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1章
25話 実験中止
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「何でですか!? 納得できません! ちゃんとした理由を教えて下さい!!」
ニルヴァーナ学園一角……。
メメルは頭の薄い、肥えた男――ベナードにそう返した。
ベナードは「ダメなものはダメだ!」と唾を飛ばしながら、ただ怒りを露にする。
「汚れた犯罪者ごときが、部を弁えろ!!」
「私は犯罪者じゃありません!! 全然まともな理由じゃないじゃない!!」
「私に口答えをするな!! 犯罪の、しかも女ごときが、この学園に通わせてもらっているだけでありがたいと思わんのか!! お前の実験は学園のものになると決まったんだ!!」
ベナードは、テーブルにだんっ! と書面を叩きつけた。
それはニルヴァーナ学園の学園長だけが持つとされている判子が押印されていた。
メメルの全身から血の気が引いていくー―。
「いいから研究資料を全て渡せ!! これは学園長命令だ!! 素材も研究資料も全てだ!!」
「理由もないのに、ただの横暴です!!」
「このクソガキが! 我々のいう事を聞かなければ、貴様は退学だ!!」
「そんなこと、アンタが勝手に決めて良いわけないでしょ?! ふざけんな、脳味噌何もない無能のデブ豚がっ!! 他人の研究盗んでるだけのお前に何ができんのよ、この雑魚が!!」
激高したベナードが拳を振り上げる。睨み続けるメメルの頬に食い込んだ。
■□■□■
パトリックがポーションを流し込んだ翌日。
意識を失っていた人々が目を覚ましたと報告を受け、冒険者ギルドには和葉、ケイ、ハウルを残し、他の職員全員と今回の立役者であるパトリックを伴って、事情聴取へ赴いている。数が数なだけに、数日かかりそうだという。
だが、今回事情聴取が終われば、今まであちらに付きっ切りだった職員達も戻ってくる。和葉の仕事も――酒場に集中できる。
メメルが来たら、一定の温度を保ち続ける魔道具がないか聞いてみよう。そろそろ彼女が来る頃だ。
職員であるハウルと二人きりしかいない、閑散とした冒険者ギルド。他国であれば人がにぎわっている状態らしいが、実に静かで心落ち着く時間だ。
「そういえばハウルさん、よく窓から出掛けているみたいだが、どうしたんだ?」
「へ?!」
暇そうにしていたハウルが、びっくりしたように顔を上げた。
ケイが休憩中だから話を振ってみたが、やはりあまり人に知られたくないことだったんだなと苦笑する。
「そういうことなら深くは聞かない。さすがにプライベートだし、転勤したいと言っている君が同じ空間にずっといられるとは思わない」
「ははっ。そうしてくれると助かるよ……えっと、いつから気づいてたの?」
「最初の物音を聞いたのは確か一週間と少し前だが、抜け出してるのを知ったのは一昨日だ。夜遅くまでギルドの仕事をしていたからな」
「あぁ……そういえば、放送案内の案件、通ったんだっけ?」
和葉とシーラの共同案を冒険者ギルド本部に提出すれば、無事案件は通った。一度、ラナンスキー支部でどうなるか実験し、収益が見込めるなら他の冒険者ギルドでも試みるそうだ。
ちりん、と鈴が鳴る。
来客は小さな人影……――メメルだった。
時間を確認すれば、まだ学園の時間のはずだ。テストか何かだろうかと思ったが、その割には表情があまりにも暗い。頬も赤い。殴られた痕のようだ。
和葉は尋常ではなさそうな雰囲気に、ハウルに濡らした布巾を固く絞り、氷を入れた冷たい水を入れたボウルも持ってくるよう言って、メメルへと駆け寄る。背が小さいこと、童顔なことを含め、小学生ぐらいの少女に見えるメメルが小さく震えているのを見ると心が痛む。
顔を上げた彼女は、口をぎゅっと引き結んで、目元に涙を浮かべていた。何かあったのは分かった。
「ベナードに実験取られた!」
「えっ」
