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ジンとロードの過去編
第九話 友が為に全てを懸けん
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龍となったヘルメスは荒れ狂ったような咆哮を上げてその存在はあたり一体の空気を萎縮させる。巨大化したヘルメスはガルであっても比べられないほどの巨体で、体中が光沢のある真っ黒な鱗で覆われていた。そしてその鱗は大量の魔力が込められたガルド鉱石の硬度をも遥かに上回り攻撃力、防御力ともに計り知れないものになっていた。
「終わったな」
ケルスタイトは龍化したヘルメスを見て勝ちを確信したように不敵な笑みを浮かべる。
(まずいッ!)
「フィリア! 離れて!」
(剣に魔力を込めて、今のありったけでッ)
ヘルメスが巨大な尻尾で叩き潰してくる前にジンはヘルメスの硬い鱗に思い切り剣を振り下ろした。剣と鱗のぶつかる衝撃で凄まじい轟音が響き渡るがジンの剣はその硬い鱗に弾かれそのまま身体ごと後ろに吹き飛ばされる。
「ジンッ!!」
「バウッ!」
ジンは地面に落下することなく、一瞬で駆けつけたガルの上にバフっと着地する。
「イタタ、ごめんガル」
(どうしようかな、ゼフじいにもらった武器でも全く歯が立たない)
「諦めろ、人が龍に勝てるわけがないだろ。人間にしてはよくやった。せめて楽に殺してやる」
龍の姿のヘルメスは勝ち誇ったようにそう言い放った。
「まだ終わってないよ、戦いは」
ガルはそんなジンを心配そうな顔で見ていた。
「ガル、私は大丈夫だよ」
ジンは落ち着いた声でそう言いながらガルの大きな体を撫でると、ガルは安心して嬉しそうにジンのほっぺたをすりすりした。
(ジンが困ってる時に私は何も出来ない······あれだけ助けてもらったのに)
フィリアは何も出来ない自分が情けなく悔しく血が出るほどに唇を噛む。そして仮に自身がジンの武器に入り『意思のある武器』となっても役には立たないということを自らで自覚していたことが何よりも悔しかったのだ。
「フィリア!!」
とそこにゼルタスとは別の場所に転移していたメルティが駆け寄ってきた。
「メルティ! どうしてここに!?」
「助けに来たに決まってるじゃない、まずい状況みたいね」
「でも、今私たちがどうにかできる状況じゃないのです······私では命の恩人のあの子に近づくことすらできない。私を守るために、ジンはあんな小さな体であんなにも頑張ってるのに。私は、自分が······自分が情けなくて仕方がありませんッ」
「フィリア······」
ジンとヘルメスの戦いは武器の意思であるメルティも目で追うのがやっとだった。ジンはどれだけ攻撃を弾き返されようとも何度も何度も攻撃を仕掛け、自分より何十倍の大きさもあるヘルメスに果敢に立ち向かい続けていた。そしてガルはケルスタイトと戦いながら時折吹き飛ばされるジンを受け止めるというような激しい攻防が続いていた。
そんな戦いを見ていたフィリアの頭には自然とある考えが浮かぶ。
「あの子には私のこの意思も、記憶も、存在も全てを託す意味があります」
「······あなた、まさかッ!?」
「メルティ、あの子はねこんな私を大好きだって言ってくれたんです。たとえ私がいなくなっても、私が私でなくなってもあの子は私を大好きなままだって言ってくれたんです············それを聞いて、私はどれだけ嬉しかったか」
フィリアは自分の胸に手を当ててそのあたたかい思い出が消えてしまわないようにそっと胸にしまい、今持てる自分の全魔力を集約させる。
「ダメよフィリア!! その魔法を使えば、あなたの存在そのものがなくなってしまうのよ!」
その言葉を聞いて、ジンはヘルメスへの攻撃をピタリと止めてゆっくりとフィリアの方を向いた。
「どういうこと?······フィリア」
心配そうに見つめるジンにフィリアは胸がギュッと苦しくなるのを感じる。フィリアが行おうとしていた魔法は意思がその生涯でたった一度だけ使用することのできる禁忌の魔法、「ウィレインカーネーション」。自らの記憶も何もかもを失い、存在そのもの自体が消える代わりに新たな意思として転生する禁忌の魔法。
「フィリア、ダメだよッ! 私がすぐに倒すから! だからずっとここにいて!」
傷だらけになった体でジンは必死にそう叫ぶ。
そしてその言葉にゆっくりと首を横に振るフィリアは無意識に目に涙を流していた。
(ああ、記憶とはなんて罪深いものなんでしょう、覚悟を決めた心を揺り動かすほど消えて欲しくないものを今私に思い出させるなんて)
フィリアの心には意思の皆とのあたたかい思い出、クレースたちから受けた優しさ、そしてジンから伝えられた大好きの言葉が溢れ込み、それはフィリアを止めるかのように深く心の奥に突き刺さる。
「ジン、私は消えたりなんかしません。新しい私になっても······きっと、きっとあなたを忘れない。絶対にあなたの元へと行きます。そしたらもう、私は一生あなたから離れませんから」
「ッ······フィリア」
メルティはフィリアのことをもう止めようとはしなかった。ただ下を向きながら涙を堪えゆっくりと手をかざしフィリアに魔力を分け与える。
(私の記憶も存在も、もう惜しくないッ! 私に全てをあの子に捧げる! ただあの子を助ける力をそれだけの力を!)
