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第57話『最後の戦列──結集する希望』
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空に浮かぶ暗黒の浮遊都市――アドラカス。その禍々しい気配は、地上の空気を重く沈ませ、灰色の雲を幾重にも垂れ込めさせていた。瓦礫と化した帝都の街並み、その間を必死に駆ける人々の顔には、恐怖だけでなく、それを押しのけるような希望の光が確かに宿っていた。
俺は砕けた石畳の上に立ち、空を見上げた。あの黒き都市の中心に、この世界を蝕む元凶がいる。そこへ至るには、ここに集った全員の力が必要だった。
「……これが、最後の戦いになるかもしれないな」
隣に立つレオンがぼそりと呟く。その眼差しは遠くを見据え、かつて仲間を失った後悔と、それでも進む決意が滲んでいた。
その日、帝都の空には重苦しい灰色の雲が垂れ込めていた。浮遊都市アイル・セリオールの出現以来、空も地も、どこか不穏な気配を孕んでいる。
帝都南門の城壁の上で、俺――隼人は双眼鏡を握りしめ、遠方の地平を見据えていた。
「……来るか?」
不安と期待が入り混じる中、ようやく砂煙を上げて進む一団の影が現れた。
「隼人、見ろ!」
背後から声をかけてきたのはベルンだった。彼の指さす先、間違いない。
それは――監獄島ガランツァの仲間たち。
先頭を歩くのは、囚人時代には気弱で頼りなかったメルク。だが今では、仲間を束ねる立派な青年に成長していた。
「隼人さーん!」
メルクが笑顔で手を振ってくる。その背後には、無表情ながら眼光鋭いジリア。そしてあの巨体を揺らして歩くベルンの旧友オーガ看守たち。さらには、自主的に訓練を積んできた囚人たちの姿もあった。
そして彼らを引率していたのは、黒衣をなびかせる男――クルス・ミラージュ。
「帝都に来たか、クルス……」
俺は呟く。
数日前、クルスは密かにガランツァへ帰還していた。そして、帝都奪還のための戦力として、監獄島の精鋭たちを再編成し、移送の命を下したのだ。
現地で動ける囚人たち、信頼できる看守たち、それぞれが帝国の未来を賭け、クルスの呼びかけに応えたのだった。
集結した仲間たちは、誰一人として迷いのない足取りで城門をくぐる。
「久しぶりだな、隼人」
ジリアが静かに呟いた。
「君の言ってた“未来の姿”を……ようやく、見れそうな気がする」
俺は深く頷き、彼らの背中を見守った。
監獄から始まった俺たちの物語が、いま帝都で交差する。
それぞれが過去を背負い、罪や喪失を抱えながらも、再び一つの目的の下に集った。
この戦いは、国家や制度のためじゃない。俺たち自身の誇りのため。
そして――これから生きる者たちの未来のために。
浮遊都市への総攻撃を前に、心強い援軍が加わった。
「勇者、聖女、看守、魔導士、囚人、帝国兵……そして、市民。立場は違っても、心は一つだ」
静かにそう言ったのは、かつて冷酷な査察官として恐れられた男、クルス・ミラージュだった。今は違う。彼は戦場の先導者として、この帝都の再建と未来にその身を投じていた。
「隼人、準備は整っている。君の判断で、全軍を導いてくれ」
「ああ、任せてくれ」
俺は頷き、背後に並ぶ仲間たちの顔をひとりずつ見た。
レオンは剣を背負い、まるで過去と未来を貫くような視線で前方を見据えていた。
聖女となった美優は、白銀のローブを風に揺らしながら、胸元で静かに祈りを捧げている。彼女と目が合うと、小さく微笑み、こくりと頷いてくれた。
魔導士ヴェル・カーティスは魔導書を手に、いつでも詠唱できるよう呪文を口の中で繰り返している。
ベルンは巨大な戦斧を肩に担ぎ、「もう我慢できねぇ」と低くうなっていた。
そして、かつての囚人たち──ガランツァの地下監獄で、過酷な日々を共に過ごした仲間たちの姿もそこにあった。メルクが笑顔で手を振り、ジリアは冷静に周囲を見渡している。そのひとりひとりの姿が、胸の奥に温かい何かを灯してくれた。
空を裂くように浮かぶ巨大な暗黒都市『アイル・セリオール』。
地上に睨みをきかせるようにその影を落とし、人々の視線は自然と空へと向いていた。
俺たちの進軍は、地上から空への道を探るところから始まった。
だが、当然のことながら浮遊都市へ向かう手段は限られていた。帝国の空軍は壊滅状態、飛行艇の残骸が焼けた格納庫で風に晒されているのみだった。
「すぐに飛行艇を用意するのは無理だな……」
俺は瓦礫の丘の上で、浮遊都市を睨みながら呟いた。
