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【第37話】『心なき革命──ルクシィアの遺骸と揺らぐ忠誠』
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ネメシス本部・第七議決ホール。
光の届かぬ半地下の円形会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。壁一面に張り巡らされた暗色の金属パネルには、かすかなノイズのように警告灯が瞬いている。
中心に設置された円卓を囲むように、怪人研究部門の幹部たちが並ぶ。その最奥には、ゼクスの姿。
「……議題は、L-Disaster計画に関わった三体の怪人の自我覚醒と暴走。責任の所在についてだ」
静かながらも凍てつくようなゼクスの声に、誰も口を開けない。
そのとき、ゆったりと足音が響いた。
ドクトル・メディアスが現れた。
白衣の裾を引きずりながら、無表情で入室した彼は、その場にいる誰とも目を合わせず、悠然と指定席に腰を下ろす。
「遅れてすまんな、少々実験の片付けが長引いてしまってね」
皮肉めいたその一言に、誰も笑わなかった。
ゼクスが椅子に背を預け、ゆっくりと彼を見据える。
「L-Disaster計画の主導者として、何か釈明はあるか、ドクトル」
沈黙。
「三体すべてが命令を無視し、人格異常を示し、最終的に制御不能。結果、ネメシス本部への反逆未遂、及び組織内への衝撃と不安を招いた。……これが“成果”か?」
メディアスは眉一つ動かさず、ふと手元の端末を撫でながら言った。
「“暴走”とは、常に進化の兆候だと、私は考えております。自我を持つということは、知性の証明。美しき逸脱なのです」
「それは暴走の肯定だ」
参席していた幹部たちが騒然とし始める。
「──制御できないならそれは兵器ではない、ただの災厄だ」
「そもそも人格形成なんてリスクだらけの構造をなぜ採用した!」
「ドクトルは昔から、倫理規定のグレーを踏み越えていた……!」
責任を問う声が一斉にメディアスに浴びせられる。
ゼクスが右手をすっと上げると、場が静まった。
「ドクトル・メディアス。貴殿には“技術凍結”を命じる」
その言葉に、場の空気が一変した。
「……技術凍結?」
「今後一切の研究設備の使用を禁じる。外部実験体との接触も、過去の論文データの閲覧・更新も禁止。全ての研究活動は凍結され、監視対象とされる。理由は明白だ。貴殿の知識と技術は、今やネメシスにとって“潜在的脅威”と見なされている」
メディアスは端末を閉じ、立ち上がると、ゆっくりと視線をゼクスに向けた。
「つまり……私は研究者として“死んだ”ということですな」
「そう受け止めるなら、好きに解釈すればいい」
ゼクスの声に、少しの情もなかった。
だがその目は、どこか硬く、何かを押し殺すような色を湛えていた。
「自由を奪われた研究者は、ただの抜け殻……。そうなる前に、私は幾つかの“種”を蒔いておりますので」
それだけ言うと、メディアスはゆっくりと頭を下げ、会議室を後にした。
その背を見送る誰の目にも、哀れみも怒りもなかった。ただ、静けさと警戒のみが残された。
ゼクスは深く椅子にもたれ、手元の端末を見つめた。
「……“種”か」
誰にも聞こえないように呟いた彼の指先が、かすかに震えていた。
その震えに気づいたのは、補佐官ヴェリアだけだった。
■
「よもや……この私が、身を屈する日が来ようとはな……」
深夜。世界が沈黙し、冷たい闇がネメシス本部を覆っていた。誰もが眠りにつくその時間帯に、ただ一人の影が静かに歩を進める。
戦術研究区の奥深く──光の届かぬ隠し通路に、硬質な足音が微かに響いていた。
