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4.恋する彼は(リュカ視点)
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しおりを挟むそう言っておもむろに袋を手に取ると、ジェイミーはガシャガシャと音を立てて片付けたガラスの破片を床にばら撒いた。
彼が何をするつもりなのかわからなくて、リュカは戸惑いつつも見守るしかない。
「いい? 見てて」
ジェイミーはどこからともなく木の棒を取り出した。何ということはない、本当に、ただの棒だ。
そして割れたグラスに向かってその棒を振った。その瞬間、散らばった破片がカシャ、カシャ、と微かな音と共に動いた。そして意思を持った生き物かのように、一か所に集まっていく。
驚き過ぎて声が出ない。
「これでいいかな。どう? リュカが気に病むことは何もないんだよ」
信じられない。そこには割れる前の、美しいワイングラスが二客あった。
「リュカ?」
無反応なリュカを訝しく思ったらしいジェイミーが、顔をのぞきこんでくる。グラスを食い入るように見つめていたリュカはハッとしてジェイミーを見た。頭の中がパニックだ。
「い、今の何? 魔法みたいだった!」
「魔法だよ」
事もなげに肯定するジェイミーに、リュカはますます混乱する。
「ジェイミーは魔法使いだったの⁉」
ジェイミーは微かに微笑んで、興奮するリュカを腕の中に閉じ込めた。宥めるように背中をとんとんされる。ペットか何かのようだと思いつつも、ジェイミーの匂いに包まれると気持ちもすこし落ち着いた。リュカはされるがままに、体ごとジェイミーに預けた。
「直そうと思えば、簡単に直せるんだ。だけど、もういいかなって思った。たしかに、あれはエリスが……元恋人が気に入っていたグラスだったよ。未練がましく大事に取ってあったけど、割れちゃったならいい機会だから処分しようと思った」
リュカはジェイミーの腕の中でもぞもぞ動いて、彼の顔を見上げた。リュカの視線に気付いて、ジェイミーは困ったように笑っている。
処分するつもりだった。しかしリュカがあまりに落ち込むから、直してみせたのだろう。
「ごめん」とリュカは言った。
「なんでリュカが謝るんだい」
「ジェイミーの気持ちを疑った。このグラスを見るたび、ちょっと嫌な気持ちになったり、心配になったりしてた」
「謝るのは僕の方だよ。今はたかがグラスだと思って普通に使っていたけど、そのたかがグラスに執着していたのは僕なのに。ごめんよリュカ。きみの気持ちを大事にしていなくて。本当に今好きなのは、大事なのはリュカだけだよ」
「うん。僕も、ジェイミーだけだよ」
どちらともなく唇を合わせると、見つめ合ってふふっと笑う。
ここ最近不安に思っていたことがいとも簡単に解消されてしまった。
心に余裕が生まれると、今度は別のことが気に掛かって仕方がなくなる。リュカは「ちょっとごめん」と言ってジェイミーの腕を抜け出し、件のグラスに飛びついた。
「リュカ?」
せっかくのいい雰囲気を、他でもないリュカに壊されてジェイミーはすこし不服そうだ。怪訝な顔をするジェイミーを放って、リュカは興味津々で元通りになったグラスにペタペタと触れる。
「すごい……本当に、元に戻ってる!」
「そりゃそうだよ。この僕が直したんだから」
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