そんな中、立ち上がったのはクルスだった。
「隼人、ガランツァの仲間たちをここに集める。奴らとなら突破口を開けるはずだ」
その言葉通り、数日後──監獄島から、かつての仲間たちが続々と帝都に到着した。
メルク、ジリア、ベルンを筆頭に、信頼できる囚人たちが船に分乗してやってきた。
ガランツァの港で動かせる船を改修し、帝都とを往復しての輸送は容易ではなかったが、そこにいた皆は疲れを見せることなく、むしろ誇らしげに胸を張っていた。
「久しぶりだな、看守さんよ」
そう言って笑ったのはベルンだ。戦斧を担ぎ、腕を鳴らす音が骨に響く。
「こっちはこっちで、黙って待ってられなかったのさ」
メルクの笑顔も、確かに強くなっていた。
だが、肝心の浮遊都市への手段はまだなかった。飛行艇は数が足りないし、魔導転移は膨大な魔力と精密な座標指定が必要だ。
そんな中、ヴェル・カーティスが提案を持ちかけた。
「一度だけなら、座標固定型の大型転移陣を使えるかもしれません」
魔導工房に残されていた結界制御装置を転用し、ヴェルと帝都に残っていた学者たちが構築した巨大転移陣。それを用いれば、せめて第一波の戦力は浮遊都市の外縁部まで送り込める可能性があるという。
「問題は、座標が動いている対象をどう固定するか、ですね……」
「なら、俺が囮になる」
そう言い出したのはレオンだった。彼が魔力の波を読み取り、瞬間的に転移座標を捉えるという無茶な作戦。だが、それしかなかった。
転移陣はヴェルが詠唱し、美優が精神魔力で安定化。俺は仲間たちに号令をかけながら、転移のタイミングを図る。
準備には六日を要した。だがその六日の間に、帝都にいた人々は確かに“戦う覚悟”を決めた。元囚人、元看守、元貴族、市民、そして兵士。
皆が一つの目標のもとに動き始めていた。
そして、ついにその日が来た。
浮遊都市『アイル・セリオール』へ向けた、最後の転移陣が起動する。
俺たちは空を見上げた。
あの暗黒の中に、未来があると信じて。
「これは、俺たち全員の戦いだ。この世界を終わらせないために、俺たちはここで立ち上がる」
その言葉に呼応するように、仲間たちは武器を構えた。剣が掲げられ、魔力が渦巻き、希望の光が瞳に宿る。
「総員、浮遊都市『アイル・セリオール』へ向けて――進軍開始!」
その号令とともに、地響きのような咆哮が帝都の空にこだました。
立場も種族も違えど、今この瞬間、皆の心はひとつだった。
生きるために。
守るために。
希望を掴み取るために。
最後の戦列が、今、進み出した。
俺は砕けた石畳の上に立ち、空を見上げた。あの黒き都市の中心に、この世界を蝕む元凶がいる。そこへ至るには、ここに集った全員の力が必要だった。
「……これが、最後の戦いになるかもしれないな」
隣に立つレオンがぼそりと呟く。その眼差しは遠くを見据え、かつて仲間を失った後悔と、それでも進む決意が滲んでいた。
その日、帝都の空には重苦しい灰色の雲が垂れ込めていた。浮遊都市アイル・セリオールの出現以来、空も地も、どこか不穏な気配を孕んでいる。
帝都南門の城壁の上で、俺――隼人は双眼鏡を握りしめ、遠方の地平を見据えていた。
「……来るか?」
不安と期待が入り混じる中、ようやく砂煙を上げて進む一団の影が現れた。
「隼人、見ろ!」
背後から声をかけてきたのはベルンだった。彼の指さす先、間違いない。
それは――監獄島ガランツァの仲間たち。
先頭を歩くのは、囚人時代には気弱で頼りなかったメルク。だが今では、仲間を束ねる立派な青年に成長していた。
「隼人さーん!」
メルクが笑顔で手を振ってくる。その背後には、無表情ながら眼光鋭いジリア。そしてあの巨体を揺らして歩くベルンの旧友オーガ看守たち。さらには、自主的に訓練を積んできた囚人たちの姿もあった。
そして彼らを引率していたのは、黒衣をなびかせる男――クルス・ミラージュ。
「帝都に来たか、クルス……」
俺は呟く。
数日前、クルスは密かにガランツァへ帰還していた。そして、帝都奪還のための戦力として、監獄島の精鋭たちを再編成し、移送の命を下したのだ。
現地で動ける囚人たち、信頼できる看守たち、それぞれが帝国の未来を賭け、クルスの呼びかけに応えたのだった。
集結した仲間たちは、誰一人として迷いのない足取りで城門をくぐる。
「久しぶりだな、隼人」
ジリアが静かに呟いた。
「君の言ってた“未来の姿”を……ようやく、見れそうな気がする」
俺は深く頷き、彼らの背中を見守った。
監獄から始まった俺たちの物語が、いま帝都で交差する。
