ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第十四話 暗闇に消える

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メスト大森林での戦いから数日が経った後、ベオウルフはグラムがまたどこかに行ってしまわないように、今晩魔力壁が張られていた場所にハルトとグラムを連れた三人で調査と言う名の殴り込みを決行しようとしていた。グラムは性格上同じ場所に長時間いるということができないためこうするしかないのだ。

「ベオくん!! 最近はどうだい!? 僕がいなくて寂しかったかい!?」

「おいグラム、失礼だぞ。剣帝様の前ではもっと言動を慎め」

「まあいいぜ。コイツは言ってどうにかなるようなタマじゃねえからな。今晩についてだが、一応住民は全員避難させて他の奴らに住民の警護とここの防衛を頼む。俺の予想がもし正しけりゃあ最大戦力で叩かねえと落ちねえ。いや、落ちたらいい方だな。まあどちらにしろこんな状況じゃあゆっくりしてる暇もねえ」

「僕が一発で終わらせてあげようかい?」

「馬鹿野郎、それじゃあここ一帯が消し飛ぶだろ」

「ハハハッ! そうだったね!」 

「剣帝様ほどの御方でも難しいというのは敵をご存知で?」

「······付着していた魔力に覚えがある。おそらくは古い知り合いだ。だから今回の一連の事件は全て俺に責任がある」

それを聞いてグラムはベオウルフにはっきりと見えるようにして決めポーズを取った。

「ベオくん! 気にする必要はないさ!! このボークッに任せたまえ!!」

「おう、頼りにしてんぜ」

ハルトは正直注意をするのが面倒くさくなり少しため息をついた。その後三人は人目がつかないような場所で作戦を練り始める。

「えっ!? なかなか顔を見ないと思ったらラダルス君は亡くなっていたのかい!?」

会話の中でラダルスの話が上がり思わずグラムは声を上げた。そして大袈裟に頭に手を当てるとガーンッ!という効果音が聞こえそうな顔で悲しみを表現する。周りからみれば少し不謹慎かもしれないが、グラムからすればこれは最大限の悲しみの表現なのだ。

「まあそういうことだ。これ以上被害を大きくするわけにはいかねえ」

そしてその夜はゼーラたち序列四位以下の騎士たちを中心として早々に住民の避難を終えた。城下は閑散とした雰囲気に包まれ、いつもは灯りの灯る民家や教会も今日は暗く夜の暗さと一体化する。そして誰もいないその暗闇にはただ異質で異常な雰囲気を醸し出すこの国の最大戦力三人がゆっくりと歩いていた。

「どうやらゴミ屑君たちも準備満タンみたいだね!」

三人の目の前にはベイガルを先頭にして周りを取り囲むように司聖教の者たちが立っていた。

「おやおや剣帝様に序列一位と二位の方達までいらっしゃるとは」

ベイガルは三人を前にして戦闘狂の血が騒ぎ武者振るいとともに拳を強く握りしめた。

「今までのもの達はつまらなかったぞ、せいぜいあの女騎士が少し楽しめたくらいだ。お前達は楽しませてくれるんだろうなッ····」

「!?」

ベイガルが煽るような言葉を言い終えた次の瞬間、不気味な笑みを浮かべていた司聖教達は目の前の光景を目撃すると全員が凍りつくようにしてその場に立ち尽くした。

「おやおや、決め台詞は強い者しか言ってはいけないんだよ」

グラムの拳を頬に受けたベイガルは一瞬にして身体ごと地面に打ち付けられ、いつの間にか気絶していた。

「どうやらラダルス君は調子が悪かったみたいだね! こんな相手にあんな強かったラダルス君が負けるはずがない!!」

「——極級魔法」

「グラムッ! ハルトッ!!」

その言葉と一瞬のアイコンタクトで二人はベオウルフのもとに戻った。それと同時にベオウルフは『ギル』を取り出し地面に突き刺した。

「剣帝門」

「アビス・ネオ【深淵の始まり】」

瞬く間に展開された巨大な門は威風堂々とした姿でその場に現れた。そしてそれを襲うようにして黒い瘴気がまとわりつき、しばらく止まる。
次の瞬間、剣帝門を覆い被せるようにした瘴気は根本から爆発を引き起こし、その衝撃に誘発され門は巨大な爆発に呑み込まれた。

