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第39話『帝都の影──“新たな魔王”の噂』
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ダンジョンから戻った翌朝、俺はクルスと所長室で向き合っていた。窓の外は曇天で、どこか落ち着かない風が吹きつけている。
「確認しておきたい。お前たちが倒したのは、あくまで“魔物の侵入口”を塞いだだけにすぎない」
クルスの口調は冷静だが、その目はまるで剣のように鋭い。テーブル越しに彼と対峙するたび、言葉の一つひとつが心を試されているような気分になる。
「分かってます。だけど、あの地下で──明らかに“指示系統”のある魔物の動きを見ました。偶発的な侵食じゃない。計画された侵略です」
俺の言葉に重ねるように、後ろの壁にもたれていたレオンが声を上げる。
「魔物の背後に、知性を持つ“何か”がいる。あの骸骨騎士グレバルドを見ただろ? ただのアンデッドじゃなかった。誰かの強力な意思で召喚され、操られていた」
クルスはしばし沈黙した後、机の引き出しから古びた羊皮紙を取り出した。それを俺たちに差し出す。
「……これは帝都で回収された“魔族文書”の断片だ。そこにはこう記されている──“かつて魔王が滅びし地に、再び影が蘇らん。導く者は“王の意志”を継ぎしもの”と」
「“王の意志”……つまり、新たな魔王、ってことか?」
「仮説だがな。だが、帝都が襲われた時の連携、戦術、封印の解放──偶然にしては出来すぎている。何者かの手によって仕組まれた可能性が高い」
俺は息を呑み、視線をレオンに向けた。
「新たな魔王の候補に、心当たりはあるか?」
レオンは眉をひそめ、拳を握りしめる。
「……ひとり、いる。かつての戦いの終わり、魔王の瘴気を浴びて、正気を失った魔導士──アルセリス。あいつなら魔王の力を吸収し、再構築するだけの魔力と知性がある」
その名前が出た瞬間、クルスの表情がわずかに揺れた。
「記録上、アルセリスは“行方不明”。死体も確認されず、痕跡も残さなかった。……まさか、あの日からずっと水面下で動いていたと?」
ナナが不安そうに口を開く。
「じゃあ、今回帝都を襲ったのって、もしかして……アルセリスが黒幕?」
俺はナナの肩に手を置いて、首を横に振った。
「確証はない。だが、魔物の動きと魔力の流れ──確かに“あいつの魔導の癖”を感じた」
室内には重い沈黙が漂った。
やがて、レオンが壁に拳を打ちつけ、低く唸るように言った。
「今度こそ、俺がケリをつける。あの影を狩るのは──この手だ」
窓の外、曇天の隙間から一筋の光が差し込む。
監獄島ガランツァ──かつて世界のはずれと呼ばれたこの場所は、今や新たな戦の渦中にある。
“王の意志”を継ぐ者。それが魔導士アルセリスであるならば、俺たちは過去の遺産ではなく、未来を懸けた戦いに挑むことになる。
そしてこの時、俺たちはまだ知らなかった。
“新たなる魔王”が、すでに次なる手を打ち始めていたことを──。
なお、魔物の侵入口が監獄の地下にあった理由について、古文書によれば、かつてこの島には封印の祭壇が築かれていたという。監獄施設が建てられるより以前、魔王討伐後の“危険遺構”として帝国が隠蔽した痕跡がある。つまり、監獄そのものが最初から“封印の蓋”だった──。
アルセリスは、かつてレオンと共に戦った最強の魔導士のひとりであり、その実力は戦場で数百の魔物を一夜にして灰にするほどだった。冷静沈着で知的、他者に対しては寡黙だが、魔法に関しては誰よりも情熱的で理論に厳しかった。
しかし、魔王を討伐した直後、アルセリスはその遺骸から発せられた“悪の魔素”に触れてしまった。それにより彼の中には魔王の意思の一部が流れ込んだとされ、以降、徐々に変質していった。やがて彼は姿を消し、消息を絶った。
レオンはかつて、その背中に追いつこうと全力で走った仲間の裏切りに、今も割り切れぬ思いを抱えていた。だが、アルセリスの強さも狂気も、誰より知っているからこそ、今回の事態に最も強い危機感を持っていたのだった。
なお、魔物に“指示系統”が存在する場合、単なる暴走とは異なり、戦略的な行動が可能となる。戦闘では連携が生まれ、無駄のない襲撃が展開される。拠点制圧や封印の解除といった高度な作戦も実行可能となり、魔物の脅威は飛躍的に増す。今回の帝都襲撃でも、そうした知性ある指揮系統の存在が疑われている。