ドクトル・メディアス。
かつて“怪人創造の神”とまで呼ばれたネメシスの最高頭脳が、今は亡命という逃避行の只中にいた。
その手には、重々しい金属ケース。中には、L-Disaster計画の完全データが封印されている。誰の干渉も許さぬよう幾重にもセキュリティが施された、文字通り“最後の切り札”。
「……これが、私の全てだ。私の罪でもあり、誇りでもある」
自嘲めいた囁きが、冷たい壁に吸い込まれる。
AI制御の扉が、彼の接近に反応して無言で開く。その機械的な光は、まるで「ようこそ、敗者」とでも言いたげな無感情を湛えていた。
彼の胸の奥では、感情が静かに波打っていた。焦燥、怒り、後悔、そして……恐怖。
ネファリウム、ベルゼヴュート、ルクシィア──自ら生み出した存在たちが次々と逸脱し、破滅へと突き進んでいく様を、ただ“記録者”として見守るしかなかった。
かつて、自分が神だと信じて疑わなかった。その掌の上で踊るはずだった怪人たちが、自我を得て、舞台から降りてしまった。しかも、その末路はあまりに皮肉で、哀しかった。
「この悪魔を……受け入れられるのは、同じ業火を背負う者だけだ」
その言葉は、やがて一つの名前へと結実する。
九頭ドクター──セイガンに属するもう一人の“異端”。
ドクトルは過去に数度、その名を耳にしていた。正式な面識こそないが、彼が行ったという非倫理的改造、肉体の限界を超える実験の数々──その狂気の在り様に、かすかな共感と、ある種の嫉妬を抱いたこともある。
敗北者である自分が求めるのは、救済ではない。共犯者。
共に“悪”を描ける新たな舞台──それがセイガンであるならば、迷う理由はなかった。
「おそらく、拒絶されるだろう……だが、それでも行く。生き延びるためにではない。継続するために、私の創造を」
研究棟の非常階段を降りると、秋の夜風が白衣をはためかせた。ひととき、その顔に疲労と虚無が漂う。
だが、その瞳の奥には確かな炎が灯っていた──狂気と執念の、決して消えぬ火。
ネメシス本部の出口が見える。
そこを越えれば、裏切り者となる。
いや、もうとっくに裏切っていたのかもしれない。自我を得た怪人たちを否定せず、抑えず、傍観したあの日から。
「私は逃げるのではない……選ぶのだ。次の“悪魔の舞台”を」
彼は振り返らなかった。
誰一人として彼を止めず、誰一人として見送らなかった。
ただひとつ──
冷たく光る記録媒体が、彼の歩みとともに静かに揺れていた。
新たな悪夢の種を携えて、最狂の科学者は闇に消えた。
■
薄曇りの空から、冷たい霧雨が静かに降り注いでいた。
ここは、ネメシス本部・医療隔離区画。
ルクシィア・メイルシュトロムの遺体が回収されたという報せは、雷のように静寂を破った。
白く曇った廊下の片隅。
ラミアは、雨に濡れた銀髪を無造作に払いながら、目の前の冷凍カプセルを見つめていた。
「……本当に、彼女なのか」
かすれた声で問いかけるラミアの隣には、冷静な様子で端末を操作するレイヴンの姿があった。
「ああ。DNAは完全に一致している。形状の異常についても……吸血行為によるものと断定されている」
「吸血……?」
ラミアの瞳が大きく揺れた。
「まるで、体内の液体も、組織も……すべて吸い尽くされたような状態だった」
彼女の喉が小さく鳴った。
この世の終わりのような静けさが、ラミアの内側に響く。
ルクシィアは、死んだ──。
誰かに“喰われる”ようにして。
「……彼女が“なぜ消えた”か、あんたは知ってるのか」
ラミアの声には、怒気と戸惑いが交じっていた。
レイヴンは目を伏せ、小さく息を吐いた。
「正確にはわからん。だが、彼女が残したデータログの一部が復元されている。それによれば、彼女は“誰かに会うために”本部を離れた形跡がある」
「誰に?」
