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第二十九話『最後の試練』
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霧が一層濃く立ち込め、広場の中央に黒ずんだ石碑がじわりと浮かび上がった。地の底から押し上げられてきたかのように、その存在は冷たく重く、広場全体の空気を支配していく。表面には古びた文字が刻まれていたが、苔とひび割れに覆われており、判読は難しい。だが確かに、何百年もの時を経てきた痕跡がそこに刻まれていた。
「……見ろよ……」
アラタが声を絞り出した。喉がひりつき、呼吸が浅くなる。心臓の鼓動が早すぎて、耳の奥で自分の血の音が響く。指先は汗で冷たく湿り、膝の力が抜けそうになる。
「な、なんやこれ……城跡やのに、なんであんなもん……」
ケンタの声は震えていた。足を半歩後ずさり、目を逸らしたいのに逸らせない。背中を汗が伝い落ちる感覚がやけに鮮明で、まとわりつく霧がさらに恐怖を煽った。「あんなもん……ほんまに人間やないやろ……」
「……出たな」
ハルトが低く呟いた。声は冷静に聞こえたが、握り締めた拳は小刻みに震えていた。額には大粒の汗が浮かび、しかし目だけは逸らさず石碑を凝視している。「気を抜くな……あれは俺らを見とる」
その瞬間、石碑の前に淡い光が揺らめき、人影が浮かび上がった。霧の中で次第に輪郭がはっきりとし、やがて甲冑をまとった武者の幻影が立ち現れる。錆びついた鉄のように重たく鈍く光る甲冑、顔を覆う面頬の奥は闇で何も見えない。ただ確かにそこから視線のような圧が三人を貫いていた。
「ひっ……!」
ケンタが短い悲鳴を上げ、膝が折れそうになった。胸が押し潰されるように苦しく、喉が詰まる。「う、うそやろ……なんで……ほんまに出てきよった……」
「ケンタ! 負けるな!」
アラタが声を張り上げた。自分の声も震えていたが、必死に仲間を鼓舞しようとする。「ここで怖気づいたら終わりや!」
「お、俺かて分かっとる! でも……足が勝手に震えて……!」
ケンタの情けない声が広場に響く。だが彼の顔には涙と汗が混じり、必死に耐えている証が刻まれていた。
「落ち着け。俺らはまだ立っとる」
ハルトの声は低く、鋭かった。恐怖を押し殺すように吐き出すその声は、二人の胸を無理やり引き締める。「これはただの幻影や。だが、試してる……俺らが進む資格を持ってるかどうか」
足元でトラが「ニャッ!」と鳴いた。毛を逆立て、尾を膨らませて武者の幻影を睨みつける。小さな体を必死に大きく見せるようにして三人の前に立ちふさがり、その瞳には怯えではなく闘志が宿っていた。
「……トラまで……」
アラタは思わず笑みをこぼしかけたが、すぐに真剣な表情に戻る。「負けへんぞ……絶対に!」
霧の中、石碑と武者の影が静かに揺らめき、広場全体の空気が張り詰めていく。三人と一匹の恐怖と緊張は、もはや限界まで高まっていた。
武者の幻影は霧の中でじわりと揺れ動き、その甲冑が擦れるような低い音が耳にまとわりついた。面頬の奥は闇に覆われ、目も口も見えないのに、確かにそこから視線を感じる。空気が張り詰め、広場全体の霧がざわざわと震えているようだった。
「……証を……示せ……」
低く湿った声が、霧の奥から広がった。まるで大地そのものが呻いているような響きで、胸の奥を冷たく揺さぶる。その瞬間、三人の体は一斉に硬直した。
「ひっ……! ほ、ほんまに……喋った……!」
ケンタの顔から血の気が引き、唇が震える。膝が折れそうになり、両手で自分の足を支えた。「なんやねんこれ……人間やない……!」
「ケンタ、踏ん張れ!」
アラタが必死に声を張り上げた。喉が焼けるように乾き、恐怖で心臓が破裂しそうになっていたが、それでも仲間を鼓舞するために前へ出る。「俺らがここまで来たんは無駄やない! 見せたろうや!」
アラタはリュックから御朱印帳を取り出した。手のひらは汗で滑り、指先が震える。それでも胸の奥で湧き上がる勇気に突き動かされ、高く掲げた。
「これが……証や!」
