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1章 魔法とスキルと、魔法ポーション
24話 国と冒険者ギルドの確執
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レイラは、厨房に降り立った救世主だった。否、女神である。
一度鍋から手を離すと火傷をしてしまうが、お湯が一瞬で沸いてくれるお陰で作り置きしてあるスープを出すスピードが格段に上がったし、油の温度も彼女の意思で調整可能。揚げ物が捗る捗る。何より魔導コンロでは一定温度に調節する機能がないため油の温度が上がりすぎて表面が焦げて中が生焼け、なんてこともあるが、彼女のスキルならば一八〇度の温度が一定。レイラにはすぐに揚げ物担当になってもらった。
直接手に触れていないといけないという難点はあるものの、取っ手を持っているだけでも油は一定温度を保ち続けた。
営業終了後、ダンテが泣きながらレイラにお礼を言っていた。彼女はというとアワアワしていたが、本来の目的だったレアチーズを与えると、こちらの厨房で働くのを検討してくれるということになった。
しばらく考えたいから、厨房で働けるならありがたい、という風に取れた。
酒場の働き手を呼び掛ける音声放送もくぐもって聞こえていたし、既に何人か冒険者が詳しい話をと話している声も聞こえた。近々和葉もお役御免になるだろう。
そうすれば、正常な労働時間でゆっくりできるようになる……。
■□■□■
その認識がびっくりするほど甘かった。
中には働く意欲より職員とお近づきになりたいという勇ましい女性達が多く、そういう人をふるい落とすのに面接を通してもらった。
そして人が入ってきたのは良いが、料理のコーチが必要で、和葉も駆り出されたのである。
冒険者ギルドの仕事時間を減らしてもらえたが、音声放送の募集案内について詳細を書類作成、さらには大部分をぶん投げられた。
シーラ曰く、是非ともやってほしいが具体的な案が分からい。本部にも通せるぐらいにそれらしい提出書類がほしいと言われた。
必要事項の記入はもちろん、依頼料金はギルド内の放送のみと、人を雇い入れられるまで続けるプランを提示。他にも、人材募集だけではなく店の広告も提案してみた。
適当に考えたものの、オッケーをもらえた。料金設定はシーラが引き継いでくれるあたり、やはり彼女の方が冒険者ギルドの運営は向いているように思う。
そして朗報である。和葉がバタバタしまくっている間、パトリックがついに一人立ち(?)したのである。
連日の練習に自信がついたそうで、ケイとシーラと共に現地へ向かったのである。
「いやぁ、子供の成長は早いねぇ」
「そうですねぇ」
ハウルとリーセルが、カウンター前でそうほのぼのと言う。
「デイヴィスさんも、これぐらい書類仕事を覚えるのか早ければ、シーラさんも楽になるんだろうけどねぇ」
「それはどういう?」
「いやぁ、ここの冒険者ギルドのギルドマスター、シーラさんの予定だったんだよ」
「えっ?」
「そうなんですよ!」
エルヴァニア帝国の貴族達が『女が責任者になるような集団は軟弱に決まってる』などと宣い、冒険者ギルドまでなくそうとした。同性だからだろう、リーセルが「他の国では性別なんて関係ないのに!」と憤慨していた。
帝国は昔からそんな感じらしく、横柄な態度の貴族が多い。さらには帝国の軍人までも冒険者に絡んで乱闘沙汰になる。
エルヴァニア帝国に、拠点を置くのに相当な額を毎月支払わないといけない。
ここまで排他的であれば、希望どころか未来もないだろう。
しかも、護衛依頼を受けた冒険者がそのままエルヴァニア帝国に帰ってこない、帝国行きの護衛依頼を冒険者達が断ることも多いらしい。男女平等ならまた国の発展は見込めるが、これでは無理そうだ。本当に面倒臭そうな国だから早く逃げたい。
「まぁ、冒険者ギルドが暇なのは、別の理由があるんだけどねぇ……」
「そう言えば、ハウルさんの転勤はまだ先なんですか?」
「……あぁ、うん。やっぱり話がなかなか進まなくてね」
貴族と帝国軍が冒険者ギルドを目の敵にしていている上、数回ほどデイヴィスが犯罪者として疑われる事件があったとか。
聞いた話とは違うが、あれはとにかく誰でもいいから人材を確保するための言い分だったのかもしれない。
「ちなみに、ハウルさんはどの国に行ってみたいんだ?」
「そこまでは決まってないんだけど……」
「なら、行ってみたい国を決めておいた方が早く物事が進むものだ」
目的地までの旅費や、平均的な部屋代も調べておくと目標が明確になって願いも叶いやすくなる。
嫌なことも全部忘れて、自分がその国に行ってやりたいことを想像していると、神様へオーダーが届きやすくなる。
驚いていたように見つめていたハウルが、あっはっは! と笑う。
「ギメイさんが神様なんて言うの、何か違和感あるなぁ」
「私は、神様がいないともう死んでいるが」
「あんな幸運値で?」
「当たり前だろう? 運が良いからといって善行をやめれば、瞬く間に落ちる。だから、徳が積んでいるんだ……まぁ、さすがにそろそろ仕事辞めたいけど」
「待ってー! ギメイさんが辞めると、おいしいごはんが食べられなくなっちゃうー!」とリーセル。
「そうだよ、辞めないでー! 俺も転勤できなくなっちゃうー!」とハウルが笑う。