「特定不能だ。通信記録も、行動データも……途中で遮断されている」
沈黙。
霧雨の音だけが、冷凍室の中に響いていた。
ラミアは震える指先で、冷凍カプセルの透明なガラスにそっと手を添えた。
その向こう側、変わり果てた彼女の姿。
すべての色を失い、無残に干からびた肉体──だが、ラミアにはそれが、なお美しく思えた。
「私たちは……“生き延びるための怪物”だった。誰もが、そう作られ、そう教えられてきた……でも、彼女は──」
ラミアの声が震えた。
「彼女は、怪物なんかじゃなかった。……あれは、“誰か”を護ろうとしてた」
レイヴンは視線を落とし、やや戸惑いながらも口を開いた。
「……ネメシスは、変わりつつある。ゼクスも、総帥の意向に逆らう形で“自由意思”を認めていた。
君の仲間たち……L-Disaster計画の彼らは、その象徴だったのかもしれない」
「でも、彼女は“否定”された。殺された」
ラミアの声は、悲しみに濡れ、怒りの色を帯びる。
「だったら……私たち“存在”は、いったいどこに向かえばいいんだ……?」
レイヴンは答えなかった。
ただ静かに、ラミアの顔を見つめていた。
やがてラミアは、カプセルから手を離し、濡れた瞳を閉じる。
そして──誰にも届かないほど小さな声で、呟いた。
「……イツキ。あなたに、伝えなきゃならない」
それは、かつて兵器として作られた彼女が、初めて祈りにも似た感情を言葉にした瞬間だった。
雨は止まなかった。
ネメシス本部・戦略局会議室。
厚い防音処理が施された空間に、異様な沈黙が広がっていた。
中央のモニターには、ドクトル・メディアスの顔写真とともに、赤く点滅する警告文が浮かんでいる。
『機密保持対象:L-Disaster計画 指導者』
『状態:所在不明・裏切りの可能性あり』
ゼクスは椅子にもたれながら、その画面を静かに見つめていた。怒りではない。失望でもない。ただ冷徹な思考だけが、その瞳の奥に光っていた。
「……セイガンに亡命したと?」
彼の低い声が室内に響く。補佐官ヴェリアは無表情のまま頷いた。
「確定情報ではありません。しかし、幾つかの情報網が“九頭”と名乗るセイガン側の科学者と接触した可能性を示唆しています」
「……九頭。皮肉な名前だ」
扉が開き、ラミアが無言で入室する。手には報告書を持っていたが、視線は会議室の空気に向けられていた。
「L-Disaster計画の中核が敵に渡れば、どの程度の損害になる?」
「壊滅的です」ヴェリアは即答する。「既に第三世代以降の怪人開発は全面停止中。加えて、旧世代の怪人はセイガン側の新型ヒーローへの対応が限界に達しつつあります」
ゼクスの唇がわずかに歪んだ。
「つまり、我々が誇った怪人たちは──もはや“時代遅れ”だと」
席の端にいたブラックエイド副指揮官・クラウスが立ち上がる。
「ここ三ヶ月で五つの拠点が陥落しました。全て、セイガン・ブルーとピンク……レンとサクラによるものです」
ラミアが顔をしかめる。
「ルクシィアの記録にあった通り、奴らはもう“ヒーロー”じゃない。化け物そのものよ」
「……怪物には、怪物を」
ゼクスの囁きのような言葉に、会議室が静まり返る。
全員の視線が彼に注がれた。
「新たな戦力の構築が急務だ。だがドクトルのような“暴走因子”にはもう頼れん。必要なのは……“制御された狂気”だ」
「新型怪人の開発を再開するということか?」ラミアが問う。
ゼクスは深く頷いた。
「かつて凍結されたある計画がある。L-Disasterとは異なる、もう一つの“極限設計”。今こそ、それを再構成する時だ」
その言葉に、空気が一変した。
それは、ネメシスという組織が生き延びるための、最後の一手だった。
だが、その刃が向く先がセイガンだけとは──誰もまだ、気づいていなかった。