「確認しておきたい。お前たちが倒したのは、あくまで“魔物の侵入口”を塞いだだけにすぎない」
クルスの口調は冷静だが、その目はまるで剣のように鋭い。テーブル越しに彼と対峙するたび、言葉の一つひとつが心を試されているような気分になる。
「分かってます。だけど、あの地下で──明らかに“指示系統”のある魔物の動きを見ました。偶発的な侵食じゃない。計画された侵略です」
俺の言葉に重ねるように、後ろの壁にもたれていたレオンが声を上げる。
「魔物の背後に、知性を持つ“何か”がいる。あの骸骨騎士グレバルドを見ただろ? ただのアンデッドじゃなかった。誰かの強力な意思で召喚され、操られていた」
クルスはしばし沈黙した後、机の引き出しから古びた羊皮紙を取り出した。それを俺たちに差し出す。
「……これは帝都で回収された“魔族文書”の断片だ。そこにはこう記されている──“かつて魔王が滅びし地に、再び影が蘇らん。導く者は“王の意志”を継ぎしもの”と」
「“王の意志”……つまり、新たな魔王、ってことか?」
「仮説だがな。だが、帝都が襲われた時の連携、戦術、封印の解放──偶然にしては出来すぎている。何者かの手によって仕組まれた可能性が高い」
俺は息を呑み、視線をレオンに向けた。
「新たな魔王の候補に、心当たりはあるか?」
レオンは眉をひそめ、拳を握りしめる。
「……ひとり、いる。かつての戦いの終わり、魔王の瘴気を浴びて、正気を失った魔導士──アルセリス。あいつなら魔王の力を吸収し、再構築するだけの魔力と知性がある」
その名前が出た瞬間、クルスの表情がわずかに揺れた。
「記録上、アルセリスは“行方不明”。死体も確認されず、痕跡も残さなかった。……まさか、あの日からずっと水面下で動いていたと?」
ナナが不安そうに口を開く。
「じゃあ、今回帝都を襲ったのって、もしかして……アルセリスが黒幕?」
俺はナナの肩に手を置いて、首を横に振った。
「確証はない。だが、魔物の動きと魔力の流れ──確かに“あいつの魔導の癖”を感じた」
室内には重い沈黙が漂った。
やがて、レオンが壁に拳を打ちつけ、低く唸るように言った。
「今度こそ、俺がケリをつける。あの影を狩るのは──この手だ」
窓の外、曇天の隙間から一筋の光が差し込む。
監獄島ガランツァ──かつて世界のはずれと呼ばれたこの場所は、今や新たな戦の渦中にある。
“王の意志”を継ぐ者。それが魔導士アルセリスであるならば、俺たちは過去の遺産ではなく、未来を懸けた戦いに挑むことになる。
そしてこの時、俺たちはまだ知らなかった。
“新たなる魔王”が、すでに次なる手を打ち始めていたことを──。
なお、魔物の侵入口が監獄の地下にあった理由について、古文書によれば、かつてこの島には封印の祭壇が築かれていたという。監獄施設が建てられるより以前、魔王討伐後の“危険遺構”として帝国が隠蔽した痕跡がある。つまり、監獄そのものが最初から“封印の蓋”だった──。
アルセリスは、かつてレオンと共に戦った最強の魔導士のひとりであり、その実力は戦場で数百の魔物を一夜にして灰にするほどだった。冷静沈着で知的、他者に対しては寡黙だが、魔法に関しては誰よりも情熱的で理論に厳しかった。
しかし、魔王を討伐した直後、アルセリスはその遺骸から発せられた“悪の魔素”に触れてしまった。それにより彼の中には魔王の意思の一部が流れ込んだとされ、以降、徐々に変質していった。やがて彼は姿を消し、消息を絶った。
レオンはかつて、その背中に追いつこうと全力で走った仲間の裏切りに、今も割り切れぬ思いを抱えていた。だが、アルセリスの強さも狂気も、誰より知っているからこそ、今回の事態に最も強い危機感を持っていたのだった。
なお、魔物に“指示系統”が存在する場合、単なる暴走とは異なり、戦略的な行動が可能となる。戦闘では連携が生まれ、無駄のない襲撃が展開される。拠点制圧や封印の解除といった高度な作戦も実行可能となり、魔物の脅威は飛躍的に増す。今回の帝都襲撃でも、そうした知性ある指揮系統の存在が疑われている。
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