインライヒはそう言って笑った。
少女のブルネットの下の碧眼が深くなった。
その瞳に魅入っていると久しく忘れていた彼の中の男が頭を擡げた。それを払拭するように、職業意識を持ち出した。
「そういえばきみたちはバカロレアの学生だったね。海軍は学生をこんな機密に係らせているのか。それともきみが特に優秀だということかな」
「わたしも他の2人も院生です。もっとも、わたしはあの2人より年下ですけれど」
「というと?」
「リセに入る時飛び級しているんです。本当はまだ20歳で徴兵途中なのですが、通信機の開発をする条件で特例で徴兵期間を消化させてもらっています」
「そうか・・・。きみも飛び級組か・・・」
ルメイはこの年若い聡明な少女に急に親近感を抱いた。
「もしかして、艦長もですか」
「うん・・・。しかし、この歳になって改めて思うと、飛び級というのも考えものだな」
「どうしてですか」
「あ、いや・・・」
自分自身の思春期を思い出し、まともに同級の友達と遊んだ記憶がないことを言おうとしたのだが、海軍のエリートを自負する自分がこれから旗艦に同乗する年若い女性にマイナスなイメージを与えることを慮り、うっかり懐古したことを後悔した。
「ところで、きみはこのあとどうするね」
「一度大学に帰ってこの部品を基板に取り付けて、それを持参してターラントへ行きます。艦長は?」
「もう少しぶらついてからパラティーノの自宅に戻って、ターラントへ帰る」
「では後ほどミカサで。本当にありがとうございました」
「なに。私の艦のために尽力してくれているのだから、礼には及ばんよ。だが、この辺りは遅くなると治安が悪くなる。早めに大学に戻った方がいい。では私はこれで」
そう。
あの艦は、私のものだ。帝国が私のために建造した艦。私と共に帝国を離れる艦だ。
そのためにも、この計画は是が非でも成功させる。
ルメイは大学に戻るというヴァインライヒを見送りながら、何度となく誓った言葉をもう一度心の中でリフレインし、一人フォルムに向かった。
フォルム、とは。
屋根のある公共の広場、といった場所だ。
官庁街と歓楽街とを隔てるように建てられた、石の回廊。
この地方で豊富に採れる黒御影石と海から鉄道で運ばれてきた大理石を基調にした柱が立ち並ぶ。昼間、そこここで陸海軍を退役した予備役や隠居した商店主などがボランティアで開講する私塾が開かれる場所。日暮れが近づくと繁華街からやってくる良からぬ者たちの集会場となる。一般市民が騒ぎに巻き込まれたり被害に遭わないように常時憲兵隊がパトロールをしたりしているが、効果があるのかないのか・・・。
回廊に暗がりが出来始める。
と、繁華街から、周辺の様々なところから、二人三人とやってくる、影。
影の主たちは、様々だ。
まず、そこで商売を始める者がいる。国家が禁じている危険な薬草などの物品の売買。様々な情報の売り買い。そして、人類最古の商売をする女とそれを買おうとする男。
また、そこで特定の誰かと落ち合い、取引をする者がいる。取引はモノだったり情報だったりする。
そして、そこで何かをする者たちのために、彼らから金を貰って憲兵隊などの見回りを知らせ、彼らを援けるヤクザのような者がいる。
そこで商う者も、商う者を保護する者も互いに顔見知りで、いささか汚い、太陽の下には曝せない絆で結ばれていた。彼らには彼らの掟があり、その掟に反する者は、ヤクザたちのリンチに遭うことになっていた。
ルメイのように絶対に極秘にしなければならない情報のやりとりも、そんな掟によって守られていた。
帝国がまだ共和制を採っていた時代には、こんな地下の人間たちはいなかった。国民皆兵ではなくなり、税を血ではなく金で払うようになってから、つまり、経済というものが世の中を動かし始め、国の事業や軍備を金で賄い編成するようになってから出現して来た者たちだった。経済は、太陽の下でそれを行う者と星灯りの下でしかそれを行えない者とを分けた。