光の届かぬ半地下の円形会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。壁一面に張り巡らされた暗色の金属パネルには、かすかなノイズのように警告灯が瞬いている。
中心に設置された円卓を囲むように、怪人研究部門の幹部たちが並ぶ。その最奥には、ゼクスの姿。
「……議題は、L-Disaster計画に関わった三体の怪人の自我覚醒と暴走。責任の所在についてだ」
静かながらも凍てつくようなゼクスの声に、誰も口を開けない。
そのとき、ゆったりと足音が響いた。
ドクトル・メディアスが現れた。
白衣の裾を引きずりながら、無表情で入室した彼は、その場にいる誰とも目を合わせず、悠然と指定席に腰を下ろす。
「遅れてすまんな、少々実験の片付けが長引いてしまってね」
皮肉めいたその一言に、誰も笑わなかった。
ゼクスが椅子に背を預け、ゆっくりと彼を見据える。
「L-Disaster計画の主導者として、何か釈明はあるか、ドクトル」
沈黙。
「三体すべてが命令を無視し、人格異常を示し、最終的に制御不能。結果、ネメシス本部への反逆未遂、及び組織内への衝撃と不安を招いた。……これが“成果”か?」
メディアスは眉一つ動かさず、ふと手元の端末を撫でながら言った。
「“暴走”とは、常に進化の兆候だと、私は考えております。自我を持つということは、知性の証明。美しき逸脱なのです」
「それは暴走の肯定だ」
参席していた幹部たちが騒然とし始める。
「──制御できないならそれは兵器ではない、ただの災厄だ」
「そもそも人格形成なんてリスクだらけの構造をなぜ採用した!」
「ドクトルは昔から、倫理規定のグレーを踏み越えていた……!」
責任を問う声が一斉にメディアスに浴びせられる。
ゼクスが右手をすっと上げると、場が静まった。
「ドクトル・メディアス。貴殿には“技術凍結”を命じる」
その言葉に、場の空気が一変した。
「……技術凍結?」
「今後一切の研究設備の使用を禁じる。外部実験体との接触も、過去の論文データの閲覧・更新も禁止。全ての研究活動は凍結され、監視対象とされる。理由は明白だ。貴殿の知識と技術は、今やネメシスにとって“潜在的脅威”と見なされている」
メディアスは端末を閉じ、立ち上がると、ゆっくりと視線をゼクスに向けた。
「つまり……私は研究者として“死んだ”ということですな」
「そう受け止めるなら、好きに解釈すればいい」
ゼクスの声に、少しの情もなかった。
だがその目は、どこか硬く、何かを押し殺すような色を湛えていた。
「自由を奪われた研究者は、ただの抜け殻……。そうなる前に、私は幾つかの“種”を蒔いておりますので」
それだけ言うと、メディアスはゆっくりと頭を下げ、会議室を後にした。
その背を見送る誰の目にも、哀れみも怒りもなかった。ただ、静けさと警戒のみが残された。
ゼクスは深く椅子にもたれ、手元の端末を見つめた。
「……“種”か」
誰にも聞こえないように呟いた彼の指先が、かすかに震えていた。
その震えに気づいたのは、補佐官ヴェリアだけだった。
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「よもや……この私が、身を屈する日が来ようとはな……」
深夜。世界が沈黙し、冷たい闇がネメシス本部を覆っていた。誰もが眠りにつくその時間帯に、ただ一人の影が静かに歩を進める。
戦術研究区の奥深く──光の届かぬ隠し通路に、硬質な足音が微かに響いていた。
ドクトル・メディアス。
かつて“怪人創造の神”とまで呼ばれたネメシスの最高頭脳が、今は亡命という逃避行の只中にいた。
その手には、重々しい金属ケース。中には、L-Disaster計画の完全データが封印されている。誰の干渉も許さぬよう幾重にもセキュリティが施された、文字通り“最後の切り札”。