それぞれが過去を背負い、罪や喪失を抱えながらも、再び一つの目的の下に集った。
この戦いは、国家や制度のためじゃない。俺たち自身の誇りのため。
そして――これから生きる者たちの未来のために。
浮遊都市への総攻撃を前に、心強い援軍が加わった。
「勇者、聖女、看守、魔導士、囚人、帝国兵……そして、市民。立場は違っても、心は一つだ」
静かにそう言ったのは、かつて冷酷な査察官として恐れられた男、クルス・ミラージュだった。今は違う。彼は戦場の先導者として、この帝都の再建と未来にその身を投じていた。
「隼人、準備は整っている。君の判断で、全軍を導いてくれ」
「ああ、任せてくれ」
俺は頷き、背後に並ぶ仲間たちの顔をひとりずつ見た。
レオンは剣を背負い、まるで過去と未来を貫くような視線で前方を見据えていた。
聖女となった美優は、白銀のローブを風に揺らしながら、胸元で静かに祈りを捧げている。彼女と目が合うと、小さく微笑み、こくりと頷いてくれた。
魔導士ヴェル・カーティスは魔導書を手に、いつでも詠唱できるよう呪文を口の中で繰り返している。
ベルンは巨大な戦斧を肩に担ぎ、「もう我慢できねぇ」と低くうなっていた。
そして、かつての囚人たち──ガランツァの地下監獄で、過酷な日々を共に過ごした仲間たちの姿もそこにあった。メルクが笑顔で手を振り、ジリアは冷静に周囲を見渡している。そのひとりひとりの姿が、胸の奥に温かい何かを灯してくれた。
空を裂くように浮かぶ巨大な暗黒都市『アイル・セリオール』。
地上に睨みをきかせるようにその影を落とし、人々の視線は自然と空へと向いていた。
俺たちの進軍は、地上から空への道を探るところから始まった。
だが、当然のことながら浮遊都市へ向かう手段は限られていた。帝国の空軍は壊滅状態、飛行艇の残骸が焼けた格納庫で風に晒されているのみだった。
「すぐに飛行艇を用意するのは無理だな……」
俺は瓦礫の丘の上で、浮遊都市を睨みながら呟いた。
そんな中、立ち上がったのはクルスだった。
「隼人、ガランツァの仲間たちをここに集める。奴らとなら突破口を開けるはずだ」
その言葉通り、数日後──監獄島から、かつての仲間たちが続々と帝都に到着した。
メルク、ジリア、ベルンを筆頭に、信頼できる囚人たちが船に分乗してやってきた。
ガランツァの港で動かせる船を改修し、帝都とを往復しての輸送は容易ではなかったが、そこにいた皆は疲れを見せることなく、むしろ誇らしげに胸を張っていた。
「久しぶりだな、看守さんよ」
そう言って笑ったのはベルンだ。戦斧を担ぎ、腕を鳴らす音が骨に響く。
「こっちはこっちで、黙って待ってられなかったのさ」
メルクの笑顔も、確かに強くなっていた。
だが、肝心の浮遊都市への手段はまだなかった。飛行艇は数が足りないし、魔導転移は膨大な魔力と精密な座標指定が必要だ。
そんな中、ヴェル・カーティスが提案を持ちかけた。
「一度だけなら、座標固定型の大型転移陣を使えるかもしれません」
魔導工房に残されていた結界制御装置を転用し、ヴェルと帝都に残っていた学者たちが構築した巨大転移陣。それを用いれば、せめて第一波の戦力は浮遊都市の外縁部まで送り込める可能性があるという。
「問題は、座標が動いている対象をどう固定するか、ですね……」
「なら、俺が囮になる」
そう言い出したのはレオンだった。彼が魔力の波を読み取り、瞬間的に転移座標を捉えるという無茶な作戦。だが、それしかなかった。
転移陣はヴェルが詠唱し、美優が精神魔力で安定化。俺は仲間たちに号令をかけながら、転移のタイミングを図る。
準備には六日を要した。だがその六日の間に、帝都にいた人々は確かに“戦う覚悟”を決めた。元囚人、元看守、元貴族、市民、そして兵士。
皆が一つの目標のもとに動き始めていた。
そして、ついにその日が来た。
浮遊都市『アイル・セリオール』へ向けた、最後の転移陣が起動する。
俺たちは空を見上げた。
あの暗黒の中に、未来があると信じて。
「これは、俺たち全員の戦いだ。この世界を終わらせないために、俺たちはここで立ち上がる」
その言葉に呼応するように、仲間たちは武器を構えた。剣が掲げられ、魔力が渦巻き、希望の光が瞳に宿る。
「総員、浮遊都市『アイル・セリオール』へ向けて――進軍開始!」
その号令とともに、地響きのような咆哮が帝都の空にこだました。
立場も種族も違えど、今この瞬間、皆の心はひとつだった。
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