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花嶺夫婦の日常

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花嶺圭吾とその嫁である零が結婚し、約二ヶ月。
零の朝は早い。
早朝五時に自然と目が覚め、歯を磨いた後軽く朝食をとる。
妊活中であるため、健康を意識しフルーツなどを食べるが、実際のところよく分かっていない。

政府から強制的に相手を選ばれ、その人の子を産むという使命がある。
相手を選ばれる際、
10ページ以上ものアンケートに回答し、
自分に一番合った相手が選び出される。
なので零にとって圭吾は理想の王子様であり、零自信結婚や妊娠、出産には前向きであった。
そして約二ヶ月前、幼い頃からずっと夢見ていた結婚をし、そしてめでたく二人は夫婦となった。

五時半には夫の朝食の準備を始める。
この日はフレンチトーストを作るため、
牛乳と卵、そして三温糖を混ぜた液に食パンを浸し、ラップをかけて冷蔵庫で寝かせる。
三温糖というのも、健康を意識したものだ。
三温糖は見た目が茶色く、塩と間違えることが絶対にないのでとても便利だ。
圭吾は朝6時に起きるので、それまで零は日課である朝の散歩をしに外へ出る。
結婚してすぐの頃、(と言ってもつい二ヶ月前のことだが)朝起きて零がいないことに気がついた圭吾が、血相を変えて外へ探しに来たことがあった。
ちょうど帰宅途中だったため、運良く会うことができた。
それからは、外出の際はメモに残しておくことにしている。
これは、二人で生活する上でとても大事なことであった。

そして6時、囁くように圭吾を起こす。
「圭吾さん、圭吾さん」
「ん…」
朝が弱い圭吾は、よく寝ぼけて零に抱きつく。
「わっちょっと圭吾さん…!」
顔を赤らめ、
「もう!はやく起きてくださいね!」
と寝室から出ていき、恥ずかしさのあまりキッチンで悶えた。
恋愛経験がないため、こういう甘い雰囲気に弱い。
漸く落ち着いたら、圭吾の朝食を作り始める。
その間、圭吾は歯を磨きスーツに着替え、仕事に行く準備をする。
美味しそうなフレンチトーストの匂いに誘われ、
圭吾はやっと目が覚めた。
歯を磨いている間も、スーツを着ている最中も、圭吾はずっと寝ぼけ眼のままだ。
そしてフレンチトーストを焼き終えた零は、
トッピングに粉砂糖と苺を添え、
「はい、できましたよ、召し上がれ」
と理想の妻のように朝食を出す。
圭吾は最初、こういうのって最初だけだよな、なんて思っていたが、零は真面目なところがあり、
「朝ごはんはその日の気分を上げる最高の魔法なんですよ」
と毎日丁寧に美味しそうな朝食を作っている。

7時半になると漸く圭吾が仕事へ行くので、
零はその日の気分でネクタイを選び、結んでやる。
こういうの、奥さんって感じがしてうれしい、などと零の気分もあげている。
「ん、ありがと」
「はい、いってらっしゃい。気をつけて行ってきてくださいね」
ちゅ、と触れる程度のキスをすると、
慣れないのか零は再び顔を赤らめた。

お昼までに掃除と洗濯を済ませ、今日は卵の特売日なので一時にスーパーへ行けるよう昼食は軽めだ。
零は元々あまり食べない人なので、
身体のラインがとても細い。
圭吾は零を抱く時、この細い身体が壊れないよう大事に大事に抱く。

買い物から帰ると夕飯の支度を始める。
今日は鶏もも肉が安かったので、鶏の唐揚げにするつもりだ。
醤油、みりん、料理酒、生姜とニンニクを混ぜ、
塩コショウを振った肉を浸す。
そうして冷蔵庫で寝かせ、
その間に乾いた洗濯物を畳む。
圭吾の服はサイズが大きく、いい匂いがする。
圭吾さん、早く帰ってこないかな。
と思いながら、夫の洗濯物を畳んでいる。
同じ柔軟剤なのに、なんでこんなに違うんだろう…体臭?すきだなあ…。
ひたすら圭吾のことを考えていると、零のスマートフォンがピロン、と鳴った。
すぐにLIMEを開き、圭吾からの連絡に胸を高鳴らせた。
[今日は定時に帰れそう。夕飯なーに?]
やった、今日はいい日だ。
[了解、待ってます。今日は、鶏の唐揚げです。
気をつけて帰ってきてくださいね♪]

圭吾が帰宅すると、部屋には唐揚げのいい匂いが充満している。
「わ、いい匂いがする」
「おかえりなさい、お仕事お疲れ様でした」
ぎゅーっと圭吾が抱きしめ、それに応えるように零が手を回す。
圭吾にとって零は癒しの存在であり、
零と結婚する前の生活に戻れる気がしない。

二人で夕飯を食べながら、その日あったできごとを話したり、予定を伝えたりするのが花嶺家の食卓だ。
「今日は、ちょっと遠くの方までお散歩してきました」
「いいね、なにかいいことはあった?」
「はい、かわいい雑貨屋さんがあったんです。
今度二人で行きませんか?」
歩いて30分くらいの場所に映画館があり、
そっちの方まで行った零は、新しくできた雑貨屋を見つけた。
一人で入っても良かったが、こういうところには圭吾と行くのがたのしいので、
今日は我慢してそのまま帰宅した。
「土日のどっちかで行こうか。そこなら映画も見れるし、ね」
「ありがとうございます、うれしいです」
にこ、と笑った零に、圭吾の心は舞い上がった。
表情にこそ出さない圭吾だが、実際のところ心の中ではいつも小さなうさぎが跳ねまわっている。
「見たい映画はある?そういえば、この前あの映画見たいって言ってたよね」
「あ、そうなんです。今日はそのパンフレットを貰ってきました」
「よし、決まりだね。じゃあ明日はお昼からでかけようか」
「はい!」
ずっとにこにこしている零は、本当に天使のようだ。
ずっとこの笑顔を守りたい、圭吾は毎日そう思っている。

明日は土曜日なので、というのはあまり関係ないが、三日に一度の頻度で二人は愛し合う。
妊活中というのもあるが、新婚なのでお盛んな時期なのだ。
回数を重ねても圭吾の抱き方はずっと優しく、翌朝身体を痛めたことは一度もない。
この日も深夜一時頃まで抱き合い、愛し合い、そして疲れてしまった零はそのまま寝落ちた。
いつものように圭吾は零の身体をぬるま湯で濡らしたガーゼで綺麗に拭き、そして自分は軽くシャワーを浴びて眠りについた。
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