掲げられた御朱印帳の朱の「天下布武」が、霧を透かすように鮮やかに輝いた。その光はじわじわと広がり、幻影を照らし出す。赤い光に包まれた武者の影は、一瞬動きを止めた。
「……オオオ……」
低いうめき声が広場に響いた。甲冑の輪郭が揺らぎ、まるで煙のように形が崩れていく。剣を握っていたはずの腕が溶け、兜の影も淡くなり、やがて霧そのものに溶け込むように消えていった。
「き、消えた……?」
ケンタが目を見開き、信じられないように呟いた。胸はまだ激しく上下し、心臓が体を内側から叩き割ろうとしているようだった。「ほんまに……消えたんか……?」
「……効いたんや」
ハルトが低く答えた。冷静に見えた声色の裏に、かすかな安堵が混じっている。だが同時に、その視線は石碑を外さない。「けど……これで終わりやない」
その時だった。広場の中央に鎮座する石碑が、低いうなりをあげ始めた。ごごご、と地面が震え、足元の砂や小石がぱらぱらと崩れ落ちていく。
「うわっ……地震か!?」
ケンタが慌てて叫び、足を広げて踏ん張った。だが足の震えは止まらない。
「違う……石碑や……あれが動いとる!」
ハルトが険しい声で言い放つ。その目は鋭く、恐怖を押し殺して次に備えている。
アラタは御朱印帳を握りしめながら、喉を鳴らした。「まだ続きが……あるんやな」
三人の胸に再び緊張が走る。幻影が消えた後に待つものが、さらに大きな試練であることを、本能で理解していた。
不気味な唸り声をあげていた石碑が、ついに大きく震え始めた。地面に重低音が響き、広場全体がぐらぐらと揺れる。三人は思わず足を踏ん張り、苔むした礎石がかたかたと跳ね、小石が石垣からぱらぱらと崩れ落ちた。
「な、なんやこれ……!?」
ケンタが青ざめた顔で叫んだ。胸の奥まで響く振動に、足の震えが止まらない。「じ、地震やないんか……? でも……違う、これ……生きとるみたいな……!」
「しっかりせぇ!」
アラタが声を張り上げる。だが自分の声も震えていた。喉がからからに乾き、冷たい汗が背を流れていく。「これは……試されとるんや!」
ひび割れが石碑の足元から放射状に広がり、やがて地面が裂けるように大きな穴を開けた。ごごご、と不気味な音を立てながら土煙が舞い上がり、視界が茶色に染まる。立っているだけで体が揺らされ、息が詰まる。
「うわっ、目が……!」
アラタが腕で顔を覆った。吹き上がる風は異様に冷たく、肌を刺すようだった。まるで地の底から無数の冷たい手が伸びてきて、足を掴もうとしているかのように感じられる。
「これ……普通やない……!」
ケンタが半泣きの声をあげる。恐怖に足がすくみ、穴に吸い込まれそうな錯覚に捕らわれていた。「なんか……なんか出てくるんちゃうか……!」
「落ち着け」
ハルトが短く言い放った。唇を固く結び、視線を穴の奥へ向けている。その額には汗がにじんでいるが、目には確かな光が宿っていた。「ただの穴やない……呼んどるんや、俺らを」
ケンタはごくりと唾を飲み込み、恐る恐る穴の縁に近づいた。足の震えが止まらず、膝が今にも折れそうになる。だが視線を下ろすと、土煙の奥にぼんやりとした影が見えた。
「……あれ、見えるか?」
ケンタがかすれた声で言った。指先で震えながら奥を指し示す。アラタとハルトも身を乗り出し、三人の視線が一点に集まった。
穴の奥には小さな石室が口を開けていた。石で組まれた壁はひび割れ、長い年月で崩れ落ちそうになっている。その中央に、土にまみれた古びた箱がひっそりと置かれていた。
「……ほんまに……箱や」
アラタが呟いた。心臓の鼓動がうるさいほど大きくなり、喉が詰まって言葉が出ない。「もしこれが……」
「間違いない……」
ハルトが低い声で続ける。冷静に見えたが、その声には興奮が滲んでいた。「俺らが探しとったもんや」
ケンタはごくごくと喉を鳴らし、視線を仲間に向けた。「開けるんか……? ほんまに……?」
三人は顔を見合わせた。緊張と期待と恐怖が入り混じった瞳。誰も声を発しないまま、ただ強く頷き合った。
「……行こう」
アラタが震える声で言い、三人の手がゆっくりと、石室に眠る箱へと伸びていった。