ルメイもまた夜の掟に従い、密かに、厳かにやって来たミカジメ料の集金人に銀貨を握らせ、暗がりに潜み、相手が来るのを待った。
陽が完全に暮れ、四半時もしたころ、
「振り向くな」
背後からの低い男の声で、身体が強張った。もちろん、振り返りなどはしなかった。ルメイは目の前の暗がりを凝視した。
「艦隊の行動予定は」
相手は用件のみを言って来た。
「二日後にターラントを出港。出港3日後にフジヤマ島近海のハコネ岩礁で実弾演習した後、移動標的の実弾訓練をしつつ西進し、10日間の行動予定を終え帰港する」
「あなたの予定は」
「移動標的の実弾訓練中に開始する」
「もう一度、意思を確認したい」
ルメイは片手に抱えたトーガの端を握り締めた。
「変わっていない。私は貴国への亡命を希望する」
「了解した。十分待って、立ち去れ」
「・・・確認だが・・・」
「・・・何か」
「待遇は約束通りにしてくれるのだろうな。それと、捕虜の身の安全の保障も欲しい。そうでなければ、戦争になるかも知れんぞ」
「前に伝えた通りだ。あなたが予定通りに行えば、誰も傷つかない」
「・・・わかった」
背後の気配が去ってからしばらくしてルメイは振り向いた。傍らの物陰から夜の女が春を鬻ぐ声がした。が、それには目もくれず、繁華街にも戻らず、辻馬車を拾うために官庁街へ向かって脇目もふらず歩きだした。
ヤヨイはフォルムにほど近いウリル少将の隠れ家の一つの前に立った。
ちょうど繁華街と官庁街との中間にあり、建物の入り口の両側はレモネードを売る店と若者用の用品店が店子になっている。その店のレモネードを買って、木のカップに挿した竹のストローをチュウチュウしながら、真ん中の扉を叩いた。
すぐにのぞき窓が開き、冷たい二つの目が現れた。目はヤヨイを認めるとすぐにのぞき窓を閉じ、ドアが開いた。
エントランス正面が小さなアトリウムになっているのはこの辺りのどこの建物でも同じ。狭い間口に奥行きの長い、ウナギの寝床のような市街地の建屋で採光を得るために考案された間取りがもう数百年も継承されていた。
その小さなアトリウムのベンチに、リヨン中尉がいた。海軍のではなく、カーキ色の胸の上で黒革がクロスした軍服で。
彼はヤヨイが来たのを知ると立ち上がった。
「首尾はどうだった」
答える代わりに部品の入った紙袋を手渡した。
「印象付けるのに成功した、というところです」
「なんだ。それだけか」
「少なくとも中尉の作戦よりはいいと思います。いきなりチナの工作員をやっつけたりしたら、彼は今回の計画を思いとどまってしまうでしょう。そうすると、閣下の想定していらっしゃる『チナの工作員網の総摘発』は出来なくなってしまいますよ」
二人が会話している間に、一人の下士官が手荷物を運んできた。ヤヨイが旗艦ミカサに乗艦する際の背嚢、そして今履いているのと同じ黒革の短靴。
ヤヨイは、持ち込まれた短靴を取り上げてしげしげと眺めた。いたってごく普通の海軍士官の短靴で、一見して変わったところなど無いように見えるが、踵の部分をちょっとひねると爪先と踵の部分から刃物がジャキーンと飛び出した。
ああ、なるほど。こういう仕掛けか・・・。
「ルメイ艦長に接触した相手の身元は割れたのですか」
「まあね。前回接触してきたのと同じだから。最後の始末の際に、こちらも大掃除する予定だ」
ヤヨイは踵を戻して短靴の刃物を収めるとこう続けた。
「閣下の想定したように、彼らには計画通りに事を運ばせましょう。そのほうがいいです。それが、工作員網の摘発が出来るなら、戦艦の一隻や二隻は、安いものです」
リヨン中尉は、ヤヨイの中に今までなかった、何か芯の強さのようなものが芽生えたのを知った。
「わかった。作戦の実施についてはきみに任せよう。来たまえ。装備一式を説明する」
そうしてヤヨイを伴い、その隠れ家の一室に入って行った。
そして、ヤヨイがミカサに持ち込む背嚢から銀色の金属の箱を取り出して、言った。
「これは、無線通信機だ」
え?