あのクソブタハゲがぁっ!! と腹の底からの怒声が華奢な見た目のメメルから発せられて和葉はビビり倒す。
その声を聞きつけたケイが、休憩も途中にやってきた。ハウルが持ってきた濡らした布巾をメメルの頬に当てる。
突然実験室の使用禁止を言い渡された。しかも、この実験はニルヴァーナ学園のものだからさっさと寄越せ。そうでなければ退学にすると脅されたらしい。
「横暴だな。そんな学園なら、いっその事退学を勧める」
「出来る訳ないでしょ! 私、ニルヴァーナ学園に行くのに皆のお金もらってるんだから!!」
和葉の一言にメメルが怒鳴り返された。気にしないが。
「そうか。君を応援してくれる人が、たくさんいるんだな」
「そうなの! なのに、こんなの……!」
「放っておいても、ベナードがロウェルド・アーリマンの二の舞いになるだけだし、細かいことは気にしない方が良い。それよりも、その先のことを……」
「いや待て。ベナード・リグレットは、高名な錬金術師だぞ」
ケイにそう言われて、メメルが頬を膨らませる。
「アイツはただの盗人よ!」
「数々の功績でも残したのか?」
「そうだ。彼は教師を務める錬金術師で、様々な研究を残してきている。冒険者ギルドの訓練室の壁が魔素吸収による自動再生するのは知っているだろう。あれは彼の研究成果だ」
「それはグレゴリオという学生の研究成果を横取りした結果だと聞いているが」
「学生だけであの物質の調合ができると思ってるのか?」
「できるに決まってるだろう。君とベナード、もちろん私ができなくても、グレゴリオさんはその研究をしてきた第一人者なのだから」
それは、メメルの実験が和葉達ではできないのと同じことだ。事実、ベナードは研究資料を強奪しようとしている。それは、自分では作れないから強奪しようとしているのだ。
「そして現在、実験を強制中止を言い渡された挙げ句、殴られたジェペットさんがいる事実まである。それなのに、何故そうまでしてベナードの肩を持つ? 自分で実験ができるなら、研究資料なんか頭に入っているのだから、わざわざいらないだろう? 私には、君の考えていることの方が全く持って理解できない」
ニルヴァーナ学園一角……。
メメルは頭の薄い、肥えた男――ベナードにそう返した。
ベナードは「ダメなものはダメだ!」と唾を飛ばしながら、ただ怒りを露にする。
「汚れた犯罪者ごときが、部を弁えろ!!」
「私は犯罪者じゃありません!! 全然まともな理由じゃないじゃない!!」
「私に口答えをするな!! 犯罪の、しかも女ごときが、この学園に通わせてもらっているだけでありがたいと思わんのか!! お前の実験は学園のものになると決まったんだ!!」
ベナードは、テーブルにだんっ! と書面を叩きつけた。
それはニルヴァーナ学園の学園長だけが持つとされている判子が押印されていた。
メメルの全身から血の気が引いていくー―。
「いいから研究資料を全て渡せ!! これは学園長命令だ!! 素材も研究資料も全てだ!!」
「理由もないのに、ただの横暴です!!」
「このクソガキが! 我々のいう事を聞かなければ、貴様は退学だ!!」
「そんなこと、アンタが勝手に決めて良いわけないでしょ?! ふざけんな、脳味噌何もない無能のデブ豚がっ!! 他人の研究盗んでるだけのお前に何ができんのよ、この雑魚が!!」
激高したベナードが拳を振り上げる。睨み続けるメメルの頬に食い込んだ。
■□■□■
パトリックがポーションを流し込んだ翌日。
意識を失っていた人々が目を覚ましたと報告を受け、冒険者ギルドには和葉、ケイ、ハウルを残し、他の職員全員と今回の立役者であるパトリックを伴って、事情聴取へ赴いている。数が数なだけに、数日かかりそうだという。
だが、今回事情聴取が終われば、今まであちらに付きっ切りだった職員達も戻ってくる。和葉の仕事も――酒場に集中できる。
メメルが来たら、一定の温度を保ち続ける魔道具がないか聞いてみよう。そろそろ彼女が来る頃だ。
