ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
36 / 240
ジンとロードの過去編

第九話 友が為に全てを懸けん

しおりを挟む
龍となったヘルメスは荒れ狂ったような咆哮を上げてその存在はあたり一体の空気を萎縮させる。巨大化したヘルメスはガルであっても比べられないほどの巨体で、体中が光沢のある真っ黒な鱗で覆われていた。そしてその鱗は大量の魔力が込められたガルド鉱石の硬度をも遥かに上回り攻撃力、防御力ともに計り知れないものになっていた。

「終わったな」

ケルスタイトは龍化したヘルメスを見て勝ちを確信したように不敵な笑みを浮かべる。

(まずいッ!)

「フィリア! 離れて!」

(剣に魔力を込めて、今のありったけでッ)

ヘルメスが巨大な尻尾で叩き潰してくる前にジンはヘルメスの硬い鱗に思い切り剣を振り下ろした。剣と鱗のぶつかる衝撃で凄まじい轟音が響き渡るがジンの剣はその硬い鱗に弾かれそのまま身体ごと後ろに吹き飛ばされる。

「ジンッ!!」

「バウッ!」

ジンは地面に落下することなく、一瞬で駆けつけたガルの上にバフっと着地する。

「イタタ、ごめんガル」

(どうしようかな、ゼフじいにもらった武器でも全く歯が立たない)

「諦めろ、人が龍に勝てるわけがないだろ。人間にしてはよくやった。せめて楽に殺してやる」

龍の姿のヘルメスは勝ち誇ったようにそう言い放った。

「まだ終わってないよ、戦いは」

ガルはそんなジンを心配そうな顔で見ていた。

「ガル、私は大丈夫だよ」

ジンは落ち着いた声でそう言いながらガルの大きな体を撫でると、ガルは安心して嬉しそうにジンのほっぺたをすりすりした。

(ジンが困ってる時に私は何も出来ない······あれだけ助けてもらったのに)

フィリアは何も出来ない自分が情けなく悔しく血が出るほどに唇を噛む。そして仮に自身がジンの武器に入り『意思のある武器』となっても役には立たないということを自らで自覚していたことが何よりも悔しかったのだ。

「フィリア!!」

とそこにゼルタスとは別の場所に転移していたメルティが駆け寄ってきた。

「メルティ! どうしてここに!?」

「助けに来たに決まってるじゃない、まずい状況みたいね」

「でも、今私たちがどうにかできる状況じゃないのです······私では命の恩人のあの子に近づくことすらできない。私を守るために、ジンはあんな小さな体であんなにも頑張ってるのに。私は、自分が······自分が情けなくて仕方がありませんッ」

「フィリア······」

ジンとヘルメスの戦いは武器の意思であるメルティも目で追うのがやっとだった。ジンはどれだけ攻撃を弾き返されようとも何度も何度も攻撃を仕掛け、自分より何十倍の大きさもあるヘルメスに果敢に立ち向かい続けていた。そしてガルはケルスタイトと戦いながら時折吹き飛ばされるジンを受け止めるというような激しい攻防が続いていた。

そんな戦いを見ていたフィリアの頭には自然とある考えが浮かぶ。

「あの子には私のこの意思も、記憶も、存在も全てを託す意味があります」

「······あなた、まさかッ!?」

「メルティ、あの子はねこんな私を大好きだって言ってくれたんです。たとえ私がいなくなっても、私が私でなくなってもあの子は私を大好きなままだって言ってくれたんです············それを聞いて、私はどれだけ嬉しかったか」

フィリアは自分の胸に手を当ててそのあたたかい思い出が消えてしまわないようにそっと胸にしまい、今持てる自分の全魔力を集約させる。

「ダメよフィリア!! その魔法を使えば、あなたの存在そのものがなくなってしまうのよ!」

その言葉を聞いて、ジンはヘルメスへの攻撃をピタリと止めてゆっくりとフィリアの方を向いた。

「どういうこと?······フィリア」

心配そうに見つめるジンにフィリアは胸がギュッと苦しくなるのを感じる。フィリアが行おうとしていた魔法は意思がその生涯でたった一度だけ使用することのできる禁忌の魔法、「ウィレインカーネーション」。自らの記憶も何もかもを失い、存在そのもの自体が消える代わりに新たな意思として転生する禁忌の魔法。

「フィリア、ダメだよッ! 私がすぐに倒すから! だからずっとここにいて!」

傷だらけになった体でジンは必死にそう叫ぶ。
そしてその言葉にゆっくりと首を横に振るフィリアは無意識に目に涙を流していた。

(ああ、記憶とはなんて罪深いものなんでしょう、覚悟を決めた心を揺り動かすほど消えて欲しくないものを今私に思い出させるなんて)

フィリアの心には意思の皆とのあたたかい思い出、クレースたちから受けた優しさ、そしてジンから伝えられた大好きの言葉が溢れ込み、それはフィリアを止めるかのように深く心の奥に突き刺さる。

「ジン、私は消えたりなんかしません。新しい私になっても······きっと、きっとあなたを忘れない。絶対にあなたの元へと行きます。そしたらもう、私は一生あなたから離れませんから」

「ッ······フィリア」

メルティはフィリアのことをもう止めようとはしなかった。ただ下を向きながら涙を堪えゆっくりと手をかざしフィリアに魔力を分け与える。

(私の記憶も存在も、もう惜しくないッ! 私に全てをあの子に捧げる! ただあの子を助ける力をそれだけの力を!)

そしてその膨大な魔力はただ一点に集中し、フィリアの周りが白い光で満たされる。

「ウィレインカーネーションッ!!」

「フィリアァッ!!」

全魔力が捧げられたその禁忌魔法を発動させ、それに伴いフィリアの肉体は徐々に崩れ始め、その胸に「意思」が白い光となって収縮される。「意思」はさまざまに色を変え、フィリアの意思が次第に薄れていく。
ウィレインカーネーションとは大量の魔力に加えリスクが高いが必ずしも現在よりも強力な意思に転生できるとは限らない。元の意思よりも強くなることもあれば、微弱な意思に転生することでさえあり得るのだ。

(必ず、どんな姿になっても、私は、僕は······あなたを、君を、助けるから······)

意思同士が混在し、呑み込まれるようにして徐々に『フィリア』が消えていく。フィリアの体は完全に消え去り、眩いほどの白い光から放たれたその『意思』はこの世界に降臨した。そして転生し生まれた変わったばかりのその意思は迷うことも漂うこともなく、まるで約束を果たすかのようにジンの元へと飛んでいく。

「これは!!······」

驚いたヘルメスはその意思に手を伸ばすが、触れることもできずに弾き返される。

「ー契約の時、我この者の武器に宿らん」

ジンの武器へと入ったその意思は優しい声でそう言った。


その意思の名は「ロード」。『開闢の意思』にして最強の意思が契約の時を迎えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...