ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
211 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第六十話 残された者

しおりを挟む
 
 レウスとジンが無意識に放つ魔力は二人を中心にしていつしか巨大な空間を形成していた。二人の魔力は無尽蔵の如く溢れ出しその量は計り知れない。ただ一つ確かなのはたった今この世界で二人のいる空間の魔力密度が最も高いということ。半径約三キロの球体からなる空間の表面は斥力を発し何者も寄せ付けない。戦場において異様な光景であった。

「我はこの支配権を使い敵の相性を考慮し部下を最適な位置に配置した。しかしお前達はまるで未来を見ているかのように場所を移動しほとんどの戦いに勝利している。この場にいる全員の未来を見ることなど我にも出来ぬ芸当だ。お前がそう命令したのか?」

「······ん?」

 未来を見ている。私が見れる未来は頑張っても数秒先だ。それも自分の周りのことしか分からない。

「知らないよ。ただ友達は私にはもったいないくらい強くて賢いよ」

「しらを切るつもりだな。構わん」

 レウスは背中背負った大太刀を鞘から引き抜く。レウスの身長はおよそ三メートル。その身長と同程度の大太刀は引き抜かれた瞬間凄まじい殺気を放った。その殺気はジンに魔帝以来の寒気を覚えさせるほど。刀身は紅く発せられる熱により陽炎の如く空気は歪んでいた。

(ジン、注意して。奴の武器に宿っている意思は僕やクレースの威雷と同じ開闢の意思だ。攻撃がかすりでもすれば致命傷は避けられない)

(ロードより強いの?)

(······いいや、僕の方が強いさ)

 レウスの大太刀に宿る意思の名はグレイ。最強種の王であるレウスに並び立つその意思は間違いなくロードに匹敵する力を持っていた。

「行くぞ。人類最強」

「ッ———虚無ロード・オブ・ヴォイド

 始まりと共にジンは虚無空間を発生させた。しかしこれは攻撃ではない。考えるよりも先に身体が反応していた。

「———ほう」

 読みは正しく虚無空間には斬撃が吸い込まれ背後からは尋常ではない魔力の塊を感じた。

(ジン、違和感には気づいてるね)

(····うん)

 この目を使っても敵の動きが予知できなかった。それに今の攻撃ではっきりしたのは物理攻撃無効と魔力不干渉が関係ない。今の状態でもあの斬撃を喰らえば致命傷は避けられないと思う。こんな攻撃ができるのはクレース以外見たことない。

「やはりこうでないとな」

 レウスは口角を上げ空間に漂う魔力をグレイの刀身に集約させた。

最果ての星々グラス・メトリア!!!」

 紛うことなき神級魔法。軽く振られたグレイからは眩い光が放たれた。光速で飛来する数多の斬撃に逃げ場などない。地面は破壊され足場は無くなった。金属を容易に溶かすほどの灼熱までもがジンを襲い熱波でその場の温度は急激に上昇する。

幸運ロード・オブ・フォルナ

 しかし斬撃の全てはジンを避けるようにして消え去り熱波はすぐさま霧散した。幸運の王。その効果はトキワの使用するバブルと同じく確率操作である。しかしそこに魔力の制限はない。それに加えもう一つ、技の名の通り使用者い対する幸運をもたらすのだ。

(どうなっている······奴の周りに全ての魔力が集約しているのか)

 レウスの攻撃により生まれた暴風は空間を満たしていた魔力を運びその全てがジンの元へと集約していた。故意ではなくあくまで幸運による効果。魔力はロードの鋒に凝縮されレウスの周りに存在した魔力はほとんどが姿を消した。レウスは咄嗟に防御結界を展開する。

禁断ロード・オブ・ヴァン

(ッ———? 魔力が消えた····いいや、使えない)

 対象者に対する魔法の使用禁止。レウスの防御結界は消え去り生身の身体へとなった。ジンはロードの剣先を天に掲げ辺りは眩い光に照らされる。

「面白い····来い人間」

目の前には強力な一撃を放とうとするジン、そして自身は魔力も使用できない生身の状態。その極限状態でレウスは恐怖を抱くのではなく興奮していた。

「······うっ」

 しかし突然、集約していた魔力は霧散しロードを掲げていた手は力を失ったかのように下ろされた。

(ジンッ····大丈夫かい!?)