石室の中にひっそりと眠っていた古びた箱を前に、三人は息を呑んだ。霧のざわめきが止まり、広場全体が静寂に包まれているように感じられる。冷たい空気が張り詰め、心臓の鼓動だけが耳の奥で響いていた。
「……行くで」
アラタが小さく呟いた。声はかすれ、震えていたが、その目には確かな決意が宿っていた。汗に濡れた手を伸ばすと、指先が箱の蓋に触れる。ざらついた冷たい感触に全身がびくりと反応し、息が止まる。
「……アラタ……ほんまに開けるんか?」
ケンタの声はかすかに震えていた。肩で荒い息をしながら、恐怖と期待に揺れる目でその瞬間を見つめる。「なんか……胸が苦しいくらいドキドキしてる……」
「今さら迷っても仕方ない」
ハルトが短く言った。冷静を装っていたが、その拳は固く握りしめられて震えている。「ここまで来たんや。開けなきゃ……何も始まらん」
アラタは深く息を吸い込み、思い切って蓋を押し上げた。ぎぃ……と重たい音を立てて、箱の蓋がゆっくりと開く。その瞬間、土にまみれた数枚の小判がころりと転がり出た。かすかな光を帯びながら、金色にきらりと輝く。
「……!!」
三人は同時に声を失った。目を見開き、喉が詰まったように言葉が出ない。小判の金色の輝きは、霧の中でもはっきりと存在感を放ち、三人の胸を強く打った。
「こ、これ……ほんまに……小判や!」
ケンタが叫び、声が裏返る。頬を涙が伝い、震える指で小判を掴んだ。「夢やない……俺ら……ほんまに見つけたんや!」
「やった……! 俺らの冒険が……報われたんや!」
アラタも拳を突き上げ、声を張り上げた。恐怖に押し潰されそうだった心が、歓喜と誇りで一気に満たされる。熱いものが胸に溢れ、頬を伝う汗と涙が混じり合った。
「……これが、冒険の証……」
ハルトが低く呟いた。静かな声には抑えきれない感動が滲み、瞳の奥に光るものが宿っていた。「俺らが……本当に掴んだんや」
「ニャー!」
トラが高く鳴き、尾をぴんと立てて箱の周りを跳ね回った。小さな足音が広場に響き、その姿はまるで「よくやった」と祝福しているようだった。
三人は互いに顔を見合わせ、笑いと涙が同時に込み上げる。恐怖を越え、仲間と共に掴んだ金色の証。それは単なる小判以上に、彼らの胸に永遠の誇りと熱を刻みつけた。
「……見ろよ……」
アラタが声を絞り出した。喉がひりつき、呼吸が浅くなる。心臓の鼓動が早すぎて、耳の奥で自分の血の音が響く。指先は汗で冷たく湿り、膝の力が抜けそうになる。
「な、なんやこれ……城跡やのに、なんであんなもん……」
ケンタの声は震えていた。足を半歩後ずさり、目を逸らしたいのに逸らせない。背中を汗が伝い落ちる感覚がやけに鮮明で、まとわりつく霧がさらに恐怖を煽った。「あんなもん……ほんまに人間やないやろ……」
「……出たな」
ハルトが低く呟いた。声は冷静に聞こえたが、握り締めた拳は小刻みに震えていた。額には大粒の汗が浮かび、しかし目だけは逸らさず石碑を凝視している。「気を抜くな……あれは俺らを見とる」
その瞬間、石碑の前に淡い光が揺らめき、人影が浮かび上がった。霧の中で次第に輪郭がはっきりとし、やがて甲冑をまとった武者の幻影が立ち現れる。錆びついた鉄のように重たく鈍く光る甲冑、顔を覆う面頬の奥は闇で何も見えない。ただ確かにそこから視線のような圧が三人を貫いていた。
「ひっ……!」
ケンタが短い悲鳴を上げ、膝が折れそうになった。胸が押し潰されるように苦しく、喉が詰まる。「う、うそやろ……なんで……ほんまに出てきよった……」
「ケンタ! 負けるな!」
アラタが声を張り上げた。自分の声も震えていたが、必死に仲間を鼓舞しようとする。「ここで怖気づいたら終わりや!」
「お、俺かて分かっとる! でも……足が勝手に震えて……!」
ケンタの情けない声が広場に響く。だが彼の顔には涙と汗が混じり、必死に耐えている証が刻まれていた。
「落ち着け。俺らはまだ立っとる」
ハルトの声は低く、鋭かった。恐怖を押し殺すように吐き出すその声は、二人の胸を無理やり引き締める。「これはただの幻影や。だが、試してる……俺らが進む資格を持ってるかどうか」