そしてその膨大な魔力はただ一点に集中し、フィリアの周りが白い光で満たされる。
「ウィレインカーネーションッ!!」
「フィリアァッ!!」
全魔力が捧げられたその禁忌魔法を発動させ、それに伴いフィリアの肉体は徐々に崩れ始め、その胸に「意思」が白い光となって収縮される。「意思」はさまざまに色を変え、フィリアの意思が次第に薄れていく。
ウィレインカーネーションとは大量の魔力に加えリスクが高いが必ずしも現在よりも強力な意思に転生できるとは限らない。元の意思よりも強くなることもあれば、微弱な意思に転生することでさえあり得るのだ。
(必ず、どんな姿になっても、私は、僕は······あなたを、君を、助けるから······)
意思同士が混在し、呑み込まれるようにして徐々に『フィリア』が消えていく。フィリアの体は完全に消え去り、眩いほどの白い光から放たれたその『意思』はこの世界に降臨した。そして転生し生まれた変わったばかりのその意思は迷うことも漂うこともなく、まるで約束を果たすかのようにジンの元へと飛んでいく。
「これは!!······」
驚いたヘルメスはその意思に手を伸ばすが、触れることもできずに弾き返される。
「ー契約の時、我この者の武器に宿らん」
ジンの武器へと入ったその意思は優しい声でそう言った。
その意思の名は「ロード」。『開闢の意思』にして最強の意思が契約の時を迎えたのだ。
「終わったな」
ケルスタイトは龍化したヘルメスを見て勝ちを確信したように不敵な笑みを浮かべる。
(まずいッ!)
「フィリア! 離れて!」
(剣に魔力を込めて、今のありったけでッ)
ヘルメスが巨大な尻尾で叩き潰してくる前にジンはヘルメスの硬い鱗に思い切り剣を振り下ろした。剣と鱗のぶつかる衝撃で凄まじい轟音が響き渡るがジンの剣はその硬い鱗に弾かれそのまま身体ごと後ろに吹き飛ばされる。
「ジンッ!!」
「バウッ!」
ジンは地面に落下することなく、一瞬で駆けつけたガルの上にバフっと着地する。
「イタタ、ごめんガル」
(どうしようかな、ゼフじいにもらった武器でも全く歯が立たない)
「諦めろ、人が龍に勝てるわけがないだろ。人間にしてはよくやった。せめて楽に殺してやる」
龍の姿のヘルメスは勝ち誇ったようにそう言い放った。
「まだ終わってないよ、戦いは」
ガルはそんなジンを心配そうな顔で見ていた。
「ガル、私は大丈夫だよ」
ジンは落ち着いた声でそう言いながらガルの大きな体を撫でると、ガルは安心して嬉しそうにジンのほっぺたをすりすりした。
(ジンが困ってる時に私は何も出来ない······あれだけ助けてもらったのに)
フィリアは何も出来ない自分が情けなく悔しく血が出るほどに唇を噛む。そして仮に自身がジンの武器に入り『意思のある武器』となっても役には立たないということを自らで自覚していたことが何よりも悔しかったのだ。
「フィリア!!」
とそこにゼルタスとは別の場所に転移していたメルティが駆け寄ってきた。
「メルティ! どうしてここに!?」
「助けに来たに決まってるじゃない、まずい状況みたいね」
「でも、今私たちがどうにかできる状況じゃないのです······私では命の恩人のあの子に近づくことすらできない。私を守るために、ジンはあんな小さな体であんなにも頑張ってるのに。私は、自分が······自分が情けなくて仕方がありませんッ」
「フィリア······」
ジンとヘルメスの戦いは武器の意思であるメルティも目で追うのがやっとだった。ジンはどれだけ攻撃を弾き返されようとも何度も何度も攻撃を仕掛け、自分より何十倍の大きさもあるヘルメスに果敢に立ち向かい続けていた。そしてガルはケルスタイトと戦いながら時折吹き飛ばされるジンを受け止めるというような激しい攻防が続いていた。
