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4.恋する彼は(リュカ視点)
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しおりを挟むどこか得意げな様子のジェイミーに、思わずリュカの頬が緩む。いつもカッコいいジェイミーだが、ときどきとても可愛い。
「ジェイミーはすごい魔法使いなんだ」
「当然。魔法学校の頃だって首席を誰かに譲ったことはない」
「えっ。きみ、優等生だったの」
リュカは目を丸くした。申し訳ないけれど、品行方正なタイプには見えなかったからだ。それまでの自信満々な様子から一転、ジェイミーはややあって「うん、まあ」と曖昧に頷いた。やはり学業が優秀であっても、素行がよろしいかどうかは別であるらしい。
「さあ、もういいかい? グラスより僕を抱き締めてくれる?」
新品のようにピカピカになったグラスを取り上げられ、リュカはふたたびジェイミーの腕の中に逆戻りをした。ジェイミーの腰に腕を回してハグを返しながら、リュカはたずねた。
「ねえ、どうしてきみのことを好きじゃなくなるかもなんて思ったんだい」
今から何が起きても、僕のこと好きでいてくれる? だなんて、一体何が起きるかと思った。たしかにものすごく――多分、これまで生きてきた中で一番と言えるくらいに驚いた出来事だったかもしれないけれど。
ジェイミーは困ったように微笑んだ。
「人は自分の理解の及ばないものに恐怖や嫌悪を覚える生き物だからさ。歴史上の記録にある魔女狩りの九割は冤罪や宗教的な要因だけど、残りの一割は実際の魔女や魔法使いが犠牲になってるんだよ」
「そんな……」
「うん、わかってるよ。むしろきみはその美しい緑の目をキラキラさせて喜ぶような気がしていたけれどね」
ジェイミーはリュカを抱き締める腕に力を籠めた。
「恋をすると臆病になるらしい。……今度は、絶対に失敗したくないから」
恋をすると臆病になる。それはリュカにもわかる気がした。
グラスを見るたびにもやもやして、そのくせジェイミー本人にその不安をぶつけることもできなかった。恋人だった彼のことを、まだ引きずっていたらと思うと心配で、恋人としての自分に自信が持てない。
それでも、過去の恋愛を失敗だなんて言ってほしくなかった。
ジェイミーとの恋を過去にするつもりは毛頭ないけれど、もしも、万が一、例えばではあるけれど、この恋が過去になってしまったとき、それを失敗だったなんて思われたら、リュカはとても悲しい。
「失敗なんて、思わなくていいんだよ。……その、昔の、ふたりのことは、ふたりにしかわからないけれど。僕とだって、これから長い付き合いになるんだから、ケンカもすると思うし、お互い嫌なところも出てくるかもしれない」
ジェイミーがすかさず「嫌なところなんてあるわけない」と反論したが、リュカが「ちょっと黙ってて」とピシャリとはねつけると大人しく黙った。
「きみにとって、いい思い出ばかりではないかもしれないけど、今のジェイミーを形作ったすべてのものを、僕は愛しく思うよ。だからそんな風に思わないで。そしてこれから僕との付き合いで何があろうと、失敗だなんて言わないで。嫌なことも、辛いこともあるかもしれない。でも……ふたりで乗り越えていけたら、いいなって思う……」
喋りながら、だんだんと何が言いたいのかわからなくなってきて、尻すぼみになっていく。上手く言えなくてごめん、と最後にぼそりと謝ると、ジェイミーは眩しいものを見るような顔でリュカを見つめていた。
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