「もしかして、トランジスタ、の?」
帝国の最高学府であるバカロレアの電気学科の自分たちでさえ真空管のがやっとなのに・・・。
「こんな大きな通信機は手のひらに乗るぐらい小さくできることを我々は知っている」
帝都に戻る汽車の中でフェルミ先生が言っていた言葉。それが今、目の前にあるというのだろうか。
「詳しいことはぼくも知らない。出力が小さいから発信は60キロ程度しか届かないが、受信なら、相手の出力次第では地球の裏側からのものでも届くそうだ。
そして、これだ」
次に、リヨン中尉はこれも手のひらに載るぐらいの、同じような銀色の立方体のケースを取り出した。
「これは重いよ」
「なんですか、これ」
「爆弾だ」
涼し気に、中尉は言った。
「これ一発で、この隠れ家の一画が全て吹き飛ぶほどの、強力なものだ」
辻馬車を何度も替え、そのスブッラの一画に辿り着いた。少し離れたところで辻馬車を捨て、目的地までは辺りを気遣いつつ、特に尾行者がいないかどうかを気にしつつ、歩いた。もちろん、軍服ではなく平服のテュニカにトーガを纏った、そこそこの地位と年齢に相応しい姿で。
ミカサが帰港する度に自宅に帰宅はしていた。今回の帰宅も期待していた息子には会えず、小煩い妻は必ず在宅していた。
「戦争でもないのに何故帰宅が月に一度なの?」
「大佐の俸給ってこの程度なの? これじゃ近所の奥様方とのお付き合いも出来やしないわ」
「貴族の男と結婚すればよかったわ。そしたらこんな惨めな毎日を送らずに済んだのに。次の上陸はいつなの?」
「近所の奥様方持ち回りのパーティーがあるの。順番でホストの役が回ってくるの。夫婦一緒でなければ格好がつかないわ。その間だけ、勤務を代わってもらうことはできないの? 次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?」
「次の上陸はいつなの?・・・」
妻の詰問の最後はいつも同じだった。
帰宅するなりそうした下らない小言で出迎えられ、いつもそこから逃れるようにして、
「海軍省へ御用があるから」
「転任していった副長の自宅を訪ねたいから」
「病気療養している下士官の家に慰問に行きたいから」
そんな数々の言い訳をしながら席を温める間もなく、自宅のベッドに身を横たえることもなく、家を出て来た。
いつも同じ。全て、ウソだった。ウソを吐かねば、自宅から解放されなかった。
だが、そんないつものルーティンも、今日で終わりだ。
あの、小煩いだけの妻とも。一粒種の息子と別れるのは辛いが、来年にはバカロレアか兵学校を受験する歳になる。いつかはこの父の気持ちをわかってくれるようになるだろうか。
帝国と西の隣国チナとは、帝国が王政から共和制へ、そして帝政へと政体を変革してゆく間、文字通り盾と矛の時代から何度となく干戈を交えてきた。そしてそれはことごとく帝国側の勝利に終わっていた。その度に帝国の領土は西へ拡張してゆき、そこに住んでいたチナ人をも包含し、帝国人にしてきた。
およそ2百年という長い時間。帝国が新たに飲み込んだ土地と民は巨大で広大なものだったが、この「勝って敵を飲み込む」という性向は、古代ローマのそれと同じだと、バカロレアの史学教授が指摘していた。
排除でもなく絶滅でもない。
帝国は征服した西の土地の人々を、北の野蛮人に対すると同じ奴隷にもしなかった。
帝国は「文化と道理」を持つ敵国人は皆、「帝国への忠誠と帝国の言葉と法に従う」条件でならば受け入れて来たのだった。帝国が急激にその版図を広げて来られた理由はまさにそこにある。最低限の忠誠と服属。それさえ甘受すれば圧倒的な自由が、帝国にはあった。
その「かつて帝国に統合されたチナ人」の子孫たちが集まり、様々な品物を鬻ぐ一画がスブッラにあった。ルメイが向かったのはその「チナ人街」だった。
