完結『矢野アラタの大冒険。近江の悪ガキ、埋蔵金伝説に挑む』

カトラス

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第十五話『恐怖と悔しさの翌朝』

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 夜が明けても、三人の胸には昨夜の出来事が焼き付いたままだった。布団に潜り込んでも闇の中に光の道筋が浮かび上がり、耳には森全体を震わせるように響いた声が残響していた。まるで夢と現実の境が曖昧になったようで、息をするたびに心臓がざわめいた。

 アラタは布団の上で何度も寝返りを打ち、拳を固く握った。怖かった。あの声に膝が震えた。だけど――心の底にあるのは悔しさだった。あと一歩で先に進めたのに、それを諦めてしまった。そのことが胸に引っかかり、夜はいつまでも終わらなかった。

「くそ……なんで止まってしもうたんや……」  小さく呟きながら天井を睨む。心臓はまだ昨夜の鼓動を引きずっていて、胸の奥が熱くて仕方なかった。

 ケンタは布団を頭まで被り、縮こまるようにして震えていた。何度も瞼の裏に浮かぶ甲冑姿の影。冷たい視線が闇の奥から突き刺さり、喉がひゅっと詰まる。幻なんかじゃない、確かにそこにいた。そう思えば思うほど全身に汗がにじみ、眠気は遠ざかっていった。

「……まだ、見られとる気がする……」  
 怯えを隠せずに唇を噛む。眠ろうとしても心臓が早鐘を打ち、耳の奥で武者の足音が響くような錯覚に襲われた。

 ハルトは机の前に座り、薄暗い明かりの中でノートに鉛筆を走らせていた。
 眠気などとっくに諦め、冷静に昨夜の出来事を書き留めている。
 木片に描かれた風の流れ、碑文の「風が止まるとき、扉は開く」、そして最後の声――「証を示せ」。

「……全部、繋がっとるはずや」  
 独り言のように呟きながら、眉をひそめる。
 確かに関連はある。
 だが証とは何なのか。その答えだけは、どうしても掴めなかった。

 翌朝。夏の光が差し込む中、三人は秘密基地と呼んでいる古びた小屋に集まった。壁に掛けられた古いカレンダーは色あせ、木の床はきしむ音を立てる。外では蝉の声が喧しく響いているのに、小屋の中には重苦しい沈黙が落ちていた。

 アラタが大きな欠伸をかみ殺しながら口を開いた。 
「……全然寝られへんかったわ」  
 だがその目はぎらつき、昨夜の興奮を引きずっていた。

「俺、正直怖かった。でもな、やっぱり悔しい。あそこまで行って、止まってしもたんやから。先、見たかったんや!」

 ケンタは膝を抱えて座り込み、視線を下げたまま震える声を漏らした。
 「……俺は……あかん。まだ怖い。あの落ち武者、頭から離れへん。昨日の夜もずっと見られてる気がして……」

 アラタは一瞬、何か言い返そうと口を開いたが、言葉が詰まった。強がりで押し切ることもできたが、胸の奥では自分も同じ恐怖を味わったことを思い出し、喉の奥に飲み込んだ。

 沈黙を破ったのはハルトだった。背筋を伸ばし、低い声で言った。 「昨夜のことは全部繋がっとる。木片の線も、碑文の言葉も、最後に聞こえた声も。――証さえ分かれば、次は進める」

 アラタとケンタは顔を上げた。アラタの目には再び火が灯り、ケンタの顔にもわずかに安堵が差した。

「……ほんまに? 証さえあれば……」ケンタが小さく尋ねる。 
「せや。だから、俺らは探さなあかん。証を」

 ハルトの言葉は強く、秘密基地の薄暗い空気を引き締めた。アラタは力強く頷き、ケンタも迷いながらも首を縦に振った。恐怖も悔しさも、すべてが次に進むための理由へと変わり始めていた。


 秘密基地の中には、まだ昨夜の緊張の余韻が漂っていた。壁に射し込む朝の光は細く、埃の粒を浮かび上がらせている。三人は古い机を囲んで座っていたが、沈黙ばかりが流れ、蝉の声が遠くから響いていた。

 耐え切れずにアラタが立ち上がった。椅子がぎしりと鳴る。 「なあ、もう一回祠に行こや! あそこ、まだ掘れる場所あるかもしれへん。板とか木片とか、まだ出てくるんちゃう?」

 拳を握りしめたアラタの声は力強く響いたが、その裏には焦りがにじんでいた。胸の奥に残る悔しさが、言葉を急がせていたのだ。

 ハルトはじっとアラタを見つめ、ゆっくり首を振った。冷静な眼差しが小屋の空気を一層張り詰めさせる。 「……それやと同じことの繰り返しになるだけや。昨夜の声を思い出せ。“証を示せ”や。証はただの板や木片やない。昔の人が残した記録かもしれん。……祠の土をいくら掘っても、本当に必要なもんは見つからんやろ」