「……これが、私の全てだ。私の罪でもあり、誇りでもある」
自嘲めいた囁きが、冷たい壁に吸い込まれる。
AI制御の扉が、彼の接近に反応して無言で開く。その機械的な光は、まるで「ようこそ、敗者」とでも言いたげな無感情を湛えていた。
彼の胸の奥では、感情が静かに波打っていた。焦燥、怒り、後悔、そして……恐怖。
ネファリウム、ベルゼヴュート、ルクシィア──自ら生み出した存在たちが次々と逸脱し、破滅へと突き進んでいく様を、ただ“記録者”として見守るしかなかった。
かつて、自分が神だと信じて疑わなかった。その掌の上で踊るはずだった怪人たちが、自我を得て、舞台から降りてしまった。しかも、その末路はあまりに皮肉で、哀しかった。
「この悪魔を……受け入れられるのは、同じ業火を背負う者だけだ」
その言葉は、やがて一つの名前へと結実する。
九頭ドクター──セイガンに属するもう一人の“異端”。
ドクトルは過去に数度、その名を耳にしていた。正式な面識こそないが、彼が行ったという非倫理的改造、肉体の限界を超える実験の数々──その狂気の在り様に、かすかな共感と、ある種の嫉妬を抱いたこともある。
敗北者である自分が求めるのは、救済ではない。共犯者。
共に“悪”を描ける新たな舞台──それがセイガンであるならば、迷う理由はなかった。
「おそらく、拒絶されるだろう……だが、それでも行く。生き延びるためにではない。継続するために、私の創造を」
研究棟の非常階段を降りると、秋の夜風が白衣をはためかせた。ひととき、その顔に疲労と虚無が漂う。
だが、その瞳の奥には確かな炎が灯っていた──狂気と執念の、決して消えぬ火。
ネメシス本部の出口が見える。
そこを越えれば、裏切り者となる。
いや、もうとっくに裏切っていたのかもしれない。自我を得た怪人たちを否定せず、抑えず、傍観したあの日から。
「私は逃げるのではない……選ぶのだ。次の“悪魔の舞台”を」
彼は振り返らなかった。
誰一人として彼を止めず、誰一人として見送らなかった。
ただひとつ──
冷たく光る記録媒体が、彼の歩みとともに静かに揺れていた。
新たな悪夢の種を携えて、最狂の科学者は闇に消えた。
■
薄曇りの空から、冷たい霧雨が静かに降り注いでいた。
ここは、ネメシス本部・医療隔離区画。
ルクシィア・メイルシュトロムの遺体が回収されたという報せは、雷のように静寂を破った。
白く曇った廊下の片隅。
ラミアは、雨に濡れた銀髪を無造作に払いながら、目の前の冷凍カプセルを見つめていた。
「……本当に、彼女なのか」
かすれた声で問いかけるラミアの隣には、冷静な様子で端末を操作するレイヴンの姿があった。
「ああ。DNAは完全に一致している。形状の異常についても……吸血行為によるものと断定されている」
「吸血……?」
ラミアの瞳が大きく揺れた。
「まるで、体内の液体も、組織も……すべて吸い尽くされたような状態だった」
彼女の喉が小さく鳴った。
この世の終わりのような静けさが、ラミアの内側に響く。
ルクシィアは、死んだ──。
誰かに“喰われる”ようにして。
「……彼女が“なぜ消えた”か、あんたは知ってるのか」
ラミアの声には、怒気と戸惑いが交じっていた。
レイヴンは目を伏せ、小さく息を吐いた。
「正確にはわからん。だが、彼女が残したデータログの一部が復元されている。それによれば、彼女は“誰かに会うために”本部を離れた形跡がある」
「誰に?」
「特定不能だ。通信記録も、行動データも……途中で遮断されている」
沈黙。
霧雨の音だけが、冷凍室の中に響いていた。
ラミアは震える指先で、冷凍カプセルの透明なガラスにそっと手を添えた。
その向こう側、変わり果てた彼女の姿。