複雑に入り組んだ狭い路地。
カンジ・キャラクターの看板や幟旗横断幕といった、異国情緒を感じさせる類が多すぎて通行が困難なレベルになっている。あまりにも狭すぎて馬車が入れず、それでも商品を山と積んだ人が引く荷車の類が強引に人を押し退けて通ろうとするのでサンダルの爪先を貨車の車輪で轢かれかけ、あちこちで怒号が飛び交ったりしている。スブッラの他の地区に比べて人通りが多いものだから、優雅にトーガなどを着て往来を歩くのが苦痛にさえなってくる。商売に関してはチナ人の右に出るものはないと言われる。誰が言ったか知らないが、この「チナ人街」に来るとそれも大いに頷けるというものだ。
ルメイはトーガを外して小脇に抱え人の波を掻き分け、歩いた。官庁街よりもさらに低地の落ち窪んだような土地だからか、そこに集う大勢の人々の熱気まで籠ってしまっているような錯覚を覚える。すでに大汗をかいていた。このようなごみごみして蒸し暑い雑多な場所は、彼の気質には合わなかった。
しかしこの年の末には、彼は艦隊からも艦船設計の舞台からも遠ざけられて海軍省の閑職に回され、そこで定年退官まで石潰しになる。退官すればあの小煩い貴族の妻との生活に四六時中、死ぬまで幽閉されてしまう。
それは、心の死だ。
今を置いてもうチャンスはない。忌々しい運命と人ごみとを押し退けて、ルメイは前に進まねばならなかった。
そのようにして目当ての骨董屋の店先まで辿り着くころには、もう気力の半分を失っていた。
その店の中は表の喧騒が嘘のようにひっそりとしていた。
薄暗い店内には「トウサンサイ」や「ケイトクチン」といった、ほぼ千年以上前の名器の数々、壺や茶器や花器の逸品。だが恐らくはそれを巧みに模写したのであろう、模造品が怪しげな値札をつけられて陳列されていた。海底サルベージの技術を持たないチナがこのような古代の品々を、しかも本物を、潜在的敵国である帝国に輸出することなどあるわけもなく、ただ、フェイク作品製作の技術の高さには驚嘆を覚える、といったところか。
だが、通りを歩く人々のステイタスからしてこの品々の値札の額とはまったくもって馴染まない。よくこれで商売が成り立つなとは思うが、ある分野の事業の隠れ蓑なのだと思えば、なるほど、ここほど便利のいい場所もない。
店の奥の座敷に、緑のチナ服のハゲ頭の店長と思しき男がいた。
彼と目を合わせるのがここまで来た唯一の目的だった。
ルメイは彼に一つ頷いた。ハゲの店長も。
これで、この店の用は済んだ。この雑多な場所の、理不尽に高額なガラクタを鬻ぐ店を訪問した目的は達した。
早々に店を出た。
後は退庁時刻を過ぎて個人に開放されている官庁街のフォルムにゆくだけだ。
来た時と同じようにチナ人街の雑踏を掻き分け足早に官庁街に向かってゆくと、これもまた雑多で怪しげな商品を並べる店が連なる一画に差し掛かった。
そこに、どこかで見かけたブルネットのボブに碧眼の、見慣れたネイビーブルーのテュニカにトラウザースを着た少女が店の店主と諍っているのに出くわした。
少女は頼りなげではあったが、恰幅のいいそのチナ街の老店主を相手に一歩も退かなかった。
「先月の倍も高いでしょう。負けなさいよ!」
「無理だね。仕入れ値が高いんだ。イヤなら諦めて帰りな」
先日の艦隊運動演習で旗艦のブリッジにいたバカロレアの娘だと思い出した。
少女はどうやらルメイには分らない機械に関係する部品を手に入れようとしているらしい。恐らくは、あの「通信機」に関わるものだろう。少女の足元を見た、いつもの価格に比べて、あまりにも高額な値を吹っかけている店主に抗議をしているのだと見て取れた。スブッラではよく見かける光景ではあった。
「海軍の御用なのよ。この、非国民!」
「海軍の御用ならお前程度の小娘に託すかよ。どうせウソだろう。・・・ったく、近頃の小娘はウソまで虚飾を纏う・・・」
「その女性の言葉はウソではない!」
大事を控えている身で、よせばいいのに、ルメイはその少女の商談に割って入った。
「私は帝国海軍第一艦隊旗艦ミカサの艦長を務めるルメイという者だ。彼女はバカロレアの学生で、今、帝国の国運を左右する重大な使命を帯びている。その使命に使用する物だ。どうか、そこを察して便宜を図ってやってくれないか」
「まあ、艦長じゃないですか!」
「やあ、しばらくだね、えーと・・・」
ルメイは単純に若者の熱意に同感し同情する質だった。しかも彼女は海軍士官の軍服を着ている。しかも彼女は若く、美しかった。不覚にも、彼女の名前を度忘れしてしまってはいたが。
少女は安堵と憧れと畏敬と密やかな敬慕の入り混じったような視線をルメイに向けた。それはまさしく、ルメイの期待したものだった。
雑貨店の、東洋人の老店主は不承不承といった体で、その脱いだトーガを抱えた紳士に譲った。
「ダンナがそう言うなら・・・。こちとらも忠実な帝国の臣民でさあね。・・・いいでしょう。先月と同じ値で・・・」
店主は、部品を入れた紙袋を丁重に小娘に手渡した。
フォルムへの道すがら、図らずも同道することになった娘がルメイに語り掛けた。
「艦長、ありがとうございました。おかげで通信機の修理も捗ります」
「いや、なに」
と、ルメイは応えた。
「私が丁度通りがかってよかった・・・。きみ、名前をなんと言ったかな」
「ヴァインライヒです」
「そうそう。思い出した」
実を言うと、顔以外はあまり関心がなかったので名前も知らなかった。だがもちろんそのことは黙っていた。
「それで、その軍服は?」
「今度の演習でもう一度旗艦に乗ることになり一時的に少尉を拝命しました。わたしと他の2人も、です」
ヴァインライヒと名乗った少女は言った。
「艦長は何をしにチナ街へ・・・」
当然の質問に、ルメイは年甲斐もなく狼狽えた。
「あ、いや・・・。海軍の士官の妻というのはね・・・。家を留守にするのが長いものだから、機嫌を取らねばならないことが多いんだよ。何か買って帰って喜ばせてやろうかと、ね・・・」
咄嗟に上手い嘘が思いつかなかった。
「ああ、なるほど。そういうものなんですね。でも、奥さん思いの男性って、素敵です」
ヴァインライヒはそう言って笑った。
少女のブルネットの下の碧眼が深くなった。
その瞳に魅入っていると久しく忘れていた彼の中の男が頭を擡げた。それを払拭するように、職業意識を持ち出した。
「そういえばきみたちはバカロレアの学生だったね。海軍は学生をこんな機密に係らせているのか。それともきみが特に優秀だということかな」
「わたしも他の2人も院生です。もっとも、わたしはあの2人より年下ですけれど」
「というと?」
「リセに入る時飛び級しているんです。本当はまだ20歳で徴兵途中なのですが、通信機の開発をする条件で特例で徴兵期間を消化させてもらっています」
「そうか・・・。きみも飛び級組か・・・」
ルメイはこの年若い聡明な少女に急に親近感を抱いた。
「もしかして、艦長もですか」
「うん・・・。しかし、この歳になって改めて思うと、飛び級というのも考えものだな」
「どうしてですか」
「あ、いや・・・」
自分自身の思春期を思い出し、まともに同級の友達と遊んだ記憶がないことを言おうとしたのだが、海軍のエリートを自負する自分がこれから旗艦に同乗する年若い女性にマイナスなイメージを与えることを慮り、うっかり懐古したことを後悔した。
「ところで、きみはこのあとどうするね」
「一度大学に帰ってこの部品を基板に取り付けて、それを持参してターラントへ行きます。艦長は?」