職員であるハウルと二人きりしかいない、閑散とした冒険者ギルド。他国であれば人がにぎわっている状態らしいが、実に静かで心落ち着く時間だ。
「そういえばハウルさん、よく窓から出掛けているみたいだが、どうしたんだ?」
「へ?!」
暇そうにしていたハウルが、びっくりしたように顔を上げた。
ケイが休憩中だから話を振ってみたが、やはりあまり人に知られたくないことだったんだなと苦笑する。
「そういうことなら深くは聞かない。さすがにプライベートだし、転勤したいと言っている君が同じ空間にずっといられるとは思わない」
「ははっ。そうしてくれると助かるよ……えっと、いつから気づいてたの?」
「最初の物音を聞いたのは確か一週間と少し前だが、抜け出してるのを知ったのは一昨日だ。夜遅くまでギルドの仕事をしていたからな」
「あぁ……そういえば、放送案内の案件、通ったんだっけ?」
和葉とシーラの共同案を冒険者ギルド本部に提出すれば、無事案件は通った。一度、ラナンスキー支部でどうなるか実験し、収益が見込めるなら他の冒険者ギルドでも試みるそうだ。
ちりん、と鈴が鳴る。
来客は小さな人影……――メメルだった。
時間を確認すれば、まだ学園の時間のはずだ。テストか何かだろうかと思ったが、その割には表情があまりにも暗い。頬も赤い。殴られた痕のようだ。
和葉は尋常ではなさそうな雰囲気に、ハウルに濡らした布巾を固く絞り、氷を入れた冷たい水を入れたボウルも持ってくるよう言って、メメルへと駆け寄る。背が小さいこと、童顔なことを含め、小学生ぐらいの少女に見えるメメルが小さく震えているのを見ると心が痛む。
顔を上げた彼女は、口をぎゅっと引き結んで、目元に涙を浮かべていた。何かあったのは分かった。
「ベナードに実験取られた!」
「えっ」
あのクソブタハゲがぁっ!! と腹の底からの怒声が華奢な見た目のメメルから発せられて和葉はビビり倒す。
その声を聞きつけたケイが、休憩も途中にやってきた。ハウルが持ってきた濡らした布巾をメメルの頬に当てる。
突然実験室の使用禁止を言い渡された。しかも、この実験はニルヴァーナ学園のものだからさっさと寄越せ。そうでなければ退学にすると脅されたらしい。
「横暴だな。そんな学園なら、いっその事退学を勧める」
「出来る訳ないでしょ! 私、ニルヴァーナ学園に行くのに皆のお金もらってるんだから!!」
和葉の一言にメメルが怒鳴り返された。気にしないが。
「そうか。君を応援してくれる人が、たくさんいるんだな」
「そうなの! なのに、こんなの……!」
「放っておいても、ベナードがロウェルド・アーリマンの二の舞いになるだけだし、細かいことは気にしない方が良い。それよりも、その先のことを……」
「いや待て。ベナード・リグレットは、高名な錬金術師だぞ」
ケイにそう言われて、メメルが頬を膨らませる。
「アイツはただの盗人よ!」
「数々の功績でも残したのか?」
「そうだ。彼は教師を務める錬金術師で、様々な研究を残してきている。冒険者ギルドの訓練室の壁が魔素吸収による自動再生するのは知っているだろう。あれは彼の研究成果だ」
「それはグレゴリオという学生の研究成果を横取りした結果だと聞いているが」
「学生だけであの物質の調合ができると思ってるのか?」
「できるに決まってるだろう。君とベナード、もちろん私ができなくても、グレゴリオさんはその研究をしてきた第一人者なのだから」
それは、メメルの実験が和葉達ではできないのと同じことだ。事実、ベナードは研究資料を強奪しようとしている。それは、自分では作れないから強奪しようとしているのだ。
「そして現在、実験を強制中止を言い渡された挙げ句、殴られたジェペットさんがいる事実まである。それなのに、何故そうまでしてベナードの肩を持つ? 自分で実験ができるなら、研究資料なんか頭に入っているのだから、わざわざいらないだろう? 私には、君の考えていることの方が全く持って理解できない」
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