足元でトラが「ニャッ!」と鳴いた。毛を逆立て、尾を膨らませて武者の幻影を睨みつける。小さな体を必死に大きく見せるようにして三人の前に立ちふさがり、その瞳には怯えではなく闘志が宿っていた。
「……トラまで……」
アラタは思わず笑みをこぼしかけたが、すぐに真剣な表情に戻る。「負けへんぞ……絶対に!」
霧の中、石碑と武者の影が静かに揺らめき、広場全体の空気が張り詰めていく。三人と一匹の恐怖と緊張は、もはや限界まで高まっていた。
武者の幻影は霧の中でじわりと揺れ動き、その甲冑が擦れるような低い音が耳にまとわりついた。面頬の奥は闇に覆われ、目も口も見えないのに、確かにそこから視線を感じる。空気が張り詰め、広場全体の霧がざわざわと震えているようだった。
「……証を……示せ……」
低く湿った声が、霧の奥から広がった。まるで大地そのものが呻いているような響きで、胸の奥を冷たく揺さぶる。その瞬間、三人の体は一斉に硬直した。
「ひっ……! ほ、ほんまに……喋った……!」
ケンタの顔から血の気が引き、唇が震える。膝が折れそうになり、両手で自分の足を支えた。「なんやねんこれ……人間やない……!」
「ケンタ、踏ん張れ!」
アラタが必死に声を張り上げた。喉が焼けるように乾き、恐怖で心臓が破裂しそうになっていたが、それでも仲間を鼓舞するために前へ出る。「俺らがここまで来たんは無駄やない! 見せたろうや!」
アラタはリュックから御朱印帳を取り出した。手のひらは汗で滑り、指先が震える。それでも胸の奥で湧き上がる勇気に突き動かされ、高く掲げた。
「これが……証や!」
掲げられた御朱印帳の朱の「天下布武」が、霧を透かすように鮮やかに輝いた。その光はじわじわと広がり、幻影を照らし出す。赤い光に包まれた武者の影は、一瞬動きを止めた。
「……オオオ……」
低いうめき声が広場に響いた。甲冑の輪郭が揺らぎ、まるで煙のように形が崩れていく。剣を握っていたはずの腕が溶け、兜の影も淡くなり、やがて霧そのものに溶け込むように消えていった。
「き、消えた……?」
ケンタが目を見開き、信じられないように呟いた。胸はまだ激しく上下し、心臓が体を内側から叩き割ろうとしているようだった。「ほんまに……消えたんか……?」
「……効いたんや」
ハルトが低く答えた。冷静に見えた声色の裏に、かすかな安堵が混じっている。だが同時に、その視線は石碑を外さない。「けど……これで終わりやない」
その時だった。広場の中央に鎮座する石碑が、低いうなりをあげ始めた。ごごご、と地面が震え、足元の砂や小石がぱらぱらと崩れ落ちていく。
「うわっ……地震か!?」
ケンタが慌てて叫び、足を広げて踏ん張った。だが足の震えは止まらない。
「違う……石碑や……あれが動いとる!」
ハルトが険しい声で言い放つ。その目は鋭く、恐怖を押し殺して次に備えている。
アラタは御朱印帳を握りしめながら、喉を鳴らした。「まだ続きが……あるんやな」
三人の胸に再び緊張が走る。幻影が消えた後に待つものが、さらに大きな試練であることを、本能で理解していた。
不気味な唸り声をあげていた石碑が、ついに大きく震え始めた。地面に重低音が響き、広場全体がぐらぐらと揺れる。三人は思わず足を踏ん張り、苔むした礎石がかたかたと跳ね、小石が石垣からぱらぱらと崩れ落ちた。
「な、なんやこれ……!?」
ケンタが青ざめた顔で叫んだ。胸の奥まで響く振動に、足の震えが止まらない。「じ、地震やないんか……? でも……違う、これ……生きとるみたいな……!」
「しっかりせぇ!」
アラタが声を張り上げる。だが自分の声も震えていた。喉がからからに乾き、冷たい汗が背を流れていく。「これは……試されとるんや!」
ひび割れが石碑の足元から放射状に広がり、やがて地面が裂けるように大きな穴を開けた。ごごご、と不気味な音を立てながら土煙が舞い上がり、視界が茶色に染まる。立っているだけで体が揺らされ、息が詰まる。
「うわっ、目が……!」
