198 / 240
英雄奪還編 後編
七章 第四十七話 舞う緋帝
しおりを挟む緋帝の配下であるラミリアは一人ラピルスを出てある人物を追っていた。目の前で飛行する人物は他でもない主のメイロード。天生体となってから暫くの間、玉座から離れることなどなかったメイロードは突然動き出し何も言わずに外へと出ていったのだ。
「メイロード様ッお待ちください!!」
「············」
呼びかけても変わらず、メイロードが応えることはない。ついて行くのがやっとの状況で何処に向かっていくのかさえ分からなかった。そして暫くすると突然翼を大きく広げメイロードは急停止する。
「ここは······」
辺りを見渡すと見覚えがある場所だった。だが違和感がありすぐには思い出せない。
「······何が起こって」
禍々しい魔力を纏ったモンドは以前に訪れた時とは全く異なっていたからだ。
初めて見る海に浮かぶモンドへと続く道。先程まで必死で気づくことはなかったが魔力濃度があまりにも濃く、息苦しささえ感じるほどだった。
メイロードはモンドの様子を少し見ると再び空を飛びその道を進み始めた。
ラミリアは何も言わずについていくが妙な違和感を感じていた。
扉のようなものは何も見られない。しかし二人が近づくと足元に転移魔法陣が出現し二人はモンド内へと転移した。
「············そんなッ」
視界に入った光景は以前訪れたモンドとは全くと言っていいほど別物だった。
爆発で抉り取られた道、崩れた建物、倒れる機械兵に、魔力が込められた見たことのない黒い玉。
少し見ただけではここがモンド内だとは分からない程だった。
隣に立っていたメイロードは変わらず無言のまま辺りを見渡していた。
「緋帝だな」
するとその時、高圧的な声とともに誰かが現れた。大天使のナフカである。
「·······何故武器を持つ」
いつの間にか武器に手をかけていたラミリアは咄嗟にその手を離した。
(そうか、メイロード様はこの天使と仲間なのか)
「失礼しました」
「お前のことなどどうでもよい。用があるのは緋帝だけだ」
「······」
普段のメイロードならばラミリアが蔑ろにされた時迷わず相手を睨み付ける。だが今のメイロードは黙ったまま虚ろな目で何処かを見ていた。
(メイロード様····)
しかし今はどうすることもできない。主が奪われたような悔しい感覚と共に行き場のない怒りが込み上げる。
「フンっ、どうやらこの様子では完全に自我を奪われているようだな。帝王であるにも関わらず天使一人に自我を奪われるとは哀れだな」
ナフカの煽るような言動にラミリアは拳を握り締め必死に怒りを抑えた。
目の前で主を馬鹿にされているのはとても耐えられたものではない。
「————?」
そんなラミリアの手をメイロードは優しく握った。暫くの間話しかけても何の反応すらなかったメイロードが自分から手を握ってきた。突然の出来事に驚愕しながらその顔を見るも先程から表情は変わっていない。
しかし優しく握られるとラミリアはすぐに落ち着いた。
そして確信する、これは天使などではなくメイロード本人であると。
「お前はこの場所で殺戮を行えばよい、好きに暴れろ」
ナフカはそう言うとメイロードに何かの魔法を付与した。
「今からお前はこの中で死ぬことはない。たとえ死んでもこの中ならば何度でも甦る」
「········」
「め、メイロード様?」
メイロードはナフカの説明を聞くとラミリアを指さした。
その意図に気づきナフカは溜息を吐きつつラミリアへも同様の魔法を付与する。
「フン、少しは自我が残っていたか」
そうしてナフカによりラミリアもモンド内で不死身と化したのだ。
(何だろうこの感覚。本当にこれで死ななくなった?)