「閉門」

ベオウルフが少し傷付いた剣帝門をしまうとその爆発の煙の中からゆっくりと誰かが歩いてきた。

「ラグナルク様!」

少し焦りの見えていた司聖教はラグナルクの登場で再び息を吹き返したように安堵の息をついた。

「久しぶりだな、贋作」

「テメェか······ラグナルク」

両者は睨み合い、その場には張り詰めた空気が漂った。そんな雰囲気が苦手なグラムは小声でハルトの耳に話しかける。

「ねえねえハルト君、あのおじさんは誰だい? もしかして僕だけ知らないのかい?」

「いや、俺も知らない。ただ敵なのは確かだろうな」

「ここでさっさと決着つけんぞ。お前と呑気に話すつもりはねえ」

「そうか、それは残念だ。だが昔のように誰一人守れないのは変わっておらぬな」

その言葉を聞いてベオウルフはグッと怒りを堪えるように剣を強く握りしめた。その様子を見て満足したような雰囲気のラグナルクは小馬鹿にするように軽く鼻で笑った。

(この老いぼれがあいつなのか? 随分と見た目が変わったな)

(ああ、そういやお前はこいつのこと斬ってたな。まあ俺はもう老けねえからな。でもコイツも相当なバケモンだぜ、普通の人間ならもうとっくの昔に死んでるはずだ)

「お前、どうして生きてる?」

「····どうしてか。あえて答えるなら、お前を殺すためだ」

そう言ってラグラルクは近くで気絶して倒れているベイガルに一瞥をやると光の玉がゆっくりとベイガルに近づいていった。そしてその光はそっとベイガルの体の中に入り込むと全身が光に包まれベイガルは息を吹き返した。
ハッとなり起き上がったベイガルはラグナルクの前に跪き頭を垂れる。

「ラグナルク様、申し訳ありません」

「構わん、よい陽動になった」

「ハルトッ!!!」

「ハルト君!!」

ベオウルフとグラムが叫ぶが、とっさのことで反応できなかったハルトはその場に立ち尽くす。次の瞬間、ハルトの脳裏にやきつくようにギシャルの顔が現れ、強烈な目眩が襲った。そして黒い空間が隣に現れる。

(幻術か············思考が······鈍る。身体が重い)

ベオウルフとグラムが手を伸ばすがいち早く危険を感じたハルトは二人の手を振り払いそのまま突き放す。

「問題ありません」

平然としてそう言いながら、ハルトはその黒い空間に吸い込まれていった。吸い込まれる瞬間、ハルトの顔は二人を安心させるようにいつものキリッとした顔でその目には何かを託したような瞳がうつっていた。そしてハルトを呑み込んだその空間はすぐに姿を消した。

「ハルトをどこへやった!!」

その声とともにベイガルでさえ目で追えないような素早い斬撃が繰り出されるが、その剣はラグナルクに当たることなく空を斬った。

「チッ、もう本体じゃねえのかよ」

ラグナルクの体は霧のように暗闇の中へと消えていきそのまま空気と同化していった。
ほんの僅かな魔力の痕跡を頼りにベオウルフは一歩を踏み出したが、それをグラムが止める。

「待ちたまえっ、ベオ君! このままでは敵の思うがままさ!」

その声にグッと堪えその場にとどまった。

「····クソがッ」

底知れない怒気を孕んだ顔のベオウルフの周りには強烈な圧がかかる。司聖教の者がいれば間違いなく全員が倒れていたであろうほどの圧力だったが、司聖教たちはすでにその場にはおらず、ラグナルクと同じくして姿を消していた。

「あれ、急に魔力濃度が薄くなったね」

「······ハルトはこの国にはいねえ。何処か別の場所に連れ去られた」




その頃、時を同じくしてボーンネル。

「ッ———」

「レイ、どうかしたの?」

ジンとクレースと一緒に部屋にいたレイは急に後ろを振り返り、丁度ギルメスド王国の方角を向いた。

「······いいや、何でもない」

レイは妙な違和感と寒気を感じ取ったものの、気のせいだと思い再び前を向いたのだった。
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