「もう少しぶらついてからパラティーノの自宅に戻って、ターラントへ帰る」
「では後ほどミカサで。本当にありがとうございました」
「なに。私の艦のために尽力してくれているのだから、礼には及ばんよ。だが、この辺りは遅くなると治安が悪くなる。早めに大学に戻った方がいい。では私はこれで」
そう。
あの艦は、私のものだ。帝国が私のために建造した艦。私と共に帝国を離れる艦だ。
そのためにも、この計画は是が非でも成功させる。
ルメイは大学に戻るというヴァインライヒを見送りながら、何度となく誓った言葉をもう一度心の中でリフレインし、一人フォルムに向かった。
フォルム、とは。
屋根のある公共の広場、といった場所だ。
官庁街と歓楽街とを隔てるように建てられた、石の回廊。
この地方で豊富に採れる黒御影石と海から鉄道で運ばれてきた大理石を基調にした柱が立ち並ぶ。昼間、そこここで陸海軍を退役した予備役や隠居した商店主などがボランティアで開講する私塾が開かれる場所。日暮れが近づくと繁華街からやってくる良からぬ者たちの集会場となる。一般市民が騒ぎに巻き込まれたり被害に遭わないように常時憲兵隊がパトロールをしたりしているが、効果があるのかないのか・・・。
回廊に暗がりが出来始める。
と、繁華街から、周辺の様々なところから、二人三人とやってくる、影。
影の主たちは、様々だ。
まず、そこで商売を始める者がいる。国家が禁じている危険な薬草などの物品の売買。様々な情報の売り買い。そして、人類最古の商売をする女とそれを買おうとする男。
また、そこで特定の誰かと落ち合い、取引をする者がいる。取引はモノだったり情報だったりする。
そして、そこで何かをする者たちのために、彼らから金を貰って憲兵隊などの見回りを知らせ、彼らを援けるヤクザのような者がいる。
そこで商う者も、商う者を保護する者も互いに顔見知りで、いささか汚い、太陽の下には曝せない絆で結ばれていた。彼らには彼らの掟があり、その掟に反する者は、ヤクザたちのリンチに遭うことになっていた。
ルメイのように絶対に極秘にしなければならない情報のやりとりも、そんな掟によって守られていた。
帝国がまだ共和制を採っていた時代には、こんな地下の人間たちはいなかった。国民皆兵ではなくなり、税を血ではなく金で払うようになってから、つまり、経済というものが世の中を動かし始め、国の事業や軍備を金で賄い編成するようになってから出現して来た者たちだった。経済は、太陽の下でそれを行う者と星灯りの下でしかそれを行えない者とを分けた。
ルメイもまた夜の掟に従い、密かに、厳かにやって来たミカジメ料の集金人に銀貨を握らせ、暗がりに潜み、相手が来るのを待った。
陽が完全に暮れ、四半時もしたころ、
「振り向くな」
背後からの低い男の声で、身体が強張った。もちろん、振り返りなどはしなかった。ルメイは目の前の暗がりを凝視した。
「艦隊の行動予定は」
相手は用件のみを言って来た。
「二日後にターラントを出港。出港3日後にフジヤマ島近海のハコネ岩礁で実弾演習した後、移動標的の実弾訓練をしつつ西進し、10日間の行動予定を終え帰港する」
「あなたの予定は」
「移動標的の実弾訓練中に開始する」
「もう一度、意思を確認したい」
ルメイは片手に抱えたトーガの端を握り締めた。
「変わっていない。私は貴国への亡命を希望する」
「了解した。十分待って、立ち去れ」
「・・・確認だが・・・」
「・・・何か」
「待遇は約束通りにしてくれるのだろうな。それと、捕虜の身の安全の保障も欲しい。そうでなければ、戦争になるかも知れんぞ」
「前に伝えた通りだ。あなたが予定通りに行えば、誰も傷つかない」
「・・・わかった」