(····うん。ごめん、ちょっと目眩が)

 レウスはジンの身体を蝕むものの正体をすぐさま理解した。呪いである。

「······人間である貴様が呪いを背負ったのか。完全には染まっていないようだが時間の問題だな」

「言い訳はしないよ。手を抜かなくていい」

「もちろんだ。最強である今のお前と全力で戦おう」

 禁断の王により魔法の使用が禁止されたレウスだが意思であるグレイそして個体としての力だけでも化け物というレベルだった。そしてジンはもちろんロードもレウスの強さを理解していた。

(ジン、落ち着いていいからね。僕がいれば大丈夫だ。敵は魔法が使えないから近距離での攻撃に切り替えると思う。打ち合い中、同時並行で僕は全ての力を解放させる)

(力を解放? 今でも十分強いと思うよ)

(安心して。ジンの邪魔にはならない。君には僕の全部をあげる)

 ロードの予想通りレウスは接近戦に切り替えた。ロードの刀身とグレイの刀身では人一人分以上大きさに差がある。それでも洗練されたジンの剣筋にリーチの差など関係なかった。強烈な打ち合いでも両者の武器に僅かな刃こぼれすらない。

ロウ歪曲ディストーション

「チィッ——」

 かつてゲルオードに放った一閃。グレイの刀身は空間とともに歪みレウスは体勢を崩した。本来のレウスならば無意識に体に魔力を纏いダメージを喰らうことはない。しかし魔力の禁止されたレウスは脇腹に初めて打撃を受けた。

(······ダメージが予想よりも少ない。だが痛みとは別に感じる違和感。何か別の······)

「魔力なしでもこれだけ強いんだね」

「魔法を禁止させるとはな。多くの強者と戦ったつもりだが貴様は最強と言っていいだろう」

「そっか、ありがとう」

「······」

(ボル、聞こえる?)

(ウン。聞こえルヨ)

(モンドの支配権を取り返したから受け取って欲しい。魔力に込めて安全に持ち運べるようにするけど戦闘中なんだ。今死傷者の情報は分かる?)

(確認できる限りでは誰も死んでナイ。ただ負傷者はかなりイル。でも治癒魔法で足りそうダヨ)

(分かった。ボルをここに転移させたいんだけどかなり危ないから直接来てもらっていいかな?)

(大丈····)

(ボル?)

 突然ボルの魔力波は途切れ沈黙が流れた。そして数秒後再び繋がる。

(ゴメン。ボクじゃないけどジンのところに一人ムカウ。安心シテ。ボクより強いカラ)

(う、うん。分かった)

 ボルとの魔力波を一度切りレウスと凄まじい接近戦を繰り広げる。更に並行してジンは魔力波の接続数を増やしていった。接続先はモンドにいる者達。ひとまずは全員の場所を把握することが先決だった。

(ゼフじい、敵に意思が奪われないように全員を元の世界に返して。支配権は取り戻したけど意思の座標は私も変えられない)

(任せてくれ)

(ゼグトス)

(ハハッ)

(簡易なものでもいいんだけど負傷者全員を避難させられるくらい大きな結界作れる? 支配権を使って私がそこに転移させる)

(如何様にも。ジン様のお望みならば問題ありません)

 そして最後にモンド内にいる味方全員に対し魔力波を飛ばした。

(みんなよく聞いて。負傷者はこれからゼグトスの作る結界内に転移させる。それと女神、天使は共に戦争から離脱していくから戦わなくていい。だけど機人族はそのままだから何とか食い止めて。今は私がモンドの支配権を持ってるから敵が生き返ることはない。最後に協力してできるだけ負傷者を一箇所に集めて欲しい。もう大丈夫、みんな死なないからね)

 ジンの命令を受けモンドにいたもの達は即座に動き出した。戦場という場所で全員が抱いたのは安心感。対照的にレウスは気掛かりとなっていた違和感の正体に気づいた。

「貴様······いつ我から支配権を奪った」

「元々は私達のものだから、取り返しただけだよ」

「フン、化け物め。全力で行くぞ」

「······あれは」

 グレイの刀身から魔力以外の何かがレウスに流れ込んでいた。グレイの持つ意思の力。その力が完全にレウスの身体へと流れ込む直前、ジンの猛撃がレウスに突き刺さった。一秒あたり数千回を超える突き。レウスの身体はボロボロに砕け散る····はずだった。

「ッ———!?」

 まるで時間が巻き戻ったかのようにレウスの身体は元通りになった。

「驚くことはない。意思の力だ」

 この敵を倒すには虚無空間に封印するしかない。でも意思の力がこれだけとは思えない。チャンスがあるとすればロードのくれる力だ。それにこの戦いは早く終わらせないといけない。呪いの進行は思っているよりも早い。

「はぁ····はぁ····はぁ」

「そろそろ限界のようだな。貴様の身体には既に呪いの大半が進行している」

「····どうして分かるの?」

「我の兄が貴様と同じ呪いで死んだからだ」

「ッ——ご、ごめんなさい」

「····フン、敵に謝るか。貴様は兄と似ている。人の痛みが分かる我には勿体ないほどの良い兄だった」

「お兄ちゃんか····私にはお姉ちゃんみたいな人がいるよ」

「ならば貴様は何故呪いを受け入れた。貴様は必ず死ぬ。残された者の気持ちが分かるのか」

「······」

「後悔、己の無力さ。到底耐えられるものではない。我には貴様と兄の考えが分からない。我は勝利し貴様もそして兄も否定する」

 そして両者は再び動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...