ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
197 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第四十六話 繋がる世界

しおりを挟む
 
 戦場となったモンドの中。各地で激しい戦闘が行われる一方である場所では普段と変わりない光景が広がっていた。
 リラックススペースに設定されヴァンがオーナーを務めるレストラン。いつものように数十人の料理人達は厨房の中で慌ただしく移動する。

「食材はありったけ使うぞ!! 今は不足なんて考えるな!!」

 ヴァンの呼びかけと共に皿には大量の料理が盛り付けられていく。この状況下でも盛り付けには一切の妥協などない。もちろん味も同様である。厨房の周りには結界も無ければ料理人の中に戦闘で腕が立つものなどいない。まさに命懸けの調理だった。だがそれでも恐怖を感じている者はいないのだ。

 そしてエルムもまたヴァンの隣で調理を行っていた。今となっては大国からの料理人が二人の元へと修行に来るほど二人の料理の腕前は秀でている。洗練された手つきと連携で瞬く間に皿には料理が盛られていき全てが魔法により鮮度やその温度が保たれていた。

「ジンお姉ちゃん····大丈夫かな」

「ジンならきっと大丈夫だ。腹が減っては戦は出来ねえ。俺たちのやるべきことは全員の腹を満たす、そうだろ?」

「······うん。分かった」

「それでだ。敵がここに荒らされればこのうまい料理も全部無駄になっちまう」

 ヴァンはそう言いながら厨房を出る。リラックススペースの中に幸い敵はいない。だがここへ避難したもの達もヴァン達同様、戦闘面で腕が立つわけではないのだ。ヴァンは扉をゆっくりと開けて外の様子を伺うため少し顔を出した。

「ッ———」

 丁度そのタイミングでヴァンの視界にはメカの姿が入った。

(しまった····気づかれたかッ)

 すぐに扉を閉めたが確かに目が合った。だがこちらに気づかれたという確信はない。
 視界にいた敵はメカが一体。この場にいた者達全員の戦力では一体でも相手をすることはできない。
 そして明らかにこちらへ向かって進んでいるのが見えた。
 それが分かっていたからこそ、今の状況はまずかった。

「これで何とかなる····わけねえよな」

 腰に携えていたのはゼフが作成した料理包丁が一本のみ。
 愛用している包丁ではあるものの戦闘に使用するにはあまりにも不向きなのだ。
 ゆっくり振り向きヴァンは挑戦的な笑みを浮かべた。

(あいつが来るのも時間の問題か)

「ここは全員がくつろぐ場所だからな」

 覚悟を決めヴァンは扉に手をかけゆっくりと息を吸った。
 料理包丁を持つもう一方の手には力が入る。
 勢いよく扉を開け外に出た瞬間、再びメカと目があった。
 今度は間違いなくメカはヴァンの存在に気付いていた。

「ヤベェな····」

 予期した通り先程よりもこちらに近づいている。
 覚悟はしていたが実際に目の前にしてみると戦力差は圧倒的であった。
 そもそもヴァンはBランクの魔物を倒したことすらないのだ。

「こっちだ! 来いッ!!」

 斜め前に走り出したヴァンをメカは追尾する。
 今はジンの強化魔法も付与されていないためこの行動は自殺行為だった。

(チッ——外は全く違うじゃねえか。何処だよここ····)

 辺りを見渡したがいつも知っている光景などない。メカ以外は誰もおらず助けを呼べる望みもなかった。

「グッ——」

 振り返ることなく全力で走る最中、脇腹に激痛が走った。
 見ると血が流れ目の前の床には銃弾は着弾していた。

(クソッ、俺じゃ時間稼ぎにもならねえのかよ)

 逃げた先にはメカは回り込んでいた。この時点でヴァンが反撃する手段は手に握る料理包丁しかない。

(仲間の死は許さねえか······俺のちっぽけな魔力で今できることは····)

 ヴァンは持ち得る魔力を全て自身の足に集約させた。
 真っ向勝負が不可能であることは自分自身が最も理解していたのだ。

「追いかけっこと行こうじゃねえか」

 持ち得る魔力は全て足への強化魔法に使用する。
 姿勢を低くしヴァンは勢いよく走り出した。
 先程とは比べものにならないほどの速度。
 すぐ近くに死が迫る状況でアドレナリンが放出され脇腹の痛みは忘れていた。
 ヴァンを追尾するメカと速度は同等、ジグザグに走りながら後ろから放たれる銃撃を避けていた。