すべての色を失い、無残に干からびた肉体──だが、ラミアにはそれが、なお美しく思えた。
「私たちは……“生き延びるための怪物”だった。誰もが、そう作られ、そう教えられてきた……でも、彼女は──」
ラミアの声が震えた。
「彼女は、怪物なんかじゃなかった。……あれは、“誰か”を護ろうとしてた」
レイヴンは視線を落とし、やや戸惑いながらも口を開いた。
「……ネメシスは、変わりつつある。ゼクスも、総帥の意向に逆らう形で“自由意思”を認めていた。
君の仲間たち……L-Disaster計画の彼らは、その象徴だったのかもしれない」
「でも、彼女は“否定”された。殺された」
ラミアの声は、悲しみに濡れ、怒りの色を帯びる。
「だったら……私たち“存在”は、いったいどこに向かえばいいんだ……?」
レイヴンは答えなかった。
ただ静かに、ラミアの顔を見つめていた。
やがてラミアは、カプセルから手を離し、濡れた瞳を閉じる。
そして──誰にも届かないほど小さな声で、呟いた。
「……イツキ。あなたに、伝えなきゃならない」
それは、かつて兵器として作られた彼女が、初めて祈りにも似た感情を言葉にした瞬間だった。
雨は止まなかった。
ネメシス本部・戦略局会議室。
厚い防音処理が施された空間に、異様な沈黙が広がっていた。
中央のモニターには、ドクトル・メディアスの顔写真とともに、赤く点滅する警告文が浮かんでいる。
『機密保持対象:L-Disaster計画 指導者』
『状態:所在不明・裏切りの可能性あり』
ゼクスは椅子にもたれながら、その画面を静かに見つめていた。怒りではない。失望でもない。ただ冷徹な思考だけが、その瞳の奥に光っていた。
「……セイガンに亡命したと?」
彼の低い声が室内に響く。補佐官ヴェリアは無表情のまま頷いた。
「確定情報ではありません。しかし、幾つかの情報網が“九頭”と名乗るセイガン側の科学者と接触した可能性を示唆しています」
「……九頭。皮肉な名前だ」
扉が開き、ラミアが無言で入室する。手には報告書を持っていたが、視線は会議室の空気に向けられていた。
「L-Disaster計画の中核が敵に渡れば、どの程度の損害になる?」
「壊滅的です」ヴェリアは即答する。「既に第三世代以降の怪人開発は全面停止中。加えて、旧世代の怪人はセイガン側の新型ヒーローへの対応が限界に達しつつあります」
ゼクスの唇がわずかに歪んだ。
「つまり、我々が誇った怪人たちは──もはや“時代遅れ”だと」
席の端にいたブラックエイド副指揮官・クラウスが立ち上がる。
「ここ三ヶ月で五つの拠点が陥落しました。全て、セイガン・ブルーとピンク……レンとサクラによるものです」
ラミアが顔をしかめる。
「ルクシィアの記録にあった通り、奴らはもう“ヒーロー”じゃない。化け物そのものよ」
「……怪物には、怪物を」
ゼクスの囁きのような言葉に、会議室が静まり返る。
全員の視線が彼に注がれた。
「新たな戦力の構築が急務だ。だがドクトルのような“暴走因子”にはもう頼れん。必要なのは……“制御された狂気”だ」
「新型怪人の開発を再開するということか?」ラミアが問う。
ゼクスは深く頷いた。
「かつて凍結されたある計画がある。L-Disasterとは異なる、もう一つの“極限設計”。今こそ、それを再構成する時だ」
その言葉に、空気が一変した。
それは、ネメシスという組織が生き延びるための、最後の一手だった。
だが、その刃が向く先がセイガンだけとは──誰もまだ、気づいていなかった。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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