完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

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第33話『石の眠り人──勇者レオンとの邂逅』

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 魔物たちとの戦闘を終えた俺たちは、息を整えながら再び“中央空間”へと視線を戻した。

 そこはまるで聖域のような静寂に包まれていた。だが、血の臭いと焦げた魔素の残滓が空気に漂っている。



 さきほどの戦闘は苛烈を極めた。

 ダンジョンの通路を進む中、最初に襲いかかってきたのは壁に張りついたスライムだった。ねっとりとした粘液を放ち、音もなく仲間の足元に忍び寄るその様子に、俺たちは背筋を凍らせた。



「足元だッ、跳べ!」

 俺の声に即座に反応したナナが、反射的に後ろへ跳躍。

 続けてベルンが鉄棍を振り下ろし、スライムを叩き潰す。

「……まだ来るぞ」

 そう言ったリヴェルの言葉と同時に、通路の奥から牙を剥いたウルフ型の魔物が飛び出してきた。



 かつて野生の犬だった個体が魔物化したウルフは、目を赤く光らせ、狂ったようにこちらへ突進してくる。

「こっちだ、ベルン、構えろ!」

「了解!」

 ベルンが盾役として前へ出て、俺がその横から警棒で横腹を狙う。



 ナナは背後から回復魔法を支えつつ、教わったばかりの〈ヒールライト〉をリヴェルにかけていた。

「少しは役に立ってる?」

「十分だ。……成長してるぞ、ナナ」



 数分にも思える激戦の末、魔物たちはようやく沈黙した。

 床に転がるスライムの残骸と、ウルフの黒焦げた毛皮。



 俺たちは肩で息をしながら、それでも再び進み出す。

 目的地──中央空間は、すぐそこだった。



 中央空間へ続く最後の回廊では、闇の中にうごめく気配を感じた。

 次の瞬間、朽ちた鎧をまとったスケルトンが現れた。



「気をつけろ……魔素をまとってる!」



 その骸骨兵士は、驚くほど素早く間合いを詰めてくる。

 しかも、右手には……警棒?



「……あれ……まさか……レンさん!?」

 ナナが震える声で叫んだ。



 レン──数年前、地下の巡回任務中に消息を絶った元看守だ。

 骸と化した彼は、かつての制服を破った残骸をまとい、迷いなく警棒を振り上げてきた。



「くそっ……俺が行く!」

 ベルンが突進し、盾でその攻撃を受け止める。



「ナナ、後方支援!」

「うん、〈ヒールライト〉っ!」



 俺はベルンの後ろをすり抜け、レンの背後を取る。

 背骨に一撃、二撃、三撃──警棒を全力で振り下ろした。



 最期、彼の赤く光った目がふと揺らいだ気がした。



 崩れ落ちた骸に、ナナが祈りを捧げる。

「どうか、安らかに……」



 魔物が人の姿や記憶を模すとしたら、これは地獄だ。



 その先にあったのが“中央空間”──ダンジョンの最奥だった。



 空間の中央にあったのは、巨大な石像。

 それはただの彫刻ではなかった。近づくほどに、得体の知れない圧が全身を包む。



「……これは、封印術式……かなり古い型だ」

 リヴェルが慎重に手をかざすと、石像の表面に淡く輝く魔法陣が浮かび上がった。



「これは……生命維持の魔法と……封印呪詛の複合術式。自分で……自分を封じたのか?」



「……ってことは、ここに眠ってるのが……伝説の勇者、レオン=グレイアッシュ……?」

 ナナの声が震えていた。



 俺も、喉の奥が乾くような感覚を覚えながら頷いた。



 レオン。

 数十年前、帝国と世界を救ったと言われる、剣と魔法を極めた“勇者”。

 だが彼の消息は、魔王討伐の直後から途絶え、誰もその後を知らなかった。



「まさか……監獄島の地下で、こんな形で生き延びていたなんて……」

 ジリアが低く呟いた。



 石像──いや、封印の中の彼は、まだ若々しい姿を保っていた。

 短く刈られた銀灰色の髪。鋭い輪郭。意志の強さを感じさせる眉。

 だが口元は僅かに吊り上がり、どこか挑発的な印象を残している。



「すごいな……これが、“勇者”の気配か」

 ベルンが低く唸るように言った。



 リヴェルが再び術式の分析を始めた。

「彼は、自分の魔力を使って石化を維持している。これ、ただの眠りじゃない。もし魔力供給が切れたら、命も消える可能性が高い」



「ってことは……無理に解くのは危険ってことか?」

 ルークが眉をひそめる。



 俺は頷きながら、懐から地図と古文書を取り出した。

 今回の探索の端緒となった文書には、こう記されていた──



 『伝説の咎人、封ぜられし地にて眠る』



「……咎人、か」

 その言葉が、胸の奥で引っかかった。



 どうして勇者が、こんな監獄に?

 どうして自らを封印した?



 そして──俺たちの背後には、帝都から戻ってきた査察官クルスの姿があった。



 帝都は魔物の大襲撃により混乱に陥り、クルスや所長ガルバは命からがら逃げ帰ってきた。



 この“石の眠り人”を目覚めさせるかどうか。

 その判断は──俺たちに委ねられていた。



 彼が起きれば、何を語るのか。

 彼が起きれば、どんな世界を見るのか。



 俺たちはまだ──その目覚めを選ぶことができなかった。



 だがこの出会いが、すべての運命を変える引き金になる。



 確信のような直感が、胸を打っていた。



 ──封印された伝説。

 ──石の眠り人、レオンとの邂逅。



 俺たちの運命は、すでに動き始めているのだ。

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