そんな戦いを見ていたフィリアの頭には自然とある考えが浮かぶ。
「あの子には私のこの意思も、記憶も、存在も全てを託す意味があります」
「······あなた、まさかッ!?」
「メルティ、あの子はねこんな私を大好きだって言ってくれたんです。たとえ私がいなくなっても、私が私でなくなってもあの子は私を大好きなままだって言ってくれたんです············それを聞いて、私はどれだけ嬉しかったか」
フィリアは自分の胸に手を当ててそのあたたかい思い出が消えてしまわないようにそっと胸にしまい、今持てる自分の全魔力を集約させる。
「ダメよフィリア!! その魔法を使えば、あなたの存在そのものがなくなってしまうのよ!」
その言葉を聞いて、ジンはヘルメスへの攻撃をピタリと止めてゆっくりとフィリアの方を向いた。
「どういうこと?······フィリア」
心配そうに見つめるジンにフィリアは胸がギュッと苦しくなるのを感じる。フィリアが行おうとしていた魔法は意思がその生涯でたった一度だけ使用することのできる禁忌の魔法、「ウィレインカーネーション」。自らの記憶も何もかもを失い、存在そのもの自体が消える代わりに新たな意思として転生する禁忌の魔法。
「フィリア、ダメだよッ! 私がすぐに倒すから! だからずっとここにいて!」
傷だらけになった体でジンは必死にそう叫ぶ。
そしてその言葉にゆっくりと首を横に振るフィリアは無意識に目に涙を流していた。
(ああ、記憶とはなんて罪深いものなんでしょう、覚悟を決めた心を揺り動かすほど消えて欲しくないものを今私に思い出させるなんて)
フィリアの心には意思の皆とのあたたかい思い出、クレースたちから受けた優しさ、そしてジンから伝えられた大好きの言葉が溢れ込み、それはフィリアを止めるかのように深く心の奥に突き刺さる。
「ジン、私は消えたりなんかしません。新しい私になっても······きっと、きっとあなたを忘れない。絶対にあなたの元へと行きます。そしたらもう、私は一生あなたから離れませんから」
「ッ······フィリア」
メルティはフィリアのことをもう止めようとはしなかった。ただ下を向きながら涙を堪えゆっくりと手をかざしフィリアに魔力を分け与える。
(私の記憶も存在も、もう惜しくないッ! 私に全てをあの子に捧げる! ただあの子を助ける力をそれだけの力を!)
そしてその膨大な魔力はただ一点に集中し、フィリアの周りが白い光で満たされる。
「ウィレインカーネーションッ!!」
「フィリアァッ!!」
全魔力が捧げられたその禁忌魔法を発動させ、それに伴いフィリアの肉体は徐々に崩れ始め、その胸に「意思」が白い光となって収縮される。「意思」はさまざまに色を変え、フィリアの意思が次第に薄れていく。
ウィレインカーネーションとは大量の魔力に加えリスクが高いが必ずしも現在よりも強力な意思に転生できるとは限らない。元の意思よりも強くなることもあれば、微弱な意思に転生することでさえあり得るのだ。
(必ず、どんな姿になっても、私は、僕は······あなたを、君を、助けるから······)
意思同士が混在し、呑み込まれるようにして徐々に『フィリア』が消えていく。フィリアの体は完全に消え去り、眩いほどの白い光から放たれたその『意思』はこの世界に降臨した。そして転生し生まれた変わったばかりのその意思は迷うことも漂うこともなく、まるで約束を果たすかのようにジンの元へと飛んでいく。
「これは!!······」
驚いたヘルメスはその意思に手を伸ばすが、触れることもできずに弾き返される。
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