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出会いはある朝突然に!
しおりを挟む夏の風物詩、大文字の送り火から数日たったある日のこと。
俺は、昼過ぎに起きると住居も兼ねてる寺の玄関先には箱が置かれていた。
「フワァー」とまだ寝たりないのか生あくびが出てしまう。
箱の横では「ミーン、ミーン」と鳴いてるはずのセミがひっくり返っていた。
可哀想だと少し思ったので、捕まえて木に戻そうとすると、オシッコを、ひっかけて飛びさっていった。
「ムムっ」
朝からムカつく。
いや、朝というか昼まわっている。
てか、なんと自堕落な日々を過ごしているのだろうか。
歴史だけはある寺の住職だというのに……。
まぁ、だらしない生活は最高なので改めようなんて気はさらさらないのだけど。
申し遅れたが俺の名前は山城やましろ 無文むもん
生まれも育ちも京都で歳は28歳。
職業は親から受け継いだ寺で坊さんをしている。
つまり住職ってわけだ。
ちなみに寺の名前は宝福寺ほうふくじという。
性格は楽観的で、常に「なんとかなるさ」と思っている。あと怖いもの知らずで悪くいえば無鉄砲。
坊さんとしては未熟だと自覚はしているが女子供には優しい男だと思ってる。
ちなみに母親は幼い時に、父親は3年前に亡くなっていて、独身を貫いてるので天涯孤独だった。
京都のお寺で住職っていえば聞こえは大変よろしいわけだが、現実的に羨ましいのは観光寺院なわけで、うちみたいな誇れる庭があるわけでもなく国宝や重要文化財などのお宝など皆無だから廃寺寸前だったりする。
現にちゃらんぽらんな性格も手伝ってか、寺は草木ボーボー荒れ放題で近所からは【お化けゴミ寺】なんて陰口を言われているし、近所のガキが空き缶とかゴミを投げ入れているのを最近知った。
先日も境内で丑三つ時に境内の木に藁人形打ち付けていたオバハンと喧嘩になり警察沙汰になったのは、かなりの武勇伝。
しかし、今日も「くそ暑っ」と思いながら無造作に置かれた箱を眺めて見る。
よくよく見ると箱は意外と大きく長さは60センチほどの長方形をしていて色は黒に近い茶色かな。
周囲には六角形をベースにして立体的な幾何学模様の装飾がされて魔法陣を連想させるものだった。
軽く表面を触って見ると、黒い部分は焦げていて手にすすがついてしまった。
はっきり言って汚い箱だ。
そのまま、大型ゴミに出して捨ててしまおうかとも思ったが一応は寺の住職をしてるので世間の目が気になる。
それに箱の中身も好奇心から気になったりもするし、もしかしたら金銀財宝ザックザックってこともあるかも。
いや、ないだらうけどね。
とにかく、寺の本堂に入れて確かめることにした。
箱は想像したよりは軽く難なく運ぶことが出来た。
寝食を共にしている本堂の中は炎天下の外とは違い厳かな雰囲気もあってかひんやりと涼しい。
額にうっすらとかいた汗もひくってものだ。
本堂というのはお寺でいうと、ご本尊様を安置してる寺で一番大切な場所なのだけど、我が寺の場合一番広くて風通しが良い。だから、たいてい俺はこの場所で一日を過ごしている。
作られた年代や製作者不明の観音菩薩の前で畳を汚さないように風呂敷を広げて箱を置いた。
どうでもいいだろうけど、俺はこの菩薩様の優しい眼差しが好きだったりする。
仏像らしからぬ彫りの深いお顔立ちに髪飾りなど施されたものが気品を感じられ仏像というより女神像に近いフォルムをしている。菩薩様を見ていると引き込まれそうな感覚におちいる時もあるから不思議なものだ。
それで、肝心の箱、箱、木箱。
本堂まで重くはないが運んできたのだ。
こうなると中身が、早くみたい。
横側面の中央についてる取っ手に指を入れ上に向かって押し上げてみた。元々、その部分には簡単に開けられないように鍵穴があったような跡が残っていたのだが壊れていて錠前の意味をなしていない。
両端についてる蝶番が後方に傾くと箱はオルゴールや化粧箱のように「カチッ、ゴト」と低い音かして開いた。
長い事開けられてなかったようで、開けた瞬間にホコリが部屋の窓から差し込む陽の光に照らされ本堂内に舞い上がっていた。
思わず顔を背けてしまう状態だ。
俺はホコリが収まってからいよいよ箱の中を覗いた。
中には少女の姿をした人形が入っていた。
人形といっても見た目から日本人形の類ではないのは一目でわかる。
顔立ちや髪の色、着ている衣装の感じからして西洋のアンティークドールだと思った。