「君達なぁ……」
和葉は苦笑する。こんな国でも、若者達が元気でいられるのは良いことだ。
一度鍋から手を離すと火傷をしてしまうが、お湯が一瞬で沸いてくれるお陰で作り置きしてあるスープを出すスピードが格段に上がったし、油の温度も彼女の意思で調整可能。揚げ物が捗る捗る。何より魔導コンロでは一定温度に調節する機能がないため油の温度が上がりすぎて表面が焦げて中が生焼け、なんてこともあるが、彼女のスキルならば一八〇度の温度が一定。レイラにはすぐに揚げ物担当になってもらった。
直接手に触れていないといけないという難点はあるものの、取っ手を持っているだけでも油は一定温度を保ち続けた。
営業終了後、ダンテが泣きながらレイラにお礼を言っていた。彼女はというとアワアワしていたが、本来の目的だったレアチーズを与えると、こちらの厨房で働くのを検討してくれるということになった。
しばらく考えたいから、厨房で働けるならありがたい、という風に取れた。
酒場の働き手を呼び掛ける音声放送もくぐもって聞こえていたし、既に何人か冒険者が詳しい話をと話している声も聞こえた。近々和葉もお役御免になるだろう。
そうすれば、正常な労働時間でゆっくりできるようになる……。
■□■□■
その認識がびっくりするほど甘かった。
中には働く意欲より職員とお近づきになりたいという勇ましい女性達が多く、そういう人をふるい落とすのに面接を通してもらった。
そして人が入ってきたのは良いが、料理のコーチが必要で、和葉も駆り出されたのである。
冒険者ギルドの仕事時間を減らしてもらえたが、音声放送の募集案内について詳細を書類作成、さらには大部分をぶん投げられた。
シーラ曰く、是非ともやってほしいが具体的な案が分からい。本部にも通せるぐらいにそれらしい提出書類がほしいと言われた。
必要事項の記入はもちろん、依頼料金はギルド内の放送のみと、人を雇い入れられるまで続けるプランを提示。他にも、人材募集だけではなく店の広告も提案してみた。
適当に考えたものの、オッケーをもらえた。料金設定はシーラが引き継いでくれるあたり、やはり彼女の方が冒険者ギルドの運営は向いているように思う。
そして朗報である。和葉がバタバタしまくっている間、パトリックがついに一人立ち(?)したのである。
連日の練習に自信がついたそうで、ケイとシーラと共に現地へ向かったのである。
「いやぁ、子供の成長は早いねぇ」
「そうですねぇ」
ハウルとリーセルが、カウンター前でそうほのぼのと言う。
「デイヴィスさんも、これぐらい書類仕事を覚えるのか早ければ、シーラさんも楽になるんだろうけどねぇ」
「それはどういう?」
「いやぁ、ここの冒険者ギルドのギルドマスター、シーラさんの予定だったんだよ」
「えっ?」
「そうなんですよ!」
エルヴァニア帝国の貴族達が『女が責任者になるような集団は軟弱に決まってる』などと宣い、冒険者ギルドまでなくそうとした。同性だからだろう、リーセルが「他の国では性別なんて関係ないのに!」と憤慨していた。
帝国は昔からそんな感じらしく、横柄な態度の貴族が多い。さらには帝国の軍人までも冒険者に絡んで乱闘沙汰になる。
エルヴァニア帝国に、拠点を置くのに相当な額を毎月支払わないといけない。
ここまで排他的であれば、希望どころか未来もないだろう。
しかも、護衛依頼を受けた冒険者がそのままエルヴァニア帝国に帰ってこない、帝国行きの護衛依頼を冒険者達が断ることも多いらしい。男女平等ならまた国の発展は見込めるが、これでは無理そうだ。本当に面倒臭そうな国だから早く逃げたい。
「まぁ、冒険者ギルドが暇なのは、別の理由があるんだけどねぇ……」
「そう言えば、ハウルさんの転勤はまだ先なんですか?」
「……あぁ、うん。やっぱり話がなかなか進まなくてね」
貴族と帝国軍が冒険者ギルドを目の敵にしていている上、数回ほどデイヴィスが犯罪者として疑われる事件があったとか。
聞いた話とは違うが、あれはとにかく誰でもいいから人材を確保するための言い分だったのかもしれない。
「ちなみに、ハウルさんはどの国に行ってみたいんだ?」
「そこまでは決まってないんだけど……」
「なら、行ってみたい国を決めておいた方が早く物事が進むものだ」
目的地までの旅費や、平均的な部屋代も調べておくと目標が明確になって願いも叶いやすくなる。
嫌なことも全部忘れて、自分がその国に行ってやりたいことを想像していると、神様へオーダーが届きやすくなる。
驚いていたように見つめていたハウルが、あっはっは! と笑う。
「ギメイさんが神様なんて言うの、何か違和感あるなぁ」
「私は、神様がいないともう死んでいるが」
「あんな幸運値で?」
「当たり前だろう? 運が良いからといって善行をやめれば、瞬く間に落ちる。だから、徳が積んでいるんだ……まぁ、さすがにそろそろ仕事辞めたいけど」
「待ってー! ギメイさんが辞めると、おいしいごはんが食べられなくなっちゃうー!」とリーセル。
「そうだよ、辞めないでー! 俺も転勤できなくなっちゃうー!」とハウルが笑う。
「君達なぁ……」
和葉は苦笑する。こんな国でも、若者達が元気でいられるのは良いことだ。
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