完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

文字の大きさ
53 / 62

第52話『統べる者の器──帝国再建と新たなる王』

しおりを挟む
都の空はようやく灰から薄曇りへと変わり始めていた。

 だが、その空気には今なお緊張が漂っていた。

 魔王の意志が消えた後も、帝国は瓦礫の中に沈んでいる。指導者を失った国は、舵を取る者を求めていた。

 クルス・ミラージュは、瓦礫と灰の匂いが染みついた帝都の片隅、かつて政務を執っていた中央庁舎の影に立っていた。かろうじて壁だけが残った建物の一角に腰を下ろすと、彼は懐から書簡を取り出した。封はしていない。



「まったく、ここまでひどくなるとは……」

 呟きは誰にも届かず、ただ風に消えていった。



 俺は、そんな独り言を言うクルスの傍に腰を下ろす。



「報告か?」



「いや……心の整理、というべきか。帝都と、あの監獄島の現状について、記しておこうと思ってな」



 クルスは目を細める。



「帝都は壊滅的だ。魔物による襲撃から生き延びた者は、わずかに外郭の集落に避難している。貴族の多くは逃亡し、王族も……もはや消息不明だ。帝国の中枢は完全に機能を失った」



 俺は無言で聞いていた。



「奇妙なのは、破壊された痕跡のいくつかが、ただの魔物の暴走ではなく“秩序”を持って行われた形跡がある。都市機能を狙い撃ちし、通信、補給、指揮系統……魔物の群れがそれを理解して動いたようにしか思えない」



「つまり……誰かが指揮していた」



「そうだ。魔王の意志か、あるいは……別の何者か」



 クルスは書簡を膝の上に置いた。



「一方で、君が島を離れた後のガランツァ監獄島も、大きく揺れていた」



「……やはりか」



「お前が敷いた改革の基盤は、確かに根を張りかけていた。だが、“柱”を失えば組織は揺らぐ。中立を保っていた看守の一部が主導権を握ろうと動き、囚人との協調は崩れかけた」



 監獄島の状況を聞いて思わ口を引き結ぶ。



「だが、救いはあった。君が育てた信頼と仕組みは、完全には崩れなかった。メルク、ナナ、ベルン……彼らが中心になり、暴走を未然に防いだ」



「……そうか。あいつらが」



 クルスはうなずく。



「君の影響は、確かに残っている。だが、それを維持し続けるには、“帰還”と“覚悟”が必要だ。帝都か島か、それを選ぶ時が近づいている」



 俺は、視線を遠くに投げた。帝都の空は、今なお黒煙が揺れていた。



「俺は……どちらかだけを選ぶつもりはない。両方を背負う。どちらの人間の命も、等しく守ってみせる」



 クルスの目がわずかに見開かれたあと、静かに微笑を浮かべる。



「──らしいな、君は」



 その後、彼の書簡にはこう記されていた事を仲間から聞いた。



『帝都と監獄島、二つの崩壊寸前の拠点に、今なお希望の火が灯っている。それを守る者の名は──眞嶋隼人』



 ──追記として、クルスは思い出す。



 あの夜、帝都が陥落したという一報が入ったのは、彼がガランツァ監獄島に着任してから五日目のことだった。



 情報の整理、混乱の鎮静化、そして隼人不在の島の統制を保つために、クルスはあえてそのまま島に留まった。



 帝都への帰還要請を受けたのは、それからさらに三日後──彼が隼人たちの旅立ちを追うようにして出発したのは、魔導士アルセリスの影が確実な脅威となりはじめたその頃だった。



 帝都に到着したクルスは、混乱の中でわずかに残された指揮系統の一端を担い、そこから隼人の行方を探って現地に合流するに至る。



 その一歩の重さを、彼は今も噛みしめている。







「……君に、帝国の再建に関わってほしい」

 クルスが静かにそう告げたのは、焼け焦げた議事堂跡でのことだった。

 軍も、貴族も、王族さえもすでに姿を消した今、残された者たちが新たな秩序を築かなければならなかった。



 俺──眞嶋隼人は、その言葉を真正面から受け止めながらも、重く口を閉ざしていた。



「俺は……政治なんて門外漢だ。俺の仕事はあくまで看守だった。囚人と向き合い、施設を守るのが俺の務めだった」



「だが、君はそれを越えた。囚人と協力し、暴動を止め、島を変えた。君にしかできないことが、今この帝都には必要だ」

 クルスの声は感情を抑えていたが、その目は確かに熱を帯びていた。



 クルスは本来、帝国直属の査察官として監獄島ガランツァを視察に訪れていたが、魔王の脅威が明らかになった時点で、視察団の帝都帰還を中止し、あえて島に留まるという判断を下した。

 その決断が、彼の冷静さと胆力を示していた。

 後に生還した視察官たちからの報告を整理し、状況の全容を把握したクルスは、即座に帝都救済と秩序再建のために動き出したのである。



 俺は廃墟と化した広場を見渡した。

 市民たちがテントの中で食糧を分け合い、怪我人の手当てをしている。

 その中心に、美優──綾瀬美優の姿があった。



 白衣と聖衣の中間のような装束をまとい、彼女は静かに、傷ついた人々に手を差し伸べていた。

 光の癒しが、荒んだ人々の表情を、わずかに和らげていく。



「聖女さまだ……」

「また助けてくれた」

「この人がいてくれて良かった」



 そんな声があちこちから聞こえる。

 帝都には、いま“象徴”が必要だった。

 美優はその役割を、何の見返りも求めずに果たしていた。



 その姿に、俺は胸を突かれた。



「……美優の方が、ふさわしいかもしれないな」



「それは別の話だ。彼女は希望を与える者で、君はそれを実行に移す力を持つ者だ」

 クルスが冷静に言う。



「帝国を立て直すには、両方が必要だ」



 俺は答えられなかった。

 王も貴族もいない世界で、誰が統べるべきなのか──。

 それを決めるのは俺ではない。だが、誰かが立たなければ、この国は二度と立ち上がれない。



 その夜、俺は燃え尽きた王城跡から帝都を見下ろした。

 灰と瓦礫の下に、まだ微かに光る“希望”の火があった。



 それを守るために、俺は──踏み出す覚悟を問われていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

不遇スキル「わらしべ長者」で殺せぬ勇者 〜魔力ゼロでも無双します〜

カジキカジキ
ファンタジー
 スキル「わらしべ長者」って何ですか? アイテムを手にすると、スキル「わらしべ長者」が発動し、強制イベントになるんです。  これ、止めること出来ないんですか?! 十歳のスキル授与で「わらしべ長者」を授かった主人公アベルは幼い頃から勇者への憧れが強い子供だった、憧れていたスキル「勇者」は引っ込み思案の友達テツが授かり王都へと連れて行かれる。  十三歳になったアベルは自分のスキル「わらしべ長者」を使いながら冒険者となり王都を目指した。 王都に行き、勇者のスキルを得た友達に会いたいと思ったからだ。  魔物との戦争が行われているはずの王都は、平和で市民は魔物なんて全く知らずに過ごしていた。 魔物のいる南の地を目指すため、王立学園へと入学するアベル、勇者になった友達の行方は、アベルのスキルはどう進化して行くのか。 スキルを駆使して勇者を目指せ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 扉絵は、AI利用したイラストです。 アベルとニヤ、イヅミのFA大歓迎です!! 描いて下さる絵師さんも募集中、要相談Xにて。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...