背後の気配が去ってからしばらくしてルメイは振り向いた。傍らの物陰から夜の女が春を鬻ぐ声がした。が、それには目もくれず、繁華街にも戻らず、辻馬車を拾うために官庁街へ向かって脇目もふらず歩きだした。
ヤヨイはフォルムにほど近いウリル少将の隠れ家の一つの前に立った。
ちょうど繁華街と官庁街との中間にあり、建物の入り口の両側はレモネードを売る店と若者用の用品店が店子になっている。その店のレモネードを買って、木のカップに挿した竹のストローをチュウチュウしながら、真ん中の扉を叩いた。
すぐにのぞき窓が開き、冷たい二つの目が現れた。目はヤヨイを認めるとすぐにのぞき窓を閉じ、ドアが開いた。
エントランス正面が小さなアトリウムになっているのはこの辺りのどこの建物でも同じ。狭い間口に奥行きの長い、ウナギの寝床のような市街地の建屋で採光を得るために考案された間取りがもう数百年も継承されていた。
その小さなアトリウムのベンチに、リヨン中尉がいた。海軍のではなく、カーキ色の胸の上で黒革がクロスした軍服で。
彼はヤヨイが来たのを知ると立ち上がった。
「首尾はどうだった」
答える代わりに部品の入った紙袋を手渡した。
「印象付けるのに成功した、というところです」
「なんだ。それだけか」
「少なくとも中尉の作戦よりはいいと思います。いきなりチナの工作員をやっつけたりしたら、彼は今回の計画を思いとどまってしまうでしょう。そうすると、閣下の想定していらっしゃる『チナの工作員網の総摘発』は出来なくなってしまいますよ」
二人が会話している間に、一人の下士官が手荷物を運んできた。ヤヨイが旗艦ミカサに乗艦する際の背嚢、そして今履いているのと同じ黒革の短靴。
ヤヨイは、持ち込まれた短靴を取り上げてしげしげと眺めた。いたってごく普通の海軍士官の短靴で、一見して変わったところなど無いように見えるが、踵の部分をちょっとひねると爪先と踵の部分から刃物がジャキーンと飛び出した。
ああ、なるほど。こういう仕掛けか・・・。
「ルメイ艦長に接触した相手の身元は割れたのですか」
「まあね。前回接触してきたのと同じだから。最後の始末の際に、こちらも大掃除する予定だ」
ヤヨイは踵を戻して短靴の刃物を収めるとこう続けた。
「閣下の想定したように、彼らには計画通りに事を運ばせましょう。そのほうがいいです。それが、工作員網の摘発が出来るなら、戦艦の一隻や二隻は、安いものです」
リヨン中尉は、ヤヨイの中に今までなかった、何か芯の強さのようなものが芽生えたのを知った。
「わかった。作戦の実施についてはきみに任せよう。来たまえ。装備一式を説明する」
そうしてヤヨイを伴い、その隠れ家の一室に入って行った。
そして、ヤヨイがミカサに持ち込む背嚢から銀色の金属の箱を取り出して、言った。
「これは、無線通信機だ」
え?
「もしかして、トランジスタ、の?」
帝国の最高学府であるバカロレアの電気学科の自分たちでさえ真空管のがやっとなのに・・・。
「こんな大きな通信機は手のひらに乗るぐらい小さくできることを我々は知っている」
帝都に戻る汽車の中でフェルミ先生が言っていた言葉。それが今、目の前にあるというのだろうか。
「詳しいことはぼくも知らない。出力が小さいから発信は60キロ程度しか届かないが、受信なら、相手の出力次第では地球の裏側からのものでも届くそうだ。
そして、これだ」
次に、リヨン中尉はこれも手のひらに載るぐらいの、同じような銀色の立方体のケースを取り出した。
「これは重いよ」
「なんですか、これ」
「爆弾だ」
涼し気に、中尉は言った。
「これ一発で、この隠れ家の一画が全て吹き飛ぶほどの、強力なものだ」
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