自身の身体を見るが特に変わった様子はない。
「どうやら疑っているようだな。一度試してやろう」
ラミリアの様子を見てナフカは手を向ける。同時に手のひらに魔力が凝縮されラミリアの頭部を捉えた。
「ま、待って」
(この天使正気なの? 私のことを本当に殺そうとしている······)
「避けるなよ」
傲慢なナフカにとってラミリアを殺すことなどどうでもよいことなのだ。
ナフカはその目に不敵な笑みを浮かべ煽るような顔でラミリアを見た。
「さあ、一度死ね」
「ッ————」
ラミリアの脳裏でその一瞬、走馬灯のような景色が駆け巡った。
感じたことのないようなその感覚は間違いなく死へと近づく恐怖。
その初めて感じる類の恐怖に身体中が震え背筋が凍りついた。
(死ぬ······)
ナフカの手から放たれた光線の光はラミリアの視界を埋め尽くす。
超高速で飛来する光線は何故かゆっくりと向かっているように見えた。
殺されて蘇る確信などない、ただ一つ確信できるのは迫り来る死。
「——超克流、宝龍堕天」
だがラミリアに訪れたのは死でなく驚愕。
ナフカの顔面は地面に叩きつけられ轟音が鳴り響いていた。
「えッ——」
ナフカを叩きつけたのは他でもなくメイロードだった。ラミリアは何が起こったのか理解できずただ口を開き立ち尽くす。メイロードの背後には巨大な龍が現れ、輝く爪がナフカを抑えつけていた。そして攻撃を放ったはずのナフカは一撃だけで失神し白目を向いていたのだ。
「たっだいまー! 久しぶりだなラミリアッ!!」
目の前で陽気な声を上げるのはラミリアの知るメイロード本人だった。
輝く眼と満面の笑み、大好きで尊敬するメイロードへと戻っていたのだ。
「······はい、おかえりなさい」
「き····貴様ぁアアア」
いつの間にかナフカは意識を取り戻し抑え付けられた状態から立ち上がろうとしていた。
しかしメイロードの力は更に増していき両者の力は拮抗する。
衝撃波が走り地面はひび割れナフカは雄叫びを上げた。
「下界の民がぁアアア!!」
「おッ——」
その時メイロードは違和感を感じる。ナフカの魔力は突如として急上昇し明らかにその力が増したのだ。
ナフカの力に押し返された反動でメイロードの背後にいた龍は消え去った。
(あの天使、急にメイロード様以上の魔力に····)
「フンッ、調子に乗るなよ」
ナフカが所持する「傲慢の加護」はまさに性格を反映したもの。
たとえ相手が魔力量で上回っていたとしても自身より弱いと判断すれば無条件でその者の魔力量を上回る。
この”判断”というのは虚言ではなくナフカ自身が本心でそう思わなければならない。だがナフカの傲慢な性格によりその判断を最も簡単に遂行するのだ。
「ハハハッ——哀れだな下界の民!! お前ではもう私に勝てッ———」
言いかけた瞬間、腹部に衝撃を受け一瞬で激痛が駆け巡った。
いつの間にか距離をとったはずのメイロードが間合いを詰め拳を出している。
痛みで思考が飛ぶ中連撃が更に重なっていた。
(まずい、此奴らにかけた魔法を解除せね——)
「バァァア!!」
「私が何のために天生したと思ってんだよ。その程度か大天使?」
「ブァッ——ウガッ———」
(一撃が重たすぎる····意識が·····)
隙のない連撃を前にしては魔力量の差など関係なかった。魔法を発動することは愚か、身体を自由に動かすことすらできないのだ。
(何という屈辱、こんな雑魚に負けるというのか····いいや違う今ならば何度でも蘇る)
「メイロード様ッ——倒しても敵は蘇ります。あれをッ——!」
そう言いラミリアが指さした方向にはクレースの作り出した黒い玉があった。
音も無く黒雷を纏うその玉は酷く不気味でまるでこの世のものとは思えないほどの魔力を持っていたのだ。
「おう、よく分かんねえけど賭けだな」
「何をッ——」
「——超克流、熱波掌底」
連撃から自然な流れで繰り出されたその掌底突きは最も容易くナフカの身体を吹き飛ばした。
繰り出された方向には熱波が舞い受け身を取ることすらできないその技にナフカの身体は真っ直ぐ玉へと向かっていく。
「貴様ぁアアア———················」
ナフカが黒い玉に近づいた瞬間、その声は突如として途切れる。
そして玉は飛んできたナフカを一瞬で吸い込んだ。
「······あ、あれは一体」
賭けたつもりだったが想像以上に作戦はうまくいったのだ。
それはナフカにとって地獄の始まりとも言える。
だが二人がそんなこと知る由もなかった。
「まあいいじゃねえか。思ったより簡単だったな」
「え、ええ。それよりもメイロード様天使に自我を乗っ取られたんじゃ····」
「私が乗っ取られた? なわけねーだろ。天使なんて入ってきた瞬間ワンパンしたっつーの」
「ですが今までずっとッ——」
「いやぁ~悪かった悪かった! 敵を欺くなら味方からってな」
「はぁ····私達とても心配したんですからね。ジン様というこの国の領主様にも相談して——」
「待て、ラミリア。今なんて言った」
その時突然、メイロードの表情が変わった。
「えっ····この国の領主様に相談して——あっ、もしかして勝手に外交関係を交わしてはまずかったですか」
「違う、その前だ。なんていう名前だ」
「ジン様····です」
何故そんなことを聞くのかは分からない。ただメイロードは考え込むようにして少し黙り込んだ。
「どうかされましたか?」
「いいや。ただ、会ってそいつの声が聞きたい」
そう言うとメイロードはラミリアを連れモンドの中を移動していった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる