完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

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第54話『告げられる真実──転移者の運命』

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 帝都の空は鈍色に覆われたまま、冷たい風が広場を吹き抜けていた。

 俺たちは一時的な休息の場として、王宮の奥にあるかつての謁見の間に身を寄せていた。

 石の床は冷たく、破れた天蓋の隙間から光が差し込んでいる。静かな時間の中で、誰もがそれぞれの思いに沈んでいた。



 その夜。



 美優と一緒に寝れない夜に旧神殿まで様子を伺いに出ていた時の事。

 突然――空気が変わった。

 それは、夜が落ちきった頃だった。

 帝都の廃墟に佇む旧神殿──かつては栄華の象徴だったその場所も、今は瓦礫の静寂に包まれていた。



 俺はその前に立ち、無意識のうちに空を見上げていた。どこか、胸騒ぎがしていた。

 美優も俺の隣に立ち、無言で同じ空を見つめている。



 その時だった。

 夜空に、一筋の光が落ちてきた。



 まるで月のしずくが降り注ぐように、それはゆっくりと神殿跡地に舞い降りた。



「……なんだ……?」



 光の中から、ひとりの少女が姿を現した。

 白銀の髪が風もないのに揺れ、真っ白な法衣を纏い、背中には淡い光を帯びた聖紋が浮かんでいた。

 年の頃は十代後半といったところだろう。けれどその瞳には、途方もない年月の重みが宿っていた。

 俺の頭の中にリュミエールと言う言葉が浮かぶ。

 光の粒が静かに揺らめき、空間の中心に浮かび上がる。

 次第にそれは女性の姿をとり、神秘的な装束をまとった人物が現れた。



「……私は、異界に仕える女神の使徒。名をリュミエールと申します」



 その声は柔らかくも、魂に直接響くような響きを持っていた。



 俺と美優はすぐに構えようとしたが、彼女はそれを制すように、静かに手を差し出した。



「敵意はありません。今日は、あなた方“転移者”に伝えるべき真実があり、姿を現しました」



 リュミエールの言葉に、場の空気が一変した。



「真実……?」俺が問うと、彼女は頷いた。



「この世界に“異界の者”が現れるのは、単なる偶然ではありません。あなた方は『鍵』として選ばれた者。

 この世界の循環が滞るとき、異界より“魂の資質”を持つ者が導かれる仕組みなのです」



「……俺たちが、この世界を救う鍵?」



 信じ難い言葉だったが、今までの経験と符合する部分も多すぎた。



 美優がそっと口を開いた。



「でも……それだけじゃないのよね。『鍵』であるということは、何かを“開く”という意味も……?」



 リュミエールは目を伏せ、ゆっくりと頷いた。



「はい。あなた方は、“希望”であると同時に、“崩壊”を招く可能性も持ちます。

 転移者の存在は、この世界にとっては“異物”であり、あまりに強く関われば“歪み”を生む……。その歪みを喰らう存在もまた、現れようとしているのです」



「……『終焉の書庫』の背後にいる、もう一つの災厄」



 俺がそう呟くと、リュミエールはその名を肯定するかのように微笑んだ。



「彼らは“鍵”の力に惹かれて、再び現れた。

 そして……あなた方に、選択の時が近づいています。

 この世界を救うか、それとも離れるか」



「帰還の可能性は……あるのか?」



 俺の問いに、リュミエールはわずかに目を細めた。



「道はあります。ただし、それは犠牲を伴うもの。

 そして、今ここにある“絆”を失う可能性を意味するのです」



 その言葉に、美優が黙り込む。

 俺もまた、ここで築いてきた仲間たちの顔が脳裏に浮かんだ。

「私は“異界の理”に仕える者。この世界に《転移の種》が芽吹いたその時から、あなた方を見守ってきました」



 美優が小さく息を呑む。その横顔には、何か……懐かしさのようなものが滲んでいた。



「俺たちが……この世界に来た理由を、知ってるのか?」



「はい。あなた方は“選ばれた”のです。世界の救済と、あるいは終焉の選択を握る“鍵”として」



 救いと滅び。どちらも俺たちの肩にのしかかっているということか。



「……俺たちが滅ぼす可能性もあるってことか?」



「光と闇は常に並び立ちます。人は選び、選ばれ、そして歩むもの。女神の意志は道を定めるものではなく、ただ見届ける存在」



 リュミエールの言葉は、どこまでも優しく、どこまでも無情だった。



 俺は拳を握る。



「なら……この世界の未来は、俺たちが選ぶってことだな」



 リュミエールはわずかに微笑んだ。



「そう。あなた方が選んだ先に、救いがあるのか、それとも──終焉があるのか」



 その時、月光が揺らめいたように感じた。

 リュミエールの姿が淡く溶けていく。



「“門”はもう、揺らいでいます。やがて、“何か”が完全に目覚めるでしょう。その時、あなた方がどう在るか……私は、見届けに来ます」



 そう言い残して、彼女は夜の空へ溶けるように女神の使徒は、そっと振り返り、光の中に消えていった。

 ただ、足元にほんのりと残る聖なる香りだけが、現実だったことを伝えていた。



 俺は、隣で言葉を失ったまま立ち尽くす美優を見つめた。

 その手を、そっと握る。



「進もう。これは、もう俺たちだけの戦いじゃない」

 

 静寂が戻った謁見の間で、俺たちはしばらくの間、誰も言葉を発せなかった。



 俺たちがこの世界に来た意味――

 それがいよいよ、問われようとしていた。
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