少し埃で顔は汚れていたが、小顔の割にはブラウン色した瞳が大きく鼻も高い。
丸い輪郭からか、あどけない表情をしていて美人というより可愛らしい印象のドールだ。
敢えて例えるならアニメやゲームのヒロインって感じかな。
箱から人形を取り出すとブロンド色の髪を隠すように、つばの広い帽子を被っていて、帽子には白色の大きなリボンがついている。
着ている衣装は繊細なレースが縫い込まれたピンク色のワンピースで腰から下にかけて円形で扇上にフワフワと広がっている。ワンピースからは長い手足がエレガントに見えた。
しかも、胸元には青く輝くルビーのようなペンダントまでしてるじゃあーりませんか。
いやはや、箱の中身は予想以上にお宝を感じられる代物で置いてあったものだとしても、俺は興奮を覚えていた。
たぶんイミテーションだろうが、この宝石めいたペンダントが気になり胸元に触れてみた。
その時である。
「コラッ、変態!! どこ触ってんだよ。このスケベ」
と耳元に声が聞こえてきた。
「ま、まさかァァァー」
本堂には俺とこのアンティーク人形しかいない。
いま、確かに文句を言ったのわ……。
この人形なのかぁーー。
すると、また……。
「人形じゃないよ あたしは」
俺はびっくりして思わず手にしていた人形を落としてしまう。
「痛っっ、大事に扱えっ」
「や、や、やっぱり話したのはこの人形ダァー」
先程までは箱の中身が高価な西洋アンティーク人形でラッキー。あわよくば自分のものにしてメルカリにでも出品してやろうかと思っていたのに。
今は、突然起こった怪奇現象で背筋に寒気が「ゾクっ」と走ってる具合。
どおりで、寺の玄関先に放置してたわけだ。
こ、この人形は、持ち主の手に余るからこの寺に捨てられた……。
の、呪いの人形なんじゃないのかよーー。
「おっさん、何ぐちゃぐちゃとアホなこと考えてるんだよ。あたしは呪いとかじゃなくて封印されてるだけ」
なんなんだ、この人形。
俺の心の中で思ってることも分かってるじゃないか、しかも口が悪い。
なんとも質の悪い【呪われた人形】じゃないかよ。
俺は恐る恐る、落とした人形に目をやると、そいつは「カタカタ」と小刻みに揺れていた。
や、やっぱり声を出してるのはこの人形。
このままではヤバい。
「誰かなんとかしてーー」
本能的に神頼みじゃないが、俺はご本尊である観音菩薩様に救いを求めて目をやった。
観音様はいつものように優しい眼差しでこちらを見てくれていた。
のだが・・・
御身が光輝いていて眩しい。
なんじゃ、こりゃ。
「ねぇ。ねぇ、あたしの封印といてよ!!」
また、声が聞こえてくる。
封印ってなんだ。
俺は寺の坊さんだけど、お祓いの類は知らないから。
だから封印解くとか無理ゲーですよ。
声に出したか、心で言ったのか覚えてないがそう応えていた。
すると、今度は人形とは違う声が聞こえてきた。
「箱に書いてある、この子の名前を呼んであげなさい」
声質は語りかけるような穏やかで温い感じのものだった。
この声はきっと観音様だと俺は察した。
箱、箱に書いてある名前。
箱を持ち上げ空の中身を覗いて文字を探した。
箱の底の側面に崩れたような字体ではあるがカタカタで文字が書かれている。
文字には、ロリミカ・サマンサローズ・マーガスと書いてある。
きっと、これがこの人形の名前なんだ。
俺は、【ロリミカ・サマンサローズ・マーガス】と音読してみた、
「ありがとう」
そう微かな声が聞こえた途端に、本堂内がまばゆい光に包まれていった。高い天井からは七色の虹のような輝きが降り注ぎ、まるでメルヘンな世界に一変していく。
そして、虹の後に花びらが舞い散ると、畳の人形が畳からクルクルとアクロバットのように回転しながら宙に浮くとフラッシュのような眩しい光に包まれた瞬間に人形が少女の姿に変わり畳の上に着地していた。
少女は畳の上で人形の時には持っていなかったステッキを新体操の選手のように器用に回しながらポーズを取ると名乗りをあげた。
「我が名はアレクサンドリアの新星、メーガス三姉妹の三女ロリミカただいま見参!」
俺はこの光景を目の当たりにして、心底こんなものを本堂に持ち込んだ事をつくづく後悔したのだった。
だって、この少女からは嫌な予感しかしないからだ。
でも、登場してからも堂内を無邪気にステッキを振り回し踊る姿は憎めそうもなかったりした。
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