完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

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第28話『俺たちはまだ終わってない! 非公式プレゼン作戦

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 配膳室爆破の余波が、監獄島ガランツァを覆っていた。

 煤けた天井、焦げた壁、まだ燻る匂いが辺りに充満し、囚人も看守も沈黙を余儀なくされていた。



 視察団の到着は刻一刻と迫っている。

 再建は到底間に合わない。施設の信用が崩れるのは必至。

 だが、それでも──俺たちは諦めなかった。



「非公式でも構わない。やれることを全部やる」

 俺──眞嶋隼人は決意した。



 焼け焦げた配膳室の外、煉瓦の床に座り込みながら、メルクとベルン、ナナ、ジリアたちが肩を寄せ合うように集まっていた。

 焦げた木材の匂いと、崩れた天井の隙間から差し込む夕陽が、どこか物悲しかった。



「視察団は正規の工程と施設案内を見に来る。それが崩れた今、もう形式には意味がない」

「なら、俺たちが直接“生きてる現場”を見せるしかないってことか」ベルンが低く言った。



「……それ、いいかもしれない」

 ジリアが顎に手を添えてうなずいた。「台本も演出も抜きで、本気の現場をさらけ出す。逆にそれしか手はない」



「でも、どこで? 調理場はもう……」とメルクが不安げに声を落とした。

「雑用室だ」俺は即答した。「更生の象徴だろ。掃除班も、修繕班も、パン工房も……全部、あそこから始まった」



「ナナ、カラムと話す機会があったら、俺たちの実地活動の様子を見てほしいって伝えてくれ」

「了解。裏から説得してみる。『見せ物じゃない』って言われそうだけど……」

「それでも、伝える価値はある」



 作戦は決まった。誰もがそれを支える覚悟を決めていた。



 午後、視察団の一行が正門をくぐる頃、俺たちは雑用室を中心に手分けして準備を始めていた。



 パン工房ではメルクとフライが、粉まみれになりながら急ごしらえの生地を捏ねていた。

「メルク、イースト足りる?」「ギリギリ。なんとかなるよ……!」

 焦りながらも、手つきは確かだった。



 スープ鍋の前では、ベルンが油煙と闘いながら調理を再現し、傍らではガイとタゴスがせっせと床を磨いていた。

 ジリアは黒板に今月の改善報告を手書きで整理し、資料の束を机の上に並べた。



 雑用室全体が、まるで小さな工房のように熱気に包まれ、汗を流しながらも皆が一丸となっていた。



 やがて、視察団の先頭に立つカラム・ラングリスが、予想外の“視察ルート”へ誘導された。

 ナナが迎えに出ると、視察団の目が一斉に細くなる。



「……ここが?」

「はい。正式な資料とは異なりますが、どうしてもお見せしたかった現場です」



 ナナの口調は丁寧だが毅然としていた。

 その目には、この場所への誇りが滲んでいた。



 雑用室の中──整然と並んだ机、調理器具の傍らで真剣な眼差しを向ける囚人たち。

 彼らの動きには一切の無駄がなく、混乱など微塵もなかった。



 パンを焼くメルクは、振り返らずに言った。

「……俺たちは、やり直せるって信じてる。こんな場所でも、ちゃんと見てくれる人がいるって知れたから」



 ジリアが眼鏡を直し、判定資料を提出しながら語った。

「規律違反件数は三割減。作業完遂率は前月比で20%向上。暴力事案も減少傾向です」



 ベルンは、鍋のフタを閉じながら一言だけ呟いた。

「……ここが、俺たちの居場所だ」



 その言葉に、誰もが手を止めた。

 静寂が支配するなか、視察団のカラムが一歩だけ前に出た。



 彼の目は冷たくも鋭く、けれどどこか“探している”ような色をしていた。



 カラム・ラングリス──帝国矯正省の査察担当官。

 その眼差しの奥にあるのは、“数字”だけではなく、“制度の本質”を見極めようとする信念だった。

 彼は一見すると冷徹な官僚だが、過去に名もなき更生施設を一つ、帝国モデルに引き上げた実績を持つ男でもある。

 現場の声を重視し、欺瞞やごまかしを極端に嫌う。



 彼が今回、ガランツァに来た目的も単なる帳簿や統計の確認ではなく、「本当に更生が機能しているか」を見極めるためだった。

 見るべきポイントは明確だ──囚人たちの目に宿る意志、規律と自発性の両立、そして看守との関係性。



 帝国そのものも、更生という概念に対しては強い期待と懐疑の両面を抱いている。

 過去に更生を謳った施設が凶悪犯の脱走を許し、帝都内で事件を起こした例もあるため、監獄制度における改革には慎重な立場だ。

 カラムはまさにその“信頼を取り戻すための目”として派遣されており、数字と現場の温度差を何より警戒している。



 視察の最中、カラムは囚人一人ひとりに声をかけてまわった。

「……ここでの暮らしに、変化はあったか?」

「誰かに叱責された時、お前はどう行動した?」

「この環境が、やり直しに値すると思うか?」

 問いは淡々としていたが、答えには真剣に耳を傾けていた。



 囚人たちも、当初は緊張していたが、次第に自分の言葉で語るようになっていった。

「……最初は地獄だと思ってた。でも、掃除当番が終わるころには、誰かと会話してたんだ」

「俺なんかにパン作り任せてくれた。信じられなかった」



 カラムの視線は時に鋭く、時に穏やかに、すべてを見通すようだった。



「──十分です」

 カラムはそう言うと、静かに踵を返した。



 視察団の他の役人たちも、一言も発することなくその後に続いた。



 俺たちは、胸に不安を抱えたまま見送った。



 だが確かに、伝えたのだ。

 形式ではなく、魂で──。



 非公式のプレゼンが、視察団の心をどこまで動かしたのかは、まだ分からない。

 けれど俺たちは、やりきった。



 終わってなどいない。

 ここからが、始まりだった。
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