アラタが腕で顔を覆った。吹き上がる風は異様に冷たく、肌を刺すようだった。まるで地の底から無数の冷たい手が伸びてきて、足を掴もうとしているかのように感じられる。
「これ……普通やない……!」
ケンタが半泣きの声をあげる。恐怖に足がすくみ、穴に吸い込まれそうな錯覚に捕らわれていた。「なんか……なんか出てくるんちゃうか……!」
「落ち着け」
ハルトが短く言い放った。唇を固く結び、視線を穴の奥へ向けている。その額には汗がにじんでいるが、目には確かな光が宿っていた。「ただの穴やない……呼んどるんや、俺らを」
ケンタはごくりと唾を飲み込み、恐る恐る穴の縁に近づいた。足の震えが止まらず、膝が今にも折れそうになる。だが視線を下ろすと、土煙の奥にぼんやりとした影が見えた。
「……あれ、見えるか?」
ケンタがかすれた声で言った。指先で震えながら奥を指し示す。アラタとハルトも身を乗り出し、三人の視線が一点に集まった。
穴の奥には小さな石室が口を開けていた。石で組まれた壁はひび割れ、長い年月で崩れ落ちそうになっている。その中央に、土にまみれた古びた箱がひっそりと置かれていた。
「……ほんまに……箱や」
アラタが呟いた。心臓の鼓動がうるさいほど大きくなり、喉が詰まって言葉が出ない。「もしこれが……」
「間違いない……」
ハルトが低い声で続ける。冷静に見えたが、その声には興奮が滲んでいた。「俺らが探しとったもんや」
ケンタはごくごくと喉を鳴らし、視線を仲間に向けた。「開けるんか……? ほんまに……?」
三人は顔を見合わせた。緊張と期待と恐怖が入り混じった瞳。誰も声を発しないまま、ただ強く頷き合った。
「……行こう」
アラタが震える声で言い、三人の手がゆっくりと、石室に眠る箱へと伸びていった。
石室の中にひっそりと眠っていた古びた箱を前に、三人は息を呑んだ。霧のざわめきが止まり、広場全体が静寂に包まれているように感じられる。冷たい空気が張り詰め、心臓の鼓動だけが耳の奥で響いていた。
「……行くで」
アラタが小さく呟いた。声はかすれ、震えていたが、その目には確かな決意が宿っていた。汗に濡れた手を伸ばすと、指先が箱の蓋に触れる。ざらついた冷たい感触に全身がびくりと反応し、息が止まる。
「……アラタ……ほんまに開けるんか?」
ケンタの声はかすかに震えていた。肩で荒い息をしながら、恐怖と期待に揺れる目でその瞬間を見つめる。「なんか……胸が苦しいくらいドキドキしてる……」
「今さら迷っても仕方ない」
ハルトが短く言った。冷静を装っていたが、その拳は固く握りしめられて震えている。「ここまで来たんや。開けなきゃ……何も始まらん」
アラタは深く息を吸い込み、思い切って蓋を押し上げた。ぎぃ……と重たい音を立てて、箱の蓋がゆっくりと開く。その瞬間、土にまみれた数枚の小判がころりと転がり出た。かすかな光を帯びながら、金色にきらりと輝く。
「……!!」
三人は同時に声を失った。目を見開き、喉が詰まったように言葉が出ない。小判の金色の輝きは、霧の中でもはっきりと存在感を放ち、三人の胸を強く打った。
「こ、これ……ほんまに……小判や!」
ケンタが叫び、声が裏返る。頬を涙が伝い、震える指で小判を掴んだ。「夢やない……俺ら……ほんまに見つけたんや!」
「やった……! 俺らの冒険が……報われたんや!」
アラタも拳を突き上げ、声を張り上げた。恐怖に押し潰されそうだった心が、歓喜と誇りで一気に満たされる。熱いものが胸に溢れ、頬を伝う汗と涙が混じり合った。
「……これが、冒険の証……」
ハルトが低く呟いた。静かな声には抑えきれない感動が滲み、瞳の奥に光るものが宿っていた。「俺らが……本当に掴んだんや」
「ニャー!」
トラが高く鳴き、尾をぴんと立てて箱の周りを跳ね回った。小さな足音が広場に響き、その姿はまるで「よくやった」と祝福しているようだった。
三人は互いに顔を見合わせ、笑いと涙が同時に込み上げる。恐怖を越え、仲間と共に掴んだ金色の証。それは単なる小判以上に、彼らの胸に永遠の誇りと熱を刻みつけた。
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