 リラックススペースから距離はさらに遠のいていき視界には無機質な壁がある。
 だが出口は何処にも見当たらなかった。

「一か八かだな」

 ヴァンは突然動きを止めその壁を背にメカの方を向いた。
 メカはヴァンを完全に捉えその眼にエネルギーが充填される。

「ロックオン」

 メカの無機質な声とともにその眼からビームが放出された。

「ッ———」

「標的の削除に失敗」

 ヴァンの背後にあった壁はビームにより崩壊し煙が舞った。
 メカの視界に生まれた僅かな死角を縫うようにしてヴァンはすぐさま移動する。

「ウァッ———」

 だがメカの巨大な手に掴まれ身体が宙に浮いた。

「ああぁあア”ア”ア”ッ」

 身体が握り潰されるほどの握力、銃弾を受けたその脇腹だけでなく身体全体に激痛が駆け巡った。

「グハッ——!!」

 すぐさま地面に叩きつけられ骨が砕けたような音が聞こえる。

「ブハッ」

 大量に吐血し視界は自身の真っ赤な血で埋められていた。
 右手に持った料理包丁は手から離さずにずっと持っている。
 だがこの状況で対抗できるほどの体力はほとんど残っていなかった。

(壁は空いた。俺がここで死んでもきっと誰かが来てアイツらを守ってくれるか。こんなことになるなら····トキワの兄貴に······特訓してもらうんだった)

 耳にはエネルギーが充填される音が聞こえる。
 ゆっくりと聞こえたその音は間違いなく死へのカウントダウンを表していた。

(でも死ぬつもりなんてねえ。王様に死ぬなって言われてんだよ)

 力を振り絞るように立ち上がる。
 だが状況は変わらない、数秒後に待ち受けているのは確実な死なのだ。
 右手に握る包丁は刃こぼれしていない。上を向き冷静にメカの動きを観察した。

(何処かに弱点はねえのか)

「ヤベェ」

 だがビームが放出されるその時、頭の中に声が聞こえた。

(———あなたはヴァンさんですか?)

 まるで時間が引き延ばされたような感覚。
 頭に響いた聞いたことのない声に何処か安心した。

(ああ、そうだが。お前は誰だ)

(初めまして私の名前はバイルドと言います。安心してください、私はただの道具の意思です)

(道具の意思····何でモンドの中に)

(詳しい話は後にしましょう。時間が引き延ばされているとはいえ、限界はあります。ヴァンさん、私と契約してくださいませんか?)

(契約? 契約って····この包丁にお前が宿るってことか)

(ええ、その通りです。心配しないでください。私は——)

(いいぜ。元商人の勘が大丈夫だと言ってやがる)

(左様ですか。ならば······)

 ヴァンの右手に持っていた料理包丁は突然輝き出しその意思に応えた。

(契約の時、我この者の道具に宿らん)

 バイルドの声と共にいつの間にか身体中に力が漲っていた。

「ッ———」

 その直後。時は動き出しメカのビームが放出される直前に戻ってきた。

(なんだこの光は!?)

 ヴァンの視界に映るメカは先程とは少し異なっていた。
 何故か身体の各所が不自然に光っているのだ。

(ヴァンさん、光を放っている場所が弱点です)

(なるほどな。こりゃあ便利だ)

 身体はダメージを受ける前よりも軽く、持っていた包丁は身体に馴染んでいた。
 すぐさま距離を詰め光に突き刺すと予期していた感触とは明らかに異なっている。

「ジジジ······」

 ヴァンに刺された瞬間。メカは奇怪な音を立て、突如として倒れ伏した。

「え······マジかよ」

 目の前で起こったことは確かに現実だった。
 包丁一本で確かにメカを討伐したのだ。

「はぁ、はぁ」

 その安心感とともに腰は抜けた。
 身体の疲労がドッと溢れ出し仰向けになったままヴァンは再び真っ赤な血を吐き出す。

(ヴァンさん、ヴァンさん!! しっかりしてくださいヴァンさん!!!)

 バイルドの声が頭の中に響くが意識は薄れていった。

「ヴァン!!」

 だがその時、ヴァンの耳にはエルムの声が聞こえた。

「しっかりしてヴァン!!」

「エ······ルム」

 駆けつけたエルムの涙が頬に落ち身体を強く掴まれた。

「痛い····やめて、ほんとに痛いから」

「あっ、ごめん。でも、でも全身傷だらけ······」

「———? どうした····エルム」

 その時、エルムは突然前を向き顔が青褪めた。
 首を動かすことも出来ずエルムの視線の先を見ることも出来ない。

「どうした······エルム」

「こ、この人は大怪我をしているんです。お願いです、これ以上傷つけないでください怖い人」

 エルムは目の前にいる人物が誰なのか知っていた。
 鬼幻郷を支配していたその人物はエルムにとって恐怖の対象である。

「ハハハ!! そうか、お主にとって俺は怖い人だな。だが安心しろその者は俺が必ず助けよう」

 二人の前に現れたへリアルはヴァンの前でしゃがむとサッと治癒魔法をかけた。

「おッ——なんだ、いきなり身体が軽い」

「で、でもどうしてですか。ジンお姉ちゃんがあなたは今ウィルモンドにいるって」

「俺もよくは分からぬが、どうやら今、ウィルモンドとここが繋がっているようだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...