 アラタの胸に悔しさが広がる。唇を噛み、言葉を失った。 
「……じゃあ、どうすんねん。証ってなんなんや……」

 しばらく沈黙が続いた。外では風が葉を揺らす音がしたが、小屋の中は重苦しいままだった。そんな中で、ケンタがそっと顔を上げた。怯えを含んだ瞳が、不思議と真剣な光を宿していた。

「お、俺……図書館に行ったほうがええと思う。郷土史とか古地図とか、そういう記録に証のことが残っとるかもしれへん」

 アラタは驚いたように目を丸くした。ハルトは小さく頷き、すぐに言葉を返す。 「……ええな。それやったら筋が通る。記録を調べるんやったら、図書館が一番や」

「せやけど……図書館て、退屈そうやなあ」  アラタは腕を組み、口を尖らせてそっぽを向いた。
 だがケンタは思わず声を張った。 
「そ、そんなことない! 図書館には昔のことがいっぱい残っとる。俺、調べるの得意やし!」

 その必死な表情に、アラタは苦笑して肩をすくめた。 
「しゃーないな。ケンタに任せるか」

 ハルトは二人を交互に見て、落ち着いた声で言った。 
「役割は決まったな。アラタは現場を探す行動力。ケンタは本から知恵を探す。俺は……その二つを繋げる役をやる。証を見つけるには、全部必要や」

 三人は顔を見合わせた。緊張の中に小さな笑みが浮かび、昨夜の恐怖がほんの少し和らいだ気がした。次に進むための道筋が見え始め、胸の奥に新しい決意が灯った。

 夏休みの午後、三人はランドセルを置く間も惜しんで近江八幡市立図書館へと駆け込んだ。真昼の強い日差しを浴びて白く光る建物は、どこか神殿のように静かで厳かな雰囲気をまとっている。
 蝉の声が外でじりじりと鳴き響くのに、ガラスの自動ドアを抜けた瞬間、空気は一変した。
 ひんやりとした涼しさと紙の匂いが鼻をくすぐり、まるで異世界に足を踏み入れたようだった。

 中では数人の大人が静かに本を読んでいた。ページをめくる音と、遠くで椅子を引く小さな軋みだけが響く。三人は思わず声を潜め、足音を忍ばせた。

「……なんか、ドキドキするな」アラタが囁いた。普段の勢いは影を潜め、図書館の空気に押されて落ち着かない様子だ。

「静かにせなあかんとこやからな。ここで騒いだら怒られるで」ケンタが真剣な顔で眼鏡を押し上げた。その表情はいつもの臆病さではなく、本気の集中に切り替わっていた。

 郷土史コーナーにたどり着くと、背の高い本棚が圧倒的な存在感で三人を見下ろしていた。
 背表紙には難しい漢字がずらりと並び、子どもたちには手強そうに思える。
 ケンタは迷わず手を伸ばし、厚い本を引き抜いた。腕にずしりと重さがのしかかり、机に置いた瞬間「ドスン」と鈍い音が響いた。

「でっか……これ、全部読むんか?」アラタが思わず顔をしかめる。

「読むんや。証って言葉、きっとどっかに出てくるはずやから」
 ケンタは額に汗を浮かべながらページをめくった。だが出てくるのは崩し字や古文ばかりで、目を細めてもなかなか頭に入ってこない。

「うわ……字が古すぎて全然わからん……。でも諦めたらあかん、絶対どっかにあるはずや」  
 ぶつぶつ呟きながら指で紙をなぞるケンタの姿は必死そのものだった。眼差しは真剣で、怖がりな彼が別人に見えるほどだった。

 一方のアラタは、最初は隣で一緒に本を覗き込んでいたが、すぐに退屈そうに頬杖をついた。 「なあ……俺、やっぱ漫画コーナー行ってええか? ここ、眠たくなるわ」

 ケンタは慌てて顔を上げる。 
「ちょっ……! 何言うてんねん! 今は真面目に探さんと!」

 アラタは「わかってるって」と肩をすくめたが、そのとき視線に大きな本が飛び込んできた。表紙には『近江の古地図と風景』と書かれている。何気なく手に取ってページをめくると、そこには古い八幡山周辺の地図や写真が広がっていた。

「……おい、これ見てみろよ!」アラタが声を弾ませて二人を呼んだ。
「昔の八幡山、今と全然ちゃうぞ! ほら、この谷筋……昨日の光の道と似てへんか?」

 ページには今は埋め立てられた小さな谷や、苔むした祠の写真が載っていた。ケンタは思わず目を凝らし、ハルトも身を乗り出して覗き込む。

「……確かに。光の道が出た方向と重なっとる」ハルトの低い声が響く。彼の冷静な言葉に、二人の胸はざわめいた。

 そのままハルトは立ち上がり、近くのパソコン席に座った。キーボードを打つ指先は迷いなく動き、「証」「八幡」「古文書」と検索語を次々に入力していく。モニターには古文献の記録が並び、彼は食い入るようにスクロールした。

「……あった」ハルトが小さく呟いた。二人は息をのんで顔を寄せる。「古い文献に証って言葉が何度も出てきとる。通行を許すしるし”とか“祠を守る札って意味で使われとるみたいや」

 アラタの目が大きく見開かれた。
「マジか! じゃあ、やっぱ何か形あるもんなんやな!」

 ケンタは胸を押さえ、震える声で言った。
「……ほんまに、あるんや。証……」

 三人は顔を見合わせた。恐怖と好奇心が入り混じり、胸の奥で熱く渦を巻いている。図書館の静寂の中、三人の心臓の鼓動だけが大きく鳴り響いているように感じられた。

 図書館の一角、窓から差し込む夕暮れの光が机の上に広げられた資料を照らしていた。
 積み上げられた本の影が机に濃い線を落とし、三人の顔には疲れと興奮が入り混じった表情が浮かんでいる。
 蝉の声が遠くで弱まり、館内はしんと静まり返っていた。その静けさの中に、三人の小さな声だけが漂っていた。

「見ろよ、この古地図。ここ、今は住宅地やけど……昔は小さな谷筋があったみたいや」アラタが指先で地図をなぞりながら言った。声にはわくわくした色が混じり、唇は興奮で震えていた。

「ほんまや……。こっちの写真にも祠の横に、板みたいなもんが写っとる」ケンタが震える指で古い写真集をめくる。昨夜の恐怖を思い出すたび背筋に冷たい汗が流れるのに、好奇心がその恐怖をかき消そうとしていた。

 ハルトは腕を組み、パソコンの画面に映った文字列をじっと見つめていた。冷たい光が彼の瞳を照らす。「古文書に出てきた“証”って言葉やけどな……祠の守り札とか通行を許すしるしって意味で使われとるみたいや。つまり、ただの板やなくて、人を通すための約束事やったんやろ」

「それや!」アラタは椅子を蹴るように身を乗り出し、目を輝かせた。
「やっぱり証は存在するんや!」

 だが、ハルトは静かに首を横に振った。「……いや、これだけやと不十分や。意味は分かった。けど、それがどこにあって、どう使うんかはまだ分からん」

「ちぇっ、せっかく掴んだと思ったのに……」アラタは唇を尖らせ、机を小さく叩いた。悔しさが胸をじりじりと焦がす。

 ケンタも肩を落とし、ノートに走り書きした文字を見つめていた。
 だがそのとき、ポケットの中でハルトのスマホが震えた。
 小さな振動が妙に大きく感じられ、ケンタの心臓が跳ねた。

「そうやスマフォにダメ元で聞いてみたらどうやろ……」
 とハルトが口を開いた。
「え? AIアシスタントで調べてみる?って……」
 
 ケンタがその手があったかと目を輝かせている。

「はあ? スマホにそんなことできんのか?」
 
 アラタが眉をひそめ、半信半疑で覗き込む。

 ハルトは画面を冷静に見つめ、低く言った。
「……半信半疑やけど、試す価値はあるやろ。人間が残した記録を全部洗うのは俺らには無理や。機械に頼るんも手や」

 三人は顔を見合わせた。アラタの瞳には疑いが、ケンタの目には期待が、ハルトの瞳には決意が宿っていた。

「……やってみるか」
 ハルトが小さな声で言った。唇を噛みしめながら、指で画面をタップする。その瞬間、三人の鼓動が一斉に高鳴った。

 数秒の沈黙。やがて画面に文字が浮かび上がった。

『証の手掛かりを求めるなら、郷土史に詳しい人を訪ねるとよいと思います。特に信長関連の研究者が詳しい。岐阜、愛知、そして京都に数人の史家がいますよ』

 三人は一斉に息を呑んだ。アラタが椅子をきしませながら身を乗り出す。
「な、なんやこれ……! ほんまに答えてきたやんけ!」

 ケンタは目を見開き、スマホを強く握りしめた。
「……信長関連の史家……岐阜と愛知、京都にもいるって……。ほんまに……AIが導いてくれたんか……?」

 ハルトは目を細め、静かに呟いた。
「郷土史に詳しい人……史家を訪ねろってことやな。岐阜、愛知、そして京都……どれも信長の足跡が深く残っとる場所や」

 三人は互いの顔を見つめ合った。驚き、不安、興奮――胸の奥で入り混じり、鼓動が激しく波打つ。図書館の静寂の中、彼らは新たな導きを手に入れ、次に進むべき道を確